オラリオの花剣士   作:リコルト

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気付いた方もいるかもしれませんが、この話は原作の七年前スタートです。つまり……あの事件が……


すれ違う新旧の『正義』

 

 

「ご来店ありがとうございました」

 

 

 今日の朝9時から営業し、気が付けば外の街並みは夕焼けの茜色に染まっていた。時計を見てみると、午後の6時前。閉店時間は6時だが、今のお客様が店内の最後の方だったし、店を閉める準備を始めても大丈夫だろう。

 

 

「ふぅ……それにしても、今日もよく売れたな」

 

 店内を見渡すと、店内が植物園ぐらいになるほど朝から準備をした花の数々が量を減らし、中にはお客様のリクエストが多く、売り切れとなった種類もある。

 

 これだけオラリオで愛されていることを知れば、かつて一緒にギルドハウスで花を育て、愛でてきた団員や主神も喜んでくれるだろう。なにせ、この売られている花は全て自身のファミリア産だからな。

 

 

「さて、明日の花の準備もしますか」

 

 

 今日の売り上げを計算したところ、ざっと50000ヴァリス。創業の3年前から続く連続黒字記録を今日も塗り替えた。これだけ稼げるなら、商業として成功している。店員も俺だけだから、人件費は必要ないし。

 

 自分に眠る商才に惚れながら、売り上げ金を金庫にしまい、店内をさっさっと箒を掃きながら、明日の仕事のことを考える。店外の窓からも閉店準備をしているのが見えるし、こんな閉店時間ギリギリに来る客なんて……

 

 

「華陽さ~ん、入るよ~?」

 

 

 …………いたわ。

 

 

 入り口を見ると、遠目からでもすぐに分かるほど長い赤い髪をポニーテールにして如何にも戦いやすそうな戦闘衣(バトル・クロス)を身に纏った少女。そして、俺と同じ出身を示す和装をしており、お嬢様のような雰囲気を醸し出す刀を携えた黒髪の少女。

 

 閉店時間を知らない観光客ならまだ分かるが、どちらもオラリオ歴が長いベテランだから質が悪い。

 

 

「はぁ……閉店時間に何の用だ?アリーゼ、輝夜」

 

 

 居酒屋みたいなノリで一番に入ってきた赤髪の明るい少女は、アリーゼ・ローヴェル。一方、和装を着たオラリオでも珍しい刀を携えた少女は、ゴジョウノ・輝夜。どちらもレベル3の名が知れた冒険者で……『正義』を掲げ、オラリオの治安維持に尽力する『アストレアファミリア』の団長と副団長だ。

 

「もぉ~、華陽さんったら。そんな怖い顔しなくても~。華陽さんと私達は長い付き合いじゃない!」

 

「団長の言う通り。私達と華陽様とは顔見知りの仲。それに、まだ時間的に私達は、お店に訪れたお客様だと思いますが?」

 

「そんな戦闘衣(バトル・クロス)と得物を持った少女が、花屋を営んでるウチに来る理由は無いと思うがな。武器系ファミリアと店を間違えた方が、まだ可愛げはある」

 

 やった、華陽さんが私達のこと可愛いって!と、変なところで興奮しているアリーゼはおいといて、店の立て札を『OPEN』から『CLOSE』へと変える。これ以上のお客はもうお断りだ。

 

 

「で、何の用だ?もうこの店には誰も来ないから、輝夜も()()()の口調で良いぞ」

 

 人払いを済ませたところで、アストレアファミリアの幹部である二人が店を訪ねた理由を聞いてみる。来た以上、話だけは聞いてやろう。

 

 

「なら、単刀直入に言わせてもらう。こんなところで花屋を経営せずに、私達に協力を「残念だが、断る」」

 

 口を開いたのは輝夜。要件は当たっていたみたいだ。これで何十回目のスカウトだろう。いつも通り、俺はそのスカウトを拒否してやった。

 

 だが、輝夜達もこれで引くような奴じゃない。

 

「……貴方は私達アストレアファミリアよりも、早くオラリオを暗黒期から立て直そうとし、今の私達のように闇派閥と戦ってきた筈だ。しかし、今の闇派閥の活動が異様に活発化してきている。貴方はここで花を売っている暇じゃないと薄々感じてはいないのか?」

 

 ……要は人手が足りないというわけか。確かにオラリオは広い。加えて、彼女達のようなレベルが高い冒険者も少数派だ。それに、輝夜が話す闇派閥の活発化も、噂で俺も聞いていたが、少し異様と考えていた。あれを異様と思えるなら、彼女達も随分見る目が成長したものだ。

 

「アリーゼも輝夜と同じか?」

 

「ええ、華陽さんは私達よりも数が少ない()()()4()冒険者。これほど心強い人はいないわ」

 

 ゼウスとヘラのファミリアがなくなり、現オラリオの最高レベル保持者は6相当。アリーゼが言うように、レベル4冒険者は即戦力レベルの人材で、この闇派閥が活発化してきた中で協力してもらいたいと二人は考えているだろう。

 

 だが……

 

「悪いな、今はまだ協力する気にはなれない。少なくとも、お前達が闇派閥の本拠地に乗り込むような危ない自殺行為をするぐらいならな」

 

 二人の話が響かなかったわけではない。むしろ、今のオラリオの現状分析と課題整理が良くできている。かつての俺のファミリアを見ているみたいだ。

 

「敵の本拠地に攻め込んで闇派閥を撲滅……能動的なことは評価する。だが、()()()()よりもずっと難しい。なにせ、地の利は向こうにある。何が起こるか、何を失うか分からない。攻略され尽くした上層・中層のダンジョンに行くとは話が違う」

 

 この地の利の理解が甘かったから、ファミリアの団員は死んだ。自爆覚悟で闇派閥のアジト全体に爆弾が仕掛けられていたと聞いた時は、絶句した。攻めの姿勢が仇となり、誘い込まれてしまったと……。あれほど、自分が団長として悔いた日はない。

 

「加えて、今の闇派閥は昔みたいに数だけの烏合の衆じゃない。理由は知らないが、統制は取れてきているし、目的を果たすための頭が働いている。つまり、俺のファミリアを壊滅させるような知能が働き、実行できる奴等が増えてきているというわけだ。……お前達がやっていることは、俺のファミリアよりも危険なことだ」

 

 しかも、相手はモンスターじゃない。人間だ。人間なんて復讐といった感情一つで常軌を逸した行動を取る。アストレアファミリアの奴等は、その恐ろしさと何かを失う喪失感を知らないだろう。

 

 俺の説教じみた話を聞いて、俺のファミリア事情を知り、団長という団員を率いる重要な役割を持つアリーゼは、否定できないような難しい顔をしている。その一方で、輝夜は俺にさっきの話に一切動じてない様子で問いかけた。

 

「……そうかそうか、かつてアンテイアファミリアを率いた団長が今では臆病者とはなぁ。なら、今もその腰に携える二本の刀は何のためにある!闇派閥を攻めない後手に回る臆病者の策を、よりにもよって()()から聞くために、私は足を運んだわけじゃない!この臆病者がっ!」

 

 臆病者……ああ、そうだよ。腰に差し続けている愛刀に触れる手が震える。冒険者として仲間の命が簡単に消えることは覚悟していた。だが、俺の采配ミスで、ファミリアが積み上げたものが、ファミリアの同胞が、一瞬で無に帰したんだ。俺はその積み上げたものが一気に崩れ去るのが今でも怖い。行き過ぎた努力がいつか身を滅ぼすことを俺は体験した。

 

 それなら、目の前の二人……いや、アストレアファミリアには防衛に今からでも回って欲しい。叶わない願いだ。だが、今の積極的な『正義』は俺のファミリアの二の舞だ。二人のような……俺のファミリアの意志を継ぐ人材には死んで欲しくない。

 

 

 だから、俺は心を鬼にして反論する。輝夜の挑発には絶対に乗ってやらないという気持ちで。

 

 

「臆病者で結構だ!!二人がどう思っているか知らないが、あの頃のアンテイアファミリア団長『百花剣乱(ひゃっかけんらん)』のハナミヤはもういない!」

 

「「っ!!」」

 

 ……二人は俺を高く評価してスカウトに何度も来てくれたが、生憎と今の俺とは相性が悪い。強く言い過ぎて驚かせたかもしれないが、これで最後だ。

 

「輝夜、後手に回ることは必ず悪いことじゃない。むしろ、人手不足なら、攻める方が馬鹿だ。危険を犯して敵陣地を攻めて人手を消耗するぐらいなら、降りかかる火の粉を払う程度に仲間と連携して守りを固める方がまだマシだな。……もう二度と来るなよ。お前達のスカウトは俺にとって本末転倒だ。俺達は分かり合えない」

 

 ……正直言って今の闇派閥は不穏な雰囲気がある。それを刺激しているのは間違いなく『正義』を貫くアストレアファミリアだし、そこに俺が加われば何が起こるか分からない。これで少しは頭を冷やしてもらいたいが……

 

「~~~っ、帰るぞ!!団長!私達の過大評価だったようだ。こっちこそ二度と行くものかっ!」

 

「あ、待ちなさい!輝夜ったら!」

 

 

 俺が全てを語ると、輝夜は怒り……いや、悲しみか?を抱えたような複雑そうな顔をして、ズカズカと店を出ていった。アリーゼもそんな彼女を心配するように、彼女を急いで追いかける。

 

 

 二人には悪いことをしたかもな。

 

 

 だが、これが今の俺のスタンスなんだ。

 

 

 

 

 

 

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