「「
「そうよ」
揃って首を傾げた吉良と上条に対して、不遜に美琴が告げた。
場所は打って変わって、路地の入った所にある粗大ごみ置き場。美琴はそこにある横倒しになった冷蔵庫の上に座っていた。
万が一の為、上条が肩に手を置き、腕は後ろに回され結束バンドが止められている。
「それって、最近話題の爆発事件のやつか?」
「ええ。黒子にも頼まれて私はそれの解決を手伝ってるの」
「ほう…………それで私に突っかかって来た訳か」
「…………まあね」
吉良はなるほどと頭の中で相槌を打つ。
それは七月十一日を境に学園都市で頻発している爆破事件のことだ。
既に何人もの
「ならば、何故どうして私の所へ来る? 私の能力は知っているだろう?」
「…………
吉良の持つ、スタンド…………もとい、能力は学園都市内では便宜上そう呼ばれていた。
概要としては、能力によって急速に空気中の水素と酸素成分の密度を高め、互いにぶつかり合わせてことによって発生するプラズマによって水素を爆発させる能力だ。
まあ、一部の能力を開放してそれを見せかけているだけに過ぎない、が。
「そうだ。だが、今回の事件では私の能力では不可能だ。それぐらいは分かっているはずだ」
「一応よ。一応!」
「ならば、何故、最初からそう言わない! 上条ならば兎も角、私まで攻撃に巻き込む必要はないだろう!」
「仕方ないじゃない!」
「何が仕方ないだ!!」
吉良は額に青筋を浮かべて怒鳴る。
その剣幕に美琴は思わず怯む。冷静によく考えれば、美琴は一歩間違えれば、ただの殺人犯になっていた訳だ。当事者からしたら堪ったものではないだろう。
しかし、負けん気の強い御坂美琴が怯むのは珍しいことであった。
「まあまあ。落ち着けよ、吉良」
諫めたのは上条。
髪が逆立ち、瞳孔が開いた吉良は、上条の声で我に返り、深呼吸を一つした。
「フー…………それで」
「え?」
「それで、相手の能力の目星はついているんだろうな?」
「え、ええ。犯人は恐らくだけど、
「ふむ…………
顎に手を当て静かに気炎を吐く吉良。
美琴はそれからしばらく事件に関する情報を吐露した。と、理解が及ばない上条は話に割って質問する。
「な、なあ、その……しんく……なんとかって何なんだ?」
「お前……」
「ハァ? アンタ、学園都市に住んでるくせに能力の一つや二つも知らないの?」
「いやぁ…………だって、俺には縁もゆかりもねぇからよ」
流石の吉良と美琴もこれには脱帽し、揃って溜息を吐いた。
気まずそうにハハと苦笑を漏らして頬を掻く上条はやるせなさせげに点を仰いだ。
「
「え、ええーっと…………」
「つまり、アルミを爆弾に変える能力ってことよ」
「なるほど」
子供でも理解出来るレベルの説明で
吉良はこめかみを揉んだ。
「ならば、大まかな位置の特定は出来るな?」
「それは出来るけど……」
「ならば、仮にも超能力者のお前がレーダーとして機能して、探知した傍から
更に言えば、
故に能力者は物に能力を付与して爆発させるしかない。なので、爆発物を置いた犯人を特定出来れば直ぐに事件は収拾するものと予想出来る。
「そう上手くもいかないのよ。
「ほう…………もしや、能力が成長したか?」
「いいえ、そんな届は提出されてないわ」
「ならば、能力検査や申請をしていない違法能力者か」
「ええ。私達もそう睨んでるわ」
腐っても鯛、という訳であろうか。
美琴は能力者でもある吉良とトントン拍子に話を進めていく。
この間、能力のことに関してはてんで分からない上条は、呆けるばかりである。
「あのー結局お二人さん、っていうか御坂の用事はそれだけなのか?」
「ふぇ? え、ええ、まあ。確認を取りに来ただけだし、特に他に用事はないわね」
「そうか…………じゃあ、一つ頼みたいことがあるんだが」
「頼み事? 迷惑掛けたのはこっちだし、そのくらいはいいけど……何よ?」
「上条お前、まさか…………」
§ § § § §
「はい、これでいいしょう?」
美琴は上条へと手に持ったATMのカードを手渡す。それは、美琴が能力によってATMのシステムに介入し、無理にATMからカードを引き抜いたものだ。
上条はそれを食い入るように確認した後、天に掲げて小躍りを始めた。
「おお! これだよ! これ! 本当にありがとな、御坂!」
「ふんっ、別にこれくらい……」
まんざらでもない。チョロインとはこのことである。
吉良はそれらの様子を訝し気に眺めていた。
「おい、本当にバレないんだろうな。まさか、後々履歴漁られて
「ちょ、マジか! 大丈夫なんだよな、ビリビリ?」
捕まる。
その言葉が頭上を掠めたのか、途端不安そうな顔になって美琴に問い詰めた。現金な男だ。
美琴は自らの能力の成否、あるいは実力が疑われたと思ったのか眉根を潜めて言った。
「何よ、私がこんなポンコツ如きに負けるとでも?」
「いや、もしも、もしもの話だが、バレたりしたら…………」
「少なくとも高校は中退、もしくは停学処分。最悪、スキルアウト落ち。仮にも金融機関のシステムを弄っているんだ、レベル5の御坂美琴なら兎も角、無能力者のお前では情状酌量の余地もあるまい」
「うぉーい!?」
実情を知った途端不安になったのか、蒼白にする上条。
吉良は今更か、と落胆だか呆れだかをごちゃ混ぜにした感情を向ける。
「──────―私が! こんな! ポンコツに! 負けるとでも!?!?」
激情家の美琴は、名誉が傷付けられたとばかりに顔を真っ赤にしてATMを蹴り上げた。
それはさながら壊れた自販機を蹴るかのようなフォームであり、とても美しい弧を描いていた。
傍でそんな様子を見ていたツンツン頭の少年は「あ」と声を漏らし、褪せた金髪の青年はやるせないように溜息を吐いた。
間も無く、少女のハイキックに呼応するかのように、けたたましくブザーがなった。
これを別名、「警報」と言う。
分かりやすく言えば、防犯用アラームが作動した音である。
────────―BEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!
「…………………………帰らせて貰う」
「ちょ、おい! 吉良! 俺を見捨てないでくれ!」
吉良は直ぐ様、踵を返し、
「え、えっと…………私も用事があるから」
「クソッ! お前だけは逃がさねぇ!」
電磁の少女は逃走を図ったが阻まれた。
直後の筈だが、遠くから
残された二人の少年少女は顔を見合わせて…………、
「行くぞ!」
「逃げるわよ!」
逃走を開始した。
暑い暑い夏の七月十七日。
未だ始まったばかりの事件の一幕であった。