アプリ産です。通っていいですか?   作:フドル

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書きたいところまで書いたらちょっと長くなってしまった……

ライスシャワーのレジェンドレースが来てますね(勝てない)

サブタイトルが!思いつかない!!


ライバルですか?そのレバーって何に使うんですか?

「うぅ……。僕の食べ放題チケットが……。」

 

 レースが終わり、僕は帰路についていた。踏み抜いてしまったドラム缶はどうやっても直せないレベルだったので泣く泣く廃棄場に置いてきた。

 僕はリタイアしたチャリデキタさんを除くと最下位だったので貰えた景品はティッシュの箱が三つだけだった。レース前までは一着をとって今頃は食べ放題チケットを使いパクパクしている僕の姿を幻視していたこともあってこの現実との差に涙が溢れそうになる。

 

「こうなったら帰ってお義母さんのご飯をやけ食いしてやる。……む?この匂いは?」

 

 家に帰ってからの行動を考えていると漂ってきた香ばしい匂いに意識がつられ、顔をそちらに向ける。そこにあったのは一軒の飯屋なのだが僕の目は店の窓に貼り付けられている紙に固定されていた。

 

「爆盛りハンバーグ、60分チャレンジ。食べ切れたらタダで無理だったら五千円。ウマ娘の挑戦もオッケーっと。……ちょうどいい店があったものだね。」

 

 僕の脚が自然と店を目指して動くが僕の思考が待ったをかける。

 

「待つんだ僕。あと数時間でご飯の時間だし、ここで爆盛りを食べると満腹でご飯を食べれなくなってしまうかもしれない。それはダメだ。お義母さんが悲しむ。だけどハンバーグも食べたい。というか口がハンバーグの気分になってしまっている。」

 

 店の前をウロウロと歩きながらこの難問をどう解決するか賢さFの頭をフル回転させる。そして僕は一つの答えを導き出した。

 

「ハンバーグも食べて、ご飯も食べる。素晴らしい答えだね!ふふん、賢さFでもやれば出来るんだよ!」

 

 店のドアを開けて中に入る。待っててよ爆盛りハンバーグ!今僕が食べてあげるからね!

 

 

 

 

「あ、ありがとうございました。」

 

 とても美味しかった。そのせいでおかわりをしてしまったが些細なことだろう。おかわりを出来ないか聞いた時は店員が思わずといった感じで聞き返してきたがそんなに意外なことだったのかな?

 膨らんだお腹をさすりながら再び帰路につく。店を出る時に店長らしい人が疲れた様子であと一人ならなんとか頑張れると言っていた。頑張れ、店長。

 

「ん?ここにこんな店があったのか。少しお腹が空いているしちょうどいい。美味しかったら今度タマも連れて一緒に来よう。」

 

 僕が店を出てすぐに別のウマ娘が店に入っていった。聞き覚えのある声だったので振り向いたがその時には店に入りかけており、芦毛ということしか分からなかった。

 少し気になったが店に入って確認するほどではないのでそのまま帰ることにした。

 

 

 

 

「ただいま!お義母さん、今日のご飯は何?」

 

「おかえりなさい。ラモちゃん。今日は………あらあらあらあら」

 

 家に帰り、玄関で迎えてくれたお義母さんが言葉を途中で止めて微笑む。しかしその目は一切笑っていない。

 

「ラモちゃん?そのお腹はどうしたのかしら?ご飯前の買い食いはほどほどにしなさいって言ったわよね?」

 

 お義母さんがかなりパツパツになっている僕の服を捲り、僕の膨らんでいるお腹を掴む。お義母さんは微笑んでいるが僕は多分冷や汗ダラダラだと思う。

 

「えっと、これは、その……」

 

「その……?」

 

「その〜、そう!身籠った!!」

 

 辺りを静寂がつつむ。この言い訳なら大丈夫だろう。僕のあまりに完璧な返答に思わずドヤ顔をしてしまう。

 

「そう、身籠ったのね?それなら赤ちゃんのためにいっぱいご飯を食べなくちゃね。」

 

「うん!だから早くご飯が食べたいな!」

 

「ところでラモちゃん。」

 

「何かな?お義母さん?」

 

「次からは口周りを拭いておくことをおすすめするわ。」

 

「え!?ちゃんと拭いたはず!………あっ。」

 

 お義母さんからの指摘に思わず口周りを抑える。それが誘導だと気付いても時すでに遅し。お義母さんの笑顔は更に深まっており、その手には縄が握られている。

 僕の顔はきっと青褪めている。多分あと一回しか発言出来ないのでその一言で挽回できる言葉を出さなければならない。

 

「ハ……ハンバーグはとても美味しかったです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。……どうしたんだ?ラモ?」

 

「反省中なんです。気にしないで、お義父さん。」

 

 家に帰ると玄関に縄で縛られたラモが転がっていた。首からダンボールがぶら下がっており、そこには【僕はご飯前にお腹が膨らむほど買い食いをした悪い子です。】と書いてある。一応ラモの下に毛布がひかれているので冷える心配はないのだろう。

 そんなことよりラモの縛られ方が気になる。手足は経験があるから分かるが何故腹まわりも縛っているのだろうか?ラモのお腹が強調され、非常に扇情的……では無い。なんというかラモの膨らんだお腹が全てを台無しにしている。コスモも分かっているからこんな縛り方にしたのだろう。

 

「……ハムみたいだな。」

 

「あー!お義父さん!それは禁句だよ!僕も気にし始めているんだから!」

 

 ならもっと気にしてくれ。ラモは知らない相手や少し知り合った程度の相手だと触られることや肌を見られることを威圧してまで嫌がるのに親しくなると一気にガードが緩くなる。もし今この場にいるのが俺ではなく沖野トレーナーや川西さんだとこの会話もなく奥に逃げるか蹴り倒してでも自分のお腹を見た記憶を忘却させようと動くだろう。

 なのに親しい相手だとお腹を丸出しにして変な縛られ方をしているのに気にすることなく目の前でゴロゴロと転がっている。

 

「お義父さんが帰ってきたならもういいかな?ふん!」

 

 ラモが力を込める。縄がギチギチと音を立てて身体に食い込むが気にする様子はない。ラモの腕を見ると血管が浮き出ており、かなりの力を込めているのだろう。

 

「あ〜窮屈だった!お義母さん!ご飯〜!」

 

 縄を引き千切ったラモがリビングの方へ駆けていく。ふむ、これはパワートレーニングに使えるか?自分が担当するウマ娘が自身を縛る縄を引き千切る姿を想像して……いや、縛る過程で変態扱いされて蹴られそうだ。やめておこう。

 リビングに入ると既に食事の準備は出来ていたようだ。ラモが目を輝かせながら食事の配膳をしている。

 

「ラモ。俺も手伝おう。」

 

「ダメだよお義父さん。仕事で疲れてるんだから座って待ってて!」

 

 配膳を手伝おうとしたらラモに止められる。譲る気はなさそうなので諦めて椅子に座り、担当のトレーニング表を見直す。

 

「へ〜、トレーニングってこんな感じなんだ。」

 

 配膳が終わったラモが後ろから肩越しに覗き込んでくる。この行動もやめさせたほうがいいのだろうか?俺にはコスモがいるのでなんとも思わないが独身の男性ならラモの匂いとかなんやらでドキッとくるだろう。

 ラモぐらいの歳のウマ娘はそんなことはしない……担当のトレーニング中に意外と他のウマ娘がしてる場面に遭遇するほうが多いな。トレセン学園が特殊なのか?

 

「おかえりなさい歩さん。それじゃあご飯にしましょうか。」

 

 ラモの教育に悩んでいるといつの間にかコスモがきていた。既にラモはご飯に手をつけており、トレーニング表には興味が無くなったようだ。

 そういえばラモのお腹を見て思い出したがオグリキャップのトレーナーがお腹を膨らませたオグリキャップを前にして崩れ落ちていたな。うわ言のように2日後にはレースが……と呟いていたが大丈夫だろうか?

 まぁ彼は優秀なトレーナーだ。多分何とかするだろう。俺は俺の出来ることに集中するべきだ。

 

「ラモ。少しいいか?」

 

「何かな?お義父さん。このハムはあげないよ?」

 

「ハムは別にいらない。ラモが作っているハリボテ頭だったか?あれを一つくれないか?」

 

「ハリボテを?別にいいけど……何に使うの?」

 

「トレーニングだ。」

 

「トレーニング???」

 

 ラモが見て分かるぐらい困惑している。初めてハリボテを見てから今まで数回はハリボテ姿のラモを見ていたがハリボテ頭を被っていると原理は全く理解出来ないが必ず第一コーナーで転倒する。しかし怪我は一切しない。これは俺もこの身で確認したため確定だ。だがこれを上手く使えば転倒時に受け身を取る練習が出来る。

 転倒なんて滅多にないが備えておいて損はない。俺は自分の担当が怪我をする可能性を極力排除したい。

 

「それじゃあ後で渡すね?」

 

「あぁ、よろしく頼む。」

 

 そういえば今年の夏はコスモだけではなくラモも合宿に連れていかないとな。今のうちに必要な物を買っておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応作ったんだけどこのサイズでいいかな?」

 

「十分だ。ありがとう、ラモ。」

 

 お義父さんにハリボテを渡す。トレーニングに使うと言っていたけどどうやって使うんだろう?トレーナーって何でもかんでもトレーニングに繋げられるのかな?

 部屋に戻って道具を片付けようとしたら机に置いていたスマホからメールが届く。確認してみるとテイオーから明日遊び行こうと誘いのメールだったのですぐにオッケーと返信しておく。

 テイオーと遊ぶのは久しぶりなので楽しみだ。何を着ていこうか?服を何着か取り出して着てみるがそこで問題が発生した。

 服がどれもしっかりと着れない。僕のお腹がその存在をどっしりと主張してくる。

 

「マズイ。こんなのテイオーに見られたらなんて言われるか分からない。」

 

 ブワッと冷や汗が噴き出てくる。なるほど、これが太るのを恐れる女性の気持ちなのか……

 

「今から走る?それで痩せれるなら走るけど本当にすぐに痩せれるのかな?お義父さんに相談する?明日までに痩せる方法ってあるのかな?」

 

 今すぐ痩せる方法を必死に考える。ここまで考えるなんてさっき振りだ。僕はテイオーの前では頼れるお姉さんキャラでいきたいのだ。

 そんな僕の思いが届いたのか知らないが口が勝手に動いた。

 

『急激な体重増加、腹部の出っぱりを確認しました。太り気味とし──って待って待って。ここで急に痩せたら流石にダメだって。」

 

 機械音声のような声を気合いで止める。そういえば僕にはこの修復機能があった。お義父さんの家に来てから一回も使っていないのですっかり忘れていた。

 

「けどなんで今更?太り気味になった途端に本来なら起動するはずなのに……。」

 

 もしかして僕が太り気味を異常だと思わなかったから起動しなかった?今まで異常と判断しなくても勝手に起動したのに?

 

「うーん、分かんないや!明日に痩せれるならそれでいいや!」

 

 考えてみたが結局分かんないので考えるのをやめた。テイオーと遊ぶ時には痩せれるんだからそれで良し。

 明日、明朝に走りに行ってその時に起動させよう。お義父さん達には思いっきり走ったって言えば何とかなるだろう。よし、なら今日は早めに寝ようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしことアグネスデジタルの朝は早い。朝早くに起き、ルームメイトのタキオンさんに今日も生きてる感謝を注ぐ。そしてそのまま椅子に座り、最近描き始めた作業を進めようとして、手が止まる。

 

「ダメです。何度書いてもライスモドキさんと確信出来ない。」

 

 手を止めている原因。それはライスシャワーさんそっくりの少女です。テイオーさんがずっと探し続けていたライバル。本当はいないんじゃないかと言われ始めてもめげずにカメラ越しに呼びかけ続けるテイオーさん。その姿に少しでも助けになるならと全国のウマ娘ちゃんファンを動員した大捜索作戦を実行しようと計画していた時。ついにその呼びかけは実を結んだのです。

 レース場に現れたテイオーさんのライバル。ライスモドキさん。テイオーさんに呼ばれたという理由だけで数多の夢を持って挑んだウマ娘たちを乗り越えてきた強者。

 その実力は疑いようもなく、決勝戦では歴史に残るレベルのレースをしたらしいです。あたしはパドックの交換ポーズで意識が飛んだので見れなかったのですがね!トレーナーさんがいなければ今頃あたしは多分爆発してました。

 そんな彼女たちは再会することができ、誰もが認めるハッピーエンド。なら次はあたしの番である。

 この二人は何故別れたのか?幼少期に何かあったのか?考え出したら止まらない。きっと壮絶なストーリー展開があったに違いない。あたしの内から溢れ出る妄想を全て原稿に叩き込み、一冊の創作物が完成しました。

 トレーナーさん兼同志にもこの素晴らしさを分け与え、他の同志にも配った時に一人の同志が発言した言葉にあたしはつい凍りついてしまったのです。

 

「あ、今回はライスシャワーちゃんとトウカイテイオーちゃんなんですね。」

 

 この同志は何を言っているんですか?これはどう見てもライスモドキさんとテイオーさんでしょうが!その同志にじっくりとライスモドキさんのことを語ったあと、幾人かに聞いてみるとこの創作物の表紙はライスシャワーさんとテイオーさんに見えるらしいです。

 

 な ん と い う こ と で す か !この全てのウマ娘ちゃんファンを名乗るあたしが!ライスモドキさんとライスシャワーさんを一目見て分からない程度の絵を描いてしまうなんて!これはウマ娘ちゃんファンとして良いのでしょうか?否ッ!断じて否です!!

 この日からあたしの挑戦が始まりました。トレーナーさん兼同志から頂いた決勝戦の動画を気絶を繰り返しながら何とか見終えて、そこで映ったライスモドキさんを絵にする日々!しかしこれはあまりにも難しい道のりです。

 まずライスモドキさんとライスシャワーさんを区別するには目の色と髪型。後は強いて言うなら帽子でしょうか?それ以外は全て一緒です。

 この!あたしが!見て分かる違うところがそれしかないんです。こんな状態で彼女を描いたとしても知らない人から見たら髪型とかを少し変えたライスシャワーさんとしか思われないのです!

 

「何か……何かライスシャワーさんと決定的に違うところがあるはずです!それを突き詰めれば……。」

 

 動画に映る彼女は全て覚えました。なのに描けない。こうなれば直接ライスモドキさんを見るしかない!

 こうしてあたしは時間さえあればライスモドキさんを探しに行きました。しかしそれはあまりにも……あまりにも高い壁だったのです。

 まず最初になかなかライスモドキさんに出会えません。この町に住んでいることは間違いないのですが、町中を駆け回っても見つからないのです。ちなみに家の特定はNGです。それはウマ娘ちゃんファンを名乗るものとして禁忌に入ることです。

 次に仮に会えたとしてもその時は高確率で隣にテイオーさんがいます。つまり彼女たちが遊んでいるのを近くから見ることになります。結果、知覚する前に大ダメージを食らって倒れます。今まで何度も倒れているのですが未だに耐性がつかない破壊力を持っています。

 テイオーさんの好意全開のじゃれつきを微笑みながら受け入れるライスモドキさんを見てるだけでもう……!おっと失礼、口から尊みが溢れました。

 さて、そんなわけで今はライスモドキさんを探す前に近くのカフェで精神統一をしているのですが問題が発生しました。それは。

 

「お店閉まってたね。せっかくラモが勧めてくれたのに残念だなぁ。」

 

「仕方ありませんわ。店長と店員が軒並み倒れてしまってはお店はどうしようもありませんわ。」

 

「店長たち、昨日は元気だったのにどうしたんだろ?」

 

 当の本人たちがこのカフェに入ってきたことです!幸いあたしは遠くの席にいるので大丈夫でしたが近くだったら危なかったかもしれません。

 適当な席について軽い食事をしながら談笑している彼女たち。もうそれだけで一つの絵画のようで、いつまでも見つめていたいのですが今回はあたしにも目的があるので断腸の思いで意識を切り替えます。

 

「後ろ姿もやはりライスシャワーさんそっくりですね……。横も確認済み。前も動画で確認しているのでそっくり確定。どうしましょうか?」

 

 私の中のライスシャワーさんの姿と今見たことで全体像が完成したライスモドキさんを重ねると髪型や目の色を除くと驚異のシンクロ率100%。正直ライスモドキさんが目を瞑ってライスシャワーと騙れば誰にもバレないでしょう。いや、テイオーさんには気付かれますね。

 お手上げです。ここまで一緒だといくらあたしでもどうしようもないです。なので仕方ありませんが見た目でわけるのは諦めます。

 しかし!描くのを諦めるとは一言も言っていません!!姿がそっくりでも普段の生活で無意識に行う癖は違うはず!そこを重点的に描くことによって差別化は十分に出来るはずです!

 その癖を見つけようと考えるために下げていた頭を上げて──

 

「!!?コヒュッ!!」

 

 その先に見えた光景に無意識に声が漏れました。

 ライスモドキさんとマックイーンさんが談笑している中、ライスモドキさんの気を引くためにテイオーさんがわざと口周りを汚す食べ方をします。もちろんライスモドキさんはそれに気づいて拭いてあげるのですが途中で近づいた方が楽だと思ったのか椅子をテイオーさんのすぐ横にまで移動させます。

 そこまではいいんです!まだ決勝戦の動画で鍛えられた精神力で耐えれました。その後、隣に来てからまたマックイーンさんと会話を再開させたライスモドキさんの服をテイオーさんがこっそりと手で掴んでいるんです!

 ライスモドキさんも気にする様子は全くなく、むしろ自分の手で繋ぎ返しているんです!それどころか手を繋ぎやすいように椅子がぶつかるぐらいの距離までさりげなく近づいているんです!

 こ、これはマズイです。このままだとあたしの意識が保ちません。なんとか意識を保つ手段を見つけなければ……。

 そう思っても目は彼女たちから離れません。ライスモドキさんを見つめるテイオーさん。その視線にライスモドキさんが気付いてテイオーさんの方を向きます。そして何も言わないまま見つめ合った後、示し合わせたかのようにお互いに満面の笑みで笑いあ──。

 

「ハッ!!ここは何処ですか!?」

 

 気付けばあたしは知らない場所にいました。周りをみると何かの乗り物らしく、周りには乗客もいます。

 その乗客は全員がのっぺらぼうで服には『尊い』『無理』『しんどい』とそれぞれ書かれたTシャツを着ています。

 

「いや、おかしいです。明らかに一人いなければいけない人がいません!」

 

 この乗り物が何なのか気付き、そこにいないといけない人を探すため、乗り物の窓から身を乗り出して外を見渡します。少し探すとすぐに見つけました。

 

「語彙力ぅぅぅう!!!早く!早く乗り込むんです!!」

 

 こちらへ向かって必死に走る語彙力の服を着ているのっぺらぼう。しかし速度は遅く、あの距離だと間に合うか分からない。

 

『出発します。』

 

 短いアナウンスと同時に乗り物が動き出す。あとほんの少しというところまで来ていた語彙力が少しずつ離れていく。

 

「語彙力!走って!!頑張るんです!!」

 

 必死に走る語彙力。そののっぺらぼうの頭部からは汗が滴っており、全力で走っていることがわかる。暫くこちらを追いかけていた語彙力でしたが何かに足をとられたのか、一回転したのち転倒した。

 

「ご、語彙力ぅぅぅううう!!!」

 

 

 

 

 

「デジタル?しっかりしてデジタル!?」

 

「……ト、トレーナーさん」

 

「偶然見かけたから来たけど何かあったの?呼びかけても反応が返ってこなかったし、大丈夫なの?」

 

「……尊い。」

 

「……何を見たのデジタル。私にも教えなさい。」

 

「しんどい。無理。」

 

「デジタル!しっかり意識を保つのよ!そして私にも見た光景を教えて!あなたがみた素晴らしい景色を共感させて!」

 

「トレーナーさん、後は……任せました。」

 

「デジタル?デジタルぅぅぅぅううう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまたね?テイオー、マックイーン。」

 

「うん、またね。ラモ。」

 

「えぇ、またですわ。ラモさん。」

 

 二人は学園の寮で生活しているため別れ道で二人と別れて家に帰る。今日はテイオーが前に言っていた通り、マックイーンを紹介してくれた。病院の手配などのお礼を言った後、せっかくだから昨日見つけたハンバーグ店を紹介したが何故か閉まっていた。開いてないなら仕方ないのでマックイーンがおすすめするカフェで簡単な昼食をとり、その後にゲーセンなどで遊んだ。

 

「それにしても、テイオーたちと夏休み期間は遊べないのかぁ。」

 

 テイオーたちは夏休みの間はずっと合宿に行くみたい。遊べないのは寂しいがテイオーたちもレースに勝つためにはトレーニングをしなければならないので仕方ない。

 

「夏休み中は暇になるなぁ。どうしようかな?」

 

 新しいハリボテでも作る?それとも夏休みの間だけバイトでもしてみようかな?こうやって考えてみると意外とやりたいことは見つかるから暇にはならなさそうだ。

 

「ただいま〜。あれ?お義父さん。今日は帰ってくるの早いんだね。」

 

「あぁ、担当の子が用事で実家に帰っていてな。だから業務が終わったらすぐに帰宅だ。」

 

 家に帰るとリビングで筋トレをしているお義父さんがいた。ちなみに何故筋トレをしているか聞いたところ、屈強な肉体が必要になったと返ってきた。

 

「そうだ。ラモ、夏休みはみんなで出かけるぞ。」

 

「そうなんだ。何処に行くのかな?」

 

「海近くの旅館で夏休み中ずっとだ。」

 

「……ほえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか僕も合宿に参加するとは思ってなかった。担当の子を持ってるお義父さんは夏休み期間は合宿に出来るだけ行っているみたい。でもそれだと部外者のお義母さんがずっと一人で家にいることになるからお義父さんが学園長に直談判してついてきてもいいことになったみたい。

 もちろんトレーニングを手伝うことなどの条件も付けられたけどお義母さんも身体を動かすことは好きなのでそこまで苦にはなってないみたい。

 それで今年から僕も家族入りしたので合宿に連れていくことになったみたい。どんなことをするんだろうか?今から楽しみである。

 

「さて、そろそろ現実を見ないとね。」

 

 僕は今、とあるレース場近くに来ていた。ハリボテを持って。今回のレースの景品が合宿中に滞在予定の旅館のすぐ近くにある料理店の食べ放題チケットだったので参加しようと思ったんだけど特別ルールで今回は二人以上で参加しないといけないルールだった。

 確認した時はお義父さんとお義母さんを誘って参加しようとしてたんだけど今日になって急遽仕事とか用事が出来て参加出来なくなってしまった。

 残念だけど仕事優先である。だけど諦めきれずについレース場まで来てしまった。

 どうせならレースを見ていこうかな。多分今回も色物枠が出てくると思うし。

 レース場の観客席を目指して歩く。暫く歩いていると周囲が騒がしくなってくる。

 

「……?レース前の騒がしさと思ったんだけどなんか違うみたい?」

 

 耳を澄まして聞いてみると何やら近くでボヤ騒ぎがあったみたい。けどレースは問題なく開催されるみたいなので安心である。

 

「早くいい場所を取らないとね。うかうかしてると人が「ドーン!」ってテイオー?」

 

 僕の身体は小柄なので出来るだけ前を取ろうと考えていると後ろから衝撃が来る。振り返ってみるとテイオーが僕に抱きついてきており、その後ろに荷物を背負った沖野トレーナーがいた。

 

「テイオーどうしたの?っていうかなんでこんなところにいるの?」

 

「トレーナーとレース用品を買いに行ってたんだ!ここに来たのはラモを見かけたから!」

 

 満面の笑みで答えられる。ならテイオーもレースの観戦に誘ってみ……テイオー今レース用品を買ってきたって言ってたよね?ならすぐに参加することも出来るんじゃない?

 

「ねぇ、テイオー?良ければなんだけど……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『お次は今レース最大の特徴である色物枠の紹介です!今回はなんと!四チームが参加してくれました!』

 

『今更ですが二人以上というルールのためチーム呼びしていますが慣れませんね……。』

 

『そこは頑張って慣れるしかありません!では紹介していきましょう。番外一番!はちみー千円、スポドリ三百円の登場です!』

 

『いきなり凄いのが来ましたね。仮名だからって何でもありですね。』

 

 パドックに屋台をひいたウマ娘が入場する。二人がひいて一人が屋台の中にいるみたい。観客も前のレースで慣れたのか困惑している人はまばらで大半の人が歓声を上げている。

 

『まぁ仮名ですからね。商魂たくましいウマ娘が参加しております。事前に売り物に問題は無いか確認しているので安心してください。』

 

『売り物が二種類しかありませんが大丈夫でしょうか?』

 

『その前にレース中に商売出来るんですかね?』

 

 屋台の中にいるウマ娘が観客に微笑みながら手を振っている。その横にある看板には本店の位置が書かれた紙が貼られており、宣伝も兼ねているようだ。

 

『次に行きましょう。番外二番!ショウカシタイの登場です。』

 

『屋台の次は救急車の模型ですか。ところで上に乗っているウマ娘たちは何をしているのでしょうか?』

 

『雨乞いのようですね。しかし空は快晴。雲一つないレース日和です。』

 

『一人だけ踊りが違うみたいですが……。』

 

『なんだか見てると反省を促されてる気分になりますね。』

 

 今度は救急車の模型が入ってくる。中からウマ娘が三人がかりで押しているようだ。その上には三人のウマ娘がおり、二人は雨乞いのような踊りをしているが一人だけ凄いキレキレな動きで別の踊りを踊っている。

 

『次に行きましょう。まさかの海外からの刺客です!一時期有名になった走るダンボール生物!それに対抗するために私はここに来た!番外三番!メカハリボテプロトタイプです!』

 

『三姉妹での出走です。微笑ましいですね。』

 

『ここでメカハリボテプロトタイプからメッセージが届いています。【以前見たとある動画でビビッときて製作したデース!私たちの力が合わさればこの程度はすぐに出来ちゃうんデス!なんたって──】……思ったより長いのでここで終了です。全文はホームページに記載していますのでそちらをご覧ください。』

 

『メカハリボテプロトタイプのテンションが下がっていますね。レースまでには気を持ち直してほしいですね。』

 

 メカハリボテの首が器用に下がる。あれどうやってるんだろう?僕のハリボテでやればそのまま首が折れて地面についちゃうんだけどなぁ。

 

「次は僕たちの番だね。準備はいい?」

 

「いつでも!ラモと走れるなんてボクは嬉しいよ!」

 

「俺って必要なのか?今からでも降りたり「「ダメ。」」そうか……はぁ。」

 

 僕たちの上に乗っている沖野トレーナーがため息を吐く。ハリボテエレジーに騎手は必須。これは絶対。

 

『次で最後です!番外四番!一時期話題になった動画の主がやってきた!ハリボテエレジー2.0の登場です!』

 

『歓声が凄いですね。人気の高さが窺えます。』

 

『今レースで唯一男性と共に出走しているウマ娘たちです。これがレースにどう影響が出るのか今から楽しみですね。』

 

『今回は現地で偶然出会った友人と共に参加しているようです。現地集合した友人との友情パワーがどうなるのか。私一押しのチームです。』

 

 パドックでウロウロとある程度歩いてから引っ込む。モドキの時とは違って身体の大半を隠しているのでアピール出来ないのは仕方ないね。

 バ場へと向かっている最中に旗を受け取る。そのまま通路を歩いていると奥に僕たちを待っている者たちがいた。

 

「ふっふっふ。このメカハリボテが至高だと今回のレースで知らしめてやるのデース!」

 

 そこにいたのは銀色の光沢を放つハリボテだった。中から自信満々な声が聞こえ、心なしかハリボテの方も胸を張っているように見える。

 正直、この世界でメカハリボテに出会うなんて思っていなかった。僕のハリボテを参考に作ったと実況は言っていたがここまでメカハリボテそっくりだと運命的なものを感じ「ラモ?」ないね、うん。だからテイオー。その低い声はやめよう。

 

「あなたも……苦労しているんですね。」

 

「お前もか。まぁ、頑張れよ……。」

 

 上ではメカハリボテの騎手と沖野トレーナーが何やら話している。お互いに共感することがあるのだろう。その割には話が弾むってよりお互いを労っているように見えるのは気のせい。

 

「挑戦は受けて立つけどその前に言いたいことがある。」

 

「何ですか?もしや私たちのメカハリボテの素晴らしさに気付いてしまったとかデスか?」

 

「僕たち色物枠の紹介が長すぎてそろそろレースが始まるんだよ。だから急がないと。」

 

「デース!?まだ色々語りたかったですが仕方ないです。今のうちに負けた時の言い訳を考えておくといいデース!」

 

 デースデスデスと笑いながらメカハリボテが去っていった。

 

「とっても元気がいい子だったね。僕たちも急いで行かないと。」

 

「なんかボクとキャラが被っている気がする……。もしかしてボクの立場に成り代わってラモとあんなことやこんなことを!!」

 

「するわけないだろそんなこと。テイオーはライスモドキが関わるとなんでこんなにってやめろテイオー揺らすな落ちるって!」

 

 何やら危機感を感じているテイオーに沖野トレーナーが突っ込もうとしたがそれを察知したテイオーに反撃をくらっている。

 そんなことをしながらもバ場へと足を止めずに進む。ついでに意識をレースへと切り替えていく。前回のような失敗はしないように注意しないとね。

 バ場へと到着し、特に何もしないでゲートに入る。テイオーも集中しているのか言葉数が少なくなってきているが感じる気配は決勝戦と同じくらい強くなっている。

 

『続々とウマ娘がゲートインしています。おや、トラブルが発生したようですね。』

 

『はちみースポドリとショウカシタイがゲートを拒んで……というかつっかえてますね。』

 

『明らかに大きいですからね。しかしご安心ください。今レースでは様々な大きさのゲートを用意しております。』

 

『準備ができたところで各ウマ娘、ゲートインが完了しました。今スタート!はちみースポドリ以外綺麗なスタートを決めました。』

 

『早くも売れ行きに暗雲が立ち込めていますがここから挽回なるか。』

 

 ゲートが開いたと同時に駆け出す。テイオーも僕が加減しなくてもピッタリとついて来ている。

 

『ハリボテエレジー2.0速い!速いぞ!完全に抜け出して早くも独走状態だ!』

 

『かかってしまっているようですね。上の男性が。落ち着けるといいのですが……。』

 

 実況の言う通り、沖野トレーナーのテンションが凄いことになっている。これが先頭の景色か!と子供のようにはしゃいでいるところで申し訳ないがそろそろ先頭の景色は終了である。

 

『さぁ第一コーナーが近づいてきました。ハリボテ種にとっては鬼門とも言える場所を超えることが出来るのか!?期待がかかります。』

 

『観客席からも曲がれコールが聞こえてきますね。』

 

「そうだ、テイオー。ちょっと言いたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「何かな?もっと速度上げるとか?ボクはまだまだ大丈夫だよ!」

 

「えっとね。このハリボテはね。……第一コーナーを曲がれないんだ。」

 

「えっ?」「は?」

 

 テイオーにハリボテ種の宿命を言うのと脚が滑るのはほぼ同時だった。

 

『ハリボテ転倒!解散!現地解散!!』

 

『前も見ましたが見事な転けかたですよね。前担当のウマ娘が緑旗を振っているので続行です。』

 

「ゔっ!ドラム缶は僕の方に来るのか……。テイオーたち無事ってテイオー何その転けかた。すごいね。」

 

 いつものように転倒したので審判に見えるように緑旗をふる。そのあとにテイオーたちの様子を見るがテイオーが顔を地面にめり込ませて脚がシャチホコみたいに反り返っている特徴的な転けかたをしていた。

 

「ねぇ、ラモ?これってどういうこと?」

 

「ハリボテの祝福。第一コーナーで何故か転倒するけど絶対怪我しない。」

 

「何それ?ワケワカンナイヨー!」

 

「それは僕も分かんない。ところでトレーナーは?」

 

「あっちで転んでる。」

 

 未だにシャチホコ体勢のテイオーが指差したところを辿っていくと沖野トレーナーがギャグ漫画みたいな倒れかたをしていた。

 

「あんな倒れかたをしてるってことは大丈夫でしょ。ほら、テイオーもそろそろ立って。間に合わなくなっちゃう。」

 

 このやりとりの間に僕たちは最下位になってる。ところでちゃっかりメカハリボテが第一コーナーを曲がれてるんだけどどういうこと?既に曲がり方をマスターしたってこと?

 

「よいしょっと。うわ、すごく遠いね。だけどボクとラモなら追いつける。」

 

「うん、本気でいくよ?……ところで僕がドラム缶を持つとして、沖野トレーナーどうしようか?」

 

「これなんてどうかな?」

 

「え?何これ?」

 

「ゴルシから貰った麻袋。」

 

 テイオーが手慣れた様子で沖野トレーナーを麻袋の中に入れる。トレーナーもトレーナーで抵抗する素振りを見せずに入ってるのでいつものことなのかな?

 入れ終わったのでテイオーと二人がかりで沖野トレーナーを担ぐ。後は近くに転がっている僕のドラム缶を持てば準備万端だ。

 

「いくよ?テイオー。」

 

「いつでもオッケーだよ!ラモ!」

 

 特に合図を出さずに走り出す。数歩でスキル無しの最高速に入り、すぐに前のチームが見えてくる。

 

『ハリボテエレジー2.0が復活しましたね。上の男性を荷物のように運び驚異的な加速で前を抜かしっとここで失速。どうしたのでしょうか?』

 

「いらっしゃいませー。」

 

「あ、はちみーの硬め 濃いめ 多めが一つとスポドリを二つください。」

 

「分かりました!お会計は1,600円になります。」

 

「カードは使えますか?」

 

「大丈夫です!」

 

『買い物をしているぅぅう!!』

 

 受け取ったはちみーをテイオーに渡してスポドリは僕が飲む。あと一つは麻袋にぶち込んでおく。

 

『走りながらよく飲めますね。というかカードを何故持っていたのでしょうか?』

 

『このレースだとこれが当たり前ということなんでしょう。正直急に色物枠のどれかが空を飛んだって驚きませんよ。』

 

『毒されてきましたねぇ。』

 

 沖野トレーナーを肩から頭に移して走る。すぐに落としてしまいそうだがそこは僕とテイオーのいかれたバランス感覚でどうにか出来る。

 

「だけど飲み物を買ったせいで思ったより速度出なくなっちゃった。」

 

「ならなんで買ったんだ!?」

 

「なんか買わないといけない気がした。後悔はしてない!」

 

 麻袋からため息が聞こえてくるが安心してほしい。一般枠の子ならこのスピードでも十分間に合うし色物枠はそろそろ何か起きるから。……ふと思ったけど色物枠ってどいつもこいつも能力値高いやつばっかだよね。

 

『さて、先頭を独走状態で走るメカハリボテ。このままゴールまで走り抜けるか。』

 

『中身の高笑いがここまで聞こえてきますね。騎手がレバーをガチャガチャしているのが微笑ましいです。』

 

 少し遠くで高笑いをしながらメカハリボテが走っている。その様子からかなり調子に乗り出しているだろう。だからそろそろ……

 

『メカハリボテの首が回り出しましたね。何かのギミックでしょうか?』

 

『騎手が何かを察したのか防火服をしっかりと着直しています。おっと、メカハリボテの口から火の粉が出てきたぞ。大丈夫でしょうか?』

 

『メカハリボテの頭から何かが生えてきましたね。……緑旗です!想定内ということでしょう。続行です。』

 

 メカハリボテの胴体から飛行機の羽根のようなものが生える。あれ?もしかして行けちゃうやつ?

 

『メカハリボテから羽根が生えました。速度も上がってスパートです!』

 

『色物枠で初めて大人しくゴールするんじゃないですか?』

 

 頭を高速で回転させながらメカハリボテの速度が上がる。僕とテイオーも速度を上げているけど間に合うかはちょっと不安かな?

 

「ラモ。スキル使う?そうしたら確実に追い抜けると思うけど。」

 

「うーん、使ったら負けた気がするんだよなぁ。」

 

 この小さなこだわりを捨てるべきか……。頭を悩ませながらメカハリボテを見ているといきなり炎を吹いた。

 

『メカハリボテの口から炎が出てきた!すごい演出だぁ!』

 

『なんだか騎手の子が戸惑っているように見えるのですが大丈夫でしょうか?』

 

 あれ多分予想外だろうなぁ……。明らかに中身も焦ってるし。あ、ショウカシタイがスパートに入った。

 

『炎の気配を感じたのかここでショウカシタイが驚異のスピードで上がってきた!周りにサイレンの音が鳴り響くぅ!』

 

『何故救急車なのに消防車のサイレンなのでしょうか?』

 

 僕も驚く程のスピードで走るショウカシタイが炎を撒き散らすメカハリボテの横に並んだ。上を見ると雨乞いをしていたウマ娘たちは中に引っ込んだが、一人だけまだ踊り続けている。

 

『ショウカシタイ、メカハリボテに向かって踊り続けています。』

 

『まるで火の不始末に反省を促しているようですね。』

 

 あの踊りやっぱりどっかで見たことある気がするんだよねぇ。試しにカボチャ被ってくれないかな?あ、メカハリボテからなんか出た。

 

『おっとメカハリボテの頭から何かが飛んだぁ!』

 

『えっと、緑旗が飛んでいますね。代わりに白旗が頭から生えています。メカハリボテ、ここでリタイアです。レスキュー開始!』

 

 実況の掛け声に待ってましたと言わんばかりにショウカシタイの模型の窓からホースが出てくる。そしてそのまま勢いよく放水した。

 

『消火完了しました。ショウカシタイ、目的を達成したのか満足げに白旗を振っています。リタイアです。ご苦労様でした。』

 

『上で踊っている彼女は何をしたかったのでしょうか?』

 

 実況の疑問はよく分かる。本当に彼女はずっと踊っていただけだ。まぁこれで前を走っていた色物枠は全滅したし今度こそ一着の景品は僕たちのものだね!

 

『さぁ!ゴールは目前!ここで後ろから猛烈な勢いで上がってくるウマ娘がいるぞ!はちみースポドリだ!はちみースポドリが来たぞ!!』

 

『売り子をしていた子も屋台をひくほうに移動したみたいですね。』

 

 まさかのはちみースポドリが追い上げてきた。だけどそのスピードなら僕たちには追いつけな──

 

「今商品を買うとお一人様限定の〇〇店のみで食べれる特製にんじんハンバーグの予約チケットが手に入りますよー!」

 

「なんだって!!!」

 

 勢いよく振り返る。僕たちに向かって走ってくる屋台にはとっても美味しそうなにんじんハンバーグのポスターがいつの間にか貼られていた。

 

『ハリボテエレジーここで失速!食べ物の誘惑に捕まったぁ!』

 

『前の子が露骨に反応していますね。誘惑を振り切れればいいのですが。』

 

 待て、落ち着くんだ僕。ここで勝てば食べ放題が手に入るんだ。目の前の誘惑に引っ掛かってはいけない。だけど向こうは限定でしかも特製ときた。きっと美味しいに違いない。いや、間違いなく美味しいはず。クソッ!僕はどっちを選──

 

「ラモ。」

 

「……!どうしたのテイオー?」

 

「ボクはラモと一緒に食べ放題に行きたいなぁ。ダメ……かな?」

 

「テイオー……。全然オッケーだよ!一緒に行こう!」

 

 誘惑を振り切って前を向く。目が覚めたような気分だ!もう何も怖く「更に!周りから美味しいと評判で何度もテレビの取材がきている〇〇店のオムライスもついてきます!」ん゛ん゛っ!!

 

「ラモ!」

 

「大丈夫だよテイオー。大丈夫……だぁぁぁぁああ!!」

 

 全力で前に駆け出す。残り少しという距離なだけあって、すぐにゴールを通り過ぎた。

 

『食べ物の誘惑を振り切って、今日も少女は荷物を運ぶ。確定しました。一着はハリボテエレジー2.0。二着ははちみー千円、スポドリ三百円です。それではまたお会いしましょう!体重計。』

 

「ラモ。本当に大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよテイオー。決してにんじんハンバーグを食べたいとかそんなことを一切思ってないから。」

 

「そっか……。ところでこのあとボクとトレーナーは外食するつもりだったんだけどラモもどうかな?近くに美味しいにんじんハンバーグの店があるんだ!」

 

「本当!?でもいいの?」

 

「いいって!いいって!ね?トレーナー!」

 

「給料日前だから金がヤバいんだけどなぁ。」

 

「ラモは大体七、八皿ぐらいでお腹いっぱいだったはずだよ!」

 

「七、八皿か……。しょうがない。行くか!」

 

「さっすがトレーナー!」

 

「えっと、ごちそうさまです。昼食はテイオーたちと食べてくるってお義父さんたちに連絡してくるね!」

 

 なんか奢ってもらえることになった。嬉しいな!




「大体(爆盛りサイズが)七、八皿だよ!」
「(普通サイズが)七、八皿か……。」

【謎の乗り物】

デジたんの感情タンクが限界突破すると知らぬ間に乗車している所。とある三人の人物は必ず乗り込んでいるのに一人は高確率で乗り遅れるらしい。

【メカハリボテプロトタイプのメッセージ】

以前見たとある動画でビビッときて製作したデース!私たちの力が合わさればこの程度はすぐに出来ちゃうんデス!なんたって私たちは天才デスから!あっという間にあのダンボール生物を追い抜いてみせるデスから楽しみに待ってるといいデス!デースデスデス!

【音声入力版】

──デースデスデス!それに見て欲しいデス!この光沢を放つボディを!素晴らしい色でしょう?勝者の色デス!オリジナルには遅れをとったデスが今は巻き返しの時デース!って何デスか?火が出てる?何をバ鹿な……ホワッ!?本当に火が出てるデース!何でデス「私がつけたよ。」マイシスター1号!なんてことをしてるんデスか!!って脚も生えてきた!?副脚なんてつけた覚え「それは私〜。」マイシスター2号!あなたもデスか!?
 あ!ちょっと勝手に動くなデス!待って!止まれデース!!ブホォ!?………デスデス。そっちがその気ならこっちもやってやるデス……。レースまでまだ時間があるデスからそれまでに直せばいいんデス!このハリボテめ!!ぶっ壊っしゃあぁぁぁぁぁああああ!!!!

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