アプリ産です。通っていいですか?   作:フドル

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誤字脱字いつもありがとうございます。

感想欄でたまに未来予知レベルで次の展開を予想する人がいるんですがもしかしてタイムスリップしてません?


まずはレースに集中しよう。だから……通せ。

「……タイムが大幅に縮んでるな。」

 

「でしょー?このテイオー様が本気を出せばタイム短縮なんて余裕だよ!」

 

 あれからボクは身体を慣らすことに時間を費やした。初めのうちは自身の加速に反応出来ずに無様を晒したが今ではこんなものだ。

 

「このタイムなら優勝は間違いなしだな。後はどれだけ不確定要素を減らせるか……だ。」

 

「……トレーナーはボクがドーピングをやってるとか疑わないんだね。」

 

「テイオーがそんなことするわけないだろ。お前の人となりは充分にわかっている。」

 

 不安に思いトレーナーに聞いてみたが軽いチョップと共に返答がくる。その目を見ると疑っているような感じは一切感じなくて気分が良くなる。

 

「ありがとう!トレーナー!だけどあの子に勝てるとは確信して言えないかな……。」

 

 あの子はあの世界でも本気で走っていないはずだ。この身体に慣れた今でもあの子を追い抜くイメージが湧かない。

 

「ライスモドキに対する作戦は話したし、出来ることはした。後は野となれ山となれだ。明日は決勝だ、今日はもう切り上げて身体を休ませろ。」

 

「はーい、トレーナーも明日はボクのレースを見るんだから早めに休むんだよ?」

 

 トレーナーと別れ、駆け出す。明日はあの子とレースだ。あの子と話したいことは山ほど出来た。最初にあったらなんて言おうかな?

 

「あら?テイオー、もうトレーニングは終わりましたの?」

 

「あ!マックイーン!うん、終わったけどまだ時間があるからこれから何しようか考えてたところなんだ〜。」

 

 あの子と何を話そうか考えていると横からマックイーンが話しかけてきたので足を止めてそちらへ向かう。

 

「マックイーンは何をしてたの?」

 

「少し用事がありまして、もう終わったのでトレーナーに報告をしようとしているところですわ。」

 

「じゃあ、その後って暇になるってことだよね?」

 

「えぇ、そういうことになりますわね。」

 

「だったら遊びに行こうよ!確か近くのカフェで新作のスイーツが出てたはずだから、そこに行かない?今日はボクが奢るからさ!」

 

「今は減量中……と言いたいところですが、チームメイトの誘いを断るなんてメジロの名が廃りますわね。仕方ないので一緒に行きましょう。」

 

 仕方ないなぁみたいな顔をしているが尻尾はぶんぶんと振られており、嬉しさを隠しきれていない。

 

「ボクは校門前で待ってるからマックイーンも準備が出来たら来てね?待ってるから!」

 

「校門前ですわね?分かりましたわ。」

 

 集合場所は決めたので別れる。数歩歩いたところでそういえば一つ頼みたいことがあることを思いついたので急いでマックイーンのもとに戻る。

 

「テイオー?まだ何かあるんですの?」

 

「ごめん、マックイーン。ちょっと頼みたいことがあって……。あのね──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラモ、まだ起きているか?」

 

「あ、お兄さん。うん、起きてるよ。寝れそうにないや。」

 

 部屋がノックされ、上島さんが入ってくる。僕の部屋はダンボールやドラム缶でゴチャゴチャになっているのに慣れたものなのかひょいひょいとこちらにやってくる。

 一度片付けられそうになったので駄々っ子みたいに泣きついたらこのままになった。やってみるもんだね。

 

「それでお兄さんはどうしたの?」

 

「ラモの決勝に間に合うか分からないから言ってなかったが、さっき速達で届いたところでな。着てみてくれ。」

 

 上島さんから渡されたものを受け取って広げてみる。そこにあったのは黒を基調とした服だった。

 

「お兄さん、これって……」

 

「あぁ、ラモの勝負服だ。サイズなどはコスモに測ってもらっていたが一応確認しておいてくれ。」

 

 勝負服を見つめる。僕は貸し出される服かさっき作ったダンボールでも被っていこうかと考えていて、僕の勝負服があるなんて全く思っていなかった。

 言われるがままに服を着る。所々に鎧のようなものがあるが、空気穴が空いているので暑苦しいことにはならなそうだ。それと腰辺りには二つの大型のナイフがついている。

 

「この勝負服のコンセプトは暗殺者。だけどラモの場合は隠れてコソコソするより真正面から宣言して殺しに行きそうだから鎧もついているって感じだ。」

 

「それはわかったけど、腋とか腰辺りってなんで肌が出てるの?中に何か着ることは出来ない?」

 

 これって上島さんの趣味なのか?思わずジト目をしてしまうが上島さんは気付いていないようだ。

 

「そこはラモに任せる。この勝負服が俺とコスモからラモへの精一杯の応援だ。明日、頑張れよ?」

 

「要するにプレゼントってことでしょ?そう言われると隠すに隠せないじゃん。……明日は全力で走るから安心して見ててね?でも怖がられるのは嫌だな。」

 

「俺たちがラモを怖がるわけないだろ?だから安心して走ってこい。それと、レースが終わったら俺たちからラモに話したいことがある。」

 

「それって今じゃダメなの?」

 

「……ラモの勝負服は王と暗殺者は密接な関係があるってことからだな」

 

「話を逸らすの下手すぎでしょ!?仕方ないなぁ。気になるけどちゃんとレースが終わったら教えてよね?約束だよ?」

 

 上島さんに小指を差し出す。彼はそれを見つめてしばらくすると理解したのか自身の小指を僕のと絡める。

 

「ゆーびきーりげんまんゆびきったらハリセンボンのーます、ゆびきった!……これでいいんだよね?」

 

「あぁ、あってるぞ。しっかり約束したところでいい時間だからもう寝ろ。」

 

 上島さんの言葉で時計を見ると確かにもうそろそろ寝ないと明日に差し支えがあるかもしれない時間だ。

 

「はーい、それじゃあお休みなさい。お兄さん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、上島さんの運転で決勝戦が行われるレース場に向かうと、まだ少し早い時間なのに沢山の人が詰めかけていた。

 

「準決勝の時も思ったけど、凄い人だね?」

 

「それほどこのレースは人々を熱中させているってことだ。」

 

 関係者用の駐車場に車を止めて、受付に向かう。その道中で観客が僕を見て気付き、ヒソヒソと話す人もいれば自分の応援するウマ娘にしか興味がないのかスルーする人もいる。

 観客にもいろいろいるんだなぁと考えながら歩いていると一人の男性が僕たちの前に立ち塞がった。

 

「よぉ、上島。調子はどうだ?」

 

「透さん、お久しぶりです。その節はどうも。」

 

 見た感じ厳ついオッサンだが上島さんと仲が良さそうに感じる。ボケーと見ていると上島さんが僕の方に向いて話しかけてきた。

 

「ラモ、この人は川西 透という人だ。そしてラモのことをいろいろしてくれた人でもある。」

 

「川西 透だ。お前さんのことはハリボテモドキの時から知っている。中身はこんな可愛らしい子とは思わなかったがな。」

 

 僕の頭を撫でようとしたので軽く威圧する。上島さんやコスモさんなら許すが、恩人らしいこの人でも僕からすれば初見の人だ。そうやすやすと頭を撫でられたくはない。

 そんな僕たちのやりとりを見た上島さんが苦笑いをして川西さんとの経緯を話し始めた。

 川西さんとの出会いは上島さんが僕を見つけた時に話しかけてきた頃かららしい。当時の彼は代々続いていた会社が傾きかけていて燻っていた頃で、本人もやけくそで地下レースを見ていたらしく、その時に僕の走りを見ていろいろと思うところがあったらしい。

 それで僕が地下レースから消えたのを機に気持ちを一新。会社の立て直しに尽力し、見事にそれを成したみたい。そこから恩返しをするために僕を探していたところで上島さんと遭遇。上島さんからいろいろ聞いた彼は、それを解決することを恩返しとして、今までやってきたらしい。

 

「君の走りで俺は変わることが出来た。ありがとうな。」

 

「僕の方こそありがとうございます。バックストーリーとか大変だったでしょ?」

 

「それは君が気にすることじゃないな。今日のレースを楽しみにしている。ハリボテではない君の本気、見せてくれよ?」

 

 言いたいことは言ったのか川西さんはレース場へと消えていった。上島さんと見つめ合い、お互いに苦笑いをしてから僕たちもレース場へと向かい受付を済ませる。

 係の案内で控室に移動する。控室に到着すると時間になるまで適当に時間を潰す。

 

「ラモ、そろそろ。」

 

「うん、わかった。」

 

 時間が来たので勝負服を手に取る。上島さんはそれを見ると部屋から出ようとする。

 

「お兄さん。何度も言うけど僕の走りをしっかり見ててね?」

 

「あぁ、きちんと見届けるさ。」

 

「……僕は最強。たったそれだけをコンセプトに生まれた存在。だけど強すぎるといつかは捨てられる。」

 

「僕は怖い。僕が本気で走るといつかまた捨てられるんじゃないかって思ってしまう。」

 

「ラモ……」

 

「だけど僕は走るよ。こんな僕を呼んでくれた子がいるし、こんな僕に怖がらずに想いを託してくれた子もいるから。」

 

「最強の走り、とくとご覧あれってね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間です。準備はいいですか?」

 

「大丈夫です。」

 

 一人になってからしばらくして、係の人が僕を呼びに来たので控室からパドックの裏に向かうとそこには出走するウマ娘たちが待機していた。

 知っているウマ娘、知らないウマ娘。みんながそれぞれの方法で精神統一をしていた。そして

 

(テイオー。)

 

 テイオーもそこにいた。彼女は僕を見て一瞬だけ明るい顔になったがすぐに精神統一に戻った。話し合いはレースの後でってことでいいのかな?

 

 

「ライスモドキさん、次お願いします。」

 

「分かりました。」

 

 呼ばれたのでパドックに向かう。陽の光に目を細めながらも前を見るとそこには沢山の人が僕を見ていた。

 確かここでみんなポーズをとってたよね?僕はどんなポーズをとろうかな?

 

「うん……よし。」

 

 パドックに詰める人たちが騒めく。彼らからしたらこれはテイオーのポーズなのだろう。だがこれは僕のだ。

 やることはやったのでパドックから引っ込む。後は全力で走るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パドックからあの子が引っ込む。その代わりにボクがパドックに出るが、観客たちはまだ騒めいている。仕方ないか、あの子のポーズは彼らからしたらボクのものだと思っているはずだから。

 暫く待つと今度は歓声が上がる。きっとボクの新衣装に気付いて盛り上がっているのだろう。

 少し歓声が落ち着くのを待ってから、いつものポーズではなくボクの本来の勝利ポーズをとる。これは宣戦布告、必ず勝利するというボクの決意。

 引っ込んだあの子が見ているとは思わないけど構わない。これはボク自身が気を引き締めるためにしたことだから。

 一部の人たちがまた騒めく。恐らくあの子の準決勝を見てた人たちだろう。このポーズはあの子が勝利した時にとっていたものだからね。

 騒めく観客を尻目にパドックから引っ込み、バ場へと向かう。そこへ向かうと段々と空気が重くなってくる。懐かしく感じるその空気に苦笑いをしながら深呼吸をして、また歩き出す。

 バ場に出ると決勝戦とはいえないぐらい静まり返っていた。その原因であるあの子に視線を向ける。

 そこには右目から黒い炎を揺らめかせているあの子がいた。この現象はボクたちウマ娘しか認識できないんだっけ?

 そんなことを考えているとあの子がこちらに気付いた。お互いに暫く見つめ合っていたがあの子が少し笑うと重い空気が霧散した。どうやらボクを試したらしい。

 あの子がゲートに入る。それに続いてボクもゲートに入る。実況が盛り上げようと元気に話しているが必要最低限だけ聞いて後の意識は全てレースに向ける。

 実況が続くうちに静まり返った観客が徐々に盛り上がってきた。この盛り上がりもボクとあの子が走ればまた静かになるのかな?

 

『各ウマ娘、ゲートインが完了しました。』

 

 走る体勢をとる。このレースが終われば良い意味でも悪い意味でも世間は盛り上がるだろう。だけど関係ない。そんな不安は投げ捨ててレースだけに集中する。

 これから挑むのは正真正銘の最強。どんなに小さなミスでもあの子が相手なら致命傷になりかねない。

 

『スタート!各ウマ娘、綺麗にスタートしました。』

 

 ゲートが開いたと同時に駆け出す。流石決勝というべきか、先程の空気に当てられて出遅れるなんて娘はいなかった。

 その中からあの子が突出し始める。ここで付いていかないと引き千切られるのであの子の後ろに貼り付くように走る。あの子が驚異的な加速を始めたので食らいつく。いける! 付いていけている。

 あっという間にバ群の気配が遠ざかる。彼女たちはもう追いつけない。ここからはボクとあの子の勝負だ!

 加速を続けるあの子の後ろにピッタリと付いて走る。ボクの走りにあの子は戸惑うような気配を出す。

 トレーナーの言ったことは当たっていたらしい。これならトレーナーの考えた作戦も少しは通用するかもしれない。

 

『いいか、テイオー。ライスモドキは恐らくレースの駆け引きを知らない。』

 

『それはどうして?』

 

『テイオーが言った言葉を信用してライスモドキが出走したレースを全て見直した。その結果、ライスモドキの走りは常に前を走るか後ろから追い抜くかだ。』

 

『うん、それで?』

 

『前を走る場合は二着との距離をアタマ差で固定している。後ろを走る時は最終コーナーに入ったと同時に加速する。』

 

『だがそれはライスモドキの身体能力に任せたゴリ押しだ。他のウマ娘が駆け引きを仕掛けても彼女はそれを身体能力だけで踏み潰す。』

 

『テイオーがライスモドキと同じスピードで走れるということは、彼女が今まで行っていた身体能力任せのゴリ押しが出来なくなる。つまり、一度もしたことがない駆け引きを行うしかないってことだ。』

 

『そうなりゃこっちに分がある。あっちこっちに引っ張って消耗させろ。それから機を見て一気に引き離せ。』

 

 トレーナーが考えた作戦は確かにあの子に効くかもしれない。だけど一つだけトレーナーにミスがある。

 

(あの子はどんなに消耗しても垂れることは絶対にない。)

 

 ボクたちから能力を渡されてから走って気付いたが走っても走っても疲れない。走ってる途中で息をすれば感じていた疲労感が回復する。

 ボクでさえこれなんだからあの子がそれ以下なんてあり得ない。だからボクが取る手はあの子をある程度引っ掻き回したら隙を見て追い抜く。

 後ろからあの子にプレッシャーをかけながら走る。少しするとあの子が隙を見せた。これなら!

 

【絶対は、ボクだ】

 

 本来なら発動するにはまだ少し距離があるがそこは思い込みでカバーする。ボクの中にいるボクたちの協力もあればある程度無茶な発動でも融通が利く。

 背中から不死鳥のような赤い翼を生やして加速する。あの子と並び、目から黒い炎を出すあの子の驚愕する表情を尻目に、ボクはあの子を追い抜いた。

 

 

 

 

 

 

 テイオーが僕を追い抜き駆けていく。背中に赤い翼を生やし、どこまでも羽ばたいていくように加速する。

 更に脚に力を入れて加速するがテイオーとの距離は徐々に離されていく。

 

(僕に挑戦するから何かあるって思ってたけどこんなになんて……)

 

 まずテイオーが僕と同じ速度で走れることに驚いた。それから後ろからずっとプレッシャーをかけられる不快感も初めて感じた。

 予選や準決勝でもプレッシャーをかけられたが、気にはならなかった。だって彼女たちがどれだけ本気で走っても僕を追い抜けるはずがないから。

 何もかもが初めてだった。だから僕と同じスピードで走るテイオーが仕掛けてきた揺さぶりに簡単に引っかかった。

 テイオーが僕よりも前を走る。僕のスピードは上がり続けているがそれよりもテイオーの加速の方が上だ。

 テイオーもまだまだ加速し続けていることから、彼女もスタミナがなくなるってことはないのかもしれない。

 だけど僕に焦りはなかった。それどころかこの初めての連続にワクワクすらする。

 

(これなら使ってもいいかもしれない。テイオーなら大丈夫……だよね?)

 

 この世界に来てから初めて手に入れた僕の、僕だけの固有スキル。一度だけ地下レースで使ってから使うのを控えていたが今のテイオーになら使ってもいいかもしれない。

 こうしているうちにテイオーがどんどん距離を広げている。観客もテイオーが一位で駆け抜けていることに盛り上がっている。

 

(それじゃあいくよ?テイオー。)

 

【delete? →YES/ NO】

 

 

 

 

 

 

 

 

(いける!これならあの子に勝てる!)

 

 あの子を追い抜いて更に加速する。あの子はまだまだ加速し続けているが、ボクも加速している。このままゴールまで走り続ければボクの勝ちだ!

 ボクが前に出たのを見て、観客たちが歓声を上げる。それに応えるために更に力を入れて前に出る。

 

(このままロングスパートに入って、あの子を引き離す!)

 

 そう思って体勢を整えようとした時、ボクの周り全てがノイズに覆われた。

 

(………えっ?)

 

 ボクの赤い翼が掻き消される。手足にもノイズが侵食して感覚が鈍くなり、地面を蹴って走っているのか分からなくなる。次第に片目の視界がぼやけてきて前が見づらくなる。

 

(何……これ?)

 

 戸惑うボクの後ろから勢いよくこちらに向かってくるものがいる。

 

(あっ……)

 

 それはあの子だった。あの子もボクと同じように黒い炎を出した片目だけが無事でそれ以外は全てノイズに覆われている。

 なのにあの子はそれを気にすることなく、ボクを無事な片目でチラッと見た後、追い抜いていった。

 

(待って……お願いだから待って……)

 

 その光景があの悪夢と重なる。あの子の背中が遠のいていき、思わず脚を緩めようと──

 

「いけぇぇえええ!!!テイオー!!」

 

「……っ!!」

 

 聞こえてきた声の方を見るとそこにはボクのトレーナーとチームスピカのみんながいた。それぞれが思い思いにボクに声援を送ってくれている。

 

(そうだ、これは夢じゃない!ボクにはあの子に追いつけるスピードも無尽蔵の体力も手に入れた!なら諦める理由はない!!)

 

 手足の感覚が鈍い?それがどうした!今まで何千回も使ってきただろ!例え感覚がなくなっても直感だけで走ってみせろ!

 片目が見づらい?それがどうした!このバ場はあの世界で何回も走ったんだ!例え見えなくなっても記憶を頼りに走ってみせろ!

 脚に直感頼りで力を入れる。それから記憶頼りに地面を蹴ればボクの身体は前に出た。ボヤけた視界と記憶の中のバ場を照らし合わせ、脳内に鮮明な地図を作る。

 

(ボクは諦めない!今度こそ君に勝つって決めたんだ!)

 

『そうそう、その意気だよボク。』

 

(……え!?ボクって話せたの?)

 

『あの子とレースする時だけだけどね。それよりボクたちの力、必要でしょ?』

 

(でもそれってボクに全部渡したんじゃないの?)

 

『ふふーん、確かに能力は渡せるものは全て渡したよ。だけどボクたちにもまだ出来ることはあるよ。』

 

(それじゃあ、お願い!ボクはあの子に勝ちたい!)

 

『承ったよ!それじゃあみんな、準備はいい?』

 

 次の瞬間、ボクはあの空間にいた。

 

『このノイズは確かに厄介。だけどボクたちが力を合わせれば!』

 

 いつの間にかボクを囲んでいた一部のボクたちが燃え始める。炎が消えたところには赤い羽根が浮かんでいた。

 羽根はボクの背中に宿り、一対の翼になる。その翼から炎が噴き上がり、ボクの脚に纏わりついていたノイズを焼き払った。

 

『次はボクたちだね。最初に燃えたボクたちより数が少ないけど、能力値は高いから大丈夫だよ。』

 

 また一部のボクたちが燃え始める。先程と同じように、だけど力強く感じる羽根となってボクの背中に宿り、大きな翼になる。その翼は片目以外の全てのノイズを焼き払った。

 

『最後はボクたち。……羽根の状態であの子に触れたりしないかな?』

 

 最後は湿気ってたボクたち。気分的には断りたいが我慢しよう。ボクたちは少し湿り気のある翼となったが、しっかりとボクの片目を覆う最後のノイズを焼き払った。

 

『これでボク()の障害はなくなったね。』

 

「ボクは力を貸してくれないの?」

 

『ボクはこれでも最終手段だからね。そうやすやすと力を貸せないんだ。』

 

 ごめんね?と謝るボクに首を振る。むしろここまで力を貸してくれたんだ。文句を言うのは筋違いだろう。

 

『じゃあ、行ってきて。そしてあの子に勝ってきて。』

 

「うん、行ってくるね?」

 

 三対となった翼に力を入れて羽ばたく、空を旋回してから唯一光が差す場所に目掛けてボクは突っ込んだ。

 

 

【絶対は、ボクたちだ!】

 

「……っ!ハァァァァアアア!!!」

 

 現実へと戻ってきてすぐに力を込めて加速する。その加速はボクたちから能力を渡された時より遥かに速いが、恐怖心を一切感じない。

 あの子との距離はぐんぐん縮まり、遂には並んだ。横目であの子を見ると丁度、目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

(本当に今日は初めてがいっぱいだ。)

 

 初めて本気の僕が追いつかれた。初めて本気の僕が抜かされた。一度は抜いて距離を離したのにまた追いつかれて並ばれた。

 背中に三対の翼を生やしたテイオーはそのまま僕を追い抜こうとする。だけど僕は負けられない。負けたくない。

 

(最初はテイオーが呼ぶからって言う理由で参加したけど今は理由が増えた。お兄さんやコスモさんに、僕に想いを託してくれたみんなのために、僕は勝つ!)

 

 勝って当たり前のレースが初めて勝てるか分からないレースに変わった。それは僕にとっては凄くワクワクして、心が燃えてくるものだった。

 

(そんなレースに全力で挑むのに、これ(ノイズ)はもう邪魔だ!)

 

【劫火】

 

 僕の身体中から黒い炎が噴き出す。それは僕の身体に纏わりついていたノイズを全て焼き払った。

 

 

(勝負だよ、テイオー!)

 

 僕を抜かしかけていたテイオーに再び並び、そのまま走る。レースは終盤に入り、同時にスパート体勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの子から黒い炎が噴き出す。その炎はあの子のノイズだけでなく、バ場のノイズ全てを焼き払った。

 あの子がまた加速する。こんなに加速を繰り返すレースなんてこれ以外存在しないだろうね。

 暫く並んでいたがあの子が前に出始める。ボクを睨むあの子の目はあの世界でも見たことないほど真剣で、勝利を求めていた。

 

(だけどそれはボクも同じ、ボクも君に勝ちたい!)

 

 既に全力だけどまだいけるはず。ボクの、ボクたちの力はこんなものじゃない。残る力を振り絞り、あの子のほぼ隣まで距離を縮める。

 そんな時、あの子がボクを見た。それで少しだけ口角が上がると、再び炎を噴出する。その炎は今度は消えずに絶えずあの子から噴出している。鎧の隙間や、あの子の目、口を開けばそこからも炎が出てきて、それから今まで見たことがない加速でボクを引き離しにきた。

 

(これがあの子の全力ってこと!?)

 

 必死に追いかけるがドンドン距離が開いていく。今のボクでもあの子に届かないっていうの!?流れるような景色の中、残り200mを示すハロン棒を通り過ぎたことを認識し、焦りが湧いてくる。

 

『これだと間に合わないね。一応聞くけどボクの(欲しい!)まだ言ってる途中なんだけどなぁ。』

 

(今はとにかく時間が惜しい、だからくれるなら早くちょうだい!)

 

 貰う側なのに偉そうとか思うかもしれないが同じボクだ、許して欲しい。

 

『……たとえ骨折しても?』

 

(前にも言ったけどあの子に勝つなら気にしないよ!)

 

『わかった。あのトレーナーはボクを最高傑作って言ってたけど、結局は最強に負けた敗北者。その無念をボク()に託すよ。勝ってよね?』

 

(言われなくても!!)

 

 ボクの声が途絶えたと同時に胸が蒼く光る。その光が翼まで到達すると蒼色の炎を纏う大翼になった。

 

【絶対の──

 

「勝負だァァァァァァ!!!!!」

 

       ──帝王】

 

 前方で黒い炎を噴き出しながら駆けるあの子に目掛けて思いっきり駆け出す。一歩踏み出すごとに景色が先程の比にならない速度で後ろに流れていく。

 あの子の背中がすぐ近くまで迫る。それと同時にゴールもすぐ近くだ。

 

「ボクは!!君に!!勝ちたいんだァァァァァァ!!!」

 

「……っ!!テイオー!!」

 

 ゴール直前であの子と並んで……気づいたらゴールに飛び込んでいた。

 

『………ご、ゴール!! レコードです!! なんということでしょう! 私たちは一体何を目撃したのでしょうか!?』

 

 実況の興奮と困惑が混ざったような声が聞こえてくる。着順を見てみるがどうやら写真判定をするようだ。

 その間に息を整える。ボクはあの子に勝てたのだろうか?あの子の方を見ると、静かに掲示板の方を見つめている。

 暫く待っていると他のウマ娘たちもゴールしてくる。みんながボクたちのことを有り得ないものを見るような顔で見てくる。これがあの子がずっと見てきた光景なのかな?

 だけどみんなすぐに顔を引き締め、次は勝つと言うような顔になった。

 

『写真判定が終了しました。一着は……トウカイテイオーです!二着はライスモドキ、三着は……』

 

「ボクが、勝った。勝てた……あの子に。」

 

 実況の声が遠くなる。これは夢かと疑い、掲示板を何度も見るが、一着のところにボクの番号が映っていて、確定の文字がついている。

 

「………!!!やったぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 思わず飛び跳ねる。ボクの動きに観客が一際大きい歓声を上げた。観客席の方を見るとトレーナーやチームのみんながこちらに向かってきている。

 もっと喜んでいたいがそれより先にやることを思い出した。一度深呼吸をしながら気持ちを落ち着かせ、あの子のもとに向かう。

 

「えっと、あの。……こっちの世界では初めましてだね!ボクの名前はトウカイテイオー。君の名前を教えて欲しいな!」

 

 あの子に右手を差し出す。それをあの子はキョトンと見つめた後にくすりと笑って。

 

「うん、この世界では初めまして。僕の名前はライスモドキ。一度は捨てられたけど親切な人に拾われた()だよ。僕のことはラモって呼んでね?よろしく!テイオー。」

 

 ボクの右手を掴んでくれた。

 

「〜〜〜!!!」

 

「わっ!どうしたのテイオー?今の僕、汗臭いと思うんだけど……」

 

 思わず抱きつく。ラモが戸惑っている声をあげているが無視する。ラモがいない間に話したいことや、連れて行きたいところがいっぱい出来たんだ。だから……。

 

「よろしくね?ラモ……。」

 

 ちなみにラモに抱きついた時にボクの中から凄い奇声が聞こえた。締まらないなぁ……ボク。




今回もオリジナル要素が溢れる溢れる。
これ長いけど人間視点だと うわ、テイオーとライスモドキが大逃げか→テイオーが抜いた!やったぜ。→テイオーが失速した。スタミナ切れか!?→テイオーが加速した。脚を溜めてたのか!?→ライスモドキも加速した!?どんな脚してんだ?→テイオーまた加速!?何じゃそりゃ!ってなってそう。

ウマ娘だと 大逃げかぁ垂れてくるしそこで抜くか→テイオーが仕掛けた!?早くない?→何あのノイズ?あの子のスキル?→テイオーが復活した!凄い加速!?→私たちも仕掛けないと間に合わない!?→何あの子、身体から炎が噴き出てるよ!しかも凄い加速!→テイオーまた加速!?どうなってるの!?→え?もうゴールしたの?私たちまだまだなんだけど?

これがレコードタイムが出る間に行われたことである。

以下、オリジナル固有スキルの説明。

【delete? →YES/ NO】
任意のタイミングで発動。自分がいたノイズ世界の力を借り、自分を含む自分の前方にいる全てのウマ娘のバフ効果(発動待機・済を含む)を打ち消し、その数だけデバフを付与する。

【絶対は、ボクたちだ!】
自分の中にいる自分たちの力を借り、あらゆる障害を打ち消して自分たちの想いの数だけ加速する。

【劫火】
燃え盛る自分の想いを表に噴き出して、周囲のデバフ効果を全て焼き尽くし、その数に比例してとてつもなく加速する。

【絶対の帝王】
最後の一人から想いを託されて、捨て身の覚悟で加速する。全てのデバフ効果を跳ね除け、自分のスピードを二倍にする。(レース終了後、確定で骨折かヒビのバッドコンディションを取得)

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