アプリ産です。通っていいですか?   作:フドル

8 / 11
誤字脱字報告ありがとうございます。
なんか思ってたより長くなってしまったから中編も追加。すまない、次で合宿は終わると思うから許して。
次のレースの構想はあるのに合宿で書きたいネタを入れてたらドンドン話が伸びる。


夏ですよ!海に行きましょう!中編

「お腹が空きましたわ。」

 

 テイオーたちと別れた後、すぐに布団に入って寝たのですがあまりの空腹で目を覚ましましたわ。

 なんとかもう一度眠れないか試してみますが私のお腹が空腹を主張してきてなかなか眠れません。

 

「仕方ありませんわ。確か食料がまだ残っていたはずですわ。」

 

 こんな時間に食べるとまた体重が増え、トレーナーさんに減量を指示されるかもしれませんが空腹には勝てませんわ。食料が地面に落ちても三秒以内なら大丈夫なように、お腹が空いたら三口くらいは食べても良いはずですわ。例え一口が口をパンパンにするぐらいだとしても三口で抑えればセーフのはずですわ。

 布団から抜け出し、皆さんを起こさないように慎重に部屋から出ます。この部屋には居ませんがゴールドシップさんを起こしてしまうと何を言われるか分かりませんわ。

 廊下も慎重に歩きます。部屋から出る時にテイオーとラモさんが居ないのは確認済み。廊下でバッタリ出会ってしまうとどこに行くのかと聞いてくるはずですわ。

 テイオーが聞けば朝にトレーナーさんに報告する確率が高いです。なので出会わないことが最善ですわ。

 トレーナーさんも私たちとは別の部屋なので知らない内に起きてくる可能性がありますわ。仮に見つかってしまうと明日のトレーニングメニューが悲惨なことになるのが目に見えますわ。

 周囲に目を向けて足音を立てずにゆっくりと歩を進めます。ここを曲がれば目的地が見えてくるはず……!

 

「……?明かりがついていますわ。」

 

 曲がり角を曲がると消えているはずの明かりがついている。部屋に戻る時に消えていたのは確認済みですし、誰かいるのでしょうか?宿の関係者なら良いのですが……。

 

「いや、確かテイオーとラモさんがいませんでしたわね。」

 

 部屋から出た時に確認していたことを思い出します。あそこにテイオーたちがいるのなら中には入れませんわね。どうしましょうか?

 

「まだテイオーたちと決まったわけではありませんし、まずは確認でしょうか?」

 

 そろそろと部屋に近づき、バレないようにこっそりと中を覗き込みます。そこには驚きの光景がありましたわ。

 

「テイオー!ラモさんも!どうしましたの!?」

 

 床にうつ伏せで倒れ伏すテイオー。その伸ばした指の先には黄色ではちみーと書かれています。ラモさんは机に突っ伏しており、口から黄色の液体が漏れていますわ。

 

「これは一体……?これが原因でしょうか?」

 

 机に置かれているミキサーを手に取る。その中身はラモさんの口から漏れている液体と全く同じですわ。蓋を開けて中身を嗅いでみますが嫌な匂いは一切なく、むしろ食欲をそそるような良い匂いですわ。

 

「飲んでみましょうか?……いえ、やっぱりやめておきましょう。」

 

 好奇心が湧き上がり、少しだけでも飲もうかと思いましたが、テイオーたちを見て思い留めます。私はあんな感じになりたくありませんわ。よく見るとお二人とも痙攣していますし……。

 

『修復を完了しました。──イェア!修復能力がなければもっとボートを見ていないといけなかった……。ってテイオー!大丈夫!?」

 

 何かを呟いたと思ったらラモさんが飛び起きました。そしてテイオーさんの方へ駆け寄り彼女を抱き起こします。

 

「気絶してるね。部屋まで運ばないと……。いやぁ、好奇心は猫を殺すっていうけどその通りだったね。もう全部混ぜはやめておこう。……あれ?マックイーンはいつからいたの?」

 

「今さっき来たところですわ。それよりここで何がありましたの?テイオーは無事ですの?」

 

 テイオーを近くの椅子に座らせた後、ようやくラモさんが私に気付いたようなのでここであった出来事を聞いてみますとラモさんが気まずい様子で目を逸らします。

 

「ちょっと好奇心と挑戦的な感じが湧き上がって作ったものが凄い味だった。具体的に言うなら不味さによる吐き気が来ると同時になんか良い感じの川とボートが見えた。」

 

「何を言ってますの?」

 

 不味い味はともかく川とボートが見えるってどんな味ですの?

 

「まぁ、壮絶な味と思ってもらっていいよ。ところでマックイーンはなんでここに?」

 

 ラモさんには話してもいいのでしょうか?最初は信じてみてもいいかもしれませんわね。

 

「少しお腹が空いたので何かないかと見に来たところですわ。」

 

「そうなんだ!なら丁度いいものがあるよ!」

 

 ラモさんがテキパキと周りの後片付けをしながら私からミキサーを受け取り冷蔵庫の中にしまいます。そして冷蔵庫からあるものを取り出しましたわ。

 

「じゃじゃーん!このスイーツはどうかな?名付けて!気分下げ上げスイーツ!食べると元気が出るよ!」

 

 取り出したのは緑色の美味しそうなスイーツですわ。抹茶味でしょうか?

 

「僕が作ってみたんだよ!一つしかないから誰にあげるか悩んだんだけどマックイーンが一番乗りだからマックイーンにあげるね!後はミキサーの中身は飲んだらダメだよ!それじゃあ、おやすみ!」

 

 そう言ってラモさんがテイオーを抱き上げて去っていきました。嵐のようでしたわね。

 

「このスイーツはどうしましょうか?全部食べると三口以上になってしまいますわ。しかし折角ラモさんが作ってくれましたのに食べないのはメジロの名が廃りますわ。」

 

 友人が作ってくれたものだからセーフですわ。友情パワーで脂肪が燃やされるので±0ですわ!

 

「では、早速。いただきますわ!」

 

 てっぺんのクリームをスプーンで掬って口に含む。クリーム特有の柔らかさとなんともいえない甘さが……甘さ?なんか段々苦みがでてきましたわ。

 

「にっっっっがいですわ!え?スイーツなのでしょう?なんでこんなに苦いですの!?」

 

 あまりの苦さに思わず声が出ますわ。ラモさんってもしかして料理がかなり下手……。いえ、この判断はまだ早計ですわね。

 

「ラモさんは気分下げ上げと言っていましたわ。今食べた部分が下げなら上げの部分もあるはずですわ。」

 

 スプーンで上の部分を避けて下の部分を掬い取ります。少し躊躇してしまいますが覚悟を決めて食べてみると途端に広がる甘さ。

 

「美味しいですわ!!とっても美味しいですわ!!!」

 

 あまりの美味しさにスプーンが進む。気付いた時にはスイーツが半分くらいまで減っていましたわ。

 

「もうこんなに食べてしまいましたわ。もっと味わえばよかったですわ。」

 

 一気に食べてしまったことを悔やみつつ次を口に含む。するとさっきの甘さから一転して苦味がやってくる。

 

「にっっっっがい……これはもうやりましたわね。そうでした、このスイーツは苦味もありましたわ。」

 

 顔を顰めながらスイーツを見つめていると気付いてしまいましたわ。これって残ってる部分全部、苦味の部分ですの?

 

「やってしまいましたわ……。恐らくラモさんはこの苦味と甘味を交互に味わうように作っていたはずですわ。ですが私はあまりの美味しさに甘味の部分だけを食べてしまいましたわ……。」

 

 スプーンが止まる。残りは全部あの苦味ですわ。しかし美味しい部分だけ食べて苦味は食べないなんて作ってくれたラモさんに申し訳ありませんわ。

 

「なら目指すは完食!いざ!!参りますわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクは今危機を迎えている。何故かって?それはね?

 

「すぅー、すぅー、うぅん、テイオー……。」

 

 ラモがボクに抱きついて眠っているからだよ!なんか綺麗な川を下る船にいつの間にか乗っていて船が目的地に着いた瞬間この光景だよ?耐えられないよ!

 

(ラモって眠る時に抱き着き癖があるのかぁ……。)

 

 寝ているためか力加減が出来ずに思いっきり抱き締められているがウマ娘なら大丈夫くらいの力だ。何も問題はない。逆にいえばウマ娘じゃなかったらこのまま抱き潰されることになるけどね。

 ラモの寝顔を眺める。そういえばこうやってラモが寝ているところとか初めて見るね。ラモの知らない一面を見れてなんだか得をした気分になる。

 

「うぅん。」

 

 ラモが寝言のようなことを言った後に移動する。……ボクの上に。

 

(え?ちょっと待って!ラモ!ストップ!!)

 

 そんなボクの思いは届かず、ラモの移動が完了する。ボクの真上に移動してそのままボクに抱き着く。

 

(あ、ラモの匂いとかって顔が真横に!あわわわわわ。)

 

 これはダメだ。威力が強すぎる。奥の手を使おう。

 

(ボクたちー!ヘルプ!助けて!……おーい!聞こえてる?)

 

 寝ているはずのボクたちに声をかけて呼び起こすが反応がない。しっとり組ならラモが隣で寝ている時点で飛び起きて騒がしくなるはずなのにここまで反応がないのはおかしい。

 目を瞑って意識を集中する。徐々にボクの身体から力が抜けて感覚がボクの中に引っ込んでいく。次に目を開くとボクたちがいる謎空間に来ていた。

 

「も〜、ボクたち!なんで呼んだのに誰も来てくれない……の?」

 

 後ろからボクたちの声がするので文句を言いながら振り返る。するとそこには──

 

「うーん。ラモがぁ……。ラモがぁ……。」

 

「はいはーい。ラモが見えないところに行こうね〜。」

 

 倒れ伏すボクたちとそれを担架に乗せて運ぶボクたちがいた。

 

「どういうこと?」

 

「あ、表のボクじゃん。どうしたの?今は手を離せないから手短にお願いね?」

 

「いや、呼びかけても誰も反応しないから様子を見にきたんだけど何があったの?」

 

「あえて症状名を言うなら急性ラモ摂取中毒かな?」

 

 なにそれ?そんなボクの疑問顔を見てボクが説明を始めてくれた。

 

「ボクたちはしっかりとラモを認識している状態でラモ成分を摂取しているから普段は大丈夫なんだけど、今回はボートの旅から急にラモの顔面ドアップからの抱き着きと無防備な姿っていう連続コンボが来たから一部のボクたちが耐えきれずに爆発しちゃった。」

 

 特にラモに執着しているボクたちには大ダメージだねぇ。と笑うボクに納得する。確かにボクでもキツかったんだからラモ好き過激派のボクたちには耐えきれないだろう。

 

「それでボクたちはボクたちの介抱に手一杯だからそっちは頑張ってね?」

 

 その言葉を理解する間もなくボクの身体が宙に浮き、そのまま謎空間から弾き出された。

 

「……どうしよう?」

 

 身動きが取れないままラモを退ける方法がないか考えてみるけど何も浮かばない。しかもボクが謎空間に行ってる間にラモの抱き着きが更にひどくなっている。腕ごとガッチリ抱きしめられているし、脚もラモの脚に挟まれて満足に動かせない。腹筋で起きあがろうとしてもラモの身体が邪魔で起き上がれない。

 

「いや……このまま慣れれば眠れるはず。ボクだってラモに毎回抱き着いているんだ。これぐらい慣れっこのはずだよ。」

 

 よし、これならいける。抱き着いたまま眠るだけなんだ。何も問題はない!

 あ、ちょっと待ってラモ!流石に頬擦りはレベルが高いって!ね、ネムレナイヨー!

 

 

 

 

 

 朝が来た。結局ボクは仮眠程度の睡眠しか取れなかったよ……。っていうかみんな酷いよ!起きてボクらに気付いてもみんな微笑むだけで誰も助けてくれないんだよ!

 ちなみにボクはまだ布団にいる。起きようと思っているんだけどラモがまだ抱き着いているので起きれない。声をかけたら起きるかな?

 

「ラモ〜?そろそろ起きよう?朝が来たよ〜。」

 

「ん?んんー?……おはよう。テイオー……。」

 

 幸いラモはすぐに起きてくれた。眠そうに目を擦りながらだけどノソノソとボクの上から退いてくれたのでボクも起きあがる。

 未だにボケーとしているラモを尻目に今日の予定を思い出す。今日は昼からみんなとトレーニングの予定だったから朝はゆっくりでも大丈夫だね。

 予定の確認が終わったのでラモに視線を移す。そこには服を脱いだラモがいた。

 

 服を、脱いだ、ラモがいた。

 

「ちょっとラモ!?なんで脱いでるの!?」

 

「?だって起きたら着替えないと……。」

 

「その服は寝巻きじゃないよ!それに宿の服を借りているだけだから替えも同じ服だよ!」

 

 次からラモが寝ぼけている時は目を離さないようにしないと……。復活したボクたちの奇声を聞きながらボクはそう決心した。

 

 

 

 

「えっと……。なんかごめんね?テイオー。」

 

「ちょっと新鮮な感じもしたから気にしないでいいよ。ラモ。」

 

 やっと完全に目覚めたラモを引き連れて朝食を食べに向かう。ラモも自分がどんな行動をしたのか所々覚えているみたいで歩きながら顔を赤くしている。

 

「なんか騒がしくない?」

 

「……そうだね、食堂の方……かな?」

 

 そんなラモも可愛いと思っていると段々と騒がしくなってくる。今までこんなに騒がしくなっていることはなかったから何かあったのかな?

 

「みんなどうしたの?廊下まで騒ぎが聞こえてきたよ?」

 

「テイオーか……。今重大な事件が発覚したんだ。」

 

 食堂に入ってみんなに話しかけるとゴルシが深刻な顔でボクの方に向く。ゴルシがそんな顔をするなんて一体何があったんだろう?その答えはゴルシがボクの前を退いたことで判明した。

 

「ス、スペちゃん!どうしたの!?」

 

 床に仰向けで倒れているスペちゃん。その手にはとっても見覚えがあるミキサーの容器。そしてスペちゃんの口から漏れている見覚えのある色の液体。

 

「朝、ここにきたら既にこうなっていた。あのスペがミキサー容器の容量程度で倒れる程だ。これは事件の予感がするぜぇ!」

 

 実際に味を知っているボクからすればあの残りを全て飲んだスペちゃんの方に驚いているんだけど。見てよ、ラモの顔。「え?あの量を飲んだの?本気で言ってる?」みたいな顔をしているよ?

 

「この事件!アタシこと、ゴルシちゃん探偵が無事に解決してみせるぜ!」

 

 いつの間にかゴルシが探偵風の服に着替えていた。誰の目にも止まらない早着替え、ボクでも見逃しちゃうね。

 

「と、いうわけでラモ。お前が犯人だ!」

 

 探偵どこに行ったの?推理どころか痕跡探しすらしていないけど。

 

「な、なんで僕なのさ!証拠を教えて欲しいね!」

 

「証拠なら昨日の夜に食堂でコソコソしていたのはラモだけってことだな。つまりそこでそれを作っていたってことだな。」

 

 スペちゃんが持っているミキサーをゴルシが指差す。だけどこれだけならまだ誤魔化しようがある。ラモもそれを分かっているのか口元がニヤけている。

 

「そそそそれを作っていた証拠なんて無いじゃないか。そ、それだけでぼ、僕を犯人と決めつけるのは早計じゃない……かなぁ?」

 

 ラモぉぉぉぉぉおお!!!目が!目がめっちゃくちゃ泳いでるよ!それじゃあ自分が犯人だって自白してるものだよ!見てよみんなの顔を!「あ、こいつだわ。」って顔してるから!

 

「そうかぁ、ラモじゃないのか……。うーん、迷宮入りだな。」

 

 ゴルシがとぼけた感じで追求をやめるとラモがホッと息を吐く。それから誤魔化せたと思っているのかボクに向けてドヤ顔をしている。

 

「んじゃあラモはマックイーンのためにスイーツを作ってたんだよな?」

 

「そうだよ!今頃マックイーンは元気いっぱいなんじゃないかな?」

 

 ドヤ顔のまま胸を張ってゴルシの質問に答えるラモ。それを聞いたゴルシの顔がにやけているがラモが気付く様子はない。

 

「へ〜、さぞかし美味しかったんだろうな。ところであのミキサーは何を混ぜたんだ?」

 

「あれはね、冷蔵庫の中にあった食材とかを適当に混ぜ……。」

 

 ゴルシの質問に気分良く答えるラモ。途中で自分が何を話してしまったのかを気付いたのかドヤ顔のまま顔を青くするという器用なことをしている。

 

「こいつが犯人だ、連れて行け。」

 

「ま、待って!好奇心が!好奇心が悪いんだよ!僕はそれに従っただけなんだよ!それに後で焼いて食べるつもりだったんだ!信じてくださいゴルシ探偵!決して僕の──。」

 

 後ろからウオッカとスカーレットに腕を取られてラモが連れ去られていった。ラモも悪いと思っているのか迫真の演技と抵抗する振りだけをしてそのまま運ばれていった。

 

「今日もスピカに平和が訪れた……。それでもゴルシちゃん探偵の推理の日々は続く……。ゴルシちゃん探偵の続きは5月64日に放送予定だぜ!みんな見てくれよな!」

 

 最後にゴルシがくるっと回って何かのポーズ。さて、ラモも気が済んだら帰ってくるだろうしボクは先に朝ごはんを食べようかな。

 

 

 

 

 

 不覚だった。完璧に誤魔化せたと思ったのに何故バレたのか?砂浜で犬神家をしながら考えてみてもやっぱりバレる要素がなかったのでゴルシさんの方が上だったんだろう。

 ちなみに砂浜に埋まる前に服は水着に戻ってる。食堂を出てから二人に離してもらい、着替えてから自主的に埋まっている。

 途中で沖野トレーナーがマックイーンがどこに行ったか分かるか?と質問されたので脚をわしゃわしゃ動かして答えたら、あそこか……分かった、ありがとうと言われた。分からないという意味を込めたわしゃわしゃだったのに何を分かったんだろう?あと僕がなんで埋まってるのか聞かないの?それともスピカはそれを質問する気が無くなるほど日常になってるのかな?スピカ凄い……。

 

「そろそろ出ようかな、僕も朝ご飯を食べたい。」

 

 意外と気持ちよかった砂浜に別れを告げて宿に戻る。そのまま食堂を目指していると沖野トレーナーと出会った。

 

「あ、沖野トレーナー。マックイーンは見つかった?」

 

「あぁ、ライスモドキが教えてくれた場所で見つかったがなんか『体力が有り余っていますわ!この体力で走った分、脂肪が燃えて痩せますからまたスイーツを食べれますわ!永久機関の完成ですわ!』とか言って走り続けてたから置いてきた。無理な走りはしていないし、何を言っているか分からないが故障しないようにしっかりと気を遣って走っているみたいだからな。」

 

 教えてないんだけどなぁ……。あと僕お手製のスイーツは気に入ってくれたようだ。みんな大好き緑の液体とやる気が上がるケーキを混ぜて隠し味にナンデモナオールを入れたら完成する作った僕でもなんでこれがスイーツの範囲でいけるんだろうか?と疑問に思うほど奇跡的に出来たものだ。これは僕のスイーツを作る腕というよりケーキの力が強い気がする。

 

「それとライスモドキ。上島さんが用事があるから昼過ぎになったら迎えに行くと言っていたぞ。それまではまだここにいろ。」

 

「用事?急用かな?分かった。お世話になるね?何か手伝えることがあるなら手伝うよ?」

 

 沖野トレーナーからしたらチームメンバー以外の子の面倒を見る義理はない。それなのに人一倍食べる僕の食費を嘆きながらもしっかりと払ってくれてたりするから相当なお人好しだ。

 

「あ、そうだ。今日の昼飯は無い可能性があるからな。」

 

「……へ?」

 

 

 

 

 

 目の前で硬直するライスモドキを見ながらさっきゴルシたちに伝えたことをライスモドキにも伝える。

 

「運が悪いことに昨日の大雨とこの宿の食材補充の日が重なってな。大雨の影響でここに来るための道が封鎖されて立ち往生しているらしい。撤去作業は既に始まっているから昼過ぎには到着出来るそうだ。普段は補充前でも足りる量は確保してあるんだが……。」

 

「僕が来たからなくなってしまったってことだね……。ごめんね?僕のせいで……。」

 

「ライスモドキのせいじゃ無いから気にするな。ほら、朝食を早く食べてこい。早くしないと他の奴らに食われるぞ?」

 

「それは困る!それじゃあね?沖野トレーナー!」

 

「走るなよ〜。」

 

「はーい!」

 

 俺を通り抜けて食堂に早歩きで向かうライスモドキ。あのトモを是非とも触ってみたいが触ったら確実に蹴られるので自重する。いつもなら気にせずに触りにいくのだがライスモドキの脚力は他のウマ娘のものとは一つ二つぐらいは上のはずだ。そんなもので蹴られると流石の俺でも耐えられるか分からない。

 適当な理由をつけて触れたらいいのだが、ライスモドキはそこらへんの勘が鋭いため、しっかりとした理由じゃ無いとまず無理だな。

 

「それより昼飯をどうするか……だな。」

 

 本来の予定なら昼飯を食べてやる気を上げてからトレーニングをする予定だったが肝心の昼飯がないなら意味がない。かと言って朝にトレーニングの時間を移しても昼飯がないのにやる気が出るわけがない。

 

「仕方ない。昼飯が来るまでトレーニングをずらすか……。足りない分は個々でトレーニングするだろうし、そこら辺は臨機応変にって感じだな。」

 

 一応、アドバイスを求められたら応えられるようにそれぞれの課題をピックアップしておくか……。

 

 

 

「ふぅ……。取り敢えずこんなもんか?」

 

 紙にあいつらの課題を書き上げ、時計を見ると昼を過ぎていた。財布を取り出して中身を見てみると全員分の軽食ぐらいなら買える程度の金額はある。

 

「今から海の家に行って一人一品だけ奢るか……。」

 

 あいつらには足りないだろうが昼飯までの繋ぎにはなるだろう。それを伝えるために部屋を出ると視界の端にツインテールが映る。目で追いかけるとスカーレットが周りを警戒しながら廊下の奥に消えていくところだった。

 スカーレットがこんな行動をとるのは珍しいので追いかけてみると丁度香水のようなものを自身にかけているところだった。

 

「スカーレット。何をしているんだ?」

 

「ひゃあ!?ちょっと!急に声をかけてこないでよ!ビックリしたじゃない!」

 

「いつもとは様子が違ったからな。……なんか今日のスカーレットはいい匂いがするな?その香水か?」

 

 ここまで漂ってくるいい匂い。若い女性に言う言葉じゃないと今更ながらに気付いて内心焦るがスカーレットがため息を吐いた後に隠していた香水を俺の前に出した。

 

「えぇ、タキオンさんがくれたの。自分が欲しい物の匂いがする香水らしいわよ?」

 

「なるほど、それでどんな副作用があるんだ?」

 

「はぁ?何言ってるの?そんなのあるわけないじゃない。」

 

 ……そうだった。アグネスタキオンはスカーレットには甘かったな。そんなことを考えているとスカーレットに手を取られて香水をかけられる。

 

「しょうがないからトレーナーにもかけてあげるわ。試しに欲しいものを思い浮かべてみて?でも匂いを覚えているものじゃないとダメよ?」

 

 その言葉に最近食べた食事を思い出してみるとその匂いが漂ってくる。

 

「凄いなこれ。大発明じゃないか。」

 

「効果時間が短いのが欠点らしいわよ。それで?アタシを追いかけてきたのは気になったからってだけ?」

 

 欲しいものを切り替えて匂いを楽しんでいるとスカーレットが他にも用件を聞いてくる。そうだった、忘れるところだった。

 

「昼飯が来るまでまだ時間がかかるだろ?だから海の家でそれぞれ一品だけなら奢ってやろうと思ってな。他の奴らにも伝えてくるから先に宿の前で待っといてくれ。」

 

「え?ちょっと!香水のつけたまま……。行っちゃったわね。」

 

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた。ライスモドキとテイオー。ちょっと今から「ご飯が届いたんだね。」……ん?違うが?」

 

 あいつらの内、二人を見つけたので声をかけるが途中で言葉を重ねられる。反射的に否定してしまうが二人の顔は確信に満ちていた。

 

「嘘だね。ならなんで沖野トレーナーからそんなにいい匂いがするの?ご飯を持ってきたんじゃないの?ダメだよ?独り占めをしたら。」

 

 ……なるほど香水の匂いか。原因は分かったがそれにしても二人の様子がおかしい。昼飯が遅れていてもまだ本来の時間より一時間ぐらい遅くなっているだけだ。よく食べるウマ娘だとしてもここまで様子がおかしくなるのは変だ。

 

「ボクたちはね?朝ご飯を食いそびれたんだ。理由はちょっと恥ずかしくて言えないけど。だから昼飯が楽しみで仕方ないのにどうしてトレーナーは隠すの?」

 

 テイオーが首を傾げながら問い詰めてくる。香水の匂いだからと言えれば楽だが今の二人に通用するのか?それとさっきから嫌な予感がビンビンする。まるで肉食獣にでも見つかった気分だ。

 徐々に距離を詰めてくる二人から後退りすることで距離をあけつつ、この状況をどうにか打破出来ないか思考を回す。誰か来てくれればどうにかできるかもしれない。

 

「……トレーナーさん。」

 

「!!マックイーンか!悪い、少し助けて「スイーツですわ!」駄目だわこれ。」

 

 訪れた希望はすぐに潰れた。なんなら状況が悪化した。三人に手をかざすことで牽制しつつ距離をあけても一人は必ず距離を詰めてくる。そいつを止めるために手を動かすと今度は手がハズレた一人が詰めてくる。

 このままだと捕まる!今のこいつらは冷静じゃない。捕まればどんな目に合うか分かったもんじゃない。

 

(こうなりゃ一か八かの賭けに出る!)

 

「あー!あそこにスイーツ爆盛りご飯の屋台があるぞ!」

 

「「ご飯!」」 「スイーツですわ!」

 

 三人が俺から視線を外したと同時にドア目掛けて全力で走る。ここでこんな適当な言葉に引っかかった三人にツッコミをしなかった自分を褒めてやりたいぐらいだ。

 内側から鍵をかけて座り込む。スカーレットが効果時間が短いことが香水の欠点と言っていたし、ここで匂いが無くなるまで待っているしかないな。

 

「トレーナー?出てきてよー。独り占めはダメだよ〜?」

 

 ドンドンガチャガチャとドアが鳴る。全く……、ホラゲーじゃないんだぞ?

 鍵を開けられたら?と考えたがどうやらこちら側からしか鍵をかけれない作りになっているみたいで一安心だ。

 

「少し退いてて?テイオー。」

 

 この声はライスモドキか。鍵穴もないんだから何も『バキィ。』……は?

 ドアの方から何かが砕けた音がしたので慌ててそちらをみるとドアノブのすぐ横あたりに手が突き出ている。貫手の形を取っていた手が開かれ、何かを探すように辺りを触る。

 マズイと思い駆け寄ったが間に合わず、ライスモドキは目的のものを見つけた。

 ガチャっと音がする。それは三人から俺を守る唯一の壁が無力化された音だった。

 ギィィィと少しずつドアが開いていく、最初に手がドアの端を掴み、徐々に顔が見えてくる。万事休すか……。香水の匂いが消えていることに今更気付いたが今の三人には届かないだろう。

 

「おーい、ご飯がきたぞぉ〜。スイーツは早い者勝ちな!」

 

「「ご飯!」」「スイーツ!」

 

 諦めが全身を支配しようとした時、遠くからゴルシの声が聞こえてくる。するとあら不思議、目の前にいた三人が消えているではありませんか。

 

「ははは……。はぁ、二度とこんなことはゴメンだな。」

 

 並のホラゲーより怖かったぞ。いやマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラモちゃん。」

 

「ひ、ひゃい。」

 

 遅めの昼ご飯を食べてから宿の人に勢い任せでドアを破壊したことを謝り、請求書を貰った後でテイオーたちと話していると後ろに鬼と化したお義母さんがいた。

 なんで鬼かって?後ろに般若らしい幻影が見えるからだよ!

 

「ラモちゃん?詳しく説明してくれるかしら?」

 

「私は今、冷静さを欠こうとしているわ。」

 

「ぴぇ……。」

 

 ドアの請求書を手にしてニコリと笑うお義母さん。だけどその後ろの般若はシャドーボクシングをしており、その相手が誰なのか想像するだけで身がすくむ。

 

「なぁ、お前らには何が見える?アタシは般若。」

 

「俺は縄で出来た龍。カッケェな。」

 

「nice boat.」

 

「スペ!いつの間に復活……してねぇな。ほら、まだ寝とけって。」

 

 後ろでわちゃわちゃしているが切実に助けて欲しい。一人でも間に入ってくれると僕は一生感謝するよ?

 そんなことを考えているうちにお義母さんからの圧が更に強くなる。こ、こうなりゃ僕の秘策を使うしかない。

 

「お義母さん!あっちでお義父さんが呼んでるよ?」

 

「あら?そうなの?」

 

 お義母さんが他所を向いたと同時に駆け出す。このまま逃亡してほとぼりが覚めた後に戻って謝ろう。確か怒りは六秒がピークだったはず。既に六秒経っている気しかしないが時間をおけば多分何とかなる。

 

「あらあら、ダメよラモちゃん。」

 

 そんな僕の思惑は一瞬で消えた。お腹に巻かれた縄によって。お義母さんいつの間に縄を投げてたの!?

 

「あ、あれは!?縄道奥義!蛇縄操縛!蛇のような縄捌きによって相手に気付かれずに縛る秘伝の技!!」

 

「へ〜、あれってそんな凄い技なんだ。ゴルシはよく知ってたね。」

 

「いや、今適当に考えた。」

 

「へ?」

 

 ズルズルと縄で引き寄せられ、目の前にはすっごいいい笑顔のお義母さん。ひぇ、綺麗なのに怖い。

 

「それじゃあ帰りましょうか?皆さんに挨拶しましょう?」

 

「シャイ……。じゃなくてハイ。それじゃあまたね、みんな。あ、テイオーと沖野トレーナー!前にも話したけど食べ放題は明日だからね!」

 

「バイバイ、ラモ。明日は楽しみだね!」

 

 テイオーたちに手を振って別れる。明日は待ちに待った食べ放題である。とっても楽しみだね!

 

「その前にラモちゃんは帰ってから説教ね?」

 

「……ひゃい。」

 

 

 

 

 

 

「……ところでトレーナーさん。食べ放題ってなんですの?」

 

「あーそれはだな……。テイオー、説明は任せた……っていねぇ!逃げやがった!」

 

「あ、ちょっ、待て!お前ら!話せばわかる!アーーーー!!!」




アプリ世界のドア開け手段を現実でやってしまいお義父さんのところに戻った後にしっかりと説教される。なおその後ろでずっと光悦な表情をしているウマ娘がいるみたいですよ?


以下妄想

ホラーゲーム【食いしん坊】

 ウマ娘の運営が配信した盆休み期間限定でプレイすることができるホラーゲーム。給料前の貴方はお腹を空かせた担当ウマ娘たちに捕まらないように帰宅しましょう。
 基本的にはエリアを徘徊するウマ娘たちから逃げながらアイテムを集めて帰るという感じ。ホラーゲームあるあるの玄関の鍵がかかって出れないとかそういうものは一切なく、帰ろうと思えばいつでも帰れる(何もしないまま帰るとバッドエンド直行)

ゲームクリア条件

バッドエンド…ウマ娘に捕まる。必要アイテムを集めずに帰宅する。このエンドになると画面が暗転してから貴方を捕まえたウマ娘たちが貴方と貴方の財布を手に持って談笑しながら高級店に向かう画像で終わる。帰宅の場合はその画像が入る前に部屋でゆっくりしている貴方がインターホンの音で玄関に向かう動画が流れた後に暗転、先程と同じ画像になる。

ノーマルエンド…必要アイテムを収集した後、帰宅。家でゆっくりしている貴方の画像で終わる。おや、窓の外からこちらを覗き込んでいる子たちがいますね?

ハッピーエンド…二人以上のウマ娘を満腹にした後、必要アイテムを収集してから帰宅。貴方が振る舞う料理を笑顔で食べているウマ娘たちとそれを笑顔で見つめる貴方の画像で終了する。エクストラモード解放。


エクストラモード…別名挑戦モード。チュートリアルで犬神家をしながら操作方法を教えてくれるウマ娘がこのモードだけ存在せず、代わりに徘徊するウマ娘の中にライスシャワーに似たウマ娘が追加される。
 一度見つかれば凄まじい速度で一瞬で捕まる。運良くドアを閉めても即座に破壊されるし、隠れても必ず見つかることから見つかってからの逃亡は不可能。見つかってしまうとエクストラモードのみで手に入る【ゴルシの屋台(出動)】【お義母さんの電話番号】が必要。そのうち【お義母さんの電話番号】はそのウマ娘を本プレイから退場させれる最強アイテムとなっている。
 なお、このモードで徘徊ウマ娘をライスシャワー、トウカイテイオー、メジロマックイーンに設定して【お義母さんの電話番号】を使用せずにハッピーエンドクリアすると特殊エンディングを見ることができる……らしい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。