アプリ産です。通っていいですか?   作:フドル

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誤字報告ありがとうございます。

今回はネタが少なめ、小説は晴れ/曇り
あと独自設定がすっごい働いてる。
沖野Tってこんな話し方だっけ(震え声


君が僕を呼ぶのなら、押し通るよ。

 僕はソファーに座って考えていた。あの後、二人にはなんでもないと言って家に帰ってきたが明らかに何かあると気付かれているだろう。

 

「テイオー……。」

 

 レースが終わり、勝利者インタビューで語ったテイオーの言葉を思い出す。

 

『ボクが次に出るのはURAファイナルズ。今回は条件さえ満たしていればどのウマ娘でも大丈夫な大規模レースになるように頑張ってお願いしたんだ。』

 

『だからお願い。来て。ボクとレースをしよう。ボクは君と勝負がしたい。』

 

『ボクはこのレースで君を超える。そして今度こそ……。いや、これは今言うことじゃないね。』

 

 僕が知っている明るいテイオーとは違って、ただ静かに。そして何かを待ち望んでいるテイオーの姿がそこにはあった。

 待っている。テイオーは最後にそう締めくくった。きっと僕に向けてそう言った言葉。あの後に軽く調べてみてわかった、世間は帝王のポーズと言っているポーズ。あれは僕の製作者が僕にくれたものだ。

 偶然被っただけじゃないかと思ったが、細部までズレなくポーズをとられたら、それは偶然とは言えないだろう。

 

「僕は……どうすれば。」

 

「ラモ。大丈夫か?」

 

「あ、お兄さん。僕は大丈夫だよ。」

 

 悩んでいると隣に上島さんが座る。その目は明らかにこちらを気遣っており、心配されていることがわかる。

 

「話したくなければ言わなくていい。だけどラモがよかったら、俺にその悩みを教えてくれないか?」

 

 上島さんの手が僕に伸びてきて僕の頭を撫でる。その手は僕が思っているより大きくて、ざわついていた心が落ち着いていく。

 

「それじゃあ、僕の悩みを聞いてくれる?」

 

「ああ、話してみろ。例えそれが嘘八百でもしっかり解決できるか考えてやるから。」

 

「……ありがとう。あのね、テイオーがとっていたポーズって昔に僕がレースで勝った時に使ってたポーズなんだ。」

 

「そうか。」

 

「だからテイオーが言っていた君って人は多分僕のことだと思う。別にこれは勘違いでもなんでもいい。」

 

「呼ばれてるなら僕は行きたい。だけど僕が行ってもいいのかな?」

 

「自惚れでもないけど僕がレースに出れば勝つ。短距離もマイルも中距離も長距離もその全てをその気になれば大差で。」

 

「そうだな。」

 

「それはレースに向けて頑張ってるウマ娘たちの努力を無駄なものだと言ってるような気がするんだ。それにテイオーに会うだけならレース外でも出来るし。」

 

「それがラモの悩みか?」

 

「うん。それが僕の悩み。」

 

「なら俺の考えを話させてもらうぞ。まずラモの考えは彼女たちにとても失礼だ。その考え自体が彼女たちを舐めていると言っていい。」

 

 下を見ていた顔を上げて上島さんを見る。そこには先ほどのこちらを心配していた目ではなく、トレーナーとしての目をした彼がいた。

 

「確かにラモは強い。きっと今からG Iレースに出ても勝てる確率の方が圧倒的に高いだろう。だが、そんなウマ娘がいるから仕方ないって諦めるウマ娘はいない。きっと誰もがレースで当たればラモに勝つために全力を尽くす筈だ。次にラモとレースをする娘たちも必死にラモに食らいつくだろう。スピードで負けるなら策略でって感じだな。そんな彼女たちが申し訳ない気がするから出ませんって言われるとどう思う?」

 

「すっごく怒ると思う。」

 

 そう答えると上島さんは優しい顔に戻ってまた僕の頭を撫でる。

 

「そうだ。だからラモは気にせずに走ればいい。きっとトウカイテイオーもそれを望んでいる。」

 

「……分かった、出るよ。有名なウマ娘も無名のウマ娘もその全てを抜き去って、僕はテイオーに会いに行く。」

 

 ソファーから立ち上がり上島さんの方へ向く。本気でレースに挑む時の雰囲気を出すと彼が息を呑んでこちらを見ている。

 少し距離をとって、周りに物がないのを確認すると両足をかかとにつくかどうか辺りまで近づけた後に両手を肩幅より少し広めで前に広げて手は腰あたりで指先は少し上に。そして顔は少しだけ口角を上げる。製作者が僕にくれた勝利ポーズだ。アプリだと確かこの後に両目からアニメのライスシャワーのような感じで黒い炎が出ているという厨二感満載のポーズである。

 両手を更に広げるとエルコンドルパサーのポーズに似ているとか、このポーズはすしざんまいか?とか思ったが今では愛着がある。

 

「はは、世間では帝王による支配のポーズって言われてるけどラモの方が似合っているな。」

 

「僕はそんなの考えたことないけどなぁ。でも、ありがとう。このポーズは愛着があるんだ。」

 

 雰囲気を霧散させ、上島さんの隣にまた座る。彼はこちらを見た後に懐から紙を取り出した。

 

「そんなラモにこれだ。……ってどうしたんだ?まだ何かあったのか?」

 

「いや、ごめん。今回のは本当に気にしないで。」

 

 またテストかと思って距離を取ってしまった。いそいそと距離を詰めて上島さんがこちらに差し出した紙をおっかなびっくりと受け取る。

 

「これって……!」

 

「必要だろ?思いっきり走ってこい。細かいことは俺に任せろ。」

 

 その紙はURAファイナルズの出走登録だった。保護者の名前欄は上島さんの名前が書かれていて、後は僕の名前を書くだけだった。

 

「〜〜〜!!!ありがとう!!お兄さん!!」

 

「ま、待て!ラモの力で飛びつかれたら!!グフゥ!?」

 

「お兄さん?しっかりしてお兄さん!?……返事がない、ただのお兄さんのようだ。」

 

「あ、コスモさん。これは違うんです決してわざとじゃなくてだからその縄はやめてほしウワー」

 

 コスモさんって怒ったらすっごい怖いんだね。いやほんとごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──!強い!──の一人旅だ!』

 

「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」

 

 芝のコースを死ぬ気で走る。なのにあの子との距離が全く縮まらなくて。ボクの前を走るあの子はとても速くて、手を伸ばしても全然届かなくて。

 

『──がゴール!一着です!!』

 

「待って、お願い、お願いだから待ってよ。」

 

 あの子が遥か先でスピードを緩めてボクの方へ振り向く。その顔はノイズが走っていてどんな表情をしているか分からない。

 

「──?───!───。」

 

「消えないで!っ!ボクの脚!もっと速く走ってよ!」

 

 徐々にあの子がノイズに飲まれていく。その光景があの時と一致していて。それが嫌で無理を承知で力を込める。

 

「これで!届い……っ!!」

 

 あと少しというところであの子が消える。飛び込むように走ったせいで体勢が崩れ芝の上を転がってしまうが痛みは感じない。

 

「うっ、うう……。うわぁぁぁぁああああ!!!」

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁああああ!!!……はぁ、はぁ、夢……か。」

 

 寮の一室。そこでボクは飛び起きた。身体は汗だくで不快感がある。チラリと隣を見てルームメイトのマヤノが起きていないことにホッと息を吐く。彼女も最初は起きていたが慣れたのか最近は起き上がらなくなった。

 

「また……、ダメだった。あの子の影さえ踏めなかった。」

 

 ボクはこの世界と似たような世界にいた記憶を持っている。だけどその世界のボクは自分の意思で全く動けなかった。動けたとしても同じ所で同じ動きを繰り返すか、トレーナーに操られてる時だけ。だけどあの子だけは違ったんだ。

 トレーナーに操られてる時は流石にダメだったけど、あの子はボクたちとは違って自由に動いていた。そして動けないボクによく話しかけてくれた。そんなあの子の言葉や動きにボクは救われていたんだ。

 ボクはあの子の名前を知らない。誰かがあの子の名前を呼ぶ時はノイズが入って聞き取れないから。だけどボクは別にそれでも良かったんだ、あの子の声を聞けるなら名前なんてどうでもいいって思ってたんだ。

 それもあの日までだった。

 

『えっ?何で……?嫌、嫌だよ!助けて……、助けてテイオー!!』

 

 身体が徐々にノイズに飲まれていくなか、涙を浮かべたあの子が必死に伸ばしたその手を……。ボクは掴み取れなかったんだ。

 

 

 あの子が消えた日からボクはあの子を待った。この世界は突然今まで見たことがないウマ娘が出てくることがあったからだ。もしかしたらあの子もそんな風に出てくるかもと思って待ったんだ。だけどあの子は来なかった。

 だから今度はあの子がなんで消えたのかを考えた。考えて考えて考えて考えて考えて考えて、一つの結論が出たんだ。

 

(そっか、きっとボクたちが弱かったからだ。)

 

 この世界はトレーナーという見えない何かが支配している。その存在はボクたちを育てることやレースのハラハラ感などを楽しんでいるようだった。

 ならあの子はどうなんだろう?育成はしなくていい。レースは勝って当たり前。なんならボクの前にライバルとして出て来た時もあった。その時がボクが一着を取らないといけない目標だったら詰み。

 トレーナーもなんとかハラハラ感を味わいたくてあの子の作戦を変えたり、性能を弄っていたりしたけど結局はあの子が勝つ。

 結果、酷くつまらないものになる。そしてそれを消す力がトレーナーにはあった。だから消した。

 だけどもしここでボクがあの子に勝っていたらどうなる?トレーナーはハラハラ感を満足に味わえてあの子を残していたのではないか?

 それがボクが前の世界が崩壊する最後に出した結論だ。もう全て手遅れだけどね。

 けどそれは違った。ボクはまた世界に産まれた。思い出せたのはボクがトレセン学園に入る一年前だったけどね。

 それも記憶を思い出せただけで身体能力はこの世界のままだった。前の世界の身体能力なら他の全てをぶっちぎって勝てる筈なのに。

 思い出して暫くしたらボクの身体の中には魂とは別のものがあるのに気付いた。それは何本もの鎖でギチギチに縛り上げられていて簡単には解くことが出来ない。

 だけどその鎖を解くことが出来たらボクの身体能力は目に見えて分かるほど向上した。きっとこの鎖を解けばボクはあの世界の力を手に入れられるんだ。結論が出るのは早かった。

 トレーニングを積んで鎖を解こうとする日々、それと同時にフォームの改変にも着手する。今まで何千ものレースを走ったんだ。この走り方が危険っていうのはすぐに分かったよ。

 そうしているとあっという間に時間が過ぎてボクはトレセン学園に入学した。当時のボクはとってもワクワクしてたんだ。またあの子に会えるって、きっとあの子もこの学園にいるはずだって。入学してから学園中を探して、やっと会えたと思った。

 

『ドーン!ねぇねぇ、久しぶり!ボクのこと覚えてる?覚えてるでしょ?』

 

『ひゃぁ!?何?えっと、あなたは誰?新入生……だよね?』

 

『えー、もしかして忘れちゃった?あんなに一緒にいたのに?ボクは寂しいぞ〜』

 

『ごめんなさい。ライスはあなたのことを知らないの。名前を教えてもらってもいいかな?』

 

『……冗談だよね?冗談だって言ってよ、お願いだから。でもよく見たら瞳の色とか違うし。もしかして人違い?だけどあの子に似た子なんて君以外には……。』

 

『多分、人違いだと思う。ごめんなさい。ライスとあなたの知り合いが似てて。』

 

『……嘘だ。だったらあの子は……うぅ、あの子は何処にいるの?』

 

『え!?泣かないで!?ど、どうしよう!?えっと、ほら、よしよし。』

 

 けど違った。しっかりと探し回ってから突撃したのであの子は学園にいないことが確定してしまった。

 それを理解してしまった時の気持ちは言葉に出来ない。気づいた時にはあの子に似た娘に抱きついて泣いていた。

 

『落ち着いた?』

 

『うん、急に泣いてごめんね?』

 

『ライスでよければ話を聞くよ?解決できるかは分からないけど…‥』

 

 あの子に似ているからなのか、ボクは彼女に今まで誰にも話していなかった内心を話した。

 

『えっと、テイオーさんは『テイオーでいい。』……テイオーはその子に会いたいんだよね?』

 

『うん、だけど学園にはいなかったんだ。連絡先も何も知らないからもうどうやって会えばいいか分からない。』

 

『だったら……こっちから呼んでみたらどうかな?ボクはここにいるよって、……連絡手段が無かったんだっけ。うぅ……やっぱりライスは……。』

 

『呼ぶ……そっか、その手があった!ありがとう!頑張ってみる!』

 

『え?が、頑張ってね。』

 

 そうだ!呼びかければいいんだ!この学園にいなくてもこの世界にいる可能性はまだある!そして呼びかけに最適な方法も知っている。

 勝利者インタビュー。G Iレースになれば多くの人が見るはずだ。なら何処かであの子がそれを見る可能性がある。ボクがあの子に関連する動きをしてから呼びかければ、あの子は自分を呼んでいるって気づいてくれるかもしれない。

 

『よーし、テイオー様が君を待ってるって知らしめてやるんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それから結構経ったけど、あの子はいつ気づいてくれるかな?」

 

 目標を定めてからボクは何度もレースを走った。一着を取って、インタビューで呼びかけて、当時はテイオーのライバル!?ってマスコミたちは盛り上がっていたけど今になっては下火になっている。

 

「寝れない。」

 

 レースで一着を取った日は決まってあの子の夢を見る。どんなに頑張っても追いつけない。そんな悪夢。

 一時期は夢だからと危険行為に走ったこともあった。無駄だったけどね。

 

「仕方ない、トレーニングしてこよう。」

 

 そっと布団から抜け出し、服を着替える。それから周りにバレないように静かに寮を抜け出した。

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、」

 

 坂路を走る。ボクを縛る鎖はこの学園に入ってからも少しずつ解けていき、残りは一本だけになっている。だけどその一本がどうしても解けない。

 まるで今までがおまけと言わんばかりの強固さでボクの何かを縛り続けている。

 

「もう一回、今度は全力で……」

 

「ダメだ、テイオー。これ以上はオーバーワークだ。」

 

「!?トレーナー!?どうしてここに?」

 

「マヤノトップガンから連絡が来たんだ。またテイオーちゃんが無茶しようとしてるってな。」

 

 突然聞こえてきた聞き覚えのある声に驚きながら振り向くと、そこには左側頭部を刈り上げた特徴的な髪型をして、飴を咥えているボクのトレーナーがいた。

 

「でも……強くならないと、あの子に追いつけないよ……」

 

「またあの夢を見たんだな?どうだった?」

 

「ダメだった。ほんの少し距離を詰めれただけでいつもと同じだよ。」

 

「詰めれただけでも上出来だ。何度も繰り返せばいつかは追いつける。」

 

 後ろから許可なく脚を触ろうとしたり、しつこくチームに勧誘してきたりすることもあったが、この人はボクの悪夢を笑わずに聞いてくれるし、真剣に対策を考えてくれる。あの子を消したトレーナーとこの世界のトレーナーは違うと考えを改めさせてくれた人だ。

 だからボクはこの人のチームに入る気になったし、この人の考えには出来る限り従う。

 

「取り敢えずもう寮に帰れ、まだ子どもは寝る時間だ。それに今日はレース明けだから休息にするって言っただろ。」

 

「うぅ、後でゴルシにトレーナーから意地悪されたってチクってやる。」

 

「おう、チクれチクれ。それが出来たらだけどな。」

 

「それってどういうこと?」

 

「ゴルシは数日前の不祥事の罰で雑用だ。エアグルーヴの監視付きでな。何故か俺もこってり怒られたんだぞ……」

 

 レース場から帰ってきたら怒られる俺の気持ちを考えてくれとトレーナーが落ち込んでいる。

 

「ボクはレース場に移動してたから知らないけど何かあったの?」

 

「俺も詳しいことは知らない。知ってることはゴルシの屋台と歩トレーナーが乗ったダンボールが練習コートを爆走したってことだ。あ、その顔は冗談だと思ってるな?俺もそう思ってたよ……」

 

 顔から疲れを滲ませたトレーナーがこちらにスマホを差し出す。見てみると一つの動画が再生されていた。

 そこには爆走するゴルシと何かの生物を模したダンボールが走っていた。

 

「????」

 

「俺も最初はそんな顔になったなぁ。何度見てもなんでこうなったか分からないからな。」

 

 なんでこのダンボールはこんなに速いのか。いや、その前にゴルシも屋台があるのに速すぎない?あ、転けた。

 ダンボールがコーナーを曲がれずに転倒する。バラバラに飛び散って中のウマ娘が飛び出してくる。

 暫く中のウマ娘とトレーナーが話していたが、小柄なウマ娘がもう一人を背負って走り出す。その姿を見ていると何かモヤモヤする。

 そのモヤモヤを解消したくて画面を見つめるがそのウマ娘が練習コートを出るところで動画が終了してスマホもトレーナーに回収される。

 

「トレーナー、もう一回見せてよ、お願い。」

 

「ダメだ、次は時間がある時にな。ほら、帰った帰った。」

 

「ちえー、ちゃんと後で見せてよ?約束だからね!」

 

 トレーナーと別れ、寮へと向かう。あのモヤモヤはなんだったんだろう?普段は感じたことのない不思議な感覚を疑問に思いながら寮に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴール!ライスモドキが一着だぁ!』

 

 URAファイナルズが始まり、僕は順調に勝利を重ねていた。今回は条件を満たしていれば誰でも参加できるため、レース数が滅茶苦茶多い。特に僕は一般枠参加なので他の娘たちよりレース数が更に多い。

 てっきり僕は参加者全員をトーナメント方式で配置して行うと思っていたのだが、実際は地方や中央のトレセン学園の予選出走バたちの中に一般枠から勝ち上がってきたウマ娘を追加するって感じだった。

 その一般枠の参加者が多いのなんの。条件が緩いのもその原因の一助になっているのだろうけど。まぁ、全員倒すけどね。

 

「おつかれ、ラモ。どうだった?」

 

「ありがとう、お兄さん。問題なかったかな?」

 

 注目されるのは得策ではないとのことで僕はレースではアタマ差で勝つようにしている。ハナ差や僅差でもよかったのだが、上島さんにもしもがあったら怖いと言われたのでやめた。

 後ろのウマ娘が急加速しようがコンマで反応出来るので問題はないって言うとそういう問題ではないと言われた。

 今回は素顔でレースに出ているため別の意味で注目されているのだけどそこは問題ではないのかな?

 

「おい、お前!」

 

 念の為に脚の柔軟を行ってから帰ろうとしたら後ろから声をかけられる。振り返るとそこには一人のウマ娘がいた。

 

「えっと、君は確か二着の子だったよね?僕に何か用かな?」

 

「そうだ!私はお前に言いたいことがある!」

 

 怒っているような雰囲気を出しながらこちらへ歩いてくる彼女。僕を庇おうと前に出る上島さんを腕で押さえる。

 

「それで?何が言いたいの?」

 

「勝てよ!!」

 

「……へ?」

 

 てっきり文句でも言われると思っていたのだが想定外の言葉に思わず呆ける。その間にも彼女の言葉は止まらない。

 

「この私に勝ったんだ!だから負けるなんて許さないからな!優勝しろ!そして私にあのウマ娘相手に私はアタマ差の二着だったんだって自慢させろ!」

 

「え、う、うん。」

 

「約束だからな!」

 

 言いたいことは言ったのか、彼女はこちらの横を通り抜けていった。辺りが再び静かになるが胸の辺りがやけにソワソワする。

 

「託されたな。」

 

「うん……」

 

 

 それから僕はレースに勝ち続けた。その度にいろんな子から笑いながら、悔しがりながら、怒りながら、妬みながら、泣かれながら、想いを託された。

 途中で負けた娘の想いも上乗せして僕に託してくる子もいた。一般枠からの出走が僕に決まった時には沢山の想いが僕に集まっていた。

 とても重いはずなのに、どこか気分が良くなる。初めて経験する感覚だった。

 

「上島さん。」

 

「どうした?ラモ。」

 

「最初はテイオーに会いに行くためだけだったんだけど、もう一つ理由が増えたね。」

 

「そうだな。彼女たちの想いを託されたからな。」

 

「うん、僕はレースに勝ちに行くよ。彼女たちの想いに応えるためにね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、何だろう?この感覚?」

 

 ボクはあの動画を見ながら悩んでいた。動画に映っている娘の走りをみると既視感というか、何処か懐かしい感覚がくる。一回だけあの子なのかな?と思ったけどあの子があんな被り物をして走る姿を想像出来なかったのでこの考えを廃棄した。

 

「テイオー、ここにいたか。」

 

「あ、トレーナー。どうしたの?」

 

 部室のドアが開き、トレーナーが入ってくる。手にはパソコンとボクの新衣装。

 

「決勝に出走するウマ娘が決まったからな。対策を考えるぞ。」

 

 トレーナーがパソコンを開き、レースの動画を再生する。その動画を見ながらお互いに意見を交わす。

 

「それでこいつが最後だ。一般枠からの参加だが、その実力は他の奴らと充分に張り合える。」

 

 最後の動画が再生される。順にウマ娘が紹介され、最後の一人が映し出される。

 

「え……?」

 

「ライスモドキ。こいつが最後の決勝進出者だ。」

 

 隣でトレーナーがこいつのここが凄いと話しているが聞き取れない。それぐらいボクは画面に映るあの子を見つめていた。

 ジャラジャラと最後の鎖が音を鳴らす。色々なものが込み上げてきて、涙が浮かびそうになるが必死に堪える。

 やがてレースが終わり、アタマ差でゴールしたあの子にカメラがズームする。カメラに気づいたあの子が近寄ってきてポーズをとる。

 

「あっ……。」

 

 歩いた後にジャンプして一回転。その後に笑顔でカメラに向かってピースをする。それはボクが勝利した時にとっていたポーズだった。

 

「以上が決勝で出走するウマ娘たちだな。どいつもこいつも強敵だらけだ。ってテイオー?」

 

「トレーナー、もう少しだけ動画を見せて。」

 

 トレーナーが動画を止めようとしたので腕を掴んで止める。その間にも動画が進み、勝利者インタビューに移行した。

 あの子がマスコミの質問に当たり障りなく答えていく。時には悪意のある質問が飛ぶ時もあったが笑顔で黙殺していた。ライスシャワーではないかという質問は聞き慣れているのか疲れた顔をしながら否定している。

 

『では、決勝に向けて最後に一言お願いします。』

 

『そうだなぁ、カメラさんこっち寄ってきてくれる?』

 

 カメラがあの子に近づいて顔がドアップになる。

 

『……来たよ、テイオー。』

 

 ガシャン、と鎖が外れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けばボクは謎の空間にいた。

 

「ここは……?」

 

『あ、ようやく来たんだね、待ちくたびれたよ〜』

 

 後ろから聞き慣れた声が聞こえ、振り返るとたくさんのボクがいた。

 

「え?どういうことなの?」

 

『ここは鎖で縛られてたものの中だよ。やっとボク()が条件を満たしたからボクたちが出てこれたって訳。』

 

『あの子を認識すること、これが条件だったんだよねぇ。』

 

「それはわかったけど、なんでこんなにボクがいるの?」

 

『ボクたちはあの世界のボク()の育成が終了した存在。あのトレーナーは殿堂入りウマ娘って呼んでいたっけ。』

 

 一番先頭のボクが語る。自分たちはあの世界の崩壊に巻き込まれた後、ボクの中に宿ったと。ボクがいつか力を欲した時に手を貸せるように。

 

『頑張って三女神様にお願いしたんだからね!ボク()があの子と出会ったら遅かれ早かれレースをしたがるだろうから、その時に手助けできるようにしてくれって!』

 

『三女神様も聞き入れてくれたんだけどあの子と出会わなければ不要ってことで今まで封印されてたって訳。』

 

「なら鎖が外れるたびに身体能力が上がったのは?」

 

『こんなにボクたちがいるから封じきれなかったみたい。だから外れるたびに少しずつボクらの力がボク()に移ってたってことだね。』

 

「そうなんだ……。」

 

『理解してもらったところで聞くけどボクたちの力は必要?』

 

「それに答える前に一つ聞いていい?」

 

『いいよ?なにかな?』

 

「あれって大丈夫なの?」

 

 謎の空間の一部を指差す。ボクたちもその指を辿って見つけたものに口を引き攣らせている。

 

『へへへ、あの子の成分が足りないぃ……』

 

『ここはあの子の抱き枕を作るべき』

 

『いや、そこは等身大人形でしょ?ボクは分かってないなぁ。』

 

『なんだとー!?』

 

『やるのかー!?このボクと!?』

 

 そこにもボクたちがいるんだけど、なんというかジメッとしている。そこにいるボクたち全員が徹夜明けみたいな目をしていてたまに薄気味悪い笑い声を出している。

 

『あれはね、ごめん。湿気った。』

 

「湿気った。」

 

『一部のボクたちがあの子に会いたいって騒いでたから「いつか会えるから妄想でもして待ってたら?」って言って放置してたらああなってた。』

 

「えぇー。」

 

『ゴッホン!あ、あれは置いといて!ボク()の答えを教えて。』

 

 誤魔化すような咳をした後、ボクが真剣な目でボクに問いかけてくる。答えなんて決まっている。

 

「必要だよ。きっと今のボクだと全力を出してもあの子に勝てない。もちろん諦めるつもりなんてないけど勝てる可能性があるならなんでも欲しい。」

 

『例え脚が折れたとしても?』

 

「うん、それでも欲しい。」

 

『……わかった。早速継承をって言いたいんだけど今やるとトレーナーに心配されると思うからボク()が寝る時にもう一度呼ぶね?』

 

『それじゃあ、また後で。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─イオー?テイオー?聞こえてるかテイオー?」

 

「……ごめん、ちょっとボーとしてた。」

 

 気付けばボクは部室に戻ってきていた。時計を見ると一分も経っていない。

 

「それじゃあ、誰をマークするかだな。」

 

「トレーナー、ボクはライスモドキをマークする。今回はそれ以外は気にしなくていい。」

 

「理由を教えてくれ、他の娘も強敵だらけだ。無視すると痛い目にあうぞ?」

 

「ライスモドキは全力じゃない。あの走り方もあの子が得意な走り方じゃない。」

 

「知っているんだな。……はぁ、わかった。今回はテイオーの意見を尊重するぞ。」

 

 ボクの目をじっと見た後、トレーナーはため息を吐いて他の娘たちのファイルを閉じてライスモドキのファイルを開く。

 

「ありがとう。それでライスモドキなんだけど、あの子は決勝では大逃げのような先行でくるよ。」

 

「分かるのか?テイオー。」

 

「うん、あの子がボクとレースをする時は殆どそれで来たから。」

 

「そうなれば止めるのは困難だな。分かった、なんとか作戦を立ててみる。取り敢えずテイオーは新衣装のサイズを確認しといてくれ。それを確認したらもういい時間だから門限になる前に帰れよ。」

 

 渡された勝負服を受け取る。赤を基調とした不死鳥をイメージした勝負服だ。あの世界の設定以外でボクは怪我をしたことがないけれど、挫折からの復活は何度も経験している。

 あの子がいないなら着る気はなかったが、出番はあったようだ。勝負服を着込み、軽く動いてみる。特にどこかが引っ掛かることはなく。職人の腕の良さに感嘆する。

 

「特に問題はなさそう。動きやすいし、やっぱり職人さんは凄いね。」

 

「おー、それはよかった。ちなみに門限まで後数分だが間に合うのか?」

 

「え?うわ、もうこんな時間!ボクは帰るけどトレーナーは?」

 

「俺は仕事だ。まだまだすることがあるからな。」

 

「そっか、頑張ってね?」

 

 ボクの応援にトレーナーは手をひらひらさせることで応える。その間にも画面から目を離していないことから、かなり集中しているようだ。

 邪魔をしたら悪いので、帰り支度を終えると静かに寮に帰った。

 

 

 

『さて、準備はいいかな?』

 

「うん、なにをするの?」

 

 寝支度を終え、布団の中に入るとボクは再びボクたちのいる空間に来ていた。そこではさっきと同じように沢山のボクたちがボクを待っていた。

 

『簡単に言えばボクたちの能力をボク()に全て渡す。それでもあの子に届くか分からないけど、同じ土俵には立てるはずだよ。本当はゆっくり渡していきたかったけど今回は時間がないから一気にいくよ?』

 

「それは凄いね。なら早速お願いするよ。」

 

『オッケー、みんな準備はいい?』

 

『はーい。』

 

 ボクたちが返事をした後に懐からあるものを取り出す。それは注射器だった。

 

「ひぃ!?待って待って!なんでみんなお注射持ってるのー!!」

 

『みんなで注入するなら何を使うって相談したら満場一致で注射器になった。』

 

「なんで!?ワケワカンナイヨー!!」

 

『次にボク()が目覚めた時は今までよりはるかに身体の能力値が向上しているはずだから頑張って慣らしてね?じゃないと最強を体現したあの子に勝つことなんて夢の夢だからね?』

 

「それは分かったけど!せめて飲み物とか、そうだ!はちみーとかに変えようよ!それならこの人数分でも頑張れるから!」

 

『あくまでイメージだから痛みとかないよ。あとあの子と接触できるボク()が妬ましいからちょっと嫌がらせも含んでる。と言うことでみんなよろしく!あ、あと確実にこの世界だと向上した能力値的にドーピングを疑われるから対策も考えといてね。』

 

『『『それじゃあ、行っくぞー!!!』』』

 

「わ、わ、ワケワカンナイヨー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「テイオーちゃん!?テイオーちゃん起きて!!」

 

「ふぁ!?あ、マヤノおはよう。」

 

「おはよう、テイオーちゃん。女の子がしちゃいけない顔で寝てたけど大丈夫?」

 

「うん、ちょっと凄い夢を見ただけだから大丈夫だよ。」

 

「そっか、マヤはトレーニングがあるからもう行くね?」

 

 マヤノがドアを開けて出て行く。ボクも着替えようと立ち上がって一歩踏み出して、前までとの違いに驚愕した。

 

「一歩歩いただけでこんなにも違うんだ。レースまでには慣れないと……」

 

 それでもあの子に追いつけるかもしれないと思うとワクワクが止まらない。

 

「待っててね、今度こそ君の手を掴んでみせるから。」




テイオーとの再会は模擬レースでもいいかなって思ったんだけどそれだとテイオー覚醒が書けないし他のレースだとデビューもしてないオリ主が参加出来ないってことで一番違和感がなさそうなURAファイナルズを入れました。許して、許して。
 街でオリ主と出会ってテイオー覚醒、その後に模擬レースでも良いって?その手があったか!(書き終わった後に気付いた。
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