実況パワフルプロ野球20xx 「球界の至宝」取得RTA投手チャート 作:TE勢残党
書くことが……書くことが多い……
3月。
世界大会優勝の喧騒も一通り収まった頃、公立中学では卒業式のシーズンが訪れる。
人間関係は流動的になり、同じ高校に進む者、同じ部活を続ける者、様々な形に再編されていく。
国分寺市某所にある公立中学でも、その例に漏れない。
卒業式の正門前に数名、地元ローカルテレビの取材陣が来ているが、学校行事の際にはよくあることだ。
この学校に在籍している中学野球界のエース、朝倉杏香を取材に来た報道陣は一紙、女子選手の積極的な野球参画を唱える社会派雑誌のみだ。
(……まぁ、こんなもんだよねぇ)
杏香は"分かっていた"風に腐してその現実を受け止めた。
中学生とは言え全国優勝を2度、世界大会の代表入りを1度経験している彼女は、女子選手たちの憧れの的として、そして高校球界の注目選手として高い知名度を誇っている。
特に、実績を残す女子選手は常に不足気味である。加えて、全国の舞台で戦うレベルのスポーツ少女にしてはルックスも優れている。
快活なキャラクターと分け隔てない態度、そして少しの迂闊さ、ガードの甘さ。面と向かってかわいいとは言われないけれど、蓋を開ければ絶大な男子人気を誇る。杏香はそういう女子であった。
メディアに持ち上げられるだけのポテンシャルはある筈だが、彼女は昔から取材陣を背負うことが少なかった。
見るからに早熟で、成長は望めない。中学レベルに大人の体を持ち込んだから辛うじて戦えているだけ。勝ち運は確かだが、それではいつか行き詰まる。
高校では通用しない。
そういう評価を、入学当時から常にされ続けて来た。
全国優勝を果たしてもなお、彼女自身が世間から評価される機会は驚くほど少ない。今はもう、新星・北条に人気が集中している。
朝倉は今まで、それをあまり気にして来なかった。チーム内では頼りにされていたし、むしろ気を遣われるのが嫌いだったからだ。
しかし今。中学野球を引退した段になって、自分の評価が低いことを焦りを感じている。
同時に、トップクラスと言われる強豪校からも、1つだけだったがスカウトが来たのを嬉しく思っていた。
少し前まで引退を考えていたとは思えないほど喜びを露にして、近くにいた占部恭介に嗜められたくらいだ。
「単純だなぁ、あたし」
1年の頃からマイペースで傍若無人、(上下関係が緩い)三鷹でなければ殺されていると称された杏香は、中学野球を引退した今になって初めて、周りからの評価を気にし出したのだ。
「……北条くん、か」
原因は分かりきっている。杏香にできた二つ下の後輩だった。
杏香から見た北条元哉は、寡黙ながら力強く前に進む男だ。信頼する後輩・占部恭介の下した「傲慢」という評価も、恐らく間違ってはいないだろうと理解している。
およそロクな男ではないだろう。だが誰よりも強く、他のことには目もくれないまっすぐさに、杏香は夢中だった。
「ふふ、趣味わる」
色々とアプローチもしているが、正直望み薄だろうことは自分自身がよく分かっている。それでも、投手として3年戦った杏香は、自分で思っている以上に諦めが悪かった。
「何がですか?」
杏香の思索は、横っ面にぶつけられた低い声に遮られる。
「うわっひゃぁ!? 居たの!?」
「先輩の卒業式ですから」
北条元哉。いつの間にか杏香の身長を追い越した後輩が、校舎裏にたたずんでいる。
先輩の卒業式には必ず行く、というような決まりはないが、裏で恭介が散々圧力をかけた結果であった。
「あー、えっとね……」
沈黙が場を支配する。だが、元哉が「どうしました?」と声をかけるより、杏香が覚悟を決める方が早かった。
「……!」
卒業式の日。放課後。人のいない校舎裏に二人きり。ベタだが、シチュエーションとしては最上だろう。
一方元哉も、杏香が現れたあたりで遅まきながら事態を察した。
ただ、普段は関心を向けていないだけだ。
「うん。あたし、元哉君のこと好きだわ」
だから元哉は、その告白を眉ひとつ動かさずに見つめていた。
「あーいいよ答えなくて! 最後にケジメつけたかっただけだから! そんだけ! じゃあね!」
口に出すまでで限界を迎えた杏香は、幸か不幸か元哉の反応を確認出来ていない。
真っ赤な顔で言うべきことを言いきって、逃げるようにその場を後にする。
「…………」
元哉は、これから自分の行うことが意味するところを理解している。
だが彼は、躊躇わずに踵を返した。
◆◆◆
「卒業おめでとうございます、朝倉さん」
「……うん」
翌日、中学近くのファストフード店。
困ったように笑う杏香は、しかし持ち前の快活さが鳴りを潜めていた。
同席している占部恭介は、杏香の目元が赤いことを指摘しない気遣いを持ち合わせている。作戦失敗を悟った恭介は、居住いを正して聞く姿勢を取った。
「…………ちょっとくらい、期待してた。何だかんだ言って、まぁ、あれだけやられたら追っかけてくれないかなって」
ぽつぽつと語りだした杏香の話を、対面の恭介は黙って聞いている。
「バカだよね、あたし。
「バカがいるとしたら北条と俺です。そこまでやるとは読めなかった」
頭を下げる恭介を手で制して、けれど杏香は黙ったまま。
「謝らないで。まだ諦めてないから」
うってかわった強い口調に、恭介は一瞬面食らう。
「言ってたでしょ。こっから野球で大活躍して、向こうから告白させてやる。合宿の時いってたやつ、まだ有効だからね」
思わずぽかんと口を開けていた恭介が、一拍空けてニヤリと笑う。
「良かったです。ショックのあまり忘れてたらどうしようかと思いましたよ」
「あたしが諦め悪いの知ってるクセに」
「そりゃあ、俺が1年の頃は先輩、炎上して降板させられる度にベンチで悔し泣きして──」
「わー!! いーわーなーいーでー!!」
まさしく薮蛇となった杏香は、顔を赤くして話を遮り、
「でも、ありがと」
小声で、しかし確かに感謝を述べた。
「いいってことですよ」
それでこの場はお開きとなったが、恭介には考えることが他にもあった。
杏香が帰った後のテーブルで、恭介は1人思考を巡らせている。
この数日前、恭介は2年生にして
高校野球の強豪校はあちこちにスカウトを派遣して有力な選手を探している訳だが、その中でも傾向の片寄りというのが存在する。
京都市に所在し、甲子園最多出場を誇る西強高校は高槻や神戸のパイプが強い。
横浜のあかつき大付属は横浜北と、三鷹、板橋の一部。
例外的に、板橋区の帝王実業は日本中からまんべんなく集める方針だが、これは非常に珍しい。
では港区の大東亜学園はと言うと、 これも日本中から見込みのある生徒を集める傾向にあるものの、中でも三鷹シニアからの進学者が例年多いことで知られている。
レシプロ財団による中学野球界の統一が起こってからも、あるいは起こったあとの方が、強豪校による選手の囲い込みは起こりやすかった。
それでも普通、3年にならないうちから進学先が決まるようなことはない。
恭介は学年的に、隔年で行われる世界大会への出場はもうないため、その当たりを勘案して早めに判断したのだと大東亜学園の編成担当は言っていた。
実際、大東亜のスカウトのあと、帝王実業と白鳥学園からは既にスカウト話が舞い込んでいる。
恭介が大東亜からの青田買いにウンと言ったのは、都心という立地条件の良さに加え、特待で学費・寮費・用具費用に至るまで全額免除という破格の条件をどこより早く提示してきたことが大きい。
(俺が行けば、ほぼ間違いなく北条はついて来る。あの先輩のことだから諦めないだろうし、上手くやれば同じバッテリーが組めるかもな)
当初こそ、そんな思惑を抱いていた恭介だが、しばらくしてある疑念が頭をよぎる。
話が決まる前から、自分の進学先が確定したかのように案内する監督。妙にトントン拍子に進んでいく面談。一言ウンと言った瞬間、凄まじい勢いで進む手続き。
今回は自分が承諾したからスムーズに終わった。
だがもし、
(朝倉さん……ハシャいでたな)
全国優勝投手の割にスカウト評価が低いことでも知られていた杏香は、それなりの学校からはお呼びがかかっても、全国常連クラスの強豪校からは敬遠され気味なところがあった。
それが、土壇場で「大東亜」。創立から30年も経っていないが、同地区の帝王実業を甲子園から遠ざけてしまうほどの超名門。
三鷹シニアの現監督は、大学・社会人リーグで華々しい成績を残した大東亜学園第一期生である。
そして彼は、勝つためなら手段を選ばないという今の三鷹スタイルを築き上げた人物であるが、それは必要とあらば非情な判断もできるというだけだ。
私人としては人情味溢れる人で、投壊時代のチームを支えた功労者である杏香からエースを剥奪したことを心苦しく思っていたと、恭介は独自の情報網で知っていた。
聡明な恭介の脳内にはずっと、ひとつの仮説が留まっている。
──おれの
有力選手の入学を確約するのと引き換えに、チーム側で選んだ選手も一緒に入学させる。そういう取引は、古い時代から往々にして行われてきた。
占部はついぞ口に出さなかったが、「朝倉は高校レベルでは通用しない」という言説は正直、正しいと思っている。
少なくとも、元哉が来るまでの朝倉は既に停滞していたし、それ以降は完全に元哉を応援し出していた。
「元哉に認められたいという気持ちで奮起するかも」という身内の贔屓目を抜きにしたら、杏香は選手としては終わっている。
その評価に異を唱えることは、キャッチャーとして鍛えた自分の目が許さなかった。だから一切、口に出さなかった。
今のままでは、彼女は大東亜で通用しないだろう。
「…………がんばってくださいよ、本当に」
そして大東亜は"マンモス野球部"と言われる選手層の厚さを持つ反面、成績不振の選手に対して一切の容赦がないことで知られている。
たくさん入りたくさん脱落し、残った少しが強者となる。
──それは、恭介の信条とも一致していた。
(多分、さっきのが最後になると思いますけどね)
ふ、と息を吐き出すと同時に、恭介の笑みが一瞬のうちに消えた。
彼は気配りのできる男だ。
だが内心、強い者、優秀な者以外には価値がないと思っている。
アドバイスもするし、求められれば答える。成長してくれそうなら、全力で手伝いもする。
だが、実力に関しては極めてシビアだ。
元哉と違うのは、嫌いな相手だからといって、いちいち態度に出すほど子供でないというだけ。
キャッチャーというポジションを選んだのは、野球において最も個人技に優れた選手を見ることができるからだ。その興味・関心のお陰で、彼は投手の全てを知り尽くした女房役でいられている。
恭介と元哉は案外似た者同士で、だから波長が合っていた。
杏香にバーターのことを言った方が奮起するのか、このまま恋愛の力で突き進ませた方がいいのか。恭介は散々悩んだ末、後者を選んだのである。
「おれがそっちに行ったとき、まだ
──おれはいつだって、強いやつの味方です。
恭介の独白を聞くものは、誰もいなかった。
各高校の所在地は独自設定に基づいています。