インフィニット・ストラトス~夏の月が進む世界~   作:吉良/飛鳥

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イベントのたびに厄介事……学園のセキュリティ強化プリーズ!By夏月    束さんが強化してくれる筈なのだけど、其れでも抜け道はあるのね……楯無    セキュリティ対策はイタチごっことはよく言ったモノさByロラン


Episode97『増幅する悪意と振り下ろされた刃』

新織斑達の拠点である海底洞窟。

其処にはタバネの研究所も増設されており、其処には織斑達が確保した『草笛氷雨』と『美神黒羽』が酸素マスクをした状態で生体ポッドに入っていた。

此の生体ポッドはタバネが開発した人体強化装置であり、此処に入れられた人間はポッド内に満たされた特殊な強化液で肉体が大幅に強化されて超人的な身体能力を得る事が出来るのだ。

新織斑達も此れを使って強化されているのだ――だがしかし、新織斑達は兵器として生まれた存在なので此の強制的な強化にも耐える事が出来たのだが、氷雨と黒羽はプロISバトルの強者であっても普通の人間なので強制的な肉体強化に精神が耐える事が出来ていなかった。

 

 

「身体能力は向上したが精神が壊れてしまっては意味がないんじゃないのか?」

 

「いんやこれで良いのさ。

 精神をぶっ壊してやれば其れこそこっちの好きに出来るし、性的快楽も理性が邪魔する事なく受け入れるから精神的に完全に支配する事が出来るってモノなんだよ――苦痛と恐怖による精神的支配よりも性的快楽で落とした方が確実なんだよねぇ実は。

 従わなければ苦痛を与えられる恐怖より、従えば快楽を得られる方がだからね……だから、此処からは徹底的に、其れこそ脳味噌が戦闘とセックス以外の事を考えられないようにしてやるさ。

 其れが済んだら好きにすると良いよ……仮に妊娠しちゃったら、其れは其れで此の『1000倍育成機』に受精卵を移して強制的に成長させて兵隊にするだけの事だからね。」

 

だがしかし、精神が壊れたとて大した問題ではなかった。

タバネはもとより氷雨と黒羽を『そこそこ使える手駒兼兵士の量産装置』としか見ておらず、其の二人の精神が如何なろうと知った事ではなかったのだ。

 

 

「だけど、零落白夜を無効化するってのは厄介だね?

 零落白夜は私が作り出したISにとっては最悪とも言える代物なんだけど、其れが通用しないってのは……だけど、だったらそれに対抗出来るモノを考えれば良いだけの事か。

 しかしまぁ、面白いね此の世界は……私とは異なる私が居て、男性操縦者が二人いて、其の二人のパートナー達もまた最上級の強さを持ってると来てる訳だからね?

 其の世界をぶっ壊したら、さぞかし最高の気分になるだろうさ……そしてぶっ壊した上で私の理想の世界を作ったら、最高極まりないね!」

 

「全てが上手く行った暁には、俺達も其の世界の住人になれるって訳か……なら、尚の事旧式の兄上達には退場して貰わないとだな――この間は撤退したが、レベルを上げれば勝てない相手でもないからな。」

 

「其れに、負けても格上との戦闘経験はダイレクトに私達のレベルアップに繋がるからな……此の前の戦いで、私達のレベルは一気に大幅にアップしたと思うからな。

 戦いを経験すればするだけ強くなる、其れが新たな織斑のコンセプトの一つであるだけでなく、私達の身体は強化されているから簡単には死なないようになっている――だからこそ、危険な戦闘も簡単に経験する事が出来るのだ。」

 

 

新織斑達とタバネの考えている事は凡そ人としての心が残っていたら実行出来ない事であるのだが、其れを迷わずに選択する事が出来る時点で、タバネも新織斑達も人としては欠陥品であると言っても良いだろう。

 

だが、其れは其れとして調整が済んだ氷雨と黒羽は織斑達に其の身体を蹂躙された後に、新織斑とタバネの命令に絶対服従する従順な駒兼兵士量産機となってしまったのであった。

プロISバトルのトップクラスランカーが二人も行方をくらましたとなれば世間は大騒ぎになるだろうが、氷雨と黒羽がタバネによって調整されている間もプロISバトルの試合に調整中である筈の二人が出場していた事で世間は二人が攫われた事すら感知出来ていなかったのだ。

此の氷雨と黒羽の正体が明らかになるのは未だ先の事になるだろう。

 

 

「氷雨も黒羽も戦闘スタイル変えたのかな?」

 

 

ただ一人、氷雨と黒羽と何度も戦って来た伊織だけは此の二人に少しばかりの違和感を感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の月が進む世界  Episode97

『増幅する悪意と振り下ろされた刃』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールデンウィークも終わり、IS学園には日常が戻って来ていた。

ゴールデンウィークが終わった後の一大イベントと言えば去年よりタッグマッチとなった『学年別タッグトーナメント』だろう――競技科に進んだ夏月組と秋五組の二年生は全員参加で、今年は夏月はヴィシュヌと、秋五は箒とタッグを組んでの出場となっていた。

また今年度より新たに『学年無制限ロイヤルランブル』も行われる事になっていた。

此方は『学年無制限』の名が示すように、学年の枠を超えてタッグを組む事が可能となっており、更に同時に4タッグが同じフィールドで戦うと言う『タッグマッチ版バトルロイヤル』のようなルールである。

此方にも夏月と秋五はエントリーしており、夏月はグリフィン、秋五はまさかのダリルとのタッグだった。

 

此のタッグ構成に関しては、夏月は楯無と組むと『生徒会長と副会長のタッグは強すぎる』とのクレームが出ると考えて生徒会役員ではないグリフィンを選び、秋五の場合はダリルから『フォルテと組もうと思ったんだがベルベットの奴に拉致られてちまったから俺と組め』と言われ、秋五も他に組める同学年ではない生徒が存在しなかったのでダリルとのタッグを組む事を決めたのである。

 

其の一大イベントを数日後に控えたある日の放課後、トレーニングルームのリングではヴィシュヌとグリフィンがスパーリングを行っていた。

ムエタイvsブラジリアン柔術の異種格闘技戦でもある此のスパーリングは立ちの打撃ならばヴィシュヌが絶対有利だが、投げと関節技に関してはグリフィンが有利な状況だった。

 

 

「ふっ!はぁ!てぇぇい!!」

 

「くっ……このぉ!!」

 

 

現在は立ちの打撃で攻めるヴィシュヌと、其れを防ぐグリフィンの構図だ。

ムエタイは『立ちの打撃オンリーならば間違いなく最強』と言われるように打撃に関しては拳や蹴りだけでなく肘や膝も飛んでくる上に、其の攻撃は拳脚一体で拳を防いでも直後に蹴りが飛んで来る凄まじいラッシュ力があるのだ。

打撃戦となると分が悪いグリフィンだが、ブラジリアン柔術の源流は楯無も修めている『天神真楊流柔術』であり、打撃、投げ、関節技全てに於いてカウンターの技術が存在しているのだ。

 

 

「はぁ!!」

 

「その大振りを待ってた……もらったぁ!!」

 

 

ヴィシュヌが放ったハイキックにカウンターする形でグリフィンは低姿勢のタックルを喰らわせてヴィシュヌとテイクダウンさせると、電光石火のアナコンダバイスを極める。

柔道の袈裟固めをより複雑にしたアナコンダバイスはガッチリと右腕を極めているだけでなく左腕もロックしているので完璧に極まったら抜け出す事は不可能であり、グリフィンも極まったと思ったのだが……

 

 

「あの、スパーリングだからと言って手加減は不要ですよグリフィン?もっと本気で極めてくれても構いませんよ?」

 

「……はい?」

 

 

ヴィシュヌには全く効いていなかった。

日々のヨガで人間の関節可動域の限界を既に突破しているヴィシュヌには普通ならタップアウト待ったなしの関節技であっても痛め技にもならないのである――勿論グリフィンも其れは知っているので、抜け出す事が困難なアナコンダバイスを使ったのだが、其れもヴィシュヌには無力だったのだ。

 

 

「此れも効かないって……もうダブルジョイントとかのレベル超えてるよ此の柔軟性は!」

 

「まぁ、否定はしません。」

 

 

持ち前の柔軟性でアナコンダバイスから脱したヴィシュヌは首相撲でグリフィンを立たせると数発膝蹴りを叩き込んだ後に、プロレスの関節技の中でも最も複雑で難易度が高いと言われる『卍固め』を極めた。

卍固めは『手足が長い人間が掛けた方が効く』とも言われており、ヴィシュヌの腕の長さは人並みだが足の長さは他の追随を許さない『身体の半分以上が足』なので、其の長い足がグリフィンの左足と首に複雑に纏わり付いているのだから溜まったモノではない。

右足はグリフィンの左足に二重に巻き付き、左足はグリフィンの首を極めた上で通常の卍固めでは自由になる左腕も絡め取っているのだから。

 

 

「ギ、ギブアップ……」

 

 

こうなっては最早打つ手はないのでグリフィンがギブアップしてスパーリングは終了。

生身のスパーリングに関しては夏月と楯無が同率首位(夏月vs楯無は毎回ドローで他には全勝)で、その次に来るのがヴィシュヌ(夏月と楯無以外には生身のスパーリングでは負けなし)なので、此の結果はある意味では当然と言えるのだが。

 

 

「アナコンダバイスを抜けられるとは思わなかった……ヴィシュヌってどんだけ身体柔らかいの?」

 

「そうですねぇ……やろうと思えば、多分旅行用のキャリーバッグに入る事が出来るのかも知れません――改めて考えると、私の柔軟性は人間の範囲を超えているような気がしてきました。」

 

「うん、確実に超えてると思うよ。」

 

 

此のスパーリングはヴィシュヌに軍配が上がったのだが、関節技がほぼ無効になってしまう時点でヴィシュヌが相当に有利であったので此の結果は致し方ないだろう――そしてスパーリング後はシャワーで汗を流してから食堂で夕食タイムなのだが……

 

 

「私は……味噌カルビ丼の特盛肉増し!

 其れがご飯で、おかずは『チキンソテー』、『ハンバーグ』、『鶏の唐揚げ』、『豚の生姜焼き』、『テリヤキトンテキ』、『ハラミステーキ』!そんで、味噌汁の代わりに味噌チャーシュー麺をチャーシュー倍増しで!牛乳はパックで宜しく!」

 

 

今日も今日とてグリフィンのオーダーはバグっていた。

スパーリングで消耗していた事も相まっていつも以上に『肉』なメニューであるのだが、グリフィンは其れをペロリと平らげ、更にはほぼ同じ量の『おかわり』をしていたのだから相当である……グリフィンならテレビの賞金企画の『回転寿司全部食べ切ったら100万円』も余裕でクリア出来るだろう。

 

 

「グリフィンちゃんの大食いは、最早IS学園の名物ね。」

 

「X(旧Twitter)で、『グリフィン大食い』がトレンド入りしてる……学園の生徒の誰かが動画を上げたみたい。」

 

「マジで?……グリフィン、お前此の動画の存在知ってる?てかネットにアップする許可取って来た奴いる?」

 

「え?知らないし、誰かが『ネットに上げても良い?』って聞いて来た事も無かったよ?」

 

「……簪、そいつ特定して。

 本人に無許可で俺の嫁使って『いいね』稼ぎをしてる奴を粛清してくるから。」

 

「夏月が殺意ってる、波動ってる。」

 

 

その豪快な食べっぷりはSNSでも注目されていたのだが、夏月組でグリフィンの食べっぷりを動画撮影してSNSにアップした者は居ないので、学園の生徒の誰かがSNSに上げてのは間違いなく、其れでもグリフィンに許可を取っていたなら未だしも無許可だった事にキレた夏月は簪に投稿主の特定を依頼。

簪は更識の裏方としてハッキングやデータの改竄はお手の物なのでSNSにIS学園の誰が何を投稿したかを特定するのは朝飯前なのだ――もっと言えば其の能力は束が『ハッキング能力に限定すればかんちゃんは私を遥かに凌駕してるわよ』と称したくらいなのだ。

 

なのでSNSに無許可でグリフィンの爆食動画を上げた生徒は瞬く間に特定され……

 

 

「ハイドーモ、真・豪鬼です。本物です――お前等、よくも無許可で俺の嫁をSNSにアップしやがったな?

 ……己が承認欲求を満たすために俺の嫁を利用するとは言語道断!其の罪、己が身を持って償え……一瞬千撃!瞬獄殺!!」

 

「「「「「あーーーーー!!」」」」」

 

 

殺意の波動に目覚めた夏月の瞬獄殺を喰らって全員KOされたのだった。

普通ならば此れは問題になるだろうが、今回に限ってはKOされた生徒に全面的に非があるので真耶が夏月には一切の非がない事を全面主張し、束も夏月に非がない事の証明となる映像を学園に送っていたので夏月はお咎めなしとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから数日後、遂に始まった『学年別タッグトーナメント』。

一年生の部では『使用機体によるハンデ』があるとは言え専用機持ちが有利な状況に於いて、トーナメントを制したのは学園の訓練機で参加したタッグだった――バランス型のラファールと、近接型の打鉄の相性は良く、両機とも基本性能が高いので試合のハンデを利用すれば完全専用機とも互角以上の戦いが出来たと言う訳だ。

 

この意外な結果に新入生達は驚いたのだが、続く二年生の部では驚く暇すらない試合が展開されていた。

 

 

「俺とヴィシュヌを止めたいなら持てる力の全てを出さないと無理だぜ?

 尤も、止めようと思って止められるもんでもねぇけどな……今の俺達はSEEDが弾けて二十倍界王拳発動してリミッター解除した状態だからな!」

 

「実力的には申し分ありませんでしたが私達の相手としては些か役者不足でしたか……強くなり過ぎると言うのも試合に於いては少し問題があるのかもしれません。」

 

 

理由は夏月とヴィシュヌのタッグの圧倒的な強さにあった。

夏月組と秋五組には通常の専用機持ちよりも更に大きなハンデが課せられ、シールドエネルギー20%の状態で試合を始める事になり、近接型のタッグである夏月とヴィシュヌは攻撃の手が鈍るかと思われたのだが、蓋を開けてみればシールドエネルギーが20%の状態だろうと夏月とヴィシュヌは得意の近接戦闘でバリバリ攻め、其れこそ相手タッグが反撃する間もなく倒してしまったのだ。

そして其れだけでなくプロの世界で戦う事もある夏月は観客受けする『魅せる戦い』も身に付けており、ヴィシュヌとの合体攻撃も披露していた――夏月が相手にマッスルスパーク・地を極め、ヴィシュヌが相手にビックベンエッジを極めて其れをドッキングした究極のツープラトン『マッスル・キングダム』をブチかました時には会場は大盛り上がりだった。

 

一方で秋五と箒も順調に勝ち進んでいた。

ラウラとシャルロットのタッグと当たった時はラウラのAICに少しばかり苦戦したが、其処で箒が『ラウラ……お前『禁則事項』で『閲覧禁止』らしいな!』と自爆技にも等しい事を言ってラウラの集中力を乱してAICを強制解除し、一瞬動きが止まったラウラに秋五の袈裟斬りと箒の逆袈裟斬りが炸裂してシールドエネルギーをエンプティにすると、残ったシャルロットは真っ向からの近接戦闘のごり押しで押し切り、そして決勝戦へと駒を進めていたのだった。

 

 

「決勝の相手はお前達か……相手にとって不足はねぇ。思い切り遣り合おうぜ秋五、篠ノ之!」

 

「持てる力の全てを注ぎ込みます……覚悟は良いですね?」

 

「本気でやろう……僕の今の力の全てを此の試合に注ぎ込む!!」

 

「実力的には私が一番下だが……今の私の力の全てを注ぎ込む!……行くぞ一夜、ギャラクシー!」

 

 

そして始まった決勝戦は初っ端から四者入り乱れる近接戦となっていた。

構図としては近距離で打ち合う夏月と秋五、中距離でヒット&アウェイのヴィシュヌと箒という形だ。

何でもアリの戦場で戦ったら夏月とヴィシュヌのタッグが間違いなく勝つだろうが、ルールの在る試合ではほぼ互角の戦いとなっていた――尚、此の試合はシールドエネルギーのハンデはなく、両タッグともシールドエネルギー100%の状態での試合となっている。

 

 

「随分と腕を上げたな秋五?

 去年のクラス代表決定戦で戦った時とはまるで別人だ……絶対天敵との命懸けの戦いを経験した事も相当にプラスになってるみたいだな。」

 

「上には上が居るって事をIS学園に入学して、君と戦ってこの身で実感したからね……小学校でも中学校でも常に一番だったけど、IS学園に入学して初めてぶち当たった大きな壁が君と生徒会長さんだ夏月。

 初めて知った圧倒的な実力差……其れが僕を成長させてくれた――正直な話、会長さんの地獄の訓練を経験していなかったら僕は此処まで成長出来なかったと思うからね。」

 

「俺が一年掛かった行程を、お前は一週間でやっちまったんだから天才ってのはつくづくずるいよなぁ……今も今で俺の攻撃にリアルタイムで反応出来るようになっちまうんだからよ。

 本当に天才ってのは羨ましい事だが……天才故の弱点ってのもあるんだよな此れが!」

 

 

近距離での斬り合いを展開している夏月と秋五は互いに決定打を与えない激しい剣戟を行い、其の剣戟は常人の目では追う事すら出来ない神速の剣戟だったのだが、其の激しい剣戟の最中に夏月は秋五の膝に鞘当てを叩き込んだ。

此の全く予想していなかった攻撃に秋五は体勢を崩してしまい、体勢が崩れた所に夏月のウェスタンラリアットが炸裂!

鍛えても鍛えようがない喉笛に攻撃を喰らった事で雪桜の絶対防御が発動してシールドエネルギーが大きく減少してしまったのだが、起き上がろうとした秋五に今度は完璧なタイミングのシャイニングウィザードが放たれた。

 

 

「く……此処でこう来るとは、予想外だった……」

 

「だろうな。

 お前は間違いなく天才で、其れこそ戦いの中でも相手がやって来た事を覚えて即時それに対応する事が出来るし、相手の戦い方をコピーする事も簡単に出来ちまうが、一方で自分の予想を外れた事に関しては対応し切れねぇんだ。

 尤も凡人の考えなんぞ天才のお前には大抵お見通しな上に、その驚異的な学習能力があるから予想外をぶちかますってのは並大抵のモノじゃねぇ。

 だがな、相手の予想の更に先の先まで読む力ってのが裏の仕事では必要になるんでな?今の俺ならお前相手に予想外をかますのも難しくねぇって訳なんだわ……とは言っても同じ手は二度は通じねぇんだから天才ってのはマジでズルいぜ……!」

 

「天井知らずに強くなる君の方が、僕に言わせればズルいと思うけどね……自分の成長は実感出来るんだけど、君との実力差があまり埋まってるようには感じられないんだよね。」

 

 

此の攻撃で雪桜のシールドエネルギーは40%ほど削られてしまったのだが、箒の絢爛武闘・静がある事を考えれば其れほど驚異的な減少ではなく、体勢を立て直した秋五は再び夏月と近距離で切り結ぶ。

 

一方で箒は苦戦を強いられていた。

箒とヴィシュヌも近接戦闘型なのだが、箒が剣術であるのに対しヴィシュヌはムエタイを使った体術――其れだけを見れば剣術である箒の方が有利に思えるだろうが、懐に入り込まれると剣術は逆に不利なのだ。

体術の間合いでは、剣は其の長さが命取りとなって真価を発揮出来ないのである。

剣の間合いを潰された箒は防戦一方となり、直撃を喰らわないようにするのが精一杯だった。

 

 

「(此のままではジリ貧どころか何も出来ずに負けてしまう……だからと言って彼女との圧倒的な実力差を埋める事は出来ん……ならば、覚悟を決めるしかあるまいな……勝てないのならば、せめて……!)」

 

 

そんな中、箒は何とかヴィシュヌの攻撃を弾くとバックステップで間合いを離し、そして二振りの刀を投げ捨て合気道を思わせる構えを取ってみせた。

 

 

「刀を捨てた……諦めた訳ではありませんよね?」

 

「お前との戦いでは刀は逆に不利だと悟った。

 ならば私も体術で対応させて貰おう……篠ノ之流は剣術だけに非ず――体術に於いても古来の武者打ちを源流としたモノがあるのでな……お前のムエタイと比べたら些か粗削りで不細工な体術だろうが、勝つために使わせて貰う!」

 

「其の潔さ、好感が持てますね。」

 

 

古来の武者打ちを元に生まれた日本独特の体術である合気道や柔術は基本的に相手の力を利用したカウンターがメインとなる体術であり、相手の力が強ければ強いほど効果が高くなる武術だ。

故に格上の相手に対しても充分にジャイアントキリングが狙えるのである。

 

 

「一対一の試合ならば其れにお付き合いするところなのですが、今回はタッグマッチですので中々そうは行かないのですよね。」

 

 

 

――バシュン!!

 

 

 

「ハイドーモ!現在無敵街道驀進中の夏月君DEATH!」

 

 

だが此処で箒に、そして秋五にも予想外の事が起こった。

箒の前からはヴィシュヌが、秋五の前から夏月が消えたと思った次の瞬間には、箒の前に夏月が現れ、秋五の前にはヴィシュヌが現れていたのだから驚くなと言うのが無理だろう。

夏月が羅雪のワン・オフ・アビリティである『空烈断』を使って自分と箒との空間と、ヴィシュヌと秋五の空間を斬り飛ばして、瞬間移動めいたスイッチを行ったのである。

 

 

「「!!?」」

 

 

此の完全なまでの予想外の展開に秋五も箒も一瞬対応が遅れてしまい、箒には夏月の居合いが、秋五にはヴィシュヌのハイキックが炸裂してシールドエネルギーを一気に減少させてしまったのだ。

無論此の空間斬撃を使った瞬間移動は強過ぎるので一試合一回の制限が設けられているのだが、その切り札を先に切っただけの効果はあっただろう。

とは言え、秋五と箒のタッグにはこれまた一試合一回限定の絢爛武闘・静があるのでシールドエネルギーがエンプティにならない限りは一度だけシールドエネルギーの全回復が可能であり、其れを踏まえれば先に切り札を切るのは悪手なのだが……

 

 

「此れで決める!合わせろよヴィシュヌ!」

 

「言われるまでもありません!」

 

 

夏月の居合いで吹き飛ばされた箒と、ヴィシュヌのハイキックで吹き飛ばされた秋五はアリーナの中央で衝突して更にシールドエネルギーが減少。

此の時、箒に僅かでも冷静な思考があれば秋五と衝突した瞬間に絢爛武闘・静を発動出来たのだろうが、全く予想していなかった攻撃に判断力を失ってしまい、絢爛武闘・静を発動する事が出来なかったのだ。

 

衝突した秋五と箒に対し、夏月はウェスタンラリアットを、ヴィシュヌは稲妻レッグラリアットを喰らわせる変則式のサンドイッチラリアットを決めると、夏月は秋五をマッスルリベンジャーに、ヴィシュヌは箒をメイプルリーフクラッチにとって極め、其れをドッキング!

 

 

「「ゴッドブレス・リベンジャー!!」」

 

 

これまたキン肉マンの珠玉のツープラトンが炸裂!

マッスルリベンジャーもメイプルリーフクラッチも関節へのダメージが非常に大きく、生身で喰らえば脱臼と骨折間違いなしなので絶対防御が発動し、其れにより秋五と箒はシールドエネルギーがエンプティとなってしまったのだ。

絢爛武闘・静はシールドエネルギーがエンプティになっても使用可能なのだが、其れは試合に於いてはチート過ぎるので使用が禁止されているので、此れにて学年別タッグトーナメント二年生の部は夏月とヴィシュヌのタッグが優勝を決めたのだった。

 

因みに三年生の部では楯無とダリルのコンビが圧倒的な実力差を見せて無双した末に決勝戦以外の試合は全てパーフェクト勝利の偉業を成し遂げて優勝を掻っ攫って行った――楯無とダリル夫々の能力の高さ、機体の性能、そして氷と炎の対消滅攻撃の圧倒的な強さで他のタッグを寄せ付けなかったのである。

特に氷と炎の対消滅攻撃『メドローア』は、フルパワーで使ったら機体ごと相手を消滅させてしまうので出力を5%まで落として使用したにも関わらず一撃で相手のシールドエネルギーを50%消し飛ばすほどの威力だったのだ――なので、楯無とダリルはメドローアに関しては一試合一回の制限を課した訳だが其れでも此の二人のタッグは圧倒的に強かったのだが。

因みに決勝戦の相手はグリフィンとイギリス代表候補生のサラのタッグで、メドローアはアッサリと回避されてしまい、其処からは互いにシールドエネルギーの削り合いになったのだが、真っ先に機体性能で劣るサラが脱落し、其の後は二対一で楯無とダリルのタッグが数の差でごり押ししての勝利と言う内容であった。

 

 

 

そしてタッグトーナメント二日目。

『学年無制限ロイヤルランブル』が行われる本日は、昨日の学年別タッグトーナメント以上の盛り上がりを見せていた。

学年の枠を超えたタッグが見れるだけでなく、4タッグによるバトルロイヤル形式の試合は実力差をひっくり返す展開も期待出来るので通常のタッグマッチ以上のワクワク感とドキドキ感があるのだ。

 

更に試合の組み合わせも盛り上がるモノとなっていた。

夏月と秋五は決勝戦まで当たらない組み合わせだっただけでなく、一回戦の最終試合は夏月&グリフィン、フォルテ&ベルベット、セシリア&サラ、楯無&ロランの4タッグがぶつかる事となり、此れがまた会場を沸かせていた。

一回戦から決勝戦クラスの組み合わせなのだから会場が沸かない訳がないのである。

 

こうして大きく盛り上がりを見せる中で始まった学年無制限ロイヤルランブルは、先ずは第一試合に秋五&ダリルのタッグが登場し、天才タイプの秋五と現場の叩き上げタイプのダリルが予想外の相性の良さを発揮して快勝して見せた。

ダリルの好戦的でガンガン行く部分を秋五の頭脳が巧くコントロールした、そんな試合だった。

其の後の試合は専用機持ちが順当に勝ち進んだり、逆に専用機持ちが訓練機組から集中砲火を浴びて離脱したりと正に目が離せない試合が続き、遂に一回戦の最終試合だ。

 

 

「一番の脅威は楯無とロランのタッグだが、其れ以外も決して楽に勝てる相手じゃねぇな……楽に勝てない相手だからこそ楽しめるってモンだけどよ?

 だが、相手が誰だろうと勝ちは渡さねぇ……タッグマッチなら楯無を倒してもタイマン勝負じゃないから問題ないしな。

 ……初っ端から全力で行く。グリフィン、エネルギーの貯蔵は充分か?」

 

「其れは問題ないよカゲ君!

 朝ごはんで『特盛ステーキ丼』のステーキ二倍、『鉄板ハラミ焼肉』、『肉うどん』の肉二倍、『唐揚げ盛り合わせ』食べて来たから!」

 

「……如何考えても朝飯のメニューじゃねぇよ其れは。

 だがエネルギーが充分なら問題ねぇ……勝ちに行くぜグリフィン!」

 

「優勝したら、今夜はステーキ確定!」

 

 

各タッグ気合は充実しており、特に夏月&グリフィンと楯無&ロランのタッグは更識の裏家業にも携わっていたので気合と共に発せられた闘気のレベルが凄まじかった。

そうして決勝戦クラスの一回戦最終試合が始まったのだが――

 

 

 

――バッガアァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

試合開始直後に、何者かがアリーナのエネルギーシールドを突き破ってアリーナに登場した。

新入生以外の生徒は、去年のクラス対抗戦でのハプニングを思い出していた――其れは其れとして、こうして学園のイベントに乱入して来た時点で相手が真面ではない事は明らかだろう。

不幸中の幸いで、此の襲撃による怪我人は居なかったのだが。

 

 

「ったく、乱入するにしてももう少し空気を読めよ……乱入のタイミングが悪過ぎだって。」

 

「カゲ君のツープラトンを披露する心算だったんだけど……試合でのお披露目は未だ先になりそうだね……コイツ等を倒すのが優先事項だと思うから。」

 

「其れが確かに最優先事項なのだけれど……まさか貴女達がこんな事をするとは思わなかったわ――プロリーグランキング現二位のヒサメさんと、現三位の黒羽さん!!」

 

 

更に乱入して来たのはまさかの氷雨と黒羽だったのだ。

此れだけでも驚く事なのだが、氷雨と黒羽の専用機は禍々しい外見となっており、何よりも搭乗者である氷雨と黒羽の目には一切の光が宿って居なかったのである。

 

 

「「…………」」

 

「だんまりか……だが、どんな理由があるにしても俺達の前に敵として現れるってんなら相応の対応をさせて貰うぜ?――俺達に喧嘩売った事を後悔しろってもんだぜ!」

 

 

まさかの乱入者にアリーナは騒然となり、ドキドキとワクワクが止まらないロイヤルランブルは、一転して戦場へと其の姿を変えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued 

 

 

 

 

 

 

 

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