アプリ産です。通っていいですか?   作:フドル

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いつも誤字脱字、ここ好き、感想ありがとうございます。
今回のレースは難産だった……。


天敵です。逃げていいですか?

 ライスシャワーさんたちとレース後のお疲れ様会を近くのお店で軽く食事をしながら行い、また今度遊ぶ約束をしてから家に帰ったらお義父さんから明日出かけるので予定を空けておくように言われた。

 その時はいつもより気分が良かったのでどこに行くのとか何をしに行くのとか何も疑問に思うことはなく了承したんだ。

 

「それがこんなことになるなんてねぇ……。」

 

 今、僕は絶望の淵にいる。刻々と近づいてくる順番を震えながら待っている。あの時、お義父さんに何か質問をしていればこの状況を回避出来たんじゃないか?そう疑問に思っても何もかも手遅れだ。まさか……まさか……。

 

「次でお待ちのライスモドキ様〜、こちらへどうぞ。」

 

「お出かけ先が予防接種の続きだなんて思わないじゃないか!」

 

 何となく疑問には思ったんだよ!どこか見覚えのある道順だったり、お義父さんがいつもとは違う、何かを悟らせないような喋り方をしてたり、お義母さんが僕を朝から気の毒そうに見てた時とかさぁ!!

 いや待て、今はそれを考える時ではない。この場をどうにかしないと……。

 

「……お義父さん!僕、ちょっとお腹が痛くなってきたからトイレに行ってくるね!五時間ぐらい。」

 

「それはさっきも聞いた。これで六回目だな。そんなにお腹が痛いなら医者に診てもらわないとな。ほら、呼ばれているんだから行くぞ?」

 

 僕の悪あがきもお義父さんには通用しない。それどころか立ち上がって僕をあの悪魔が待っている扉の先に連れて行こうとしている。こうなりゃヤケだ!やるだけやってやる!

 

「やだ!」

 

「ほら、帰りに好きなもの買ってやるから、な?……だから早くその手を離して行くぞ。」

 

「いーやーだー!!絶対に手を離すもんか!」

 

 待合室の固定椅子に全力でしがみつく。お義父さんが僕の両脚を掴んで引っ張ってくるが絶対に離すもんか!

 

「わがまま言うな!すいません、待たせてしまって……。先に次の方を行かせてください。」

 

「あはは、こういうことはよくありますので……。」

 

 そうだ、そのまま次の子を行かせればいい。そうしているうちにお義父さんが諦めるか医者の方から断られる……はず。……何で僕の方に看護師さんが来てるのかなぁ?

 

「注射が嫌いな子がこうなるのはよくある事ですので、こうやって引き剥がすことも多いんですよねぇ……。」

 

 ウマ娘の看護師さんがにこやかに笑いながら椅子を掴む僕の指を引き剥がしにかかる。しかし全く離れない僕の指に次第に顔が笑顔から真顔に変わっていく。

 

「え、嘘?全然剥がれない……。あ、いや、ちょっと他の人を呼んでくるので少々お待ちを……。」

 

 看護師さんが奥に引っ込む。その間にもお義父さんが僕を引っ張ってくるが僕は諦めない。

 暫くするとさっきのウマ娘の看護師さんを含めた三人の看護師さんが来た。お義父さんと看護師さんの一人が僕の身体を引っ張り、あと二人は僕の指を引き剥がすようだ。応援に来た二人の看護師さんも最初は笑っていたがなかなか剥がれない僕の指に真顔になっている。

 

「嘘でしょ……。全力なのに全く剥がれない……。」

 

「だから言ったでしょ!」

 

「いや、普通は嘘だと思うでしょ?」

 

「くすぐりも効かないみたいだしどうしましょう?」

 

「うちの子が申し訳ない……。」

 

 申し訳なさそうに謝るお義父さんには本当に悪いと思うけど、それでも僕は注射が嫌なのだ。例え周りの人たちが興味深そうに僕たちを見ていても、近くの子どもから指を差されようとも僕は抵抗をやめない。

 お義父さんと看護師さんに引っ張られて身体は浮き上がり、手だけで椅子にしがみついている状態だがそれでも彼女たちが僕を引き剥がすことは叶わない。改造ウマ娘の恩恵がこんなところに出るとは思わなかった。

 

「はぁ……!はぁ……!駄目ね、ちょっとバールを持ってくるから少し待ってて。」

 

「なら私は医師に説明をしてきます〜。」

 

 看護師さんたちが手だけでは無理だと判断したのか離れて行く。お義父さんも疲れたのか僕の隣に座って息を整えている。これはひょっとして逃げるチャンスなのでは?

 視線を残った看護師さんの方へ向けるが彼女は別の方向を見ている。お義父さんも目を瞑って何かを考えているようで僕の方を見ていない。よし、いける!後で絶対に怒られるだろうけどここまでしないと注射からは逃げれないと思う。それにここでこんな行動を取ってでも注射をしたくないとお義父さんに示せばもしかしたら諦めてくれるかもしれない。

 

「…………ん?ラモ、何処に行くんだ?」

 

 静かに椅子を立って離れる僕にお義父さんが気付いたので走る一歩手前の速度で歩く。後ろからお義父さんの慌てる声が聞こえてくるがすぐに遠ざかる。

 取り敢えず病院を出よう。それから追ってきたお義父さんに謝ってから僕がどれだけ注射が嫌なのかを説明しよう。それでもお義父さんが僕に予防接種を受けさせようとするのなら、泣く自信しかないけど大人しく受けよう。流石にそこまで迷惑をかけたいとは思わない。既に迷惑をかけまくってる気しかしないけどそれでも注射が嫌なんだ。

 

(後はここを曲がればって人影!?マズイ、止まれない!)

 

「……!!」

 

 そんなことを考えながらほぼ走りのスピードで歩いてたからか、曲がり角からくる人物とぶつかってしまった。

 ギリギリまで減速したのと思ったよりぶつかった人がびくともしなかったので尻餅をついてしまった。

 

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

 

「こちらこそ前をしっかり見ていませんでした。怪我はありませんか?」

 

 明らかに僕が悪いのですぐに謝るが、向こうは僕の心配をしてくれているらしい。何処か聞き覚えのある声を疑問に思いながら感謝の言葉を出そうと彼女の方を向くがそこで息を呑んだ。

 

「ミホノ……ブルボンさん。」

 

「はい。ライスに怪我がなくて良かったです。」

 

 ミホノブルボンさんを視認したと同時に目を瞑る。そのお陰か彼女は僕のことをライスシャワーさんだと思っているようだ。

 

「ぼ……ライスは大丈夫だよ。ミホノブルボンさんはどうしてここに?」

 

「……?私は怪我の具合の確認を。立てますか?」

 

 僕の話し方に少し疑問を感じたのか少し考える仕草を見せたが、気にするだけ無駄だと思ったのか僕を立たせるために手を差し出してくる。

 

「ありがとう、ミホノブルボンさん。……ひゃあ!!」

 

 感謝の言葉を述べつつ、ミホノブルボンさんの手を取ると全身に何ともいえない感覚が駆け巡る。その感覚に思わず声を上げて手を離してしまった。

 

「ライス……?」

 

「な、何でもないよ!ちょっと驚いただけ!」

 

 ミホノブルボンさんに言葉を返しつつこの感覚がなんなのか必死に考える。静電気?それにしてはおかしい、手を離した今でも全身にさっきの感覚が少し残っている。そもそもこんなゾワッとした感覚が静電気であるはずがない。

 ならミホノブルボンさんに原因がある?けど僕が彼女について知っていることなんて機械音痴ぐらいしか……。機械音痴?

 

「……!!」

 

 そういうことか!!ミホノブルボンさんは機械音痴……。それも機械の使い方が分からないっていうよりか触ったものがすぐに故障するタイプのものだ。

 そして僕、この身はウマ娘だが母親から産まれたものじゃないアプリ産。つまり純度100%の機械。種族でいうなら周りが人だけなのが僕だけ人/機械の複合タイプに分類されると思う。つまりミホノブルボンさんの機械音痴という名の機械特攻が僕には有効だということ。この世界に来てから取得した人タイプが入ってるからまだ大丈夫だけど触られ続けるとどうなるか分からない。

 この状況はマズイ。後ろからお義父さんも来ていると思うし早めに話を切り上げてここから離れないと……。

 

「それじゃあ、ライスはもう行くね?」

 

「少し待ちなさい。」

 

 そんな僕の考えもミホノブルボンさんに止められる。まだ何かあるのだろうか?

 

「何かな?ミホノブルボンさん。」

 

「ハグをしましょう。」

 

「…………ハグ?何で?」

 

「他のウマ娘たちの話を偶然聞いたのですが親密な人たちは出会った時や別れる時にお互いに抱き着き合う……つまりハグをするらしいです。なので私たちもそれにあやかろうかと。」

 

 え?ライスシャワーさんとミホノブルボンさんってそんな関係だったの?僕の記憶を辿ってもライバル関係の情報しか出てこないよ?ここはアニメ時空だけど細部が違うのか?

 腕を広げて僕に抱き着こうとするミホノブルボンさんからさり気なく距離を取る。ミホノブルボンさんには悪いけど僕からするとそのポーズは必殺の構えにしか見えない。

 

「ラモ!何処だ!?」

 

 どうやって躱そうか考えていると後ろからお義父さんの声が聞こえてくる。これで別通路から出口を目指すということは出来なくなった。声が聞こえてきた位置的に前以外に移動するとお義父さんに見つかるからだ。

 なら僕に出来ることはミホノブルボンさんがいる通路を通ることだけだ。大丈夫、ミホノブルボンさんにちょっと抱き着いた後にすぐに離れればいいだけだ。ちょっとだけなら機械特攻もそこまで影響はないはず!

 

(機械特攻がなんだ!ミホノブルボンさんには絶対に負けない!!!)

 

 

 

 

 

 

「はい、これで予防接種は終了です。」

 

「あっあっあっあ。」

 

 ミホノブルボンさんには勝てなかったよ……。あの後、あっさりと僕はミホノブルボンさんに捕まった。そもそも手に触れた時点でダメだったのに抱き着かれたらどうなるかなんて考えるまでもなかった。

 脱力して動けなくなった僕を見て何を思ったか分からないけど更に力を込めて抱き着くミホノブルボンさん。そのせいで更にダメージが入る僕。そんな状況でお義父さんが追いついた。

 暫く状況を理解できなかったようだけどミホノブルボンさんの説明が入ったことで何故こうなったかはある程度理解した模様。僕が脱力して動かなくなった理由は分かってなかったみたいだけど、大人しくなったならそれでいいとミホノブルボンさんに僕たちの状況を教えた後に協力を申し出ていた。

 それをミホノブルボンさんは快諾。僕を抱き上げてそのまま予防接種を受ける部屋に移動し、予防接種が終了したのが今さっき。

 注射は怖いけどミホノブルボンさんが僕にくっついている時点でどうしようもない。彼女が離れてくれなければ僕に自由はないんだ……。

 

「注射を嫌いだと聞きましたがよく耐えました。ライスモドキさんは偉いです。」

 

「ア゛〜〜〜。」

 

 ミホノブルボンさんが注射を耐えた僕を褒めるように頭を撫でてくるが逆効果だ。全身を駆け回る感覚につい声が漏れてしまう。

 というか今の僕は人に見せられる顔になっていない。ダブルピースでもすればいいんだろうか?

 

「よし、予防接種は終わったし何処かに食べに行くか。ミホノブルボンもどうだ?ラモの面倒を見てくれたお礼だ。」

 

「魅力的ですがお断りします。この後はマスターと予定があります。」

 

「そうか……。分かった、ありがとうな。」

 

「礼には及びません。では、また。」

 

 最後に僕の頭をもう一度撫でてからミホノブルボンさんは去っていった。もう触られていないにもかかわらず、未だに僕の身体に力は入らない。

 

「ラモ、飯屋は何処に行くって、どうした?ラモ。」

 

「ア゛〜。」

 

 お義父さんが近づいてきたので待って欲しいと意味を込めて抱き着くが、力がでないので身体をくっつけるだけだ。僕の頭を撫でながら上でお義父さんがそんなに注射が嫌だったのかと的外れのようでそうではない推測をしているがそうではないんだ。

 

「あっあっあっあ?あー、あー、よし。戻った。」

 

「さっきからどうしたんだ?なんか様子が変だったぞ?」

 

「気にしたら負けだよ、お義父さん。次からさっきみたいな状態になったら頭を叩いてみて?もしかしたら治るかもしれないから。」

 

「それは親として、ウマ娘のトレーナーとして出来ないことだな。」

 

 調子の悪い機械は叩けば直るをお義父さんに実行してもらいたかったが普通に断られた。残念。だけどお義父さんに大切にされていると分かってなんだかニヤニヤしてしまう。

 

「えへへ、ならいいや!ご飯食べに行こっか!僕は前に行ったことがあるハンバーグ屋がいいな!お義母さんはどうするの?」

 

「ならそこに行くか。道案内は頼んだぞ?心配しなくてもコスモならママ友たちと食べに行くらしいから心配するな。」

 

 お義父さんと手を繋いで病院を出る。そういえばあのハンバーグ屋って店長たちが疲労で倒れてたよね?復活してるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあったんだよ!テイオー!」

 

「へ〜、そうなんだ。」

 

 あの後、普通に店は開いていた。だけど大食いチャレンジの張り紙は無くなっていたし僕の姿を見た店長らしき人が二度見してきたのは覚えている。

 それらの出来事をテイオーに話しているんだけど、なんだかテイオーの様子が変っていうか拗ねてる?

 

「どうしたの?テイオー?」

 

「別に〜、僕が知らない間にライスとレースに出てたことなんて何とも思ってないし〜?僕に一言くらい誘いの言葉があってもいいとか思ってないし〜?」

 

 ジトーとした目を僕に向けてくるテイオー。言い訳するなら一応最初はテイオーを誘おうとしたんだよ?だけどそのことを伝える前にライスシャワーさんに出会ってしまってハリボテボーイならライスシャワーさんの方が適任じゃないかって思っちゃったんだよ。

 

「あはは……、ごめんね?テイオー。次から出来るだけ誘うから。」

 

「本当?もし嘘だったらまたブルボンに抱き着いて貰うからね?」

 

「うっ、それは勘弁。」

 

 テイオーは僕と同じアプリ出身なので僕の説明をすぐに理解してくれた。だけどテイオーは記憶だけアプリで身体はキチンとこの世界で産まれたからミホノブルボンさんの機械特攻は効かないらしい。羨ましい。

 

「あ、そろそろトレーニングが始まる時間だ!じゃあね?ラモ!」

 

「もうそんな時間?分かった、またね?テイオー!」

 

 時計を見たテイオーが慌てた様子で走り出すのを手を振って見送る。

 

「そうだ!僕も今ハリボテを作っているんだ!完成したらそれで一緒に走ろうね?」

 

「えっ……?ちょ、待ってテイオー!」

 

 僕の呼び止める声はテイオーには届かず、そのままテイオーは走り去っていった。

 

「ハリボテを作ってるって……えぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、今回も始まりました貸し物レースのお時間です!実況はお馴染みの私たちでお送りします!』

 

『この挨拶も慣れてきましたねぇ……。』

 

『最近は他のレースを見ても何か物足りなく感じてしまうのが悩みです……。』

 

『普通のレースだと空を飛んだり、首が伸びたり、屋台をひいたりしませんからねぇ。』

 

『レース前のおしゃべりはそこまでにしましょうか。それでは今回のルールを説明しましょう!今回は最終直線前に設置した貸し物BOXに入っている物たちを使ってレースをしてもらいます!全員が選び終えるまで先には進めませんが、先に入った方が有利な物を選べます!』

 

『そのようなルールですので今回は出走ウマ娘たちは皆さん番号のみです。』

 

 実況の解説を聞きながら順番にパドックに出て行くウマ娘たちを見つめる。といっても今回は色物枠は誰もいないので特に誰が凄いとかそういうものはない。

 

『最後、八番。っとおお?いえ、プライバシーは守るべきなので何もありません。』

 

 最後に僕の番になったのでパドックに出て行く。今回は顔を何も隠していないので実況が驚くのも無理はないだろう。観客も騒めいており、所々からシャワー?モドキ?と声が上がっている。

 

『少々驚きましたがこれは貸し物レース。最終直線の物でレースが決まります。』

 

 その通り、だから僕も素顔を安心して晒している。他の出走ウマ娘たちを見ても誰も諦める気はなさそうだ。いや、一人なんか僕の方を変な目で見てるね。なんかMモード発動中のあの子と同じ気配が出てるので近づきたくないんだけど……。

 熱烈な視線を無視していると脈なしと思ったのかため息とともに視線が消えた。あの子みたいな粘着性は無いようだとホッと一息をつきながらゲートに入る。

 

『さぁ各ウマ娘のゲートインが完了しました。今スタート!綺麗なスタートです。』

 

『途中までは他のレースと変わらない展開なので安心して見ていられますね。』

 

 バ群を引き連れるように走る。本気で走ってもいいけどどうせ貸し物BOXで足止めされるんだ。物をゆっくり選べる距離を取れればそれでいい。

 

『さぁ、貸し物BOXが近づいて来ました!ここから波乱のレースになりますよ!』

 

『先頭は大差で八番、そこから一番、三番、四番ときて、少し離れたところに二番、五番、六番で最後尾が七番ですね。』

 

 実況の声を聞き流しながら貸し物BOXに突っ込む。周りは薄暗くて普通のウマ娘なら物がよく見えないだろうが僕なら問題なく見える。辺りを見渡し、素早く置いてある物を見る。

 

「ランニングマシーン、論外。どうやって走るのさ!次、ローラーシューズ、芝で走れるの?次、ハンドル付きセグウェイ、今のところ第一候補。次、椅子、ただの椅子、論外。次、ル○バ、お掃除お掃除〜。次、ドラム缶、過去の失敗を思い出すね……。次、三輪車、サイズが子ども用。僕たちじゃ合わなすぎて無理!最後、パンダカー。コメントに困る!」

 

 どれが一番速い?今のところセグウェイが速いと思うけどローラーシューズとかドラム缶とかも乗り手によっては速いと思う。気になるのはパンダカー。僕は見たことがないのでどれくらい速いとかが分からない。だけどカーってついてるんだからそれなりに速いのでは?よし、決めた!僕はパンダカーを選ぶ!

 ふさふさのパンダカーに乗り込むと僕の上の電気だけ点灯する。これで後から来た子にも僕がこれを選んだのは分かるってことか。そう考えているうちに続々と他の子たちもBOXの中に飛び込んでくる。

 

「ローラーシューズなんて履いたことないよぉ〜!」

 

「ランニングマシーンなんてどう使うのさ!」

 

「ドラム缶……?なんでドラム缶?」

 

「ル○バ???乗るの?」

 

「やった!セグウェイだ!これで勝てる!」

 

「私はこれ!って椅子!?」

 

「三輪車かぁ……、いや、三輪車マスターと呼ばれた私の実力を見せる時!!」

 

 それぞれが選んだ物にコメントをしながら準備が完了する。すると目の前の画面からカウントダウンが始まった。

 

「三、二、一、よし、行くよ!パンダカー!君の実力を見せてやれ!」

 

 カウントダウンが0になったと同時にパンダカーの隣に置いてあった箱の中の百円玉を入れて発進ボタンを押す。すると周りに電子メロディーを響かせながらパンダカーが発進した。すっごいゆっくりと。

 

『さぁ、何が出る?何が出る?一番最初に飛び出したのは三番のル○バ、何を掃除するのか?ゆっくりと進んでおります。次は五番のランニングマシーン、これはついてない。更に六番、ローラーシューズ。初めてなのでしょうか?ヨチヨチ歩き。その次は一番のドラム缶、ゴロゴロ転がって、おおっと!ここで落ちた!滑落!初めてには厳しい!その次は七番、椅子。バッタバッタと動かしてなんとか前進。さらに次は四番、三輪車、これは速い!こじんまりとした体勢から凄まじいスピードで進んでいる!それを追いかける二番のセグウェイ、スーと追いかける。八番のパンダカーは……まだBOX近くでランニングマシーンと一緒にいますね。』

 

「おっそい!!え?これってこんなに遅いの!?」

 

 ランニングマシーンの子以外が進んでいるのに対して僕のパンダカーはちっとも前に進まない。しかも三輪車の子が滅茶苦茶速い。どうやって漕いでいるんだろう?

 何とかならないかと発進ボタンを何度も押すが電子メロディーが最初からになるだけで特に意味がない。

 いっそのことこのパンダカーを担いで走ってやろうかと思うがそれだとルール違反になるのでどうしようもない。何かないかと周りを見渡すがランニングマシーンの子が最初に選んだのにハズレを引いてしまったんだな、ドンマイ的な視線を僕に向けてくるだけで特に何もない。

 

「むむむむ!なんかないの?なん……か?これなんだろう?」

 

 パンダカーの首辺りに普通なら見つけられない小さなボタンを見つけた。ボタンにはドクロマークがついており、明らかに何かが起きる予感しかしない。

 

「いや、これは押すべきでしょう!ポチッとな。」

 

 ボタンを押すとパンダカーが停止した。停止ボタンだったのかな?と思う間もなく今度は振動し、パンダカーのメロディーが別のに変わる。

 もしかして壊れた?頭の中に弁償の文字が浮かび上がって冷や汗をかいているとパンダカーの肩あたりから伸びて来たアームに手を掴まれた。

 

「ほえ?」

 

 呆ける間も無くパンダカーに密着するように体勢を変更させられ、中に内蔵されてたと思われる機械が頭に被せられる。目の前が真っ暗になって少し戸惑うがすぐに二つの映像が映る。一つは画面全体が赤く、オイルで濡れて見づらいけど多分パンダカー目線。もう一つは横からこのレースを映しているのでどっかのカメラの映像。

 それを理解したと同時にパンダカーが気持ち悪い動きをした後に急加速で前進し出した。縦回転で。

 

「ぬぅわわわわわ!!!」

 

『五番のランニングマシーンは新記録!このままランニングマシーンの世界記憶を取れるのか!三番のル○バ、ここで方向転換!ゴミを察知した!ゴミのポイ捨てはやめましょう!四番の三輪車はトップを独走!このままゴールか!?いや、補助輪が取れた!独り立ち!だけどサイズが合わずにうまく漕げない、よじくれている、そっちじゃない!!入れ替わるようにここで一番がドラム缶の中に入ってエントリー!二番のセグウェイといい勝負!っとここで後ろから八番のパンダカーが耳障りな音を撒き散らしながら上がって来た!目が赤く光っている!!』

 

 パンダカー目線がぐるぐる回って見づらいが先頭に追いついている。縦回転をしているが被せられた機械のお陰でどこも痛くない。これは勝ち確ムーブでしょ!

 ヨチヨチ歩きの六番と椅子で頑張る七番を抜かし、内心で勝ちを確信した。前のレースでそれはダメだと学んだはずなのにそれをしてしまったせいなのか縦回転するパンダカーの調子がおかしくなる。

 段々と振動が激しくなり、嫌な予感が沸いてくる前に……跳んだ。

 

『パンダカーが跳んだぁ!ホップ、ステップ、大ジャーンプ!画面外に跳んでったぁ!その下を通るようにセグウェイとドラム缶が走る!いや、セグウェイのスピードが落ちてきた、充電切れか!?ドラム缶が抜け出した!そしてそのままゴーーール!!』

 

「おぉぉぉちぃぃぃるぅぅぅぅ!!!」

 

 謎の跳躍機構によって空へと跳び出したらもちろん落下する。しかし僕に心配はない。跳躍機構がついているなら着地時の姿勢制御機構や衝撃緩和機構もついているはずだからだ。だけど地面が近づくにつれて全く反応を見せないパンダカーに冷や汗が垂れてくる。あの、パンダカーさん。ずっと足をわしゃわしゃしてるけど着地機構とかあるよね?そろそろ展開しないと間に合わなくない?もしかして着地機構とかをお持ちでない?

 そんな僕の心配は的中し、パンダカーはそのまま地面に激突。芝へと突き刺さった。僕ごと。

 そんな僕を無視して後続のウマ娘たちがゴールしていく。おいこらカメラ。一着の一番を映すんだよ、僕を映すな。何が悲しくて地面に突き刺さってるパンダカーと僕を見なくちゃいけないんだよ。身体は痛くともなんともないけど心が痛い。……僕もパンダカーみたいに足をわしゃわしゃさせようかな?

 

『お昼に届いた贈り物。ただし家主はトイレの中。確定しました。一着は一番、二着は六番となりました。それではまた会いましょう!!不在届。』

 

 ところでいつになったら僕を出してくれるのかな?




前から障害物を書いてみたかったけど難易度が高すぎるんよぉ!流石に全部をオリジナル道具にするには知力が足りなかった……。自分をトレーニングして賢さSS+に出来ないかな。

ライスモドキの実は①
引っかけ問題とかにすごく弱い。

(この世界の)トウカイテイオーの実は①
手を自分に向けて伸ばされると反射的に取ってしまう。

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