夢は何時か叶う
良い言葉だし、その言葉は正しい努力さえ伴っていれば大概の事は叶うという事を短いキャッチフレーズで分かりやすくまとめた素敵な言葉だと思う。
うん良い言葉だ、これが嫌いだなんて言うやつは中々見つからないだろう。
ただ、努力じゃどうにもならないものを願ってしまった場合、人はどうすればいいのか?
その際このキャッチコピーはどうすればいいのか、作ったやつに小一時間問い詰めたいだけで。
さて、なぜ私がこんなくだらないことを考えているのか、それは昨日起こったことに起因する。
季節も桜も散りかけの4月後半、大学生活も二年目に突入した。
そして大学生と言えば右を見ても左を見てもカップルがいちゃつき、盛り合っている。
きっと頭にはショッキングピンクのお花畑が咲き誇っている事だろう。
対して私はと言えば、真面目に生きることをモットーにしており、学生ならば本分を全うし、わきめもふらず勉学に励むべきではないか!と頭お花畑の学友たちに向けて存分に演説を繰り広げてやりたい気分になることもしばしばである…………。
そんな訳があるか!私も学生らしく彼氏の一人や二人作って、休み時間はダラダラ取り留めのないことを喋ったり、お昼には外に出てランチを楽しんだり、休みの日には一日中デートして、うっかり楽しくて遅くなって電車とか逃しちゃって、それで帰れなくなったから「ちょっと俺んち寄ってかない?」なんて言われちゃうこともあるだろうと!そんなうっきうきでドキドキな展開もあるのではないかと!様々な欲望……もとい期待を胸に秘めてキャンパスライフが始まったのがもう二年前、彼氏という生き物はJDになれば勝手に出来てるものかと思っていた!しかし現実として、そんなことは全くないまま、一年間が終わってしまった……。
しかし、しかしだ!私もこのまま灰色でキャンパスライフを閉じるわけにはいかない、ショッキングピンクに私も染まってみせようではないか!今日!今こそ!この灰色に終止符を打つのだ!
といった趣旨の事を学食にて友人の前で延々と語っていた。
うんうん、なるほどー、ふーん、すごいねーと四つの相槌を巧みに使い分けながら彼女は熱心に私の話に耳を傾けてくれる。この話を始めてからスマホの画面から一切目を離さなかった気はするが、きっとそれは錯覚か何かだ。
視聴者約一名の虚しい演説もとりあえず一区切りつき、息を整えるためにお茶をすする。
すると彼女は画面から目を離しようやくこちらを向いて一言
「その考えは立派だけど、だったら早く行動に移せば?」
「分かってるよ!だけど告白して振られたらどうしようっていう乙女心を理解してよ!」
Q:私は普段から友人の興味のない話を延々とするような人間ではないと自分では思っている、ならば何故今日に限ってこんなに喋っているのか?
A:これから告白をしに行くから
お相手は1年の頃からお世話になっている写真サークルの一つ上の先輩だ。
彼との出会いは丁度二年前の今頃、わが大学では新入生に向けたサークル歓迎会なるものがあり、学校中を使ってサークルの魅力を語り新入生をサークル紹介してあげようぜという恒例行事である。
運動サークルではどんなことをやっているのか実演や観客参加でのミニゲームをしたり、文化系サークルでは作った作品の展示や、落研による落語の披露、アナウンス部による噛まずに早口言葉リレーなどなど一人でも多くの新入生を取り込んでやろうと中々気合の入った行事の一つだったりする。
そんな中とりあえず様々なサークルをプラプラと見て回っったりチラシを頂いたりしたのだが、額縁に飾ってあった美しい桜の写真を見て足をとめた。私は桜が好きなので桜と着いたものを見るとついつい買ったり見たりしてしまう。それにしてもよく撮れてるなーと、ぼーっと眺めていたらカメラを首にかけた男性に声を掛けられた
「よく撮れてるでしょーそれ、コンクールに出したやつでさ残念ながら賞は取れなかったけど結構な自信作なんだよね!」
どうやらこの美しい桜を撮ったのはこの男性らしい、ふと桜以外のものに目を向ければカエルが池に飛び込む瞬間や様々ね植物の写真、運動サークルの活動風景と思わしきものなど様々な写真が飾られておりそこが写真サークルであることにようやく気づき、そしてじっくり見ていたせいか興味津々な奴だと思われていたらしい。
そうやって桜以外の写真もぼーっと眺めている横でこの男は一眼レフがどうとか、レンズがどうとか初心者置いてけぼりの内容をつらつらと喋ってくれやがっていた。どうすればいいかわからず困ったように笑っていると、他の新入生と喋っていた同じサークルの女性と思わしき人に呆れた表情で肩を叩かれ、咳をされ。そしてようやくその専門性にこちらがついて行けていないことに気が付くと男性は慌てて謝りだした。
「ごめんねー、写真とかカメラの事になるとつい喋りすぎちゃってさ、今日も写真見ていい感じじゃね?って見てる新入生もこうやって喋ってるとドン引きしてさっきから逃げちゃって……」
「ほんとだよ、あんたのせいで今日何人の新入生逃げ出したかわかんないじゃんバカ!」
すみません部長とか言いながら手を合わせてこの変な男は女性に向かって謝っている。いつもいつもあんたは!とかなんとか一言二言説教して男性はとりあえずこちらにもう一度軽く頭を下げて少し離れた場所に向かった。
女性が改めてこちらに向き直す
「ごめんねこんな変なのに捕まって迷惑だったよね?」
部長に改めて謝られたが大丈夫ですよと身振り手振りで伝える。
新入生を突然捕まえて、相手を置いてけぼりにして一人でべらべらと喋ってたらドン引きして逃げて当然ですよ、とつい口に出そうになったが流石に踏みとどまる。
そもそもの話だが、無理に引き留められたわけでもないので絡まれてべらべら喋りだした時点で逃げ出した先人たちにならって私もさっさとここを立ち去るという選択肢はあったはずである。
そうしなかったのは、四月後半にもかかわらず未だに友達がおらず一人きりで見て回っており、自分からサークルの勧誘してる人に話しかけることも出来ず、逆に話しかけられてもつい逃げ出してしまったりといった具合で、人との距離の測り方をどこに置いてきてしまったのかと途方に暮れていた私にとってはこちらを無視してぐいぐいと好き勝手喋ってくれていた男性は多少困りはしたものの、他者との関わりに若干飢えていた私にとってはありがたさの方が勝っていたという点が強かったと言える。
そんなことを考えながらまた少しぼーっとしていると部長と言われた女性は先ほどの謝罪から話を続けていた。
「……てな具合でさ、あいつみたいなのもいるけど結構みんな真面目にやってるし上下の交流もゆるーい感じのサークルで楽しいと思うから興味があったら入ってみない?」
特に写真に興味があったわけでもないが、こういうのは袖振り合う縁もなんとやらであるとして加入を決めたのであった。
そこからサークル繋がりでやっと友達も出来はじめ、少し遅れはしたもののやっと私にとってのキャンパスライフが始まったと言える。
「いやまぁその話も何度か聞いたけどさ、その話だけ聞くとその一個上の変な先輩がべらべらオタク喋りしてただけだし惚れる要素全くないよね。」
「ボッチだった私にとっては孤独から抜けるきっかけをくれた恩人だからいいの!それに入ってから写真の事教えてくれたし」
「初心者相手に偉ぶりたかったんじゃね?」
「先輩はそんな人じゃありませんー!それに先週の誕生日に私の好きなケーキくれたもん!」
「サークル皆からお金出し合ってくれたの貰ったーってにっこにこ笑顔の写真付きでメッセージ送って来たね」
「うぐぐ……でも嫌われてるわけじゃないもん!」
「大人はみんな上手に本心隠すからなー」
「不安ばっかり煽んないでよ!」
ごめんごめんと彼女は笑いながら謝る、実際のところ私が加入するといった時彼はとても喜んでくれていたし、初心者だった私があれやこれやと聞いたのはサークル内でカメラに一番詳しかった先輩であったため結構関係は良い方だと思っている。
……不安をあおられたせいで怖くなってきたが。
「大丈夫だよ、ほんとに嫌な相手のためにわざわざケーキを渡そうなんてところに居合わせないからさ」
……こういう落としてから上げる会話術は皆どこで身に着けてくるのか不思議である。しかし彼女のよって奪われた自信は彼女の手によって復活した。
時間はまもなく予定の二時から三十分前、今時ならばメッセージで付き合ってとか告白するのも主流の一つではあると思うが、やはり私は昔からの手法に則り呼び出して直接告白しようと思いこの度一念発起して近くの喫茶店に呼び出して告白すると決めたのである。
精一杯おしゃれしたし、身なりは変なところもないはずだ、時間にはまだまだ余裕があるし、行きつけの喫茶店だから迷うことはない、あとは告白するだけだ。
気持ちも落ち着けたいし少し早めに出て先輩を待ち構えていたかったので少し早いがそろそろ大学を出ることに決めた
「それじゃ、そろそろ行くね」
「いい報告期待してるよ、まぁその頑張ってね」
告白する前に不安だからと呼びだしてすぐに来てくれた友人には感謝するしかない。
彼女の声援を背に親指をビッと建てながら行く、気分はまさに死地に赴く戦士のようだが見事に生還してみせたい。
大学から歩いて十分、喫茶店に到着店の一番奥の席に通される、約束の時間にはまだ20分ほどあるが心臓のドキドキは収まらない、このまま告白してぶっ倒れたりしないだろうか?少し不安になってきた。
……少し早く来すぎたかもしれない、時間をつぶそうとスマホを触る手も震えてしまう。気を落ち着けようと注文したカフェオレも震えてまともに飲めそうにない。
そんなこんなで待ち合わせ十分前、カランカランとドアが鳴る誰かが入ってきた。入口の方を見るといつものラフな服装をした先輩である。席から少し立ち上がり手を振るとこちらに気が付いた先輩が来る。
「おまたせー、時間よりちょっと早めにきたつもりだったけど今日は秋野ちゃん早いねー」
「特に待ってないから大丈夫ですよ。それよりも今日はじゃなくていつもはやいですー、むしろいつも時間きっちりに来る先輩がちょっと早めに来てくれたのがびっくりですよ」
軽口をたたき合いながら彼は向かいの席に座り、アイスコーヒーを注文する。
「それで、昨日送って来た大切な話があるからいつもの喫茶店に来てほしいってことだったけど何の話?」
もう少しどうでもいい会話を続けてから本題に入ろうとしたが、先輩からズバッと切り込んできた、早く来てくれたのは大切な話だからと思っての事だったらしい、こういうところも好きになった一因だ。
そして、こうなってはもはや逃げることもできまい、勝負は今ここで決めるのだ!
「……私たちが初めて会ってからもう一年になりますね先輩」
「そうだね、新歓であんな態度で勧誘した子がまさかサークルに加入してくれるとは思ってなくてびっくりしたのは今も忘れられないよ。」
「今年の新歓も酷いものでしたけどね、先輩が居なかったら後二、三人は多く勧誘できたと思います。」
「あれ、もしかして今日呼んだ大切な話って新歓でのお説教だったりする?」
先輩はおちゃらけてそんなことを言う。
「ただ、私はあの時こっちに小学校卒業以来、相当久しぶりに帰って来たら、知ってる街並みが残ってなくて、昔の友達にも会えなくて不安だった私にとっては凄く嬉しいものでしたよ」
あの勧誘がひどいことは自覚しているため、怒られることはあれど褒められると思っていなかったであろう先輩は少し恥ずかしそうにしていたが、丁度到着したアイスコーヒーを飲んでいる。
一旦会話が途切れた、私も心を落ち着けようとカフェオレを飲む、少しぬるいがまだ丁度いい温度だ。
ずっとドキドキが収まらない、さっきから変なことを言ってないか、変な顔をしていないか不安になってくる。それでも呼び出した私が言わなければ話は進まない。
それでもこちらから切り出すまで結構な時間を要した。
「それで本題なんですが」
「うん」
「先輩に遠回しに言っても仕方ないので単刀直入に言います。先輩の事が好きです、こんな私でよければ付き合ってくださいッ!」
立ち上がって頭を下げながら言う、遂に言った、言ってしまった。
先輩の顔を見ることが出来ない、どんな返事が返ってくるか不安で顔を上げたくない。
氷が解けたのかカランという音がする、どれだけ時間が経ったのか分からない、永遠ともいえるほど長い時間が経った気もするが実際にはまだ十数秒立ったくらいだろう。
もしかして声が震えたりしていてちゃんと届いてなかったのだろうか?
そんな見当違いのことを考えているとようやく先輩が口を開いた。
「秋野ちゃんとりあえず座って」
先輩に促されるまま座る、先輩の方を見るとこれまで見たこともないような顔をしていた。
その表情は何を考えているのかはあまり読み取ることは出来ないが分かりたくもない事がただ一つ分かる。
先輩の答えはノーという事だ。
振られたというショックで何を話したのか、具体的なところまでは覚えていない。ただ内容を要約すると
「告白してくれたのはとても嬉しい、ただ君の事は妹か、ちょっと早いけど娘とかそんな感じの関係であると思って接していたからそういう対象としては見れない、これからも苦しくないならサークルの先輩後輩として仲良くしてくれると嬉しい」である。
私の何が足りませんでしたか?とつい聞いてしまった。先輩はもっと困ったような顔をして、どんな言い方をすればいいのか悩み、数分考えていたようだがそれでもはっきりと言ってくれたのだった。
「身長が低いからどうしても子供が背伸びしているように見える。」
今更だが自己紹介させて頂こう、私の名前は秋野桜先週二十歳になったばかりの女子大生だ。
秋なのに桜かよ、と思わなくもないが綺麗な名前だし何より女性らしいく思うし、桜のように誰にでも好かれるような子供になって欲しいという意味も込めたそうで結構気に入っている。
そして桜と言えばあまり植物に詳しい方ではないが、盆栽などを除けばよく見る品種のものは結構大きく育つ植物であり、そういうところからあやかって大きくなりますようにという意味も込められていたのではないかと勝手に思っている。
しかし、私の身長が大きくなることはなかった。小学6年生の頃からピタッと成長が止まってしまい身長は今も130後半だ、今日も必死におめかしして結構高めのハイヒールを履いていたのでぎりぎり140あるかな?といった具合だ。両親ともに大きい方ではないがそれにしても私は小さすぎる。
一言で言ってしまえば身長は私のコンプレックスである。整列すれば間違いなく一番前で、前ならえは前がいたことが無いのでやったことない、今も夜出かけることがあれば必ず補導されかけるので身分証は肌身離さず持っていなくちゃならないし、背が低いからというだけで中学から高校の頃は心の無いようなことを平気で言ってくるような奴もいた。
そしてそんなことを言われる度に私は自分の身長が嫌いになっていった。
ただ、大学生にもなればさすがにそんな低俗なことで馬鹿にしてくるような奴もいなくなり、ようやく平穏な人生が送れるようになり、満を持して今こそ恋愛も楽しんでみたいと思っていた。
好きな人に好きですとちゃんと言って結ばれたりしてみたかった。
まさかここに来ても身長が原因で振られることになるとは全く考えてもいなかった。
先輩は内面でも何らかの要因でもなく身長というどうしようもない事で振ってしまうことをどうしても心苦しく思っているのか、その身長だからこその君の愛らしさがあるとか、僕が受け入れられないだけでそういう人もたくさんいるから大丈夫だとか必死にフォローしようとしてくれている。
そういう優しいところが好きだったんです、だから今はそんなに優しい言葉を投げかけないでください。
先輩の方が見れずずっとうつむいている。
先輩は気まずかったのだろう、ごめんねとまたサークルで待ってるねとだけ言って支払いをして帰っていった。アイスコーヒーは一杯飲んだだけで申し訳ないことをしたと思う。
どれくらいうつむいていたのか分からない、気が付けば友人からいくつもメッセージが来ていたし数回電話も鳴っていたようだが今は返そうという気になれない。
とりあえずこのままずっと注文もしないのに居座っているのは店としても迷惑だろう、席を立ちお会計しようとする。店主はお連れの方から既にいただきましたと伝えれてくれる。
本当に申し訳ない、むしろ私に払わせるくらいでもよかったはずなのになんていい人なんだろうか。今度ちゃんと謝るのとお金返さなきゃ。
そんなことを考えて店を出る。何時間うつむいていたのだろうか?外は日が傾きかけておりオレンジに染まり始めていた。
人は振られた時涙が止まらないものかと思っていたが涙が出ることはなかった。一人暮らしの家だ、帰っても誰もいないし今は帰りたくない、されど人がいる方には行きたくない。
とりあえず人のいない方、大学とは逆の方へ向かう。
ふらふらと歩く何も考えられず、考えようとしてもうまくまとまらない。
陽は沈みだし辺りが段々と暗くなっていく、まだあてもなく歩き続けている。すると何となく見覚えのある所にやって来ていた、ここに来てから一年ちょっと経ち、近隣の地理にも多少詳しくなり昔の知っていた場所は大体巡り、見つからないものはなくなったものだと思っていたが、思いがけず発見したのは昔よく遊んでいた公園だった。
少子化の煽りを受けているのか、昔あったと記憶しているジャングルジムなどの大型の遊具はいくつかなくなっているが、それでも滑り台、ブランコ、鉄棒の配置は変わっておらず今も整備されているのか昔と変わらず綺麗なままで残っていた。
懐かしくなり、ブランコに乗ってみる。どこまで歩いていたのか全く分からずあまり履かないハイヒールのせいか足はかなり痛い。
痛さを思い出すと次は空腹になっていることに気が付いた、時計を見るともうすでに七時前緊張で朝から何も食べていなかったのでこれは仕方がない。
スマホで近くの店でも検索しようかと思ったがなんと充電は切れてしまっている。
仕方がないので周辺を探すとコンビニが建っていた、これ幸いと早速立ち寄る
すると、たまたま近くで事故があったのかこのコンビニの見回りでも来ていたのか警官が立っていた。私は二十歳なのだし、そもそもまだ七時なのだ特に補導されるようなこともないと安心しきって横を通ったのが間違いだった。
「お嬢ちゃんこんな時間に外に出ていると危ないよ、お父さんかお母さんはどうしたんだい?」
……まぁよくあることだ身分証を見せればいい、そうすれば解放されるだろう。
そんな考えが甘かったのかもしれない。
「お母さんの免許証を勝手に持ち出したらだめじゃないか!送っていくから家を教えなさい!」
辺りが暗かったこととこの警官がちょっとお年を召していたのが最悪な形で合わさったのだろう、まさか二十歳にもなって送っていくと言って怒られるとは思ってもみなかった。
幸い明るいところでもう一度ちゃんと身分証を見せたら私のものであるとちゃんと認識してもらい何度も謝られ、ようやく解放された。
お腹もすいていたが、振られ、理不尽に怒られ精神的に参っていたのだろう。ついこの間国から許しを得たアルコールを摂取してみようとコーナーの方に近づく、すると商品の陳列をしていた青年がつい口を出してしまったのだろう。
「君、それはジュースじゃなくてお酒だから君には売れないよ。」
普段ならにっこり笑って「二十歳なので」という、それでも大概の場合信じられないので大概は身分証を出して終わるのだ。しかし今日はコンプレックスである身長をこれでもかというほどつっつかれ私の我慢は限界に達しており、つい大声でキレていた。
あまりの剣幕でキレすぎたせいか陳列をしていた青年はちょっと涙目になっていたが、私としても今日はあまりにも身長の事を突っつかれ過ぎて疲れ切ってしまった。
バイトと思わしき青年にキレかかっている時点で正常な判断が付かなくなっている。だが怒り、哀しみ様々な感情が混ざり合い正常な判断が出来なくなっているという事も分からず、思いのまま飲んだことも無いような量のお酒を買い店を後にした。
この時点で大きな失敗をすでに二つ犯してしまっている、一つは結局食料を買わずにお酒だけ買って出てきてしまったこと、もう一つはモバイルバッテリーでも買おうかと思っていたのにそれすら買わず出てきてしまったことだ。
前者はともかく後者は結構まずい帰り道が結局どこなのか分からない、どちらももう一度店に入って買い直せば済む話だったのだがここで私は最大の失敗をしてしまう。
とりあえず怒り心頭のままコンビニから公園に戻ってきた私はもう本当に何も考えていなかったのだ。
ブランコに腰掛けると500ミリの強めのチューハイをそのまま煽りだしてしまった、一人やけ酒の開幕である。それからどれくらいの間飲んでいたのか分からないし、アルコールが飲めるようになってから一週間の私がどんなことをやらかしたのかは考えるのも恐ろしいが
何をしたか全く覚えていないが、証言によると私はものすごく大きな声で叫んでいたこと、そしてなにより絡み酒をしてしまったのようなのだ……。
せめて見ず知らずの人とかならまだ多少マシだった、それでも酩酊状態だったのでいかなる人でも迷惑千万に違いない。
しかしよりにもよって、その絡んだ相手はたまたまコンビニに立ち寄っていた幼馴染とも呼べる男性だったことはその日最大の厄だったと言えるだろう。
その後何がどうなったのかという事は覚えていないが、事実として残っているのはおびただしい数の酒が入っていたであろう空き缶がある事、見知らぬ家の布団で着た覚えのないダボっとしたシャツを着ており下着を全て外していたこと、そして幼馴染の男が隣で眠っていたことである。何が起きたのかは全く分からないし考えたくもなくなっていた。
だがこの日の厄は全て、幼いころからずっと胸に秘めていた「身長を伸ばしてほしい」という努力のしようがないちっぽけな夢すら叶わなかったせいであると酒が残った頭で考え、そのキャッチフレーズを考えたやつをいつかぶん殴ってやるといった物騒な事を考え、もういろいろと考えるのが嫌になりもう一度布団で寝なおすこととしたのだった。
ヤケ酒ダメ絶対