とある木原の爆殺人形《キラークイーン》   作:陸神

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爆弾魔①

「はっ……! はっ……! はっ……!」

 

 

 荒い吐息がシンクロする。

 それを不快気に思いながらも吉良は仕方なく足を動かす。

 

 隣では上条当麻が憎々し気な表情で、振り返っては前を向き、振り返っては前を向きを繰り返していた。

 

 吉良は内心で、「何故、コイツは付いてくるんだ!」と怒鳴る。

 そんな吉良の頬を黄金の光線が掠めていった。

 

 怒りは決壊する。

 

 

「クソッたれが! 上条当麻、早くアイツをなんとかしないか!」

 

「バッカお前! 出来たらとっくにしてるわ!」

 

「何話してるのよ! さっさと止まりな──────―さいッ!」

 

 

 再度放たれるレールガン。

 

 上条は、振り返り腕を振るう。どうやら撃ち込まれる場所を覚えて来たようで、器用に右手で弾いていた。

 

 あくまで右手だけが特殊だけであることを理解しているのか、御坂美琴も胴体しか狙っていないようである。まあ、急所である頭に撃ち込まれれば、死は免れないであろうが。

 

 

「チィッ!」

 

「おい吉良! アイツ今、舌打ちしたよな!? 頭ん中可笑しいじゃねぇの!?」

 

「頭が可笑しいのは君達だ! それにそんなことを言えば…………」

 

「──────殺す」

 

「言わんこっちゃない……!」

 

 

 吉良と上条は同時に横路地へと飛び込む。

 

 飛び込んだや否や、ワイシャツの一端にチリッとした感覚が伝わる。

 次いで、焼き焦がす程の熱気が二人を襲った。

 

 

「く……っ!」

 

「ぬぅぉぁぁあああああああぁぁぁぁ!?」

 

「叫びたいのはこっちだバカ者め!」

 

 

 レールガンの威力に後押しされ吹き飛んだ吉良たちは、直ぐ様起き上がって逃走を再開する。

 路地に散乱するゴミやカラーコーンを飛び越える。走行するには向かない地形だ。

 

 

「待ちなさい!」

 

「奴も奴でどれだけ執念深いんだ……!」

 

「あのビリビリは結構体力バカなんだよ!」

 

 

 高威力の攻撃を避け、逃げ切ったかと思われたが、そんなことはなかった。

 路地からやや離れた時点で美琴は追走してくる。(いささ)か表情がついさっきよりも険しく感じる。

 

 ここまでの執念深さと来ると、単なる喧嘩や痴話の追跡では、まず普通ではないレベルだ。

 

 普段は陰口など言わない──────皮肉は言うが──────吉良ですら思わず悪態が漏れ出た程。

 

 鍛えている吉良ならまだしも、不幸さだけが取り柄の上条もいい加減体力が尽きて来た模様。

 しかし、この良く晴れた気温二十七度前後の炎天下元、破壊兵器から逃げまどえば誰しもそうなるだろう。さしもの吉良も汗の量が尋常ではない。

 

 自分自身でも限界を感じてきたのか上条が叫ぶ。

 

 

「マジでどうするよ! この状況!」

 

「元はといえば君のせいなんだがな!」

 

「吉良も名前呼ばれただろ……!」

 

「私には心当たりが一部たりともないんでね!」

 

「そりゃそうだ!」

 

 

 半ばやけくそ気味に叫ぶ上条。

 吉良は、そう思うなら早く別の方向へ逃げてくれればいいのに、と思う。実際問題、美琴が攻撃を中止して話し合いをするという方向へ歩み寄れば解決する話ではあるが……

 

 

「さっさと──────止まれ!」

 

 

 挙句の果てには、電力を介し磁力を操り砂鉄まで持ち出す始末。

 希望的観測であるが、彼女が吉良たちと話し合うには到底適わない状況だ。

 

 身体から電子同士の破擦をスパークさせながら御坂は、その右手に生み出した砂鉄の剣を振るう。

 

 風を切って横凪に振るわれた剣は、その丈を遠心力に引っ張らるにつれて伸ばし、二人へと迫る。

 

 

「クソッ! ビリビリのやろ──―」

 

 

 上条が再び迎撃に乗り出そうとして振り返る。

 

 だが、それを横合いから蹴とばす者が居た。

 吉良だ。

 

 

「バカが!」

 

「なっ──────へぶっ!?」

 

 

 突然のことに反応出来ず、軽く二メートルは吹き飛ぶ上条。

 これまた路地へと放り込まれ、緑のビニールゴミ袋へと顔を突っ込む。

 

 何をするんだ! 

 そう喉を通り吐き掛けた言の葉を上条は、次の光景を見て呑み込んだ。

 

 なんと、辺り一帯の壁が(ことごと)く切り裂かれていたのだ。

 

 

「悪ぃ吉良、助かった」

 

「ああ、存分に感謝してくれ。それに気を付けたまえ。君の幻想殺し(イマジンブレイカー)は、能力は消せても物体の持つエネルギー自体は消せないのだからな」

 

 

 そう、上条の右腕が掻き消せるのは、あくまで能力のみ。能力の発動によって操られている砂鉄を解き放つことは出来ても、解放前に与えられていた遠心の運動エネルギーは消せないのだ。

 

 辺りには大量の砂鉄が散らばり、コンクリートの壁には横一文字の切り口が残されていた。

 しかし、ほっと息をついて休むことも出来ない。二人は共に駆け出した。

 

 

「上条当麻、いい加減に奴も頭が回らなくなってきたみたいだがどうする?」

 

「だな! 怒ってるとはいえ人の家までぶっ壊すのはマズイ!」

 

「そもそも吹っ掛けて来たのは向こうだ。少し折檻を加えても問題はあるまい」

 

「ビリビリとはいえ女の子を殴るのは気が引けるが…………ちょっと頭に血が上り過ぎてるしな!」

 

 

 裏路地とはいえ、ここまで人混みがないのは可笑しい。

 住民であろうと、学生であろうと、美琴の危険を察知して逃げ出したのだろう。

 

 いつもは煙草(タバコ)、酒、恐喝を行っているガラの悪い集団、スキルアウトが蔓延っているのに、今日だけは伽藍洞。明らかに異常だ。

 

 ちなみにスキルアウトとは、学園都市でレベル0判定を下され、超能力者育成進路からドロップアウトしてしまったチンピラの集団のことである。

 

 

「つまり、やって構わんのだな?」

 

「ああ!」

 

「ふむ…………少し、袋小路へと行くぞ」

 

「なんか作戦があるんだな!」

 

「無論」

 

 

 一先(ひとま)ずだが方針は決まった。

 上条は吉良のナビゲートの元、移動を開始する。

 

 幾度も曲がり、誘導するようにしてレールガンを避ける。

 

 その間に吉良は上条へと作戦の概要を話す。

 

 

「作戦は分かったが…………やりすぎるなよ!」

 

「分かっている、灸を据えるだけだ。そちらもぬかるなよ?」

 

「任せとけ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 § § § § §

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂美琴は憤慨していた。

 

 美琴には理屈が分からぬ。しかし、演算能力はあった。

 美琴には正義があった。しかし、正しき倫理など持ち合わせてなかった。

 美琴には自信があった。しかし、威光が通じぬ者もいた。

 

 だが取り敢えずは目の前の男を罰さねばとは理解していた。

 

 

「さあ、追い詰めたわよ!」

 

 

 美琴は理解していた。自分の追い掛ける相手が袋小路へと迷い込んだのを。

 なんとも間抜けな構図ではあるが、慈悲はない。

 

 頭数が足りていない気もするが今更だ。元より標的はこっちだ。

 

 

「ふっ、お仲間には逃げられたの? 哀れね」

 

「言ってろ、ビリビリ」

 

「その減らず口もいつまで吐けるかしら────―ね!」

 

 

 持ってきていたコインの枚数は心もとないが眼前の男を仕留めるのには足りるだろう。

 先程までは追跡中の攻撃で狙いも荒く、威力も出せなかったが、今は攻撃に集中できる。

 

 美琴は右手の指に四枚のコインを挟み、振りかぶって投擲。

 刹那、電磁を纏わせて射出する。

 

 だが、これでは直線の攻撃で芸がない。

 

 狭い袋小路の空間の両サイド側の電磁場を操り、軌道を婉曲させる。

 左右に二枚ずつ、上条の横腹を殴り付けるような軌道だ。

 

 上条は、この攻撃を見るや動揺したものの屈んで避ける。

 既に胴体を狙うということは分かっている。後は避けようだ。

 膝を曲げて頭を下げる姿勢は無様だが、何とか避けることは叶った。自慢の黒髪の先端を掠めていく雷槍に冷や汗が出る。

 

 

「不幸だ……!」

 

 

 荒い呼気がテンポを崩す。

 ぐらりと傾いだ体を手を付いて堪える。

 

 美琴はその一瞬の隙を見逃さなかった。

 

 距離にして二十メートルと少し。美琴は自慢の脚をバネのように弾けさせて走り出す。見るも恐ろしい速度だ。

 

 上条が顔を上げた時にはもう遅かった。そこには自らを見下ろす美琴の姿が。

 

 

「ぶべっ」

 

 

 綺麗に体がI字を描くハイキックが上条の顎へと吸い込まれた。

 

 稀見事に蹴り上げられた上条は、背中から地面に落ちる。

 

 

「ふー…………これで一件落着と」

 

「ど……どこがだ、よ」

 

 

 息も切れ切れ、満身創痍に上条は呟く。

 

 

「さあ、アンタ起きなさい。さっき一緒にいた奴はどこ行ったの? 吐きなさい早く」

 

 

 美琴は倒れ伏す上条の頬を叩き起こす。あまりにも慈悲がない。

 虚ろな上条は呻きながらも体を起こし、ゆっくりと指を持ち上げた。

 

 美琴はその指先を視線で追い──────―。

 

 

「ふ────―呑気なものだな!」

 

「なっ、キャアアアァァァァァァ!!??」

 

 

 ────―真上を指した瞬間に押し潰された。

 

 袋小路を形成している建造物、その屋上から吉良が降って来たのだ。

 幾らレベル5とはいえ、身長一七五センチの吉良に数メートル上空から飛び乗られては、無事では済まない。

 

 通常は生体電気を探知しているが、上条がいるせいでそう上手くもいかない。

 なまじ、上条を倒して油断していたせいもあって、美琴はいとも容易く吉良に組み伏せられた。

 

 美琴は反撃に放電しようとするが…………。

 

 

「よっと」

 

 

 這い寄った上条の右手が頭に置かれて、集めた電力は拡散する。

 完全な無力化だ。

 

 

「もうこんなことに付き合わせるな、上条」

 

「こっちだってお断りだ!」

 

 

 暫定的だが、取り敢えずこの場は収まったようである。

 

 悔し気な美琴の顔を決まり手に、命がけの追いかけっこは終了した。

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