オラリオの花剣士   作:リコルト

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不穏はすぐそこに

 

 

 アリーゼと輝夜が店を訪れてから三日。輝夜が店を飛び出して出ていくという喧嘩別れになってしまい、あれからアリーゼ達が改めて店に来る様子は見えない。

 

 前なら、アリーゼ一人だけでも頭を下げて勧誘しに来たことはあったが、それすらもない。昨日の話で、アリーゼも何かしら思う節があったのだろう。楽観的な彼女にしては珍しく思い悩む表情が印象的だった。

 

 しかし、特別な二人は来なくても、当たり前の日常は今日もやって来る。商品の花を準備し、お店を開き、お客さんに花を売る。これが今の俺の日常だ。

 

 

『ねぇねぇ、聞きました?』

 

(んっ?)

 

 店の中でいつものように、花束を作るために手を動かしていると、常連である何人かの主婦達による世間話が耳に入ってきた。

 

 普段なら今日の晩御飯の献立や最近のブームみたいな、こちらも聞いていて楽しい話が聞こえてくるのだが、声のトーンを聞く限り、良い話ではないっぽい。

 

『この前、第四区画の住宅街で起きた大きな火事……あれって放火だったらしいわよ』

 

『放火って、また闇派閥の仕業かしら』

 

『最近、オラリオのあちこちで火事が多いですけど、怖いですね……この辺りではまだ起きてませんが、夜は特に気をつけないと』

 

(……放火か)

 

 ここ数日、オラリオ内で謎のボヤ騒ぎがあったが、主婦の噂と言っても放火の可能性は高い。何せ、その数は急激な右肩上がり。そして、東西南北と円陣でも描くような出火場所。流石に自然とは言い切れない。

 

 今は自分の店の近くで、そういった騒ぎはないが、腰に携えた刀を触れる手が震える。勇者(ブレイバー)の指が疼くような危機感知能力は俺にないが、何か嫌な予感がする。

 

 遅ければ一週間以内……早ければ今日。

 

 次はオラリオの南東であるここで騒ぎが起こる。

 

 もちろん、確証はない。火事は必ず夜に起こり、場所はランダム。これまでオラリオの北・北西・北東・西・南西・東・南の位置で火事は起きており、起きていないのは南東のみ。だが、計画犯なら間違いなく隙間であるこの南東を埋めるために、騒ぎを起こすに違いない。

 

 

「…………俺ができるのはこれぐらいだけだ」

 

 

 攻めるならまだしも、攻められるなら話は別。もし、ここ周辺を襲うのであれば、俺は容赦しない。なぜなら、店に通う常連さん達が多く住んでいるし……何よりファミリアの主神や仲間が一番守ってきたエリアだ。

 

 

 見過ごすわけないだろう。 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 ―その日の夜―

 

 

(誰もいないな……)

 

 

 戦闘でも動きやすい軽い素材でできた着物と紫陽花柄の羽織を着て、俺は長年使ってきた愛刀を二本腰に携える。準備が整ったところで、誰も入らないようにしっかりと店の戸締まりをし、誰もいなくなった店を俺は後にするのだった。

 

 昼間は多くの商人がいて賑わいがあるのが、この周辺での特徴なのだが、夜は一転して不気味な程に物静か。これも闇派閥の活動の活発化の影響だろう。

 

 そんな誰もいないストリートをコツコツとゆっくり歩いていく。何かを見過ごさないように。かつては、オラリオ中をこうしてファミリアの仲間と昼夜交代してパトロールを毎日していたものだ。

 

 だが……その仲間はもういない。懐かしい思い出だ。

 

「大通り側は大丈夫か……なら、次は裏路地を見よう」

 

 昔の思い出に浸りながら、歩く進路を変更し、手慣れた様子で裏路地へと入っていく。裏路地は大通り側よりもさらに暗く不気味な様子になっており、ここに入るには相当の勇気がいるだろう。

 

 道に散らばる廃棄物を回避しながら、改めて念入りに怪しい人物がいないかを探すが、見当たらない。

 

「……杞憂だったか?」

 

 怪しい人物がいなければ、それでいい。だが、やけに人が少なすぎる。まるで人払いをしたような……怪しさを感じるのは、かつての冒険者の勘だ。

 

 

「おいお~い、こんなところで何してるのかなぁ?」

 

 

 ……まだまだ勘は生きてるらしいな。後ろを振り向くと、そこには黒いフードで全身を覆った怪しい男性。だが、その装いには見覚えがあった。

 

 

 闇派閥(イヴィルス)だ。

 

 

「少々道に迷ってしまいまして。この辺りは人がいなくて不気味だから、早く出たいところですが……」

 

「へぇ、そうなのかぁ。確かにここには俺達しかいないもんな。だけど、俺は理由を知ってるぜぇ」

 

「ほう……どんな理由が?」

 

「それはだな……俺が潰し回ってるからだぁ!」

 

(っ!?)

 

 男がそう叫ぶと、複雑な路地から三人の黒いフードを被った増援。しかし、その三人は全身から血を流した意識が無い男女を抱えていた。

 

「俺は人払いを任されていてな。今日はここで大きな火の花が咲くんだ。だから、誰にも邪魔されたくなくてよぉ。こいつらは夜が危ないにも関わらず、歩いていたから手が出せねぇ程に潰させてもらったわ」

 

「火の花か……それは最近オラリオ各地で起きてる火事のことだな。お前達が犯人だというのは分かったが、それを知った俺はどうなる?」

 

 

 

 

「邪魔だ。死・ね」

 

 

 

 その口が開いた瞬間、男はフードの懐から大きなハンドアックスを取り出し、俺の頭から下へと大きく振りかぶる。その威力はすさまじく、道に断裂跡が残る。

 

 だが、彼の動きは簡単に見切れるものだ。そう簡単にレベル4の冒険者が、かつてお前達と戦ってきた俺が、負けるには行かない。

 

 そっちが先に手を出したんだ。ならば、こちらも情報料も込みで、お返しをしないとな。

 

 

「ハナミヤ流……居合いの太刀・槿花一朝(きんかいっちょう)

 

 

 腰に携えた二本の名刀『紫陽花』と『花繚』を一瞬で抜刀。花のように滑らかで美しく、刹那のような素早さに特化した太刀筋は、男の身体を斬りつける。

 

 そして、目の前の男を斬りつけた後は増援の三人の始末。これも難なく鮮やかに決め、両足を斬りつける。筋を斬ったので、もう簡単に歩くことはできないだろう。

 

「ぐあぁっ!!?何だ……今の一瞬で何が……」

 

「お前達の身体を斬ったんだ。一応、急所は外したが、出血死は保証しない。大人しくしてろ」

 

 かなり大口を叩いていたが、所詮は下っ端といったところか。あの太刀筋の片鱗すらも見えないとは。あ……全員意識失ってやがる。

 

 まぁ、殺してはないから残りはその辺にいるガネーシャファミリアの団員に任せるとしよう。問題はこの奴等にやられた人達だな。外傷がかなり酷い。

 

「あ……貴方……は?」

 

「もう大丈夫だ。俺が育てた薬草で作った回復薬(ポーション)でなら、痛みも傷も和らぐ」

 

「あ……あり……がとう」

 

 一人意識が戻った俺と同じぐらいの女性に、持ってきた特製のポーションを飲ませ、残りの二人にも同じものを飲ませた。これでもう大丈夫なはずだ。彼女達もガネーシャファミリアに任せるとしよう。

 

 問題はあの下っ端達の上にいる放火の実行犯の存在。このオラリオの南東側に確実にいると思うが、まだ詳しい居場所が掴めない。どうすれば………

 

 

ゴオォォッ!!!

 

 

「ん……あれは火柱か?」

 

 

 突如、俺がいる場所からバベルがある方向に400mの地点で目に見える火柱が立つ。

 

 まさか、もう放火が実行されたのか?と思うが、その火柱は少しずつ()()()()()。まるで、何かを追いかけているように。それも何かを燃やしている気配もない。

 

「……なるほどな」

 

 あの炎が出せる心当たりがある人物は一人しかいない。俺はその火柱に接近するように、脚に力を込め、その路地裏を後にした。

 

 全く……人使いが荒い乙女達だ。

 

 

 だが、動いてくれると信頼してくれたのは嬉しい。

 

 

 




公開可能なステータス

・ハナミヤ・華陽

出身:極東

ファミリア:アンテイアファミリア

二つ名:百花剣乱

レベル:4

武器:名刀「紫陽花」、名刀「花繚」

年齢:22歳(12歳でオラリオに来た)

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