インフィニット・ストラトス~夏の月が進む世界~   作:吉良/飛鳥

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急展開上等!By夏月      キングクリムゾン!By楯無    スター・プラチナ・ザ・ワールド!By簪    最強スタンドの勢ぞろいかな♪By束


Episode4『Rapid development just below the sudden turn』

ある日の放課後、夏月は空手道場にて空手部の部長である人物と向き合っていた。

と言うのも、転校初日に空手部に入部した夏月は、その日の稽古で同じ一年生の部員を全員KOしただけでなく、大会で団体戦のメンバーとなっている部員をも時間切れの優勢勝ちではあるが倒してしまい、其の実力を見た部長が夏月に勝負を申し込んで来たのだ。

部長も、夏月と同じく中学生でありながら黒帯なので、空手の腕前は生半可なモノでは無いだろう。

 

 

「夏月君、まさか君のような人に出会えるとは思ってなかったよ。俺は、同世代では敵無しって言われていたし、俺は強いと自負していたけれど……如何やら君とは良い勝負が出来そうだ。」

 

「なら、その期待には応えないとですよね。」

 

 

夏月は転校してきたその日から『更識姉妹と一緒の家で暮らしている』との事で話題になっており、その後も座学では難問をすらすらと解き、体育では50m走で校内新記録を叩き出し、家庭科では女子のプライドを圧し折りまくるなど数々の『凄い事』をしてのけた事ですっかり注目されている。

その注目の生徒が、夏の大会では全国三位になった空手部の部長と手合わせすると言う事で空手道場にはギャラリーが沢山集まり、刀奈と簪は最前列でこの戦いを観戦するようである。

 

 

「「…………」」

 

 

二人とも構え、審判役の副部長が試合開始を告げる。

先に仕掛けたのは部長の方で、鋭い踏み込みから閃光のような突きを繰り出すが、夏月は其れをガードすると横蹴りのカウンターを繰り出す――だが部長は其れをスウェーバックで躱す。

しかし夏月は攻撃の手を緩めず、回し蹴り、後回し蹴り、バックブローの連続技で攻めるが部長はそれらを全て的確にガードし、踵落としを避けると胴抜き、正拳、アッパーカットの連続ブローを繰り出す……が、夏月は其れ等を全てガードしクリーンヒットを許さない。

互いに鋭い攻めを見せるが、巧みな防御で決定打を与えず、一進一退の攻防は激化していくが、結局互いに決定打を与える事が出来ずに時間切れ引き分けに。

引き分けだったとは言え、一流同士の見事な戦いはギャラリーを魅了したが、更識姉妹だけは少し不満げな顔だった。

 

その後はギャラリーも解散し、夫々の部活に戻って行き、やがて完全下校時刻となり夏月は更識姉妹と共に下校していたのだが……

 

 

「夏月君、さっきの試合どうして手を抜いたの?」

 

 

刀奈がこんな事を聞いて来た。その隣では簪も、『私も其れは聞きたかった』と言わんばかりの表情をしている……先程の試合後、この二人が少し不満げな顔をしていたのは、夏月が手を抜いたと感じたからなのだ。

 

 

「手を抜いたって、人聞きが悪いな刀奈さん。俺は手を抜いてなんていないぜ?」

 

「なら、言い方を変えるわ。何故勝とうとしなかったの?貴方の実力なら勝つ事は簡単だった筈よ?」

 

「空手部の部長さんは確かに強いけど、お姉ちゃんが本気を出したら簡単に勝つ事が出来る……そんなお姉ちゃんと互角に戦える夏月が本気になれば勝つ事が出来たと思う。」

 

「あ~~……其れはアレだ、転校して来たばかりの一年坊が勝っちまったら部長の面目丸潰れになっちまうだろ?

 人の面目潰してまで俺は自分の力を誇示ような事はしたくないんだよ……相手が自分の力に酔ってイキってるような奴だったら容赦なくぶっ潰すけどな。」

 

「成程……部長さんの面目を守る為に勝ちに行かなかったと言う訳か。

 まぁ、勝ちには行かなかったとは言え、夏月が本気を出してないって言う事は多分私と簪ちゃんにしか分かってないでしょうから部長さんも花を持たされたとは思っていないでしょうけれどね。」

 

「そう言う気遣いが出来るのは凄いと思う。」

 

 

だが、夏月は決して手を抜いた訳ではなく、部長の面目を潰さない為に敢えて引き分けに持ち込んだのだ。

本気を出さないと言うのは礼を失する行為かも知れないが、学校の部活動は其れは其れで難しいモノがあり、一年生が部長に勝ってしまったなんて事があったら部活全体の体制に影響が出かねないのだ……最悪の場合は部長のリコールなんて事態になり兼ねない。だから、夏月は引き分けと言うギリギリの結果を落とし所にしたのだ。空手部が正常に機能する為に。

 

其れを聞いた刀奈も簪も夏月が本気を出さなかった事に納得し、家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の月が進む世界  Episode4

『Rapid development just below the sudden turn』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更識家で暮らすようになってから、夏月の日常は充実したモノとなっており、学校生活も『織斑一夏』だった頃とは違いとても楽しいモノだったが、だからと言って楽しいモノだけでもなかった。

 

 

「お父様、今日のターゲットは?」

 

「二週間前に起きたアパート暮らしの女子大生が殺害された事件は知っているね?

 その犯人の男は一度は逮捕されたモノの証拠不十分で不起訴となっているんだけど……その男の親は政府の官僚の一人でね、権力で息子の犯行を握り潰したんだ……日本の暗部である更識として、此れは見過ごす事が出来るモノでは無い。

 犯人の男は当然だが、其れを諫めるどころか権力で擁護した親も許してはならない……だから、其の二人が今回のターゲットだ。」

 

「権力を持つ者は、其の力で身内の犯罪を揉み消す……何時の時代でもそんな輩は居るモノなのね。ホント、ハラワタが煮えくり返る思いだわ。」

 

「自分の犯した罪に対する罰を受けずにのうのうと生きてるとか反吐が出ますねマジで……つまり、そいつ等を捕らえれば良いんですね?」

 

「あぁ、ターゲットの確保は刀奈と夏月君に任せる。ターゲットを確保した後は私の仕事だ。」

 

 

其れは更識の仕事があるからだ。

更識家に来てから二ヶ月後には、夏月も刀奈と共に更識の仕事に参加しており、要人の警護やターゲットの確保などを行っており、特にターゲットの確保に関しては楯無が舌を巻くほどの結果を出していたのである。

 

そして今回は殺人の罪を逃れてのうのうと生きている犯人とその親の確保であり、夏月と刀奈がターゲットの確保をする事になった――重要な役目だが、逆に言えば夏月と刀奈はその大役を任せるに値する力があると言う事だろう。

 

楯無からの命を受けた夏月と刀奈は簪のナビゲートを受けながらターゲットが居る屋敷に裏から忍び込むと、番犬のドーベルマン数匹をあっと言う間に蹴散らしてから庭木を伝って屋根に上り、其処から屋根裏に侵入してターゲットが居る広間にまで移動する。

辿り着いた広間では、犯人である男とその父親が『揉み消してくれてありがとよ親父!』、『此の程度の事ならば揉み消すのは容易よ。ワシのキャリアに傷を付ける事も出来んからな』と言う、唾棄すべき会話をしていた。

一人の人間の命を奪った事に対する後悔や反省と言うモノはマッタク無いようである。

 

 

「下衆野郎共……如何する刀奈さん?」

 

「そうね、彼等には確りとお仕置きをして上げないといけないわ。折角だし、此処は派手に行きましょうか夏月君。」

 

「派手に、ね。了解……オラァ!!」

 

 

次の瞬間、夏月は天井を本気の拳で打ち抜き、広間に刀奈と共に降り立つ。

当然、突然天井が崩落した事に驚くターゲット達だったが、夏月も刀奈もそんな事は知った事ではない……更識としての仕事を果たす、只それだけなのだから。

 

 

「閻魔からのお迎えが来たわよ外道さん。さぁ、お祈りの準備は出来ているかしら?」

 

「どうも、天井裏から現れた復讐のソード・ストーカーです。本物で~す。」

 

 

自らの存在を宣言するが早いか、夏月と刀奈はボディガードと思われるゴリマッチョの黒人二人に金的を喰らわせて一撃で戦闘不能にすると、刀奈は親の方を一瞬で背後を取ってドラゴンスリーパーで絞め墜として確保したのだが……

 

 

「オラァ!外道が一端に立ってんじゃねぇ!!外道が立ってるのには違和感を感じるんだよ!!膝を破壊するタイプの復讐のソード・ストーカーだゴルァ!!」

 

「げべらぁ!?」

 

 

夏月は犯人の男に低空ドロップキックを放つと、其処からドラゴンスクリューを叩き込み、トドメに膝十字固めを極めて膝を完全破壊して絶対に逃げられないようにする……膝十字で膝を完全破壊された時点で犯人は意識が吹っ飛んでアワを噴いていたのだが。

取り敢えずターゲットは確保したので、彼等にはこの後で楯無によって世にも恐ろしい拷問が待っている事だろう……更識流の拷問術は、ターゲットが『もう一思いに殺してくれ』と言うほどのモノなので相当に凄まじいモノであるのは間違いない。

法の裁きを回避してのうのうと生きている外道に外法の裁きを与えるのも更識の仕事であるのだ。外道に容赦は必要ない。

 

 

「此れにて今回の事はお終いだけど……あの膝殺しコンボは流石にやり過ぎじゃないかしら夏月君?」

 

「そうかも知れないけど、自分の罪を償わずにのうのうと生きてる奴ってのは如何しても許せないんだよ俺は……テメェの罪を清算せずに生きてるってのは、織斑千冬と同じだからな。

 だから、俺はそう言う奴にはどうしてもやり過ぎちゃうのかも知れないな……」

 

「夏月君……そうだったわね。……でも、それなら貴方は何も間違っていないわ。自分の罪を償わずにのうのうと生きている相手には容赦は必要なかったわね。

 貴方は暗部の人間としてとても正しい行動をしたのよね……グッジョブよ夏月君♪」

 

 

己の罪を逃れてのうのうと生きているターゲットに織斑千冬を重ねて、若干オーバーキルをしてしまった夏月だったが、其れは其れで大した問題ではないのでお咎めなしとなり、其れどころか楯無から、『刀奈が楯無を継いだら、君が最側近になって欲しい』とお願いされ、今回の仕事ぶりは高く評価がされていたのだった。

そして今回の一件を機に政府官僚の家族に対する犯罪行為への忖度は無くなり、権力者の親族だから正統な裁きが下されないと言うふざけくさった沙汰が行われる事はなくなり、罪人は罪人としてその罪を償う事が本当の意味で義務化されたのだ……其れでも罪から逃げようとするモノには、更識からの容赦ない鉄槌が下される訳だけなのだが。

 

 

「簪ちゃんも、見事なナビゲートだったわよ?貴女も、もう立派な暗部の人間だわ。」

 

「確かに。簪のナビゲートが無かったらもっと侵入に手間取ってたかもしれないからな……つか、どの庭木からなら屋根に登る事が出来るとか良く調べたもんだぜ。」

 

『皆がスムーズに仕事が出来るようにサポートするのが私の仕事だから……今回みたいにターゲットの居場所が分かってる場合なら、何処からがターゲットに気付かれずに最速で侵入出来るのかを調べるのも大事だから。』

 

 

刀奈と夏月は、バックスとして侵入路をナビゲートしてくれた簪に礼を言うと、簪も『仕事だから』と言いつつも満更でもない様だ。

夏月が更識の仕事に参加するのとほぼ同じ時期に簪もバックスのサポーターとして更識の仕事に参加するようになっており、コンピューターのハッキングやデータの入手にクラッキング、目的地までのナビゲート等々裏方として充分な働きをしているのである。

特にコンピューター関係に関しては束が舌を巻くほどの腕前で、クラッキング用のコンピューター・ウィルスを作った際には、『こんなモノをぶち込まれたら、相手のコンピューターは原作効果の死のデッキ破壊ウィルスと魔法除去細菌兵器を喰らった状態になって、仮に此れを各国の軍事機関のコンピューターに感染させたらその国は秒で滅びるだろうね』と言わしめた程だ……尤も、このウィルスは余りにもヤバすぎるので、楯無が『最後の切り札』としてデータの入ったUSBメモリを厳重なセキュリティの施された地下金庫に保管しているのだが。

 

その後、夏月と刀奈は帰路についたのだが、その際に楯無から『私と凪咲は今日は夕飯を食べないから、偶には三人で外食でもしてくると良い』と、二万円を渡されたので、その日は夏月と刀奈と簪の三人で高級焼き肉チェーン『ジョジョ苑~奇妙な焼き肉~』で焼き肉を楽しんだ。

因みに、肉に関してはタン塩、カルビ、ハラミ、ロースと定番どころを注文したのだが、〆のメニューは夏月がユッケビビンバ、刀奈がピリ辛カルビラーメン、簪が冷麺と見事に分かれたのだった。

楯無からは『お釣りも好きに使っていい』と言われていたので、焼き肉を堪能した後は銭湯で一風呂浴び、束へのお土産として宇都宮餃子の屋台で『スタミナ餃子』と『イカの塩辛』を購入した――その結果、此の日は束が餃子と塩からを肴に美味しいビールを堪能し、その勢いで研究を更に加速させたりしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

其れからも夏月の充実した日々は続き、夏月が転校して来てから初めてとなる授業参観にはスコールとオータムの両名が参戦してクラスの注目を集め、夏月が『俺の義母さんと姉貴だ』と紹介した時には簪以外のクラスメイトが凄まじい衝撃を受けた。

空手部の方でも、秋の新人戦ではベスト4の好成績を残して三年生引退後の空手部の新たなエースとなり、体育祭に学園祭、修学旅行と言った各種イベントを消化している内にあっと言う間に時は経って新年度となり刀奈は中学三年生になって、夏月と簪は二年生になった。

新年度から刀奈は生徒会長となり、従者である虚は副会長となっている。

 

夏月は空手部のエースとして他校との練習試合でも連戦連勝で、簪は所属している『ゲーム研究部』の一員としてe-スポーツの大会に出場し、格ゲー部門で『最弱キャラを使って優勝する』と言う偉業を成し遂げ、『美少女ゲーマー』としてちょっとした有名人になっていた。

 

また、夏月とロランの文通も続いており、最近では手紙だけでなく写真も同封して互いの近況を報告し合っていた――この年の空手の地区予選で優勝した時に撮った写真を見たロランは初めて会った時よりも逞しくなった夏月の姿に少し見入ってしまっていたが。

 

そして其の年の夏、刀奈は十五歳の誕生日に日本の国家代表になると同時に、父である楯無からその地位を引き継ぎ、『第十七代更識家当主更識楯無』となった。成人年齢がニ十歳と定められて以降、十代で楯無を襲名するのは彼女が初である。

その襲名式には更識の関係者が集まり、刀奈は先代の楯無――本名更識総一郎から楯無の名を譲り受け、新たな更識楯無となったのだった。

 

 

「父、更識総一郎から楯無の名を継ぎ、このたび第十七代の更識楯無を襲名させていただきました。

 まだまだ若輩者故、至らぬ所もあるとは思いますが、楯無の名に恥じないよう精進してまいります。」

 

 

その襲名式にて、刀奈改め楯無は立派な口上を述べ、集まった関係者達に頭を下げる……が、楯無は襲名の口上を述べて終わらせる心算は更々無かった。

嘗て夏月と共に簪の事を不当に低評価していた分家にカチコミを掛け、分家の連中を黙らせたがそれでもコソコソと簪の事を『姉と比べると……』と言う輩は存在していたので、自分が楯無となった時に、そう言う輩は一掃してやろうと考えていた。

 

 

「そして、今この場で私は更識楯無として、更識簪と一夜夏月を最側近として任命するわ。

 夏月君は此れまで何度も私と共に現場に出て成果を上げているし、簪ちゃんは常にバックスのサポーターとして私達を裏から支えていてくれたからね……私の最側近として、此れ以上の人物は存在しないわ。」

 

「俺達が最側近だってよ簪。」

 

「任命された以上は頑張らないとだよね。」

 

 

此処で楯無は夏月と簪を自身の最側近とする事を告げた。

夏月に関しては、総一郎が『刀奈が楯無となったら最側近になって欲しい』と言っていたので特に問題は無かったのだが、簪が最側近となると言うのは一部の関係者からしたら意外極まりなかっただろう……尤も、意外に思った者達は簪が裏方として活躍している事を知らない目が節穴のボンクラ共と言う事になるのだが。

 

 

「楯無様、本気ですか?妹とは言え彼女を最側近にするなど!貴女と比べたら彼女は……」

 

「私と比べたら、簪ちゃんは何かしら?」

 

 

この決定に抗議した分家の人間に、楯無はその喉元に扇子を突き付けて問う……その楯無の目は、大凡女子中学生のモノでは無く、暗部の長である『更識楯無』としての極めて冷たく冷徹なモノであり、その目に睨みつけられた相手は、蛇に睨まれた蛙の如く全く動く事が出来なくなり、全身から冷や汗を大量に噴出し其の場に座り込む事になってしまった。

同時に此の事は、『簪の事を低く扱ってはならない』との認識を周囲に知らしめる結果となった――楯無が最側近としたと言う事は簪には相応の能力があり、其れに異を唱えると言うのは楯無と敵対する事を意味すると、そう思わせたのだ。

そうして襲名式は無事に進み、最後は楯無が祝い酒を飲み干してターンエンド。本来ならば未成年の飲酒は御法度なのだが、こう言った場での祝い酒は暗黙の治外法権となっているので問題無しである。

 

 

そして刀奈が新たな楯無となって数日後――

 

 

「いよっしゃー、遂に出来たよかっ君とたっちゃんとかんちゃんの専用機!そして鈴ちゃんと乱ちゃんとローちゃんの専用機も!

 専用機を作るだけならもっと早く出来たけど、夫々の個性を120%発揮出来る機体を作る為にはパーソナルデータの収拾が必要不可欠だからね……一年間データを収拾した甲斐もあって、此の『騎龍』シリーズは束さんの最高傑作ってモンだね!いや~、頑張った私!!」

 

 

束は夏月、楯無、簪、ロラン、鈴、乱の専用機を完成させていた。

一年かけて夫々のパーソナルデータを収拾して専用機をガチで組み上げた結果、束自身が『最高傑作』と評するまでの機体に仕上がっていたのだ……其の機体は『機械仕掛けの龍人』と言った外見をしているが、機体によって武装が異なっているので、武装の差異が専用機としての違いと言う事なのだろう。

完成した専用機を満足そうに眺めると、束は夏月と楯無と簪に連絡を入れ、研究室に来るように伝えた。(更識に身を寄せる事になった後で、地下に研究室を作っていた。)

 

 

「束さん、態々呼び出して何か用か?」

 

「地下に研究所を作ったとは聞いていたけれど、まさか此処まで本格的なモノを作っていたとは驚きだわ……研究所の建設を許可したお父様も大概だと思うけど。」

 

「お父さんと束さんは割と同類みたいだから。」

 

 

程なく夏月達は研究所にやって来たのだが、研究所内部に入るのは初めてだったので思いのほか本格的な作りだった事に少し驚いていた。……簪は『特撮に出て来る秘密基地みたい』とも思っているかも知れないが。

 

 

「やぁやぁ、来たねかっ君にたっちゃんにかんちゃん!

 今日皆を呼んだのは他でもない、皆の専用機とローちゃんと乱ちゃんと鈴ちゃんの専用機が完成したんだよね!

 ご覧あそばっせい!此れこそが一年に渡って皆のパーソナルデータを集めて、そして使用者の力を120%発揮出来るように調整した、現行のISを遥かに凌駕する性能を持った専用機『騎龍』シリーズだよ!」

 

「此れが、私達の専用機……!」

 

「まるでロボットの龍人……特撮ヒーローになりそう。」

 

「あぁ、見てるだけでコイツが凄いもんだってのは良く分かるんだけど……束さん、『現行のISを遥かに凌駕する性能を持ってる』って其れは流石にヤバくないか?

 現行のISって第二世代が主流で、第三世代機は漸く開発が始まったばかりだろ?其れなのに現行ISを凌駕する性能って、コイツは世代で行ったらドレ位になるんだよ?」

 

「ん~~……大体第七世代って所だろうねISの世代で言えば。

 でも其れはあくまでもISの世代に当て嵌めた場合の話なんだよね……此の『騎龍』シリーズはISだけどISじゃない。より分かり易く言うなら、現行のISが形骸化しているとは言えアラスカ条約に一応は違反しないように、兵器の側面を持ち合わせながらもギリギリ『ISバトル』用に作られてる。

 でも、『騎龍』シリーズは最初から兵器として開発したんだよ。

 宇宙進出用のパワードスーツとして開発したISであっても、織斑千冬が勝手な事をしてくれたせいで現行のあらゆる兵器を凌駕する性能を持っている事を証明しちゃった訳なんだけど、だったら私が最初から兵器としてISを作ったらどうなると思う?其れこそ、現行のISすらチリ紙になる位の超兵器になるのは確実っしょ?」

 

「「「!!!」」」

 

 

当然束は夏月達に専用機が完成した事を伝え、其れを披露したのだが、その専用機はなんとISの世代で言えば第七世代に相当し、更には束が一から兵器として開発した、正に『最強の兵器』だと言うのだ。

勿論ISバトルに於いてはリミッターが掛けられるだろうが、リミッターを解除したその時は其れこそ単機で世界を滅ぼす事だって可能になる危険なモノであるのは間違い無いだろう。

 

 

「束さん、何だってそんなモノを……其れにISが兵器扱いされてるのを一番嫌ってたのは束さんだろ?」

 

「うん、宇宙進出用として作ったISが兵器として扱われるのは我慢できないけど、私が最初から兵器として開発したのなら話は別だよ。

 此れは確かに危険なモノだけど、かっ君達なら此の力を間違った方向には使わないって信じられるから此れを託したい……でもって、此れは完全に私の勘なんだけど、此の力はいずれ此の世界に絶対に必要になると思うから。」

 

「此の世界に必要になる力、ですか。」

 

 

だが、束も伊達や酔狂でこんな超兵器を作り上げた訳ではなく、『此の世界にいずれ必要になると思うから』と言う理由があったのだ……勘とは言っても、稀代の天才の勘がそう言ったのであれば中々に無視出来る事ではないだろう。

逆に言えば、其れだけの力が必要になるトンでもない未来が待っていると言う事の裏返しでもあるのだが。

 

 

「束さんの勘は昔から当たるからな……OK、そう言う事なら有難く専用機は貰うぜ束さん。この力、間違わずに使い熟してやるぜ!」

 

「其処まで信じてくれているのなら、其れに応えないと言うのは不義理が過ぎるわね……束博士、専用機有り難く拝領させて頂きますわ。」

 

「束さん……うん、此の機体使い熟して見せる。」

 

 

束の話を聞いた夏月と楯無と簪は、その想いに応えるべく専用機を受領。

ロランと乱と鈴にも篠ノ之束の名で同様の内容のメールを送信しており、彼女達からも同様の答えが返って来たので束は所属国に専用機を『Dr.T』の名で贈る事を決めたのである。

 

 

「ありがとう皆。

 其れじゃあ早速専用機の説明と行こうか!

 先ずは黒い機体はかっ君の専用機『騎龍・黒雷』!攻守速を高水準で備えたバランス型だけど、かっ君が最も得意としている近接戦闘能力に特化してるよ。メイン武装は日本刀型のISブレードだけど、鞘もブレードと同等の強度があるから鞘を使っての疑似二刀流も可能だよ!

 続いて蒼い機体がたっちゃんの専用機である『騎龍・蒼雷』!かっ君の機体と略同じ性能だけど、メイン武装が槍で蛇腹剣も搭載されていて、機体性能としてはかっくんの機体よりもスピードで僅かに劣るけどパワーで僅かに上回るって感じかな。

 そんでもって青い重装甲の機体がかんちゃんの専用機である『騎龍・青雷』!他の機体は基本的に近接戦闘がメインになるんだけど、かんちゃんは遠距離戦が得意だから其れに特化した性能にしてみたよ!

 遠距離特化型の機体ってのは、普通なら近距離型の前衛が居てこそ真価を発揮出来るんだけど、ISバトルは基本タイマンだから単機で戦える遠距離型ってモノを目指して重装甲の機体にしてみました!機動力は他の騎龍シリーズに大きく劣るけど、その分防御力はメッチャ高い!耐えられる攻撃なら避ける必要はないって奴だね!

 メイン武装はバックパックに搭載された二門の大型火器『高威力火線ビームライフル』と『電磁レールバズーカ』だよ。徹甲弾、散弾、榴弾と言った通常弾だけじゃなくて、火炎弾、氷結弾、粘着弾みたいな特殊弾を使う事も出来るよ!かんちゃんが望むなら『対B.O.Wガス弾』も搭載出来るよ!」

 

「其れは是非ともお願いします。」

 

「いや、其れはISバトルどころか戦争が起きても人間相手じゃマッタク持って意味ないから。

 つか、バイオハザードのクリーチャーが現実世界に現れたら冗談抜きで世界が滅びるっての……襲われたら最後、主人公を除いてゾンビ一直線とか無理ゲーにも程があんだろ。」

 

「本当よね……そして簪ちゃんの専用機のコンセプトって、どこぞの白い魔王の理論其のモノよね?」

 

 

その『騎龍』シリーズは、束が一年を掛けて夏月達のパーソナルデータを集めた上で完成させただけあって、使用者の力を120%反映出来る機体になっているみたいであった……簪の専用機に関しては可成り極端な性能ではあるのだが、其れでも圧倒的な防御力で攻撃をシャットアウトし、圧倒的な火力で相手を殲滅出来ると言うのは凄まじい事この上ないだろう。

ロランと乱と鈴の機体も、それぞれの個性に合わせた調整が施されており、彼女達の力を120%引き出せる機体に仕上がっているのだから、束は本物の稀代の天才であると言っても誰も文句は言わないだろう。

『対B.O.Wガス弾』は兎も角として、夏月と楯無と簪はそれぞれの専用機を受領し、束はオランダと台湾と中国にも『Dr.T』の名でそれぞれの専用機を贈った……但し中国に対しては『此の機体を凰鈴音以外に渡した場合、機体は核爆弾十発分に相当する威力の自爆をする』と言う脅し付ではあるが。

そんな事をしたのも、一夏の味方だった鈴の事は信頼していても、中国と言う国は信頼出来ない国だったからだろう……『嘘でも百回言えば本当になる』などと言う教育を平然と行う国を信頼しろと言うのがそもそも無理であるのだが。

 

更に束は、個人的なメッセージとしてロランには『夏の月のお友達の兎より』、乱と鈴には『夏の月となった一つの夏のお友達の兎より』と送っており、ロランには専用機が贈られてきた背後には夏月の存在があると言う事を、乱と鈴には暗に『織斑一夏は別の名となって生きている』を伝えていたのだった。

ロランは初め、差出人不明のメールを不審に思ったのだが、メールアドレスが『shinononotabane』のアナグラムになっている事に気付き、差出人が束であり、夏月が束と知り合いであると言う事に少し驚いてはいた。

 

 

「あの機体は夏月からの贈り物とも言える訳か……篠ノ之束博士からのメールと、夏月が束博士と知り合いだったと言うのには驚いたけれど、此の力が君と私を繋ぐモノであるのならば、有難く頂戴するよ。」

 

 

「一夏は生きてる?……此れは、日本に行って確かめないとだわ!其の為にも、飛び級でIS学園に行けるようにしないとね!IS学園に行けば日本に居る事が出来るんだから!」

 

 

「一夏は死んでない?兎のお姉ちゃんは嘘は言わないから、此れはきっと本当の事よね……なら、アタシは絶対にまた日本に行かないと!

 織斑千冬は大嫌いだけど、一夏と秋五はまだやり直せる……ちょっとした擦れ違いで拗れちゃった兄弟仲を元に戻してやる事が、アタシに出来るアイツ等への恩返しだからね。」

 

 

そして、専用機を受領したロランと乱と鈴は、各々決意を固め、そして更にトレーニングに邁進し、ロランはオランダの国家代表になり、乱と鈴はそれぞれ台湾と中国の国家代表候補生に上り詰めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

専用機を受領してからは、更識の仕事も大幅に捗る結果になった。

専用機を受領してからの初めての任務は、麻薬の取引現場を押さえ、犯人を確保する事だったのだが、その現場で楯無は犯人グループに見付かってしまい、あっと言う間に組み伏せられ、犯人グループの男達は『殺す前にいい思いさせて貰おうじゃないか』と、下卑びた笑みを浮かべ楯無を犯す気満々だったのだが、組み伏せられた楯無の姿がグニャリと歪んだと思ったら大爆発を起こして、股間のミサイルが発射準備満タンだった男達を吹き飛ばす!……組み伏せられた楯無は、ナノマシンで作り上げたデコイ兼爆弾だったのである。

 

 

「お馬鹿さん、乙女の純潔は貴方達みたいな下衆には捧げられないわ。」

 

「その純潔を無理矢理汚そうとした時点でお前等は滅殺だけどな……オラァ、大人しくぶっ飛んどけ!テメェ等は一生車椅子生活だ!

 つか、下衆が偉そうに立ってんじゃねぇ!死なない程度に死んどけ!!」

 

「マルチロックオン完了……Fire!!」

 

 

その爆発に怯んだ犯人グループを、楯無が蛇腹剣で斬り付け、夏月が神速の居合いで斬り飛ばし、簪が回避不能のミサイルの嵐を喰らわせてターンエンド。

機体にはリミッターを掛けて、相手が致命傷を負わないようにはしてあるのだが、其れでも騎龍の性能は圧倒的で、仮に犯人グループがISを所持していたとしても余裕で制圧出来ただろう。夏月の言っている事が、若干矛盾しているが、其れに突っ込むのは無粋と言うモノだろう。

 

 

「……序に野郎としての選手生命終わらせておくか。フン!!」

 

「あらあら、此れはとっても痛そうね……」

 

「気絶してなかったらショック死してたかもしれない。」

 

 

犯人グループは全員気絶し、此れで任務は完了なのだが、夏月はダメ押しの一発として犯人グループの男性の股間に強烈な蹴りを叩き込んで確りと物理的に潰しておいた……ナノマシンで出来た偽物とは言え、共に暮らしている少女をレイプしようとした男共を許す事は出来なかったのだろう。

犯人グループの回収に来た更識のエージェントの男性陣は、股間を蹴り潰された犯人グループを見て冷や汗が大量に噴出してしまったのは仕方のない事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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其れから更に一年が経ち、楯無は高校生となってIS学園に進学し、夏月と簪は中学三年生となっていた。

日本の国家代表である楯無は一般受験者とは別に実技試験が行われたのだが、IS学園に配備されている汎用機である『打鉄』を使ったにも拘らず、楯無は試験官である山田真耶を圧倒してパーフェクト勝利を収めていた。

試験官の名誉のために言っておくと、山田真耶は決して弱くはなく、IS学園の教師となる前は日本の国家代表候補生にまで上り詰めたIS乗りだったのだが、楯無はそれを遥かに上回る実力があったのだ……元代表候補生と現国家代表では其の実力には大きな差があったと言う事だ。

こうして楯無は首席でIS学園に入学したのである。

主席入学と言う事もあって、楯無は注目される事になったのだが、楯無は自分を過度に誇る事もなく、試験結果に関しても謙虚な態度を貫き通した事で、逆に他の一年生からは高い好感度を得る結果になっていた……そのせいで、楯無には望まない『妹』も大量発生する事態になってしまったのだが、其れは実妹である簪がIS学園に入学してくるまでは続くであろう……其の時までは、楯無に『頑張ってくれ』と言う以外には他がないのか悲しい所である。

 

其れは其れとして、中学最高学年に進級した夏月と簪も、夫々空手部の新部長、ゲーム研究会の新部長として他校との練習試合で連戦連勝して校内の有名人になっていたが、其れだけではなくゲーム研究部が月一で行っている『ゲーム大会』では夏月と簪の決勝戦がお決まりとなっていた。

格ゲーならば夏月が勝ち、遊戯王なら簪が勝つと言う状況だったが、格ゲーでも遊戯王でもない場合は勝負は時の運と言う感じになっており、其れが逆にギャラリーを楽しませる結果になっていた。

 

 

「この起爆で決める……喰らえ簪!見せてやる、俺の超連鎖を!!」

 

『ファイヤー!アイスストーム!ダイヤキュート!ブレインダムド!ジュゲム!バヨエーン!バヨエーン!バヨエーン!バヨエーン!バヨエーン!バヨエーン!バヨエーン!!!』

 

「へへ、燃えたろ?」

 

「此のままでは終わらんぞ~~~~!!」

 

 

本日のゲームは『ぷよぷよ』で、互いに大連鎖の応酬になったのだが、最後の最後で三十連鎖と言うトンデモ連鎖を組み上げていた夏月に軍配が上がったのだった……取り敢えず、白熱した戦いであった事は間違い無いだろう。

 

 

 

その夜――

 

 

「総一郎様、礼の件調べが付きました。」

 

「そうか……ご苦労だったな。」

 

 

縁側で月を肴に晩酌をしていた総一郎の元に更識の密偵が現れると、一枚のA4サイズの封筒を置き、そして音もなく去って行った……更識家は、伊賀や甲賀の陰に隠れてしまっているが、江戸時代には有数の忍びの家系でもあったので一瞬で身を隠す事位は余裕なのである。

 

 

「……夏月君は織斑のイリーガル……成程、そう言う事だったのか。」

 

 

だが、封筒の中身を読んだ総一郎は、そう言うと額に腕を上げて天井を拝む――其の姿は、知りたくなかった真実を知ってしまった者のようであったが、其れはある意味では間違いでないと言えるだろう。

総一郎が読み終えた封筒の中身のトップページには『織斑計画について』と、ハッキリ記されていたのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 


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