誤字脱字の報告ありがとうございます。
時間はかかるかもですが取り敢えずテイオーとレースするところまでは数話かけて書きたい。
追伸、米って結構種類あるんですね。
「ここが俺の家だ」
「へぇ〜ここが……。大きくない?」
「ウマ娘一人増えた程度ではどうってことないと言ったろ?ほら、入るぞ。」
予想していた家より大きな家の前でアホ顔を晒していると、上島さんが家の中へと入っていく。慌てて後をついて行くとそこには広々とした空間が広がっていた。
「うわぁ。僕、こういう家の中って初めて見たなぁ。慣れなさそう。」
「そうか、なら今のうちに慣れておけ。ここが暫く君の暮らす家になるからな。」
「あら?歩さん。帰ってきたんですね。おかえりなさい。」
「今さっきな。ただいま。それから君に紹介したい子がいる。」
家の中を見渡していると奥から一人のウマ娘が僕たちの方に歩いてきた。親しげに上島さんに話しかけていることから恐らくこのウマ娘が上島さんの奥さんなのだろう。そんなことを考えてると背中を押され、一歩前に出される。
「初めまして。この人の妻のコスモグラールと言います。気軽にコスモって呼んでね。貴方のお名前は何ですか?」
「えっと。僕の名前はライスモドキって言います。とっても似てるけど別人です。」
ずっと被っていたさっきのレースでもげたハリボテの頭を外し、コスモさんに素顔を見せる。
「………確かに似ているわね。だけど貴方は貴方よ。気にすることはないわ。……ところで、そこの男に何かされていないかしら?」
にっこりと笑ったコスモさんから黒いオーラのようなものが噴き出ている幻覚が見える。上島さんのことも歩さんからそこの男に変わっていて、突然の変化に対応出来ない。
「お、おいコスモ。俺は別に何も「あらあらあらあら、歩さん。貴方には聞いていないわ。」……はい。」
抗議しようとした上島さんの言葉を途中で黙らせ、僕にズイッと顔を寄せてくる。爽やかな笑顔だが目が全く笑っていない。
「ライスちゃん?この男に本当に何もされてない?黙っていなくても大丈夫よ。何もさせずにぶちのめすから。」
「ヒェッ」
何に反応してコスモさんがこうなっているのか分からない。上島さんに助けを求めようと視線を向けるが、彼も冷や汗を垂らして必死に考えているようだ。
目を回して必死に考える。コスモさんは何かを勘違いしている。だがその何かが分からない。
(何か……って、あ。)
徐々に強くなってきているコスモさんのオーラに無意識に目を背けてしまい、その先にあった鏡に映っている僕の姿が見えた。
さっきのレースでほんのりとかいた汗。それを乾かすために少し着崩した服。転倒によってついた埃。そしてハイライトが全く無い目。
上島さんの方を見ると彼も僕を追いかけてきたせいでほんのりと汗をかいていて、同じように少し着崩している。そして何処か満足げだ。
(これって見方によっては事後なのでは?)
コスモさんの勘違いを理解して思わずスンッとなる。彼女の脳内では色々と起こっているのだろう。ウマ娘をどうやって組み伏せるんだとか突っ込みたいことが結構あるが、まずはこの勘違いを正さないと上島さんが危ない。
少し距離を取ろうとした上島さんがコスモさんに捕まって、懐から取り出された縄で締め付けられている。
「僕が走ってる時にお兄さんに会ってね、そのまま気が合って家にお邪魔したんだ。」
一応レースのことは伏せてコスモさんに大体の経緯を話す。上島さんを吊るそうとしていた彼女はこの言葉にピタリと動きを止めてこちらにぐりんと顔を向ける。ヒェッ、怖い。
「本当に?本当に何もなかったのですか?怖がらなくてもいいんですよ?全てを私に話せばいいんですよ?」
「本当に何も無かったよ。この汗は外を走ってた時に出たものだし、着崩しているのは少し涼しくしたかったから。お兄さんは僕を追いかけてきたからこうなってると思うよ?満足げなのは分からないけど。」
「歩さん?」
「その通りだ。満足げだったのはこの子をあのレースから引き抜くことが出来たからだ。」
「あのレースって!?……辛かったでしょう?これからは私を頼りなさい。」
上島さんの言葉に驚愕した後、コスモさんが僕に抱きついてくる。というか上島さん普通にレースのこと話してたけど大丈夫なの?
「コスモもあのレースのことは知っている。だから心配しなくてもいい。」
僕の疑問を感じたのか上島さんから返事がくる。なら気にしなくてもいいのかな?
「それより誤解が解けたのなら早くこの縄を解いてくれないか?」
上島さんが解放されたのはコスモさんが僕に抱きつくのをやめた後だった。
「ふわぁ、凄い。これ全部夕ご飯なの?」
「ふふっ、そうよ。沢山食べていいからね?」
僕の部屋とかトイレはこことか色々家の中を案内してもらった後、僕の前には豪勢な食事が用意されていた。コスモさんがいうには僕が来たから張り切って作ったとのこと。
「それじゃあ、いただこうか。ライスも遠慮なく食べてくれ。」
「ねぇ、お兄さん。僕の名前はモドキでいいよ?ライスだったらあの子に迷惑をかけちゃう。」
「意味を知ってしまったらモドキなんて呼べない。何度も言っているが君は君だ。だからライスと呼ばせてもらう。」
上島さんは頑なに僕の愛称をライスにしようとする。僕は製作者がくれたこの名前はそんなに気にならないのになぁ。
しかしライスで決まってしまうと本人に迷惑がかかるかもしれない。それはいけない。なのでなんとかモドキと呼んでもらいたいがどうしようか?
「ならラモで良いんじゃないかしら?お互いの頭文字をとってラモ。どうかしら?」
「ラモ……か。うん、僕はそれが良いな。」
「なるほど、なら次からはラモって呼ばせてもらう。」
すんなりと僕の愛称が決まった。初めてのものでなんだか気恥ずかしい。
「ご、ご飯が冷める前にいただきますね?沢山食べますよ!」
「えぇ、ラモちゃんが満足するまでどうぞ?」
気恥ずかしさを誤魔化すために話題を逸らそうとするが、コスモさんから全て分かってるみたいな微笑みが返ってくる。こうなりゃとことん食べてやる!あ、この人参美味しい。
「……!………!」
「いい食べっぷりだな。見ていて気持ちいい。」
「………!…………!」
「作ってる側としては嬉しいわ。こんなに美味しそうに食べてくれるんだもの。」
「…………!…………!」
「俺たちも食べるか。」
「そうね、いただきましょう。」
「……………!……………!」
「……出前、頼んでくる。」
「もっと作れば良かったわね。」
ラモがかなりの大食いだと判明してから数日が経ち、ラモがここでの生活にだいぶ慣れてきた頃。俺は自室で悩んでいた。
「食費……、これは大丈夫。意識が飛びかけたが何とかなった。ラモに関する書類も解決した。問題はラモ自身だ。」
彼女は何というか、かなり世間に疎い。それは彼女の出自が関係していると思うし、後々教えていけばいい。問題はラモが何かを消すという動作に過剰に反応することだ。
テレビや火などは反応はするがすぐに元に戻るので大丈夫だが、データ関係を消すときは近くに彼女が居ないかを確認しないといけない。一度削除場面を見られた時は次の日になるまでこっちに一切近づいて来なかった。
お陰でコスモから疑うような視線を向けられた。俺の心はボロボロだ。
「あれはラモのトラウマからくる行為か?消すのがトラウマ、何かを消された?それも大事なものを。……ダメだな、俺には分からない。」
出来れば解決してあげたいが、これはラモの心の問題だ。迂闊に手を出して悪化させてはいけない。
それに、
「たった一人の望みで生まれて、捨てられた
ラモが自己紹介の時に言ったその言葉が、俺に重くのしかかっていた。
「一人ということは父方か母方のどちらかにだけ出産を望まれたってことか?それで何らかの事情が出来て、捨てた?ラモが覚えてるってことはそれなりに育っていたはずだ。金が無くなったか?」
ラモの親にも理由があったのかもしれないが、不都合が出たら捨てるのか?それだけの理由で望んだラモを捨てたのか?
思わず拳を握り締める。いつ捨てられたかは分からないが、子どもが親に捨てられるというのはかなり大きな心の傷になる。ラモはそれを表に出さないが少なからず傷を負っているはずだ。
「歩さん、考えるのはいいですがあまり思い詰めすぎるのもダメですよ?」
「分かってる。明日はトレーナー業に加えて会議もある。担当の子に心配されるわけにはいかないからな。今日もラモのところに?」
「えぇ、人肌恋しいらしいですから……。では、お休みなさい。」
寝ている時のラモは抱き着き癖がある。それも人限定で。無意識に何かを求めているのだろうか?一度だけ寝ているラモのところに加わり、三人で寝ようとしたがラモに抱きつかれてそのまま抱き潰されそうになった。
それからはコスモにラモのことを頼むようになった。ウマ娘のトレーナーとして抱き着かれるだけでリタイアとは情けない限りだがこればかりは仕方ない。だが悔しいので通販で筋トレグッズを買った。
「俺も寝るか……少し考え過ぎたな。まぁ、三時間もあれば十分だろう。」
目覚ましを設定して布団に入る。間隔がおかしい時計の音を聞きながら俺の意識は落ちていった。
「お兄さん!お兄さん!起きて!!お兄さん!!」
「うぉ!?何だ!!?」
朝、何故か僕の布団に潜り込んでくるコスモさんから起きてこない上島さんを起こして欲しいと頼まれて部屋に突撃した次第である。
頬をペチペチ叩くところから始まって、ゆすったりしても全然起きないので、ウマ乗りになってから声かけを行なってやっと起きた。
「ラモ!?何でここに?何かあったのか?」
「今は八時過ぎくらいだよ、お兄さん。僕がここにいるのはコスモさんに起こしてきてって言われたから。」
「は?だけど時計はまだ四時だぞ?」
「時計の針をよく見て、お兄さん。多分途中で電池が切れたと思うよ?」
上島さんから退くと彼はまた寝ようとするので電池切れの時計を指差してあげる。彼はそれを見た後に眠そうな顔でスマホを確認して、顔を真っ青にして飛び起きた。
「マズイマズイマズイ。今日は大事な会議があるんだ。今は八時過ぎだから急いで行けばまだ間に合う。」
急いで服を着替えた上島さんが部屋を飛び出していく。仮にも女性の僕の前で服を脱ぐなと言いたいところだけど、それほど急いでいたと言うことだろう。
玄関のドアが開く音を聞きながら僕もそこへ向かう。
「間に合うかしら?あ、ラモちゃん。起こしてくれてありがとうね。」
「うん、それでお兄さんは間に合うって言ってたけど大丈夫なの?」
「それがね?車で行こうとしてたから道が渋滞してるって言ったら走って行っちゃって。多分間に合わないと思うから担当の子にどやされちゃうかもね?」
お兄さんの焦った顔が思い浮かぶ。遅れるのも可哀想だし、これは居候をさせてもらっている恩返しのチャンスかもしれない。
「ねぇ、コスモさん。ちょっと時間あるかな?」
スマホの方も目覚ましを設定すればよかったと後悔しながら道を走る。ウマ娘のトレーナーとして体力とスピードには少し自信があるがどうやっても間に合う気がしない。
「へい!そこの美人なウマ娘の奥さんがいて、最近ライスシャワー似の少女を保護しているお兄さん!」
あまりにもピンポイントな呼び出しと聞き覚えがある声に走りながら振り返り、驚愕する。
「乗ってかない?」
そこにいたのはダンボールで作られ、二人のウマ娘で構成された四本足の何か。前に見た間抜けに見える何かの顔と首だが何故か胴体が出来ている。そのダンボール生物の腰あたりに人の頭ぐらいのダンボールが付け足され、そこに二人目のウマ耳が飛び出ている。
更に胴体部分には薄いダンボールが付け足され、側面にはマジックペンで[8 ハリボテエレジー]と書かれている。
「色々突っ込みたいところがあるが、ハリボテモドキじゃないのか?」
「この姿ならこっちの名前の方がいいかなって思っちゃって……。さっき仕上がったばっかだからちょっと接着剤の匂いがするかも。」
「後ろのコスモは何をしている?」
「私、コスモじゃないよー、謎の脚のウマ娘だよー」
「ほら、お兄さん。この中身は材料費数千円の機密が詰まってるんだから暴こうとしないの!それに遅れてるんだから早く乗って!」
ハリボテエレジーが俺が乗りやすいように伏せる。断りたいがこのまま行っても間に合わないので仕方なく乗ると意外と安定している。
「一応安全のために手綱は握っていてね?それじゃあ、謎のウマ娘さんに合わせるからお願いするね?」
「手綱ってこの口あたりから伸びてるやつか。それと二人の背丈って結構違ってたと思うし、コスモは前が見えてるのか?」
「背丈は僕の方でダンボールを上手いこと使って合わせてる。コスモさんはちゃんと見えるように作ってるから安心して!」
「コスモって認めているじゃないか。」
「しまった!?誘導尋問か!?」
ゆっくりとハリボテエレジーが走り出す。徐々にスピードが増していき、俺が走った時よりも遥かに速い。
だが、これは……
「すっごく恥ずかしい!!」
「まぁ、この世界だとしょうがないよ。それに遅刻したくないんでしょ?コラテラルダメージだよ。」
ウマ娘用の道を謎のダンボール生物が走る。上に男を乗せて。周りは必ずこちらを見るし、車に乗っている人は二度見してくる。
「ここってどっちに行けばいい?」
「左よ、ラモちゃん。」
なのに中の二人はマイペースである。あぁ、早く学園につかないかな。
「うお、歩トレーナーじゃねーか!?なんだそれは!?」
「ゴールドシップか……。何故屋台を引いてるのかとか突っ込みたいところがあるがこれは色々あってだな。」
「つまりかくかくしかじかってやつだな!よし!なら学園まで競争だ!」
「何故そうなる?あ、待て走るなって速いな。」
「追いつけたら焼きそばを作ってやるよ!」
「焼きそば!?」
焼きそばという言葉にラモが反応する。この子はここ数日で食べ物に目が無いようになった。お陰で食べ物で釣りやすくなったが今回は悪手みたいだ。
「焼きそばだって、コスモさん!焼きそば!!」
「分かっているわよ。あの子を追えばいいのね?任せなさい。」
ハリボテエレジーの走るスピードが上がり始める。二人の体格などが全然違うのにずっと同じスピードで走っている事実に今頃気付いたが、そんなことより手綱だけでこのスピードを耐えるのはなかなかキツイ。
その頼りの手綱も少し引っ張れば頭ごと俺の方へ引き寄せられてしまうので頼りになるのか分からない。
それに耐えること暫く、学園が見えてきて、やっとこれから解放されると思われたのも束の間、ゴールドシップが学園に入っても止まらない。つまりそれを追いかける彼女たちも止まらないってことだ。
「おい!ゴールドシップ!早く止まれ!もうゴールしただろ!?」
「そうは言ってもよ!歩トレーナーの乗ってる奴らからの威圧が凄いんだよ!特に前の奴!!」
「追いつく、追いつく、焼きそば、追いつく」
「ほら、ラモ?もう勝負はついたからな?一度止まるんだ。」
「追いつく、追いつく」
「コスモ……。」
「あらあらうふふ。」
「あ、ダメだこれ。ラモは完全にスイッチ入ってるし、コスモは昔に戻ってる。」
学園内を爆走し、練習コースに突入する屋台とダンボール。練習している生徒たちが騒ぎを聞いて急いで道を開ける。
「ゴールドシップ!君の脚質は追込みだろう!?何でそんなに速いんだ!」
「誰でも骨の髄までしゃぶられそうな気配を感じたら速くなるに決まってるだろうが!」
「追いつく、追いつ……あれ?ここって第一コーナ゛っ!」
「うふふ、あの子速いわね゛!?」
突然、二人が転倒する。勢いよく転倒したおかげで上にいた俺も空へ投げ出される。反射的に手綱を引っ張るがスポンと音がなるような感触がした後、目の前に飛んできた間抜けな顔がこちらを見つめてくる。
(これは何かのトレーニングに使えるかも知れないなぁ)
見当違いのことを考えながら地面に叩きつけられた。
「痛……くない?何だこれは?」
「あーあ、ダンボールの機密が漏れてるよ……。あ!?お兄さんとコスモさん!怪我はない?」
「私は大丈夫。こんなところで転けるなんて衰えたかしら?」
「俺も平気だ。ほら、頭が取れてるぞ。」
「あ、本当だ。ありがとうね。」
ラモが俺から頭を受け取り自身が被っている首に嵌める。その後に壊れた胴体部分からガムテープを取り出してぐるぐる巻きにしている。
「焼きそばを食べられないのはショックだけどお兄さんの遅刻は免れたし結果的によかったね。」
ラモの言葉にスマホを取り出して時間を見てみると後15分は余裕がある。これなら会議には余裕で間に合うだろう。
「二人はどうする?お礼に飲み物なら買うが?」
「わーい、って言いたいんだけど僕たちは今から逃げないといけない。」
ラモがとある部分を指差すとそこから緑の服を着た人がかなりのスピードで俺たちの方へと向かってくる。
「あれは……。たづなさんですね。あの距離から走ってきてるってこととあの可愛らしい笑顔からかなり怒ってますね。」
「だから逃げるんだよ。コスモさんは僕が背負って逃げるからね。」
「それなら二人で別々に逃げた方が逃げられる確率は高いんじゃないかしら?」
「いいからいいから、僕を信じて。ほら、はーやーくー。あ、胴体部分はコスモさんが持ってて欲しいな。」
ラモが背中を向けてコスモを急かす。彼女も悩んだが背負われることにしたようだ。
「それじゃあ、お兄さん。僕たちはこれで失礼するね?お仕事頑張ってね!」
こちらへ申し訳なさそうな気配を出したラモが走り出し、暫くすると風のようなスピードのたづなさんが通り抜ける。少し追いつかれかけたが、最高速度に到達したラモが徐々に引き離していく。やがて彼女たちは練習コースを抜けてそのまま校門の方へと消えていった。
「一人背負った状態であのスピードってラモは何者なんだ?」
「それは私も聞きたいですね?それよりも……分かっていますよね?」
後ろからの声にゾワッとして振り返る。そこにはさっきまでラモたちを追いかけていたたづなさんが笑顔でこちらを見ていた。
「……たづなさん、デビューしませんか?今なら三冠をお約束しますよ?だからその手を離してほしいな〜なんて。」
「ふふ、上島さんは人間の私に面白いことを言いますね。覚悟はいいですか?」
「ははっ、お手柔らかにお願いします。」
たづなさんに引き摺られながら校内へ向かう途中で、逃げる前にラモがこちらへ向けてきた気配を思い出した。
「ラモの奴、こうなるって分かっていたな……。俺も逃げればよかったか。」
しかしこうなってしまってはどうしようも無い。遠くでエアグルーヴに追いかけられるゴールドシップを見て、諦めるように空を見上げた。
「ただいま、今日は一段と疲れた。特に説教。」
「おかえり、お兄さん。お風呂にする?食事にする?そ、れ、と、も、僕にする?ちなみにお風呂は今コスモさんが入っているから使えないよ。」
分裂したハリボテを付け直して、ついでに廃棄場で見つけたドラム缶を改造していたら上島さんが帰ってきたので出迎える。
一度言ってみたかった言葉を上島さんの前でくるくる回りながら言うと彼はジッと僕を見つめてくる。
「それじゃあ、ラモにしようか。少し話がある。」
「分かった、僕だね。……え?僕!?」
冗談で入れた選択肢を選ばれて狼狽している間に上島さんが奥へと行ってしまう。やっぱり暴走したことを怒っているのか?食べ物に釣られたとはいえ、確かにあれはやり過ぎた。ビクビクしながらリビングに入ると上島さんはソファーに座って僕を待っていた。
「えっと、話って何かな?やっぱり朝の件?」
「それも言いたいことがあるが、それよりも……だ。ラモ、トレセン学園に入るつもりはないか?」
上島さんが言うには説教を受けた後に逃亡した僕のことを色々聞いて、ぜひ学園に迎え入れたいとのことらしい。
「ラモのことはだいぶ伏せて伝えたから安心してくれ。後、一部のウマ娘たちはラモとレースがしたいらしいよ?」
トレセン学園では僕のことが噂になっているらしい。人を担ぎながらかなりのスピードを出して爆走するウマ娘って感じで。追いかけようとしたけどすぐに離されたって悔しがる娘もいたらしい。
逃げるのに必死であんまり周りを見てなかったから全然知らなかった。
「でも僕はトレセン学園に行く気はないよ。」
「そうか、分かった。学園側にはそう伝えておく。」
「……理由、聞かないんだ?」
「聞く必要がないからな。向こうには適当に理由をつけておくよ。まぁスカウトの件はこれでおしまい。次はこれだ。」
上島さんが僕に紙を渡してくるので確認すると、どうやらテストのようだ。
「トレセン学園はともかく、俺はラモには何処かの学校に行って友達を作ってほしいと思っている。だから学力を見せてもらうぞ。」
「ふ、ふっふーん。こ、この僕にかかればこんなテストなんて満点に決まってるでしょ?甘く見ないで欲しいなぁ。」
「そうか、なら期待しているぞ。一時間後に様子を見にくるから、それまでには終わっておけ。」
上島さんが部屋を出て行く。扉に耳を付けて音がないのを確認してから元の位置に戻り、買ってもらった携帯を取り出して「そういえばなんだが」ピィ!?
「な、何かなお兄さん?僕は今からテストに集中したいんだけど。」
「今回だけ、この部屋にはカメラをつけさせてもらってるから。」
「へ?な、何で?僕を信用出来ないっていうの?」
「俺は信用しているが提出する時に不正はなかったって証明するためだ。話はそれだけだよ。テスト、頑張れよ。」
再びパタンと扉が閉まる。それと同時にゴトリと僕の手から携帯が落ちる。
「ふ、ふふふ、やってやろうじゃないかこのやろう!」
えーと確かこれはこうやって解いたはず。この漢字は……なんだっけ?こんにゃく?ざっこく?リゾット?クソっ!?外部から謎の電波が飛んできた!?仕方ない。これはパス、えっと次は……何これ?暗号?僕、コウイウノワカラナイヨー。
「ラモ?一時間経ったが終わったか?」
風呂から出たコスモと話しながら時間を潰し、時間になったのでラモがいる部屋の扉をノックするが返事がない。怪訝に思い部屋に入ると、そこには机に突っ伏し、何かが抜けているラモの姿があった。
「ラモ?終わったぞ?テストを見せてみろ。」
「ば な な」
「バナナ?食べたいのか?明日、買いに行くか?」
ラモからテストを受け取り、答え合わせをしようとざっと目を通してみるが。これは……
「いや、ラモの今までを考えたらこれは当然か。むしろ何でそこに意識が向かなかった。」
そこにはほぼ全てが空白のテストがあった。どれも消しゴムで消した跡があるので解こうとはしたみたいだ。僅かに書いてあったところの答え合わせをしてみるが、少し正解していただけでそれ以外は間違えていた。
「ふむ……。ラモ、1+1は?」
「みそすーぷ。じゃなくて2だよ、流石にそれはわかるよ!」
流石にわかるか。しかし、これは勉強をしないといけないな。家庭教師を雇うのもありか?後で信頼出来る人を探してみるか。
「取り敢えず、明日一緒にバナナと味噌スープを買いに行くか。食べたいんだろ?」
「いや、あれは様式美というか、お約束というか……、うん、食べたい。」
少し悩んでいたがラモは食べ物には素直だ。すぐに頷いた。明日は担当には休息をとるように言ってるし、学園の仕事はない。なら久々にコスモを入れて出かけるのも良いかもしれない。
「なら今日は風呂に入って早く寝ろ。最近夜遅くまで何か作ってるだろ?」
「ゔ、バレてた。分かった。風呂に入ってくるね。」
バツの悪い顔をした後にラモが部屋を出て行く。それと入れ替わるようにコスモが入ってきた。
「どうだった?ラモちゃんのテスト。」
「勉強が必要とだけ言っておく。それよりも、明日はラモと一緒に買い物に行くがコスモもどうだ?」
「もちろんついて行くわ!ラモちゃんに何を着せようかしら?今から楽しみだわ!」
服を探してくるわ!と尻尾をぶんぶんさせながらコスモが飛び出していった。
「俺も明日の準備をしておくか。ふふっ、俺も人のことを言えないな。」
次の日、念の為、僕は顔をマスクで隠してから二人と仲良く近くの商店街に来ていた。僕の知っている商店街とは違ってキチンと活気がある。右へ左へと視線が向くのを隣にいるコスモさんが微笑ましそうに見ている。恥ずかしいので逆を見ると今度は上島さんが僕を微笑ましそうに見てくる。
僕は二人に挟まれている。しかも両手を繋がれて。確かに僕は小柄だがそんなに迷子になりそうに見えるのか?
そんな疑問を浮かべながら歩くこと数分。目的の店に来たようだ。流石に限界なので上島さんの方を見ると彼は手を離してくれた。そのままコスモさんを見るが彼女は僕を離す気はないみたい。
「あの、コスモさん?僕の手を離してくれると嬉しいかなって。ほら、買い物の邪魔になるでしょ?」
「あら?ラモちゃん。私と手を繋ぐのは嫌だったかしら?」
ぐっ……その悲しそうな顔はやめて欲しい。仕方ないので離しかけていた手を繋ぎ直すとコスモさんは嬉しそうな顔になる。そのまま器用にカートを引き抜くと僕の手を引いて買い物を始めた。
「こうやって見ると凄い量だね。今更だけど食費って大丈夫?」
「言っただろ?ウマ娘一人増えたところで何の問題もないって。」
「あらあらうふふ。」
大量の買い物袋を引っ提げで商店街を歩く。この量を見てると食費って大丈夫なのかと不安になったので聞いて見るが、上島さんは前と同じように胸を張って答えるが何処か冷や汗をかいているように見える。そんな彼の姿を見てコスモさんが穏やかに笑う。
「帰ったらご飯にしましょうか。食後のデザートはバナナですよ。」
「わーい!コスモさんの料理って美味しいから僕は大好きだよ。」
嬉しさから駆け出し彼らの前で踊る。何回も踊りは経験しているのでキレは良いはずだ。
「ふーんふーんふーん。ってこれは?」
電気屋の前に置いてあるテレビが一つのレースを映していた。実況の声を聞いていると聞き覚えのある名前が出てくる。
「トウカイテイオーかぁ、彼女はどんなウマ娘?」
「彼女は凄いぞ?なんたって今まで無敗だ。それに努力家だ。時間さえあれば学園を抜けてトレーニングをしているらしいからな。」
上島さんの説明を受けてレースを見るとテイオーが一着でゴールしたところだった。カメラが彼女の顔をズームし、そこで初めて彼女の表情をしっかりと見た。
見る人によってはレースを走り切ったことで疲れながらも観客にアピールしている姿。だけど僕には何処か思い詰めている様に見えた。
観客席からテイオーコールが巻き起こる。そこで彼女がポーズをとって、
「えっ……?」
ドサリと持っていた荷物を落とす。横から二人の心配する声が聞こえてくるが僕の視線はテレビに釘付けだった。
だって……、だって彼女の今とっているポーズは……。
「どうして……、僕のポーズを使ってるの?テイオー。」
他にも日常編を思いついたけどテイオーのところまで早くいきたかったから結構カットした。
需要があれば番外編的な感じで書くかも。
ゴールドシップとの追いかけっこはレース区分でいいのだろうか。