Episode 1
―いつの間に寝てしまったのか、ふと気が付くとベッドの上にいた。
「あれ? 私……いつの間に……? というか見覚えの無い天上……?」
またいつもの夢かもしれない。
けれど、何かいつもの例の夢とは何処かが違う……。
やけに現実味を帯びているような気がする。
そしてそれ以上にどこか違和感が。
「……え? 何……これ……?」
無い……無いっ!
そこにあるはずのものが……っ!
「私の腕っ! 何処にいったのっ!?」
彼女の右腕があるはずべきところに無かった。
「何なのこれはっ……? こんなの……こんなの夢に決まってるわ!」
困惑する彼女。
夢にしては妙に現実味がある。
自分の腕が無いことに気が付き、一気に血の気が引き、視界の端が暗くなっていくのを感じた。夢にしては酷く現実味のある感覚が彼女を襲う。
「どういうことなのっ! どういうことなのよっ!」
訳も分からず叫ぶことしかできなかった
「っ!! 落ち着いてください! 師匠! 患者さんが目を覚ましました! パニックを起こしているので応援お願いしますっ!」
何が起きたのかも分からずパニックに陥った彼女は、後から部屋に入ってきた者達の制止を振り切ろうと激しく抵抗をする。
「やめて! 離してっ! ここはどこなの? 誰なのアンタ達はっ! 私の右腕はどうしたのよっ!」
「落ち付いてください! どうか私達の話を聞いてくださいっ!」
「やだ!返してっ! 私の腕返してよ! 蓮子は? 蓮子のところに帰して!」
状況がとにかく一切分からない。
いつの間にか寝ていて目を覚ましたら、自分の右腕が無くなっているというあり得ない状況に立たされれば誰だってパニックになる。
訳も分からないまま必死に抵抗をする。
だが、片腕を突然失った彼女はバランスがうまく取れず、加えて治療後なのか激痛と酷く体力を消耗していたため、制止を振り切ることはできなかった―。
しばらくして、何とか会話ができる程度には落ち着くことができた。
「突然のことでさぞ驚かれたでしょう……」
「はい……」
何とか落ち着いた彼女だったが、まだ自分の身に起きた事への収拾がついていない様子だった。
酷く落ち込む彼女に声を医者らしき格好をした女性が声をかける。
「まずはお互い自己紹介をしましょう。私の名前は『八意永琳』です。現状から察してはいるでしょうが、貴方を治療した医者です」
ゆっくりと丁寧な口調で説明をする永琳。彼女の性格なのか、どこか言葉がサバサバしているように聞こえる。
「混乱しているところごめんなさいね。貴方の名前を聞いてもいいかしら?」
「マエリベリー・ハーンと言います……。呼びづらいと思うのでメリーで良いです」
「そう、とりあえず身辺的な記憶に問題は無さそうね。ひとまず一安心ってところね」
今だに傷心している様子の彼女だが、永琳は言葉を重ねていく。
「貴方、大怪我をした状態で竹林に倒れていたのよ」
「竹林……どうして私は……?」
「やはり覚えていないですか……。取り敢えず色々起きて混乱しているでしょう。貴方のその腕についても……」
ふと視線が彼女の右腕だった場所にいく。
「私……私の腕は……どうなってしまったのですか……?」
震えた声で自分の身に何が起きたのか伺う。
答えなんて分かり切っている。
それでも彼女は、その事実を自分一人では受け止めきることが出来ずに問いを投げる。
「私の元に運ばれてきた時にはもう……。貴方の右腕は既に無くなっていた状態でした」
―分かっていた。
そんなこと分かりきっていた。
今更どうすることもできないことぐらい。
「あぁ…ぁぁ……」
嗚咽混じりに涙をこぼす。
顔を覆う手は片手しかなく、両目から溢れる涙はその半分しか受け止めることが出来なかった。
そんな彼女に、永琳は語り掛ける。
「一応、此処の者たちに探させはしましたが……。残念ながら痕跡すら見つけることができなかったの。まるで初めからそこに無かったように……。それでも貴方の傷は新しく負ったものだったわ。失血で命を落としかねない状況だったの」
信じられない話だったが、彼女の言っていることは真実であると何故だか確信を持つことができた。
彼女が嘘をついているようには到底思えなかった。
だからこそ、尚の事ショックが大きかった。
「結論を言うとね、貴方はおそらく外の世界から来た人間だと私は考えているの」
次から次へと信じがたい言葉が耳に入ってくる。
『外の世界』という言葉―
既に頭の処理が追い付いていないというところに、さらに追い打ちをかけられている気分だ。
だが、その言葉は何故だか妙に耳について離れなかった。
外の世界という言葉を聞き、以前夢の中で見た景色が頭の中ををよぎる。
ここはもしかしたら以前夢の中で見た世界なのかもしれない。
自分の夢の中で見た世界という誰が聞いてもメルヘンチックで到底信じてもらえない考えだが、このあり得ない状況を説明するには十分な回答だった。
―そうだ。きっとそうに決まっている。
こんなのどうせ夢なんだ。夢でなければいけないんだ。
そうじゃなかったらこんなことあり得ないじゃないか。
「辛いことを思い出させるようで申し訳ないけど。これは聞かないといけないことなの」
「ここに来る……前の記憶…………」
混乱する頭で一生懸命に思い起こす。
彼女の片腕がまだ無事だった時のことを―。