この日は生憎の雨。
昼過ぎから降り始め、イクノディクタスは本日のトレーニングをスピード強化から賢さ強化に変更。
普段から仲が良いナイスネイチャたちも同じだったことで、いつもより効率の良いトレーニングが出来た。
「…………」
「…………」
そしてあとは帰るだけ。
しかしイクノディクタスは帰ろうとしない。
「イクノさん?」
「なんでしょうか?」
「お帰りにならないんで?」
「…………」
再びの沈黙にトレーナーは首を傾げる。
そこでピンと閃いた。
「傘をお忘れで?」
「…………はい」
ビンゴのようで、イクノディクタスは若干頬を赤く染めて恥ずかしそうに頷いた。
普段は『鉄の女』なんて呼ばれているが、彼女は時たまこういったポカをする。
トレーナーにとってはそこがまた愛らしく、彼女の魅力だと思っているが、イクノディクタスとしては情けないことこの上ない。
「ちゃんと折り畳み傘を持ってきたはずだったのですが……」
「誰にだってそういう時はあるさ」
「はい……」
しょんぼりと耳と尻尾が垂れる彼女を見て、トレーナーは小さく微笑み、手招きした。
イクノディクタスは小首を傾げながらも彼の元へとやってくる。
「ほら、しょげないしょげない」
「わっ、ちょ……!」
両頬をトレーナーに捏ねられるように撫でられ、狼狽えるイクノディクタス。
しかしその場から逃げようとしない。それは彼の温かい手が心地良くて優しいからだ。
「ありがとうございます」
「いいえ。今やってる作業が終わったら、寮まで送ってくからな」
「はい……♡」
◇
作業が終わり、トレーナーはイクノディクタスを連れて正面玄関へやってきた。
しかし、
「雨、上がりましたね……」
雨は上がっていた。
イクノディクタスとしては雨に濡れなくて良かった反面、彼と相合傘が出来ないことに少々耳が垂れる。
「いや、まだ上がってないよ」
「え?」
「だって晴れ間見えてないじゃん?」
「ですが、雨は降っていません。ならば貴方に送ってもらわなくても大丈夫です」
「こういう時くらい格好つけさせてくれよ。ほら、行くぞ」
「あっ……もう♡」
トレーナーから少々強引に相合傘に誘われ、耳が喜びに揺れるイクノディクタス。
「…………好きです♡」
「おう。俺もイクノが好きだ♪」
「ふふっ……好きです♡ 好き、好き、好き♡」
「随分と言ってくれるじゃん。嬉しいね」
「格好良い恋人さんのお陰でしょうね♡」
「はは、ならこれからも格好良く居続けないとな」
「他のウマ娘にはダメですよ?」
「イクノの前限定だよ。言わせんな」
「言われたいので♡」
「……そ」
「はい♡」
頬を赤らめて顔を逸らすトレーナーをイクノディクタスはいつまでも愛おしそうに見つめていた。
晴れ間が見え、虹が掛かっていることにも気付かずに。
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