「さっきって……、それはどういう……」
「それも文字通りよ。ちょうど貴方を見つける直前に思い出したの。正直何が起きているのか私にも分からない。そして、そのタイミングに合わせたように彼女はここに来た」
「……私?」
何を言われているのか分からなかった。
突然自分の身に起きた事態の収集すらまだ出来ていないというのに、今度はこの世界がどうのこうのと……。
次から次へと常識ではないことが目まぐるしく起きるこの惨状に彼女はある結論に達していた。
こんなの……こんなのただの夢なんだ!
そうに違いないっ!
そうに決まってる! そうじゃなかったら……。
「―もう訳が分からないわっ!」
訳も分からず、気づけば叫んでいた。
「何なの一体! 私は蓮子と二人で歩いていたと思ったら突然こんな訳の分からないところに来て、しかもこんな大怪我までして! 挙句の果てに世界がどうのこうのって……こんなのただの夢なの! そうに決まってるっ!」
―カシャン!
突如、ガラスが割れるような乾いた音が響いた。
「……え?」
何の音だ?
この場にいる誰かが動いた形跡は無かった。
いや、それより聞こえてきた音が不自然だったのはその方向だ。
頭上から聞こえたのだ。
「空……?」
ふと、見上げると空が割れていた。
詩的な表現では無い。それは決して比喩表現でもない。
本当に空が割れていたのだ。
「これは……」
気付くと、傍にいる永琳も驚いた表情で空を見ていた。
それは彼女も想定していなかった事態が起きていることを意味していた。
「そう……ですか。そういうことですか……。私達は…………」
割れた空を見るや否や、永琳は何かを悟ったようにそう呟き始めた。
「一体……一体何が起きてるんですか?」
「これは、貴方が気付かせてくれた。私達は……この世界は……。でも間違ってはいなかった。私がやってきたことは何も間違っては無かった……。これで私も姫も……あの子も永遠という檻の中から解放される」
その目からは涙が零れていた。
そして、永琳の口から衝撃の事実を告げられる。
「……この世界はもうすぐ消えて無くなるわ」
「……え? 消えるって……」
「そのままの意味よ……」
「じゃあ、やっぱりここは夢の世界……?」
「貴方から見たらそうかもしれないわね。でもね、私達にとってはここが現実だった。それを嘘なんて……夢だなんて言わせない……」
その言葉には重みがあった。
確かに、ここが夢の世界だろうとそうでなかろうと、この世界の住人にとってこの幻想郷こそが自分の世界なんだ。それをただの夢という言葉だけで片付けてしまうというのはあまりにも……。
「そしてこれは貴方の手によって引き起こしたことよ」
「私……が……?」
信じられない……。これを私が?
そうしているうちに、崩壊がどんどん進んでいた。空が割れ、美しい星空にヒビが生え、割れ目の向こう側はただ何も無い虚無が顔を覗かせていた。周りの竹林も泡のような光の粒を漂わせながら徐々に消えていく光景がメリーの目に映っていた。まるで、蛍が一斉に飛び立つような、美しさがあるが、その後には何も残ってはいなかった。
世界が消えていく。それはまるでこの世界が夢から覚めるかのように……。
「……マエリベリー・ハーンだったわね」
「そう……です」
世界が消えようとしている中、永琳自身もこれから消える運命にある中、彼女はメリーに最期の言葉をかけていく。
「私達は……この世界は……別れたもう――の世界です。それでも私達にとってはこの世界こそが本物の世界でした。だからこそ、忘れないでいてほしいです」
「永―……さん…………」
視界にノイズが入り始めた。
少しずつ彼女の声が不明瞭になっていく。
「貴方は世界の目です。そしてあの――の―女は世界の座標です。それが別れてしまった……。世界は―のよ―に運命を決定した。それでも貴方達はきっと抗ったのでしょう。そうして今、貴方は此処に居る。貴方の――はまだあちらに、―跡があるのなら……。だったら、世界を壊して……」
意識が遠のいていく感覚に襲われる。殆ど何を言っているか分からないが、しかし鮮明に語られる言葉は脳に記憶されていった。
「――の幻―郷の世界で、博麗の巫―を探して、特異点を――世界を――――て」
「永琳さんっ!」
最期の瞬間すべてを振り絞って名前を叫んだ。
それが彼女に届いたかどうかは分からない。
それでも……。
そして世界は流転する――。
Episode1 End