「永琳さん……貴方は一体……?」
「私は罪人です。万物に対して平等に訪れる理に背を向けた……。それは決して許されることではありません。今もこうして、その罪から逃れられることは出来ない……。文字通り一生ね」
「それは……貴方は死ぬことが出来ないということですか?」
彼女がこちらに振り向く。その顔は物悲しい表情をしていた。
つまりそういうことなのだろう。
「私は……、いえ。私達は禁忌に触れてしまいました。その代わりに得たのが『不老不死』という不治の病でした」
―不老不死
それは、死を恐れる者ならば魅力的な言葉だろう。
太古の時代から、それは人々に求められ続けられ、しかしそれは煙を手で掴むように、決して誰の手にも入れられることの無い御伽幻想。
「例えどれだけ時が経とうとも……例えどれだけ周りが移ろい変わっていったとしても……。決してこの身は果てることが無いのです。それが私に……、私達に科せられた罪なのです」
これが、不老不死を手に入れた者がする表情なのか。
それはまるで死者のように……。
「―そういうことなのね」
ふと、彼女の後ろから声が聞こえた。
「それがこの世界の理を壊していたのね……」
―巫女だ。
少し離れた距離で足を止めていた巫女から発せられた声だった。
その声は呟くように小さく、それでもはっきりと耳に届くほどに明確なものだった。
「ようやく見つけた……」
その目は『私』を見ていた。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ……。
「先ほども聞きましたが……やはりこの子が目当てなんですね。博麗の巫女」
「博麗の……巫女?」
その名前を聞いたメリーが繰り返すように呟く。
―さっきも聞いた名前だ。
何故だかその言葉には特別な何かを感じる。
この感覚は何なのだろうか……。
ふと、『博麗の巫女』と呼ばれた彼女が口を開いた。
「私は……私はこの世界を救う……。それが私の使命。それが私に科せられた―」
瞬間、再び巫女の手から針が放たれた。
不意を突かれた永琳は、メリーが見ている目の前で再び無数の針を体に受ける。
「……ぐっ!」
苦痛に表情を歪める彼女を見て分かったのは、『死なない』というだけで、他は殆ど人間と同じということだ。それはつまり、致命傷を受けるだけの傷を負ったらその分の『苦痛』を味わっていることになる。それでも、『死なない』という保証があれば、気が遠くなることも、死の絶望に打ちひしがれることも無いのだろう。
だが……彼女の痛々しい姿を見ていると……。
「世界を救うですか……」
体のあちこちに針に貫かれながら永琳が口を開く。
「確かに私は『あの日』に大きな異変を起こしました。姫を守るために。それは殆ど私のエゴでした。それでも……それでも私は姫を守りたかった。そのために私はこの幻想郷の月を偽物の月とすり替えました」
「月をすり替えたって……」
まるで御伽話を聞いているような感覚だった。そもそも、目の前にいるこの人物は不死を体現している。目や耳に入る情報の何もかもが『非常識』で普通じゃない。
「それでも私がやったのはあくまで月のすり替えなだけ。しかし、その日から幻想郷から月の満ち欠けが無くなってしまった。永遠と満月の夜しか訪れなくなってしまったのです」
「月の満ち欠けがですか?」
「そう。つまりそれは、この世界に『明日』が訪れなくなったということ。この世界は時の歩みを進めることを放棄してしまった。まるで私たち蓬莱人のように……」
その言葉を聞いて巫女が口を開く。
「そう、貴方達が居なければこんなことにはなっていなかった……」
「そうです。そして、博麗の巫女が居ればもっと違った未来があったのかもしれません」
「それは言い訳でしかないわ」
「居なくなったって……。いま私の目の前にいるじゃないですか。どういうことですか、居なくなったって言うのは?」
「それは……」
メリーが問いかけると巫女は目線を逸らした。
彼女の代わりに永琳が口を開く。
「居なくなった。文字通りね。今の今まで私達はいつからか『博麗の巫女』という存在を忘れていたの」
「え……?」
「でも思い出したのよ。ついさっきね」
どういうことだ。
博霊の巫女という存在はこの世界にとってとても大事な存在なのは聞いていて分かった。
しかし、それを忘れていた?
意味が分からなかった。