マルゼンスキーは担当トレーナーを連れて、高台へとやってきた。
街の夜景が見渡せる絶好のスポットで、マルゼンスキーが知る穴場。
ネオンライトが夜景を彩り、マルゼンスキーはうっとりとそれを見つめながら隣にいる愛するトレーナーの手を握る。
「車から降りて見た方がいいんじゃないか?」
「ううん。今は冬だもの。もう少しタッちゃんの中でこの夜景を眺めていましょ?」
「マルゼンスキーがそう言うなら、俺はいいよ」
「ありがとう、トレーナー君♡」
本日、マルゼンスキーはアスリートウマ娘としての選手バ生を終えた。
圧倒的な速さで逃げ、圧倒的な速さで誰よりも早くゴールバーを駆け抜ける。
その速さで多くのレースを『無双』し、その速さは唯一無二の『無敵』で、その速さに誰もが『無限大』の夢を見た。
さようならマルゼンスキー。語り継ごうおまえの強さを。讃えよう君の闘志を。
引退レースの横断幕にはそんな言葉が並んでいた。
そしてマルゼンスキーはただ一人のウマ娘に戻る。
とは言っても、彼女に憧れる後輩たちやファンたちはずっと彼女の背中を、走る姿を追うことだろう。
「降りて夜景を眺めましょうか♡」
「ああ、分かった」
トレーナーはすぐに助手席から降りると、運転席のドアを開けて彼女へ手を差し伸べた。
「あら、相変わらず素敵ね♡」
「マルゼンスキーには負けるよ」
「あらあら……もう、上手なんだから♡」
左腕にピタリと身を寄せ、上機嫌に耳と尻尾を揺らすマルゼンスキー。
なのにトレーナーが彼女の体が冷えないように着ていたトレンチコートで包み込むものだから、マルゼンスキーは思わず胸が高鳴った。
「トレーナー君……♡」
「好きだよ、マルゼンスキー」
「ええ、あたしも♡ あたしも君のことが大大大好きよ♡」
ツーと言えばカー。言わなくても視線だけで伝わる想いが、マルゼンスキーの心臓を更に加速させる。
引退しても、卒業しても、一緒にいることは変わらない。
それでも今だけは、時が止まって欲しいと思ってしまうマルゼンスキー。
いつの間にか、彼女はトレーナーの腰に両手を回していた。
なのでトレーナーも彼女を正面からトレンチコートの中に仕舞う。
この愛らしい彼女を独り占めするために。
「マルゼンスキー」
「なぁに、トレーナー君?♡」
「……嫁に来ないか? 僕のところへ」
「――ッ♡ も、もう、なぁに、急に?♡」
「君が引退したら伝えようと思ってた」
「トレーナー君……♡」
「もう一度言うよ。嫁に来ないか? からだひとつで」
「タッちゃんも連れて行くに決まってるでしょ♡」
「あはは……今度は夫婦生活というレースで隣にいさせてくれ。好きだ、マルゼンスキー」
「ええ、もちのロンよ♡ 全力でかっ飛ばすから、しっかりついて来てね♡ 大好きよ、トレーナー君♡」
数年後、府中の街中を爆走(交通ルール厳守)する赤いスーパーカーの個人タクシーが人気を博し、バックミラーには夫婦写真(キスシーン)がプリントされた御守がぶら下がっているのだとか。
「来年には三人で撮った写真も追加しないとね♡」
読んで頂き本当にありがとうございました!