実況パワフルプロ野球20xx 「球界の至宝」取得RTA投手チャート   作:TE勢残党

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少し時間が空いてしまったので初投稿です。
時系列的には繋がってるので、実質的にはおまけの中編に当たります。


閑話1

 結局、中学世界大会は日本勢の圧勝で幕を閉じた。

 

 野球は世界一の人気スポーツとはいえ、他に何もスポーツがないわけではない。南米や欧州ではサッカー人気と拮抗しているし、インドでは相変わらずクリケットが強い。

 

 日本ほどの野球人気を持つ国は世界的にみればあまり多くなく、強さも概ね、熱心さに比例する。

 

 何より、世界最強の野球リーグを持つ米国で、中学の段階から野球に専念する選手があまり多くないこともそれに拍車をかける。

 

 絶対王者不在の中、15歳までなら日本代表は敵なしと言われていた。むしろ、「今回も当然勝つんだろうな」というプレッシャーの中で彼らは世界大会に望み、そして予想通りの結果をもち帰った。

 

 羽田を降り立った彼らは、それなりの数の取材陣と気合いの入ったファンを捌きながら貸し切りバスへ。

 

 中学生とはいえ、競技人口10億とも言われる野球のトッププレイヤー。世間からの注目度は相応に高く、「全国」や「世界」くらいになると選手たちは一躍スターなのだ。

 

 中学生である以上、大っぴらに接待をする訳にはいかず、大金を渡す訳にもいかず。出場メンバーはどんな強豪校にも特待で思いのままだが、逆に言えば報酬はそれくらいである。

 

 かといって二年に一度、最低でも銀メダルを持って帰ってくる日本代表選手たちに、何もなしでは世間が黙っていない。

 

「では、世界一を祝って」

「「乾杯!!」」

 

 というわけで例年、都心の某高級焼肉店での打ち上げが彼らを待っている。

 

「なんだ、今年の連中は静かだな」

 

 小倉のチームから唯一選出された牛島(うしじま)(とおる)は、チーム最大を誇る183センチ、筋骨隆々の巨体に見合わずあまり騒がしいタイプではない。

 

 今回のチームもまた、体育会系の集まりにしては騒ぐタイプが少なく、精々大学生の飲み会レベルの騒がしさに収まっていた。

 

「そういえば、牛島さんは二回目の選出でしたね」

 

 隣で優雅に上ロースを焼いていた猪狩守は、プライドの高い男だが野球には真摯だ。当時のことに興味を示し、牛島に話を振る。

 

「おう。前の時は三鷹に主砲クラスが何人もいたから俺はベンチだったがな」当時を懐かしむように、どこか遠くを見ながら牛島が答える。

 

「当時の三鷹は本当は埼玉に本拠地があるんじゃないかと疑われるような豪打投壊のチームで」

「誰が投壊だって?」

 

 待ったをかけたのは、牛島のもう片側の隣に陣取っていた朝倉杏香。

 

「ほぉ。防御率7点台で全国出てくる奴は記憶力が違うな」

 

 杏香が一年だった頃。チーム事情の関係でエースをやらされていた彼女は、毎回のように4~5失点しながらも打線の援護で無理矢理に勝ち星を付け続けていた。

 

 5回12失点の勝ち投手。

 

 2年前、秋期大会の地区大会決勝で起こった珍事。当時の三鷹シニアをよく表した事件であり、未だに擦られることがある杏香の異名のひとつだった。

 

「あー! 言っちゃいけないこと言った!! 劣化版清本*1のクセに!!」

 

「今大会は清本より打点多いぞ、俺」

 

 中学最強打者・清本和重の名は既に日本を超えて広まっている。ついこの間の秋季大会で勃発した「北条対清本」世紀の一戦などは、雑誌やローカル局のニュース番組などで早速特集が組まれるほどである。

 

 それらの情報をもとに清本を敬遠した相手投手の油断を、牛島は見逃さなかった。

 

(うわー! 向かいに北条くんいるのにカッコ悪いネタ蒸し返さないでよも~!!)

 

 左から杏香、牛島、猪狩。向かいの列には、北条元哉と霧崎礼里、そして蛇島桐人。

 

 焼き網の関係で6人ごとに分けられたテーブルは、その中でも何となく二つに分かれていた。

 

 元哉の方を分かりやすくチラチラ見ていた杏香だったが、残念ながら当の元哉は礼里と何やら話し込んでおり、牛島はその辺り鈍いタイプの人間であった。

 

「仲、よろしいんですね」

 

 事情を概ね察している猪狩は、それをほんの少し憐れに思ったか普段のスカした態度が少し崩れた。本音が出て、感心したように口を開く。

 

「何度か戦ってるからな」

「やりあえば大体どんな奴かは分かるからね」

 

 こともなげに答える牛島と、ニヤリと好戦的に笑う杏香。公式戦・練習試合を含め十数打席を戦った彼らは、何だかんだでお互いを理解していた。

 

 その傾向はなにも、彼ら二人にとどまらない。

 

 このチームに集められた大半が全国で戦ってきたライバル達であり、互いの手の内も人となりも、野球を通じて何となく分かり会える戦闘民族の集まりなのだ。

 

「では、あの時のチェンジアップは失投ではないのか」

 

「狙って失投した、が一番正確な表現かな。清本さんだからこそ、こっちが際どい所の出し入れもできると研究できてると読んだ」

 

 一方で元哉はと言えば、相も変わらず礼里との野球談義に興じている。

 

「凄い次元だな……大会でも思ったが、いつかまた同じチームで野球がしたい」

 

 大会中元哉の背後を守り抜いた礼里は、お互いにファインプレーを連発しそれをお互いに褒めるという好循環によってすっかり心を通わせていた。

 

「それこそ俺の方からお願いしたいよ。蛇島さんとあわせて3回もヒット消して貰ってる。俺の背後を守ってくれれば、今から甲子園に出てもベスト8くらいにはなるんじゃないか」

 

 繰り返しになるが、元哉は普段無口な質である。ここまで饒舌な、というか、おそらく完全に素で喋っている元哉を見るのは三鷹シニアのチームメイトでも稀なことだった。

 

 今まで見たどんな時より、元哉は機嫌がいいようだ。

 

「お、おお……すまない。存外に高評価だな」

 

「同じ1年であれだけ動かれたらな。今まで見たショートだと一番上手いと思うぞ」

 

「あぅ……」

 

 一方、尊敬する大投手に褒め倒されて赤面し、モジモジと顔を背ける礼里。隣の蛇島は「ご馳走さまです」と苦笑するばかりだ。

 

 評価のためなら手段を選ばない蛇島であるが、元哉のお陰で世界一選手として全国の注目を得た以上、利用価値のあるうちは元哉に手を出すつもりはなかった。

 

「……思ったが、その口調はどういうキャラなんだ」

 

「キャラとか言わないで! 舐められないように一線引いてるの!」

 

 わざとらしい小声で言って見せる礼里。想定外に仲が進展しているらしいことに蛇島は一瞬細目を見開き、直ぐいつもの笑顔を顔に貼り付け直した。

 

 顎に手を当てて考えを巡らせる蛇島をよそに、元哉の様子をチラチラ見ていた杏香がたまらず口を挟んだ。

 

「ちょっとー! 少しは先輩を敬えー!」

 

 向かいに座る元哉の眉間をうりうりとつつくのに際し、杏香はわざとらしく机に身を乗り出している。

 

 現在の杏香は私服なので、愛用しているゆるいサイズのTシャツ姿だ。

 

 当然、元哉の眼前では彼女の体格相応に豊かな胸元(とグレーの下着)が、ゆるい襟首を通して無防備にさらけ出されている。

 

「……すみません」

 

 が、元哉はすぐに視線を杏香の指へ向け、やや戸惑いがちに謝った。効果は今一つのようだが、仕掛けた杏香の考えは違うらしい。

 

(よ、よしよし。たぶん効いてる……けどはっずかしいなこれ!? 無反応だったらどうしようかと思った~)

 

 競うより持ち味を活かしてみようと思ったはいいが、うっかり見えてしまうのと自分から見せるのでは(当然だが)勝手が違うようだ。相手が好きな異性であれば特に。

 

 当初はこれがうまく行けば次は少しくらい触らせてやってもいいかと考えていた杏香だが、この分だと恥ずかしさで頓挫しそうだ。

 

 ようやく事態に気づいたらしい牛島は、今更ながら居心地悪そうに肉をぱくつき出して猪狩に呆れられている。

 

 涼しい顔で謝ってのけ、しかし態度を改善する気はなさそうな元哉に、思わぬ横やりが入った。

 

「ははは、そこまで熱心に口説かれては、つい()()()()を疑ってしまいそうだ」

 

 蛇島である。彼の中では、既に「元哉>>>礼里」という利用価値の算定が済んでいる。

 

 が、素直に礼里を人身御供に捧げて北条に取引を持ち掛けるほど、蛇島桐人という男は優しくなかった。

 

「引きっ!?」

「北条くんそれ本当!?」

 

 これに反応したのは、蛇島の想定通り女性陣2人。いよいよ顔を真っ赤にした礼里と、思わぬ急接近に焦り出した杏香という違いはあるが、おおむね驚きという点では一致していた。

 

 他の面々もにわかに飛び出した「引き抜き」というワードに関心を隠せずにいる。

 

 現在の規定では、所属の変更があった選手はその後1年間は公式試合に出場できない。

 

 逆に言えば、このタイミングで北条を引き抜ければ3年の大会には間に合うのだ。

 

「ふふふ。ですが、こういうものは本人の意思が重要ですから。そうでしょう、霧崎さん?」

 

「ひゃっ!? は、はひ……」

 

 クールキャラどころか茹で蛸のようになりながらも、意思表示だけはなんとか済ませる礼里。それを見た蛇島はより一層笑みを深くする。

 

「では、ここはおあいこと言うことで、私からも提案しましょう。元哉くん、我々のチームに来ませんか?」

 

 主戦力である礼里の流出を牽制しつつ、最後は自分の意思だと言質をとった上で、周囲の介入を最小限にした状態で勧誘を行い、北条の方が移籍してくる可能性を発生させた。

 

 仮に何か問題が起きても、序盤のやり取りで言葉の綾だと言い訳が効く。中学二年生とは思えぬ政治力溢れる一手であった。

 

「蛇島さんと霧崎はおそらく中学日本一の二遊間だ、是非背後を守って欲しいと思ってます。案外悪くないかもしれないですね」

 

 周囲が誤算だったのは、元哉が一瞬でも前向きな答えを返したところだ。

 

「いや、でも占部さんとバッテリー組めなくなるからやっぱり行けません」

 

「ははは、まあ今はそれで構いませんよ。私としては、()()()()でもあなたの背後に立ちたいところなんですがね」

 

 蛇島もあっさり引き下がり、この場はそれで終わり。

 

 だが、全国と世界を戦った中学2年の言う「次」が何であるか。球児であれば言われずとも分かるはずだ。

 

 焼肉に徹していた牛島と、一人マイペースに焼いては食べを繰り返していた猪狩は、これを境に朝倉・霧崎両名の目の色が変わったと意見を一致させている。

*1
清本の打率.667 本塁打51に対し、牛島は打率.520 本塁打42




現在多忙により感想返しが滞っておりますが、全件目を通しております。いつもありがとうございます。強い励みになっております。
5/12 19:10追記 感想返し完了しました。次話は翌朝7時03分を予定しています。

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