アプリ産です。通っていいですか?   作:フドル

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誤字脱字報告ありがとうございます。
冷静に考えたらこの程度のネタって要らなくね?ってことでバッサリカット。かなり短くなったのでこれぐらいなら前回の話に入れれたなぁと一人反省。他にも色々反省するところはあるけど……。
 今回は半分以上がレースです。やっと書けた。


夏ですよ!海に行きましょう!後編+α

「あ、来た来た!テイオー!こっちだよ!」

 

 お義母さんから恐怖の説教を受けた次の日、僕は事前に決めた待ち合わせ場所でテイオーを待っていた。暫く待っているとテイオーが見えたので手を振ってテイオーに僕の存在を主張する。

 

「ラモ、待った?」

 

「ううん、全然。早速行こうかって言いたいけどちょっと聞いていい?」

 

「大体わかってるけど何かな?」

 

「後ろのみんなはどうしたの?」

 

 テイオーの後ろには笑顔のチームスピカのみんなと脚を縛られ、麻袋に入れられてゴルシに担がれている沖野トレーナー。沖野トレーナーはチケットを持っているからわかるけど後ろのみんなはなんだろう?

 

「食べ放題のことを知ったから連れていくことになっちゃった。」

 

「それはいいんだけどチケットは僕ら三人分しかないよ?お金はどうするの?」

 

「トレーナーが払うってゴルシが言ってたよ。」

 

 そのテイオーの言葉に麻袋の中の沖野トレーナーがフゴフゴと声を漏らしながら暴れている。あれって絶対沖野トレーナーの許可を取ってないよね?大丈夫なのかな?けど彼のことだし直前になったらなんやかんや奢りそうだ。

 

「まぁ、テイオーたちが問題ないって言うなら僕からは何も言わないけど……。それじゃあ、行こっか?」

 

 沖野トレーナーの貯金に冥福を祈りつつ、店の方へ向けて歩き出す。初めての食べ放題だ。最初は軽く店のメニューを全部食べてから、気に入ったものをまた頼むって方針でいいかな?

 

 

 

 

 そんなこんなで本日は貸し切りと張り紙が貼ってある店に着いたんだけど、ここの店は他の店と空気が違う。何というか、店員一人一人が常在戦場みたいな空気を持っている。特に凄いのはこちらからも見える厨房の真ん中で腕を組んで目を瞑っている恐らく店長のお婆さん。

 そんなお婆さんがゆっくりと目を開いて僕たちを流し見た後にニヤリと笑う。なるほど、僕ら程度なら大丈夫ということか。ならば僕も全力で食べないと失礼というもの。

 

「メニューです。ご注文が決まりましたらお呼び下さい。」

 

 沖野トレーナーがウマ娘一人当たりの食べ放題金額にムンクの叫びポーズを取っていたが無視して店員からメニューを受け取り、ざっと中身を見る。

 メニューは豊富でどれも美味そうだ。事前に店の評判を調べていたけど、評判に違わず期待できそうだ。

 

「みんなは決まった?」

 

「決まったけど、ラモはどうするの?メニューまともに見てなかったけど……。」

 

「僕は決まっているから大丈夫だよ。それじゃあ呼ぶね?」

 

 ベルを鳴らして店員を呼ぶ。テイオーたちが注文を伝えていき、僕の番になる。

 

「ここからここまで、全部下さい。」

 

「………!かしこまりました。」

 

 僕の発言に注文を取りに来た人が一瞬だけ驚くもすぐに元の表情に戻る。まるでこの注文が来ると分かっていたかのように。

 注文が厨房に届き、向こうが少し騒めく。お婆さんが僕に目を向けたのであえて挑発的な目を向けるとフン、と鼻を鳴らしてすぐに調理に取りかかった。食べ切れるかどうかを一切疑わないその動きについ感嘆の声が漏れてしまう。

 

「トレーナーさん……!」

 

「ダメだスペ。それだけはダメだ。」

 

 その手があったか!と目をキラッキラに光らせて沖野トレーナーの方を見るスペさんを止める沖野トレーナーを見ながら料理を待つ。きっとここの料理は美味しいんだろうな。楽しみだね。

 

 

 

 

 

「はぁ……今月がもうピンチだ……。」

 

 会計を済まして肩を落としながら歩く沖野トレーナーを見ながらお腹を撫でる。まさか一度も料理が途切れないなんて思わなかったな。

 今まで行った店は後半になればなるほど料理が届くのが遅くなるのにあの店にはそれが一切無かった。他に客がいないのもあると思うけどそれでも凄いと思う。会計の時に厨房で拳を掲げていたお婆さんが凄く印象に残っている。

 

「ラモはこの後はどうするの?もし暇ならボクらの方に来る?」

 

 人気店な訳だと一人納得しているとテイオーから話しかけられる。僕としては是非とも行きたいけど今日は予定がある。

 

「ごめんね?テイオー。今日はお義父さんの担当の子のトレーニングを手伝う予定なんだ。」

 

「そっかぁ。残念だけど仕方ないね。」

 

 残念そうなテイオーに申し訳ない気持ちになるが、僕はお義父さんの手伝いをすることを条件にここに滞在しているのでそれを破ってテイオーのほうに入り浸るわけにはいかない。

 だけどアクセル全開状態のあの子の相手は疲れるんだよなぁ……。

 

「あー、ライスモドキ。ちょっといいか?」

 

「何かな?沖野トレーナー。」

 

 胴体だけを縄で縛り、縄の先を犬のリードみたいに僕に掴ませて興奮しながら加速する彼女の姿にゲンナリしていると立ち直った沖野トレーナーから声をかけられた。

 

「よければなんだが、そのトレーニングについて行ってもいいか?ダメならそれでいい。」

 

「合同トレーニングってこと?なんで急に?もう八月だしちょっと遅い気がするんだけど……。」

 

 これは素直な疑問。合同トレーニングをするならもっと早くからするもんじゃないの?

 

「合同トレーニングを最初はするつもりはなかったからな。しかし、だ。上島さんの担当を見て少し気が変わった。スペたちには持っていないものを持っているようだし最近はトレーニングがマンネリしてきてるからいい刺激になると思ってな。」

 

 持ってないもの?Mモードのこと?確かにテイオーたちには持ってないけど持ったら大変なことになるよ?大丈夫?今月のピンチに頭ハンバーグになってない?

 そうなっては大変なのでとりあえず否定よりの返答をしようとした僕の頭に電撃が走る。あれ?みんなが来たらあの子のMモードは発動しなくなるんじゃない?ああ見えてあの子は人目がある時はあの状態にならないし……。逆にいえば人目がなければ全力で発動するんだけどね。

 最近は人がいても数人ならその人たちの死角に入って発動するし、着々とトレーニングの成果が出て僕は感心だよ。僕の手に縄を握り込ませに来なければね!!

 

「まずはお義父さんに聞いてみるね?多分許可は出ると思うから着替えたら迎えにいくよ!」

 

 是非ともテイオーたちには来ていただかないと……。なんならテイオーたちを巻き込んで併走すればあの子のMモードを避けれるかもしれない。

 テイオーたちと手を振って別れて急いでお義父さんのいる場所に向かう。僕の全力の走りならすぐに目的地につけた。

 

「ただいま!お義父さん!あのね──」

 

 

 

 

 

 

 

 結論からしてお義父さんの許可を取れて合同トレーニングが開始された。沖野トレーナーやテイオーたちが加わったことでトレーニングの内容が結構変わった。

 

「はははは!行け!テイオー!ラモにハリボテアタックだ!」

 

「うわっ!何こ──、この触り心地、香り、形……ハリボテじゃん!しかもあと少しで第一コーぶへぇ!?」

 

「ゴルシちゃん大勝利!大丈夫、峰打ち「そのまま行かすと思う?」ぶほぉ!?」

 

「ふふーん、ラモもゴルシもおっさきぃ「ここまで来たらテイオーも道連れだよなぁ?」ふべぇ!?」

 

「何をしていますの?貴方たち……。」

 

 テイオーを使って僕にハリボテを被せ、転倒させてきたゴルシを道連れにし、その僕らを見て隣を通ったテイオーをゴルシが道連れにしてマックイーンに呆れられたり。

 

「はぁ、はぁ、お姉さま、この縄を思いっきり引っ張って下さい。」

 

「!?なん……だと……?こんなにいるみんなの死角を縫って僕に近づいてきた……だと?」

 

「大丈夫です。お姉さまは引っ張るだけでいいんです。」

 

「良くないよ?周りを見よ?みんなに見られるのは嫌だって前に君が言ってたでしょ?」

 

「考えてみたんです。確かに今でも見られるのは嫌ですが、多人数に見られて軽蔑の目を向けられると思うとなにかゾクゾクしてくるんです。それにこの状況でお姉さまに私を縛る縄を持たれているスリル感が堪らなくて……あぁん!お姉さま!こんなところでダメです!みんながこちらを見てしまいます!そういうのは是非とも夜──。」

 

 なんかお義父さんの担当ウマ娘が変な方向に更に進化したり。思わず軽蔑の目を向けた僕は悪くないと思うな……。それさえもあの子は喜んでしまうから意味ないんだけど……。最近の悩みは軽蔑や蔑み、見下すような目が上手くなったことだよ……。

 

「ゴルシちゃんが頼まれたものを買ってきたぜー!」

 

「わーい!僕のたい焼……き?」

 

 ゴルシが買ってきたたい焼きが僕だけ鯛焼きだったり。いや、美味かったからいいんだけどさ……。

 そんな感じで夏休みは過ぎて行った。

 

 

「今日で合宿は終了だ。成長を実感していない者もいるだろうが断言する。確実にお前たちは強くなった。今はわからなくてもレースでこの実力は確実に出てくるだろう。」

 

 夏休み最終日、最後のトレーニングを終えて沖野トレーナーがみんなと話してるのを見ながら海の家で買ってきたアイスを食べる。お義父さんたちは別件で離れているため、僕が合同トレーニングの関係者としてここにいるって感じだ。みんなが解散して帰宅を始めたら僕もお義父さんたちと合流して帰る予定になっている。

 

「それじゃあ、最後の締めは……。テイオー、お前に任せた!」

 

「えぇ!?ボクなの!?うーん………。ラモ、ちょっと来てもらっていい?」

 

 ボケーとテイオーたちを見ているとテイオーが僕を呼んだのでアイスを食べきってキチンとゴミ箱に捨ててからそちらに向かう。

 

「えーと、今年の締めはボクことトウカイテイオーがするよ!ラモ、もう少しだけ近づいて……うん、ここでいいよ。」

 

「それじゃあいくよ!はちみつご飯!!!」

 

 テイオーが僕に抱きついてきた。うん、ここからどうするのかな?

 

「………テイオー、それだけか?」

 

「え?そうだけど?」

 

 周りが静まって、波の音と遠くから別のチームの号令が聞こえてくる。テイオーは僕に抱きついたままみんなを見ている。

 

「よし、解散!」

 

「えぇ!?ちょっと待ってよ!ここはみんな笑うところじゃないの?え?本当に荷物纏めちゃってる!?ミンナマッテヨー!」

 

 なんとなくスピカっぽい終わり方だなと笑ってしまった。

 

 

 

 

 

「はう……!」

 

「えっ?急にどうしたんですか!?えっと、こういう時はどうしたらいいの?救急車?」

 

「ほう……、尊死ですか……。なかなかやるわね。」

 

「あ、貴方は!?」

 

「尊死とはあまりに素晴らしいものを見てしまったものが天に昇りそうになる……。つまり昇天をかけて作られた言葉ですね。デジタルは全てのウマ娘のファンを自称していますが些細なことで尊死をする……。それはその些細なことで昇天してしまうほどウマ娘を愛している証明にもなります。更に──。」

 

「あの、それは分かったのでどうしたらいいんですか?この子のトレーナーさんですよね?」

 

「おっと失礼、では担架を二つと人を呼んできてほしいわ。」

 

「二つ?一つではなくて?」

 

「それはね?私も倒れるから……よ。」

 

「え?えぇ!?ちょっと!?しっかりしてください!ねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで夏休みの合宿が終わり、帰宅。お義父さんが担当する子も最後の姿は確かに最初と比べたら成長していると実感できるほど変わっていた。中身はノーコメントで。道を歩いてると電信柱の影からニュルっと出てきそうで怖いんだよね……。

 あの子の別方向の進化に身震いしながら帰宅した時に届いていた僕宛の届け物を開く。そこに入ってあった紙に僕は衝撃を受けた。

 

「こ、これって……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『前回のレースは波乱でしたねぇ……。』

 

『そうですね、色物枠のくぁwせdrftgyふじこlpとヌベヂョンヌゾジョンベルミッティスモゲロンボョ……通称ヌベスコは強敵でしたね。まさか私たちに勝負を仕掛けてくるとは思いませんでした。』

 

『仮名オーケールールも極まってきましたね。一切噛まずに実況した時は思わず拍手をしてしまいました。ですがこれで知名度が広がったのか今回は何と!地域限定ですがテレビ中継がされております!』

 

『今同じことをしろと言われたら絶対に無理と言いますね。……そろそろ時間ですし始めましょうか?』

 

『分かりました。……さぁ、始まりました!色物レースのお時間です!今回のルールは被り物をしていること!ですが出走ウマ娘全ての被り物が一致したとのことです!』

 

『更に今回は全員が色物枠ということで今からこのレースの混沌具合が目に浮かびます。』

 

 いつものハリボテの中で実況の声を聞いていると驚きの情報が出てきた。全員同じ被り物ということはつまり……。

 

『それでは早速紹介しましょう!今回は全員色物ということで番外呼びは無しです。それでは一番ハリボテボーイ。』

 

 呼ばれたので出て行く前の子について行く。今回の僕は後ろなのだ。理由は色々あるけど一番の理由はアレをするには後ろの方が都合がいいのだ。本当はハリボテネイチャーを作りたかったんだけど短い期間で藁を調達出来なかった……。

 

「僕が誘っといてなんだけど、本当に良かったの?お姉ちゃん。」

 

「うん、ライスも走りたかったから……。」

 

「お姉ちゃんのトレーナーは?」

 

「問題ない。俺はお兄さまんだからな。」

 

 僕たちの解説と送っておいたメッセージの紹介を聞き流しながらライスシャワーさんに最終確認を行う。一応リスクとか色々話した後にお願いすれば少し悩んだけど了承してくれた。

 ライスシャワーさんのトレーナーは騎手はどうしようかな?って悩み始めた時に窓を開けて話は聞かせてもらった!俺に任せろ!と言ってきたので任せた。当時の僕たちがいた場所が男子禁制だったので速やかに蹴り落としたけど僕は悪くない。

 それからこのトレーナー、どこから聞いたか知らないけど僕が自身のトレーナーにあたる人の呼び方を自分に言ってくれとお願いしてきた。

 嫌だしこの人はライスシャワーさんのトレーナーなので断ったけど何故か自分のことをお兄さまんと言い出したのでそのまま放置している。別に害はないからね。

 アレをする都合上、念のためライスシャワーさんのトレーナーには縄を括り付けて僕に繋げてある。これで仮に落バしてもゴール出来るはず……。

 パドックで一通り動いてから引っ込む。ここからは他の子たちの紹介だ。僕は誰も見てないので楽しみである。

 

『二番、ハリボテチャリデキタ。第一回に出走した色物枠がハリボテ種として再登場。チェーンの改造は出来たのでしょうか?』

 

『私にはプラカードが増えただけに見えますが気のせいでしょう。』

 

 パドックに入ってきたのは見たことがあるママチャリに乗ったウマ娘。前と違うところはプラカードを増やし、ママチャリの周りをダンボールで囲んで本ウマ娘の頭にハリボテ頭が装着されているところだろうか?

 

『三番、ハリボテゾンビ。世にも珍しいハリボテ種の不死種です。走れば走るほど身体が崩壊しているがレースを走り切れるのでしょうか?』

 

『今も頭が取れましたね。修復スピードは速いようなのでレース中の崩壊と修復が均衡させることが鍵となるでしょう。』

 

 次にきたのはボロボロのハリボテ。パドックのアピール中に頭がもげたが中に縄がついており、それを引っ張ることで元の位置に装着。その後にガムテープで直す音が聞こえた。こんなにもげるってガムテープは養生かな?後で粘着テープをあげようかな?

 

『四番、ハリボテキメラ。こちらもハリボテ種で初確認の多頭種ですね。その四つ首をどう動かすのか?期待がかかります。』

 

 今度はハリボテ頭が四つついたハリボテ。中から操作しているのかかなり精密に動いていて本当の生物のように見えるが、悲しいかなウマ娘には腕は二つしかなく、ハリボテ頭の二つは常に沈黙している。

 けど口が開いた時に奥にチラッと何か見えたからアレがギミックかな?

 

『五番、ハリボテペガサス。ハリボテ種の有翼種です。その翼で勝利の青空に羽ばたくことが出来るのか?』

 

『私的には後ろ脚付近につけているキラキラを出す装置が気になりますね。』

 

『エフェクトも大事ということなのでしょう。』

 

 後ろにキラキラとしたエフェクトを出しながらダンボール製の翼を持った白いハリボテが入ってくる。翼はダンボールだと思わないほど違和感なく動いており、その気になれば空へと自由に飛びそうだ。

 

『六番、ハリボテジェット。後ろのツインジェットで勝利まで一直線か?私一押しのウマ娘です。』

 

『なんか暴発しそうなイメージしかないんですけど大丈夫ですか?』

 

 元気いっぱいのハリボテが入ってくる。二人いる中身のウマ娘自身が小さいからかハリボテ自体は小柄だが、その体躯には似合わないジェットエンジンを搭載している。超音速の戦闘機につけられているものをハリボテにつけられるようにかなり小型にしたようなものだがなんだろう?既に嫌な予感しかしない。

 

『安全性はしっかりと確認したらしいです。では最後です。七番、ハリボテユニコーン。こちらはハリボテ有角種のようですね。二番以降の濃い面子が続いていたのでなんだか安心感を覚えます。』

 

 最後は本家ハリボテにダンボールの角をつけたハリボテ。パッと見た感じ何もなさそうだけど実はギミックがあったりするのかな?角が飛ぶとか?歩く姿は気品が溢れており、中身はきっとお嬢様系のウマ娘なのだろう。

 

『以上が出走ウマ娘たちです。八番に予定していたハリボテーンγですが、中身が前日に食べた牡蠣にあたってしまったため、出走取り消しとなっています。』

 

 紹介が終わったみたいなのでゲートに移動する。ハリボテーンγってどんな姿だったんだろう?少し気になったが来れないものは仕方ない。次に期待だね。

 『デースデスデス。やっちゃったデス。』となんか鮮明に聞こえてきた幻聴とテヘペロポーズを無視してゲートに入る。今回は後ろで走るのでいつものような大逃げは出来ないが大した心配はしていない。みんなハリボテで中身が三人のハリボテとか僕たちみたいに騎手がいるハリボテはいない。つまりお約束が起きるのは確定だ。

 

『ところで今回のレースがハリボテ種のみということで急遽作ってみたんですがこれをどう思います?』

 

『これは……。ハリボテ頭ですね、よく出来ていると思います。』

 

『装着して……と。よし、何だか今走ると風になれそうな気がしますね。』

 

『ハリボテの恩恵ということでしょう。さぁ、各ウマ娘。ゲートインが完了しました。』

 

「お姉ちゃん、好きに走っていいからね?」

 

「うん、分かった。頑張るね?」

 

『スタート!早速ハリボテチャリデキタが遅れている!!』

 

『そこの改良は出来なかったようですね。』

 

 走り出すライスシャワーさんの後ろを寸分違わずついて行く。今回は後ろということもあり周りに目をやる余裕もある。

 

『今回は突出するウマ娘はいないようですね。』

 

『えぇ、今までのレース史上、初めての落ち着いたスタートです。』

 

 実況の解説にそういえばいつも大逃げで爆走してたからなぁ、と一人納得する。だけど僕がいない間にも何回かレースがあった筈だしその間にも波乱があったのかな?個人的にはヌベスコさんがどんなウマ娘だったのかすっごい気になる。

 

『さぁ!魔の第一コーナーが近づいて来ました!今回のハリボテたちは乗り越えることが出来るのでしょうか!?』

 

『多分無理じゃないですか?』

 

 片方の実況は既に諦めムードだ。いやいや、そこはもうちょっと期待してほしいね!もう既に脚が滑って転倒寸前の僕がいうのも何だけどさぁ!!

 

「ブヘァ!!」「きゃあ!」「お兄さまん!!」

 

 誰だよ最後。いや分かるけど。先頭の僕たちが転倒したのを皮切りに続々と後続のハリボテが転倒していく。知ってた!

 

『転倒、転倒、転倒!ぜーんぶ転倒!ちょっ、カメラ止めてください!』

 

『やはりコーナーでコーナーってしまいましたね。』

 

『…………』

 

『………失礼しました。私も転倒してしまったみたいです。音声さん、彼女たちが復活するまで私の言葉にもノイズを入れ◯☆♪→¥$2€。』

 

『ありがとうと言っております。……画像はひまわり畑のようですね。日光が降り注いでおり、大変気持ちよさそうです。』

 

「やっぱりこうなってしまうよね。」

 

 実況が場を繋いでいる間に起き上がり、ハリボテを拾う。ざっと状態を確認してみるけど特に問題は無さそうだ。

 

「お姉ちゃんは大丈夫?回転しておにぎりになってない?」

 

「うぅ、ごめんなさい。ライスのせいで……。」

 

「これは祝福だからお姉ちゃんは関係無いよ。ほら、立って?」

 

 ライスシャワーさんに手をやって起き上がらせる。トレーナーはまだ転がっているけど僕と縄で繋がっているし引き摺ればいいや。

 周りに目をやれば死屍累々としていた。それでも徐々にみんな起き上がってきているからこっちも問題はなさそう。

 

「いった……くはないわね。うわ!被り物が壊れてるじゃない!どうしよう……。」

 

「あ、これガムテープと補修用のダンボールだよ。使うでしょ?」

 

「あら?いいの?ありがとうね。」

 

 ユニコーンの中の人に前もって用意していたダンボールとガムテープを渡す。色は茶色だけどそこは許してほしい。

 

「みんなも補修用のダンボールとガムテープはまだまだあるから安心して!取り敢えず直しながら進もう。みんなの補修が完了したらレースを再開ってことでいい?」

 

「「「「「「異議なーし!」」」」」」

 

 周りから賛同を得たのでみんなでノロノロ歩きながら進む。ハリボテゾンビさんには粘着テープを渡したけど養生の方に拘りがあるらしく拒否された。残念。

 

「こちらのハリボテは損傷がないんだろ?走ってもいいと思うが……。」

 

 未だに僕に引き摺られているライスシャワーさんのトレーナーが周りの様子を見て疑問の声を出す。いや、いつまでも引き摺られてないで立ち上がってほしいんだけど?

 

「ダメだよ、お姉ちゃんのトレーナー。こういう場合はみんなで行かないと。それともこういうのは嫌だった?」

 

「いや、ライスモドキがそういうなら文句はない。俺はお兄さまんだからな。」

 

 僕の中でライスシャワーさんのトレーナーが何でもかんでも許容する人物に見えて来たんだけどこの人大丈夫なのかな?将来連帯保証人にされそうな気がするんだけど?だけど僕とライスシャワーさんの時にだけこうなっているのでそれ以外は大丈夫……かな?

 

「これで完了!っと。他のみんなはどうかしら?」

 

 人の将来を勝手に心配しているうちに最後の補修作業が完了したようだ。みんなに目をやると頷きがかえって来たので立ち止まり、審判に向けてみんなで緑旗を振る。

 

『ん?映像が戻りました。おぉ?いつの間にここまで進んだのでしょうか?』

 

『$€%#<|^\×÷++○*:々〆〒。あー、あー、あー、戻りましたか。音声さん、ありがとうございます。』

 

 向こうも無事に復活したみたいだ。スタート方法をどうしようかと悩んでいると旗を持った審判が走り寄って来て僕たちの横で止まった。

 

「旗を下ろしてスタートとします。異論は?」

 

「なし。みんなは?」

 

 一応周りに確認を取るけどみんな異論なし。一列に並んで再びスタートの体勢になる。

 

『各ウマ娘、再びスタート体勢に入ります。スタート!今度は綺麗なスタートだ。』

 

『チャリデキタも今度は遅れずについていけています。』

 

 みんなで走り出し、暫くするとハリボテジェットが先頭に躍り出た。

 

『ハリボテジェット、ここで一気に離しに来た!ハリボテ腰部のダブルジェットにも火が入り、早くもスパート体勢だぁ!』

 

 最後にハリボテジェットが僕たちの方を向いてハリボテ頭越しなのでよく分からないけど勝利を確信した顔になった後、ジェットを稼働して飛んでいった。ハリボテだけ。

 

『どこいくねーーーん!!!』

 

『どうやら自分たちを繋いでおくことを忘れていたようですね。被り物を失ったため、失格です。』

 

 ハリボテが空へと飛んでいき、活動限界が来たのかパラシュートを開いて落下してくるのをポカンと眺める中身の二人。うん、分かるよその気持ち。

 

『順位を振り返っていきます。先頭はハリボテボーイ、その後ろにハリボテチャリデっとここで転倒!蛇行運転はするものじゃない。ハリボテペガサスに変わります。その横にはハリボテユニコーン、よくペガサスと混合されるので敵対心が滲み出ている。少し離れてハリボテゾンビ、頭の回収が間に合っていない。その更に後ろにハリボテキメラ、ハリボテジェットの中身を吸収している。』

 

「え?吸収って何?」

 

 実況の言葉を流し聞いているとなんか変な言葉が聞こえてきた。チャリデキタの転倒はともかく、吸収って何よ?

 少し無理をして後ろを見ると確かに吸収されていた。一人を飲み込むことで手が増えてハリボテキメラの四つ首が完全に起動した。それでテンションが上がったのかそういう設定か知らないがハリボテキメラの口がそれぞれカラフルに光って加速を始める。

 

『ここでハリボテペガサスが羽ばたいた!飛ぶか?飛ぶか?この青空へ羽ばたくことが出来るか!?……飛んだぁーー!!!落ちたぁーー!!!身体が重すぎた!!』

 

『飛ぶだけで凄いですがあのエフェクト発生装置が重りになりましたね。重いのは装置であり、きっと中身は軽いはずです。はい。』

 

 落ちた衝撃で装置がイカれたのか凄いことになっている。具体的にいえば輝きすぎてただでさえ白いハリボテが更に白くなっている。

 

『翼が折れましたがどうするのか?おっと、白旗。ハリボテペガサス、リタイアです。』

 

『ペガサスのままゴールしたいということでしょう。次走に期待ですね。』

 

『ですね、では実況を続け……おぉっと、少し見ないうちにハリボテキメラとハリボテゾンビが一体化しているぞ!何があったのか!?』

 

『ハリボテゾンビの頭がハリボテキメラに絡まっていますね。どうしてそうなったのか?というか縄が長すぎません?』

 

 本当にどうしてそうなったのか?ハリボテゾンビの縄がハリボテキメラの全身をぐるぐる巻きにしている。キメラお得意の四つ首も縄で綺麗にまとめ上げられ一つになっている。

 

『奇妙な二人三脚……何人何脚か分かりませんが共同作業を強いられています。ここから挽回なるか?』

 

『ハリボテゾンビも何とか頭を回収しようとしていますが余計に絡まっていますね。あ、転倒した。』

 

 とうとう脚が絡まったのかキメラとゾンビが仲良く転倒する。その衝撃でゾンビのハリボテ頭が意味のわからない動きをして完全に縛りあげた。

 

『ここで仲良く縛られたぁ!動くことができない!抵抗するが余計に絡まっていくぅ!!』

 

『こうなってはどうしようもないですね。しかしリタイアの意志は見せていないので続行です。』

 

 実質リタイアみたいなものだけど彼女たちは諦めるつもりはなさそうだ。ごろごろ転がって前に進んでいる。

 さて、そろそろレースも終わるけどアレをやるべきか?僕的には今すぐ始めてもいいがまだユニコーンが何をするか分からない。ここまで来て何もしないとは思わないし僕の勘も彼女たちは何かすると囁いている。だけど僕がアレをすることは最後じゃなければならないというルールはない。

 

「……よし!お姉ちゃん、失礼するよ!お姉ちゃんのトレーナーもしっかりしがみついててね!」

 

「え?きゃあ!」「うおっ!?」

 

 力任せにライスシャワーさんを持ち上げ肩車をする。そのまま観客席の方を向き、硬直する。

 

「驚きましたわ。奇しくも同じ体勢だなんて!」

 

「それは僕もだよ、ネタが同じだったなんて……。」

 

『これは!?二人とも同じ走りだァァァァァァ!まさかのネタ被り!どちらが勝者となり元祖の冠を被ることが出来るのか!?』

 

 観客席の方を向いた僕たちを待っていたのは全く同じ体勢で僕たちの方を向いたユニコーンだった。

 

「あなたたちは私の舞踏走りについて来れるかしら?」

 

「何言ってるの?これはスシウォークだよ!それに君は上のほうじゃん!」

 

「それを言ってはいけないわ!」

 

 お互いに横走りをしながら睨み合う。この勝負、本物を知るものとして負けるわけにはいかない!

 

「お姉ちゃん!もっと腕を横に振って!!」

 

「こ、こう?」

 

「そうそう、いいよいいよ!」

 

 ライスシャワーさんが手を振り子のように動かし始めたのを見て加速する。言っただけで通じるなんてやっぱり本来の持ち主と同じで米の名がついてるから伝わりやすいのかな?

 

「負けてられないわ!ほら!あなたもスピードを上げなさい!」

 

「ひぃぃぃぃ、無理ですよお嬢様〜、そもそもお嬢様は重「はぁ?」何でもありません!!」

 

 向こうも上のお嬢様の凄みを受けて加速する。むむっ、なかなかやるね。ところであの従者らしい人お嬢様のこと重いって言いそうに……あ、いや、何でもありません。

 僕の考えを読んだのか上のお嬢様が睨んできたので思考を切り替える。今は拮抗しているけどこれは僕の勝ちだね。ちょくちょく練習して余裕綽々の僕と違って向こうの従者は既にキツそうだ。だからその内……。

 

「ごめんなさいお嬢様〜!やっぱりむ〜り〜で〜す〜!」

 

「えぇ!?もっとシャキっとしなさい!あ、スピードが落ちて来てるわよ!」

 

 こうやって失速する。後ろの子がへばった時点で僕の勝ちなのだよ!

 

『これがスシウォーク!元祖のスシウォークだ!』

 

 これでみんなはほぼ全滅、僕たちの勝ちだね!このままの体勢でも十分ゴールまでもつからみんなにライスシャワーさんの可愛い姿を見てもらいながら走っていこう。

 そんな僕が勝ちを確信している時にとある音が耳に入ってくる。

 

プププププープー、プププププープー、プープーペーペーペー

 

「こ、この音は!?」

 

 ほほ勝ちが確定する音の発生源を探して横走りをしていることで見やすくなった後方を見ると一体のハリボテが上がってくる。

 

『来たぞ!来たぞ!ハリボテチャリデキタが上がってきた!!プラカードを改造して完成体となっている!!!』

 

「なるほど!あのプラカードにはそういう使い方があったのか!」

 

 ママチャリ前面にハリボテ頭を移して車のように見えるハリボテが僕たちに迫る。ついでに音の発生源はハリボテ頭。

 

「こうなれば!お姉ちゃん!腕を回して!ターボだよ!」

 

「えぇ!?え、えーい!」

 

 僕の言葉にライスシャワーさんがやけくそ気味に腕を回す。目をつぶって必死に腕を回している姿にほっこりしてしまうが、すぐ後ろまでチャリデキタが近づいて来てるので僕も加速しよう。

 

『ハリボテボーイ!腕を回した!スシウォークターボだ!一気に加速したぁ!ハリボテチャリデキタを引き剥がしにかかる!』

 

 よし、これで少しは余裕が出来た。だけど横走りとはいえ、ほぼスキル抜きの僕の全力について来れるなんて流石に驚くよ。

 とはいえゴールまではあと少し、ここで油断したり慢心すれば負けることを僕はよく知っている。なので!

 

『ハリボテボーイが回った!スピンしている!騎手も回った!更に加速だ!速い!速いぞ!!』

 

 思いっきりスピンして加速する。ふざけてるように見えるがこの姿だとこれが最適解なんだ。これでダメなら急加速はアスリート走りしかない。あ、トレーナーが落ちた。

 

『騎手が落ちた!だけどハリボテボーイは回っている!騎手もハリボテボーイを中心に回っている!スピン!アーンド!ゴーール!!!着地も決まったぁ!!!』

 

 最後にジャンプをして綺麗に着地を決める。元みたいにゴールを過ぎてもスピンを続けるのは流石にライスシャワーさんのトレーナーに申し訳ないので普通に走る。それでも地面に引き摺られているのは申し訳ない。

 

『ハリボテボーイがクルクル回る。世界も騎手もクルクルと。確定しました。一着はハリボテボーイ、二着はハリボテチャリデキタ……以上です。それではまた会いましょう!いなり寿司。』

 

「大丈夫?お姉ちゃんのトレーナー。」

 

「お兄さまんだからな……。」

 

「その言葉万能すぎない?」




オリジナル六体はかなりキツい!そしてそれを全部組み合わせるのが更にキツい!上手い具合にカオスに出来たのか……。ペガサスとか出オチ感が半端なくなってしまった……。
 あともっとレース中にライスシャワーと話をさせたかった。花嫁姿に脳が破壊されたけど私は元気です。

 あとすっごい申し訳ないのですがハリボテが転倒するのって第三コーナーなんですね。銀シャリを見直してる時に実況が話してて目ん玉飛び出るかと思った……。訂正すれば今までの話が変になるので本当に申し訳ないですが本SSでは第一コーナーで転倒するってことでお願いします。

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