スウォルツは髪を掻きむしりくにゃくにゃと動き回る。奇妙な行動だが、目の前にいる者達のことを考えれば仕方ないかもしれない。
「日立学園三年常磐ソウゴ」
「室井高校三年常磐ソウゴ」
今度はソウゴ達を指差し続ける。鬱陶しい。
「花園学園三年常磐ソウゴ」
「えっと──」
「もういい美沢高校三年常磐ソウゴォーッ!」
「はいっ」
「一人ソウゴが減って、二人増えたというわけだな」
新しく増えたソウゴにスウォルツはまたDEと便宜上名付ける。EFと間違えて、ミサに訂正されてはいない。決して。
「えー、今我が校ではソウゴ達が争っている。生徒会長の座を賭けてな」
まさか命を懸けてのものになるとは思わなかったが。
「前の学園は化物に襲われて壊滅したが、こっちの方が楽しそうだ。なあオイ」
ニヤニヤと笑うのはソウゴDと名付けられたヤンキーだ。ソウゴEのテディベアにちょっかいを出したりもしている。遠ざけられた。
「では存分に競い合うといい。なるべく血を見ない方向性でな」
まぁDがいる時点で無理だろうが。スウォルツは内心そう思って苦笑いした。
○○○
「融合した世界の数だけ常磐ソウゴは存在していました。そのほとんどは真実のソウゴその人により選別されましたが、そのお眼鏡に叶う者はいなかったようです。
しかしそのうちの一人、凄まじき戦士の力を継承した者は真実のソウゴに喰らい付くほどの力を見せました。その戦いの影響で真実のソウゴは更に弱体化し、彼による選別は現在行われていません」
誰に解説しているのか、ウォズは誰もいない屋上で一人囁く。
「残った四人の中で、最も優れた常磐ソウゴが世界を救う鍵になる。でもその優劣を、一体誰が決めるのか。意外と生徒会長選に意味があるのかもしれません」
さて、とウォズは目を閉じて深呼吸。
「私も選択しなければいけませんね」
○○○
空き教室に一人、ゲイツはぼぅっと座っている。オーラは程よい距離にある机に腰掛けた。
「らしくないわね。どうかした?」
「……ソウゴが、死んだ」
「知ってる。ウールから聞いただけだけど」
「俺のせいだ」
「んなわけないでしょ。殺したのはCなんだから」
C、というアルファベットを聞いたゲイツはビクリと震えた。
「そういえば騒ぎになってたわね。殴ったのゲイツだったんだ」
小さく首が動いた。肯定の証。
「俺はただ八つ当たりをしただけだ」
「私は正当だと思うけど」
「……アイツは『好きなだけ殴ってくれてええ』と言った。俺はそれに甘えただけだ」
「そう」
少しの静寂。ねえ、とそれを破ったのはオーラ。
「何であんたのせいなのよ」
「俺はアイツを見放したんだ。選挙に不真面目だからって」
ゲイツらしいといえばらしい。オーラは小さく溜息を吐いた。
「俺を親友と呼んでくれたアイツにかけた言葉があれなのかふざけてる──」
癇癪は止まらない。いや急に止まった。再び項垂れたゲイツはポツリと呟く。
「やめる」
「何を」
「救世主だ」
「はぁ?」
「ソウゴがいないこんな世界を救う必要なんて──」
ゲイツは最後まで言い切れなかった。オーラに頬を叩かれたからだ。
「ふざっけんな」
シャツの襟を掴み、オーラはぐいっと顔と顔を近づける。
「あんたはどうして救世主になろうと思ったの、常磐を魔王にしないため? 世界を救うため? 違うでしょ」
怯んだままのゲイツにオーラは言い放つ。
「人を救いたいからよ。一人を救えなくてメソメソ泣くのはいいけど、だからって残りを全て見捨てるの?」
それなら最低最悪の魔王と変わらないわ、とオーラは吐き捨ててゲイツを放す。
「せめて守ってみなさいよ、彼の民を」
「……だが俺はアイツらを見捨てたんだぞ、小和田もそうだ」
「今日はとことんネガティブね。そんなクヨクヨ悩んでる暇あるなら一人ぐらいは救えるわよ」
「いやクヨクヨするのはいいけどって言ってなかったか!?」
「言ってない。メソメソ泣いてもいいとは言ったけど」
まぁつまり、とオーラは口に出しながら言いたいことをまとめ始める。
「あんたはあんたらしく、悔やみながらでも最善を尽くせばいいのよ。それが常磐のためにもなる」
「……そうか」
「それでも自分のやってることに引っかかることがあるなら私に相談しなさいよ。私だって常磐やピナ程じゃないけどあんたのこと見てるんだから」
「……助かる」
ゲイツはようやく笑みを見せる。オーラもそれを見て口元が緩む。
「そういえば何で知ってるんだ」
「アンタの夢の理由のこと? ピナに聞いたから」
「いやそっちじゃなくてソウゴが魔王になりかねないって──」
「ここにいたか」
「スッ、スウォルツ──先生」
「うーわ出た」
扉から唐突に現れたのはスウォルツ。オーラは顔を押さえて天井を仰ぐ。
「お前がソウゴCを殴ったと聞いてな。話をしにきたんだ」
「本人は反省してますし説教とかはあんまり……」
「ゲイツならそうだとは思ったが、ソウゴが生きていることは伝えておこうと思ってな」
二人は「は?」と同時に信じられないものを見る目でスウォルツを見た。
○○○
同時刻。化粧を落としたウールはソウゴBと接触していた。わざわざディスコの終了を待ってまで。
「どしたんや。アンタはAのシンパと違うの?」
「いや、ソウゴ先輩、死んじゃったし」
「あ、そか。かんにん」
「……俺の民になりたいって話だったが。Aのこと好きだったんだろ。いいのか」
Aへの好意に触れられたウールはぎこちなく笑う。
「別に。ソウゴ先輩は僕の愛を受け止めてくれなかったから」
「だから鞍替えするってわけか」
ウチはええで、とミサはウールの頭を撫でる。愛されない気持ちはすごくわかる。
「……ソウゴの素晴らしさはこれから仕込んでいけばええしな」
「ミサがいいなら歓迎しよう」
「ありがとうございます!」
頭を下げたウールの掌には、くしゃりと潰れた紙切れがまだ握られていた。
通りがかったソウゴCはそんなウールを見て寂しげに笑った。自嘲しているように見えた。
壁にもたれかかったソウゴCは制服から封筒を取り出し、その中の便箋を読んでいた。
「何読んでるの?」
「なんや、Eか」
素早く便箋を折り畳み仕舞うソウゴC。Eは首を傾げて質問を繰り返す。Cは渋々答えることにした。
「……ラブレターや。屋上で告白するんで来てくれぇってとこか」
「付いてっていい?」
「何言っとんのや、嫌や」
「俺魔法使いだから、演出とかできるよ」
「んなもん要らん。断るしなぁ」
スタスタと歩いていくC。またEは首を傾げるのだった。
「そっちは屋上じゃなかったはずだけど」
まいっか、とEは自分に与えられた空き教室に戻ることにした。クマちゃんを待つ生徒達は少なくないから。
階段を下るソウゴC。そこに二人の生徒が駆け込んでくる。Cが思わず跳び退いた直後、現れたのはソウゴDだ。
「オイゴラァ!!」
生徒と生徒の頭をぶつけ、腹部に蹴りを入れる。壁に叩きつけて襟を掴んだ。
「オイお前ら。分かってるよなこの野郎」
俺に投票しろよ、という言葉にボコボコにされた生徒は頷くしかなかった。
「Cじゃねぇか。よぉ兄弟」
「何が兄弟や。恐喝まがいなことしよって」
「お前も同じだろ馬鹿野郎。Aってのをブチ殺したんじゃねぇのか、ん?」
話にならない、とCはそのまま下りようとするが。
「なぁ兄弟。今夜Bのタマ取りに行かねぇか」
「やめとくわ。やらなきゃならんことがあってなぁ」
そう言い捨ててCは今度こそ下りていった。
「……ダチになれると思ったんだけどな」
見当違いか、とDは笑った。
ソウゴCはようやく目的地へと辿り着く。扉にセロテープで雑に貼られた紙には「ソウゴC」と書かれている。元々は化学実験室として使われていた教室だった。
ソウゴCは再び封筒から便箋を取り出す。また読んでから、扉に手をかける。
中は数日前と然程変わりはない。変化といってもせいぜい、机の上にお菓子が、床に寝袋が敷いてあるぐらいだ。
扉を慎重に閉めたCは眼鏡を外し、教卓にそっと置く。隣に便箋も置く。ラブレター用に製造されたであろうそれには、『化学実験室の冷蔵庫』と書かれていた。あと簡単な関西弁の例も。
『おっしゃ、俺に任しとき。その代わりィ、俺に協力してくれなァ』
「協力って何なんだよ、俺……」
ソウゴC、否AはCが遺した言葉を思い出して軽くぼやいた。
少し悩んだが冷蔵庫を開ける。ソウゴの背丈ぐらいなら入れるかもしれない大きさ。普通だったら実験に使う液体が冷蔵されているはずの中には、暗闇が広がっている。
おずおずと手を突っ込むと、引っ張られる感覚。気づけば、ソウゴは知らない場所に出ていた。背後を見てみると、白い扉。開けてみると先程までいた実験室。
「何これ……」
困惑しつつも中を見渡す。色々な機材で足の踏み場が無いが、唯一パソコンに繋がる道だけは確保されていた。掌の上で転がされている感覚を覚えるも、パソコンの前へ向かう。
とりあえずパソコンを起動してみる。パスワードはさっきとは別の便箋に書いてあった。一瞥しただけでは意味不明な文字の羅列だった。
読み込みが終了した途端に動画が再生される。
『よォ、ソウゴA』
映っていたのは当たり前だがCだ。
『この部屋は俺の師匠が設計したのを俺が再現したんや。保温は万全だし防御力も高い。つまるところ簡易的なシェルターみたいなもんやな__』
そのままこの部屋の話が続く。理系は専門外どころか壊滅的な成績のソウゴにはちんぷんかんぷんだった。
『__悪ィ悪ィ、つい話しすぎてもうたわ。こんな話を聞いてくれる気の置けない奴は死んでまったからなァ』
ここからが本題や、とCの顔が引き締まる。
『俺はここに来る前にこの怪現象の黒幕に会ったんや』
ソウゴは思わず身を乗り出す。誰もが知りたい情報だった。
『俺はソイツにようわからんけど選定されて、失格になった。んで、殺されかけた』
サラッと言うことではない。
『でも俺は別の俺__ソウゴKとしとくか。Kに助けられたんや。黒くて刺々しいアーマーを纏っとった。
Kと黒幕は相討ちになったんやろな。俺は死んでないし、その後Kとは会ってないしなァ。
で、俺は決意したんや。Kに報いようってな。俺に何ができるかって考えたら、アイツの計画をぶっ潰すことしか思いつかんかった』
まずは黒幕を探そうとしたが、化物達に阻まれ失敗。ならば他のソウゴを探すことにした。
『アイツやKの言動から、アイツは俺達"ソウゴ"を何かの基準で選定しとることは分かってた。だからとりあえず高校を目指した。化物も恐いしな』
そして光ヶ森高校に辿り着いたというわけか。二人もソウゴがいたのは幸運だった。Cが死んだ直後に更に増えたけど。
『お前に目ェ付けたのはアレや、Bよりも信用できたからや。……増えた自分に困惑したのがどこまで本当なのかわからんところはあったけど。
んでBの女とも一時的に組んで、今にいたるっちゅうこっちゃ』
Bの女とはすなわちミサのことだ。あの時話していたのはミサだったのか。
『悪かったな、お前を殺すようなことに加担して』
全くだ。
『んで計画通りいけば俺はAとして死んだことになってて暗躍しとるはずやけど……違う?』
初めてカーソルが出てきた。マウスを引っ掴み、迷いなく『していない』をクリックした。少し読み込みの時間が経った後、Cは芝居がかった動きで落ち込む。
『マジか、俺死んだんか。加減せェよ俺ェ……』
いや、とソウゴは首を振る。俺は加減した。サイキョウジカンギレードは持ち出したがそれでもギリギリまで調整したつもりだった。
『でもお前に限ってやらかしはせんか。噂に聞くだけでもお人好しの度が過ぎてるからなァ』
そこがイイトコなんだろけどな、とフォローしつつも話を続ける。
『まぁこうなったら何もできんな。自由にいけ自由に』
「っていうか黒幕についてもっと教えてよ」
『そうそう、アイツについては教えられん。先入観は視界を狭めるからなァ。ソイツの名前が分かったら話は別やけどな。コイツに打ってみィ。あとは任せたで、ソウゴ』
プツリと動画が閉じる。せめて別ルートの動画を見たいので再起動するが流れなかった。
「いや、えぇ……」
ポジティブなことを考えれば、この部屋そのものと、黒幕が存在することとその目的とCとミサが仮初の協力関係にあったことがわかった。ただそれだけだが。
すごいこと押し付けられたなぁ、と溜息を吐く。
「……とりあえず片付けよ」
ごちゃごちゃとした周りを見て独りごちる。万が一は無い方がいいが、あった時に困らぬように。
○○○
気づけば夜だった。冷蔵庫から出てきたソウゴは暗闇に一瞬驚く。どれだけ散らかってたんだあそこは。一呼吸吐くと、急に腹の減りを自覚する。
電気を付けて時計を見ると、もう消灯時間を過ぎていた。食堂には何も残っていないだろう。だからといってお菓子を食べる気にはならなかった。
「……どうしようかなー」
とりあえずカーテンを閉めながら考える。といっても、取る選択肢は二つしかない。
ソウゴは勇気を出し、寝るという選択肢を放棄した。
「……何だソウゴC」
スウォルツの視線は怖かった。当然だ、と思うのは自惚れだろうか。
「え、Aに聞いたんや。先生が深夜に仕込みしてるって」
「……そうか。閉めてくれ」
ソウゴは言われるままに閉めた。
「明日はお前のリクエスト通りすき焼き風にするつもりだ」
「そうなんや──え?」
「どれだけの付き合いだと思ってる」
昨日と同じ台詞だった。
「えっ、気付いてたならどうして指摘とかしなかったんですか……?」
「わざわざゲイツやウールを騙してまでCに扮しているのだろう。ならそれなりの理由があるはずだからだ」
頷きたかったけど、結果的にはあんまり頷きたくなかった。ソウゴの微妙な顔に気付いて、スウォルツの顔も微妙になった。
料理をしながらCに扮することになった経緯と先程得た情報を包み隠さず伝える。ソウゴがライダーだということもバレてる気がするし。
「確かにゲイツやウールを騙してでも得たかったものではないだろうが、重要な情報だ」
特にフィルターの存在は大きい。それとなく生徒達に示唆することにしよう、とスウォルツは決めた。
「……俺、ゲイツやウールに許してもらえますかね?」
「真摯に話せばなるようになるだろう」
話は変わるが、とスウォルツは続ける。
「ウールがお前──というかソウゴCを探していたんだがどういうことだ? それにあれからずっとソウゴBと行動していたが」
「ウールはソウゴBに付いたところを見たので、多分ミサの指示じゃないですかね」
「……情勢が混沌としてきてるな」
頭を抱えたくなりながらも手は止めない。
肉を薄くスライスするのはソウゴの方が得意だったので、スウォルツはタレを作る方にシフトした。そっちはそっちでソウゴは甘くし過ぎてしまうところはあったから。
料理を終え、手を洗うスウォルツ。ソウゴは遅めの夕食を食べた後に実験室に戻っている。そんな調理室に現れたのはアナザーディエンド。飛流に戻ると、調理台に腰を乗せる。
「ソウゴと何か話してたみたいだが」
「真実のソウゴの目的がわかった。とはいえ真意にまでは辿り着いていないがな」
先程聞いた話を要点だけ噛み砕いて話す。
「逆にどうしてそこまで辿り着いたんだよアイツは」
「とにかく、門矢士の目的が更に分からなくなったな」
○○○
「大変だな、せーんせ?」
「止せやめろ。お前にそう呼ばれるのは気まずい」
ソウゴ達プラスミサが去った後、校長室に現れたのは加古川飛流。飛流はソファにどっかりと座り込み、上下反転したスウォルツを見る。
「防音は問題無いだろうな?」
「ああ。音符眼魔の力でな。……気付いてるか?」
「ソウゴがCを装っていることだろう」
「それもそうだが門矢士がこの高校に侵入してきた」
何、と目を見開くスウォルツ。やはり気付けてないか、と飛流は声を漏らす。
「ウォズでさえもこの世界に門矢士が侵入してきたことに気付いていなかった」
「それ相応のバックがいるということか?」
「おそらく。黒幕である真実のソウゴにせよ、もしくはその野望を阻止する者にせよ」
前者の場合、そちらに着いているウォズが感知できないのが変だが。裏切りを警戒しているのかもしれない。
後者には心当たりがある、というかその場合、飛流のバックと同じなのは間違いない。だが、行動がおかしい。一部メンバーの独断で、この多重世界にやってきた飛流に接触してこないのは仕方ないが。
「……ソウゴは自分を殺せると思うか?」
「何だ藪からスティックに」
「お前そんな軽いキャラだったか?」
「あんたに一番言われたくなかったわそれ。……ソウゴに並行同位体の自分が殺せるかってことだろ」
まさか、と飛流は一笑に付す。今回一番選挙活動に非積極的だったのはソウゴだ。むしろゲイツの方が熱かったし。
「物理的な戦いにしても最後の最後で奴は手加減するだろう。そして相手に訴えるはずだ、自分の想いをな」
「ならば何故、ソウゴCは死んだ?」
「自分でもわかってんだろ。門矢士だ」
「……できるのか、奴に」
「近くで観察してみて初めて分かったことだが、奴は激情態に至っている」
激情態、と眉をひそめるスウォルツに飛流は説明をする。曰く、ライダーの破壊者として覚醒したディケイドの真の姿。曰く、彼に破壊されたライダーはカードとなり、彼の力となる。曰く、彼が死んだ場合破壊されたライダーとその世界は再創造される。
それも、これまでの力は初期型ドライバーの時の力。ネオドライバーで激情態に覚醒した今、彼は破壊していないライダーの力であっても自在に使えるらしい。
「ジオウ以外で限りなくオーマジオウに近い存在、と言える」
「そんな凄まじい力で奴は何をしようとしている」
「……これは個人的な予想だが、奴はかつてのライダー大戦を再現しようとしてるんじゃないか?」
ライダー大戦。全ての仮面ライダーとディケイド激情態が殺し合った惨劇。
「ライダー大戦の原因は世界の融合であり、その目的は世界をあるべき姿に戻すためだった。
それに奴は十五枚のライダーカードを手に入れていた。ジオウの各アーマーのな」
先程束に加えられていたのはビルドアーマーのカードだった。
「無かったカードはオーズ、フォーゼ、ウィザード、そしてディケイドアーマー」
「Dからはフォーゼ、Eからはウィザードの力の気配がしたな」
「便利だなお前」
Bは言わずもがなである。
「となるとソウゴはディケイドアーマーに当てはまるわけか?」
「どうだか。もしかするとソウゴはジオウそのもので、もう一人ディケイドアーマー担当がいるのかもしれない」
「……とにかく、証拠は揃っているわけだな」
「ああ。この仮説が正しいなら奴は真実のソウゴと対立している可能性が高い」
「ことが済んだ後に世界を再生させようとしている可能性も否定はできないが……そこまで考えると堂々巡りだな」
「とにかく俺達がやるべきはソウゴを生き残らせること。この仮説は外れててもおかしくない」
「ソウゴと俺達は一連托生だからな」
「まぁお互いできることをしていこう」
「ああ」
ディケイドとディエンド、二つのアナザーウォッチを持つ男達は前腕を打ち合わせた。
○○○
「──なるほどな、門矢士が真実のソウゴの代わりに選定の役割を担っている可能性も出てきたか」
「門矢士に話を聞きだせれば手っ取り早いが……」
「無理だろうな。せめてライダーの力が使えれば……!」
飛流が悔しげに呟いたその時、外から音がする。扉に近かった飛流から外に出る。少し走って見つけたのは、手刀を鋭く伸ばしたディケイド激情態と床に倒れるソウゴ。
飛流の行動は早かった。体内のウォッチを起動させてアナザーディエンドに変貌、ディケイドにタックルを喰らわせる。
「……ディエンドのアナザーか」
「頼んだぞスウォルツ!」
アナザーディエンドはそう叫ぶな否やガラスをぶち破ってディケイドごと落ちていく。残されたスウォルツは頷いてソウゴを背負う。そして化学実験室を目指した。
ディケイド激情態対アナザーディエンド。アナザーディエンドが劣勢なのは言うまでもなかった。
巡回中の怪人を差し向けたが、サソリの触手から滴る毒やマシンガンのように放たれる紅の羽根ですぐに倒されてしまい、その後も召喚する隙を得られない。
分身やバリアは一瞬で消され、追尾弾も盾で受け止められてしまう。
「キッツイなぁ、オイ!」
高速移動で肉弾戦を挑んでも、更にそれを上回る高速移動で対策される始末。とうとう地べたに倒れてしまう。
「随分と手間を掛けさせてくれるな」
「アイツを殺されるわけにはいかないからな……!」
「だがそれも終わりだ」
〈FINAL ATTACK RIDE──ZI ZI ZI ZI-O!〉
アナザーディエンドの周りに十二個の"キック"の文字が踊る。それらが一つになり、跳び上がったディケイドの右足にくっついていく。
アナザーディエンドはせめてもの抵抗にバリアを出す。しかしそれは必殺技を受け止めるには心許ない小ささと薄さで。
そのままその蹴りを喰らえば飛流は死んでもおかしくない。だが無慈悲に足はアナザーディエンドに近づいていく、はずだったが。
「おっと。それは趣味が悪いねぇ、士」
ディケイドが空中でそのままの体勢で止まる。そんなことをできるのは記憶を取り戻したオーラとスウォルツと──
「海東大樹……!?」
「士。君が戦うべきディエンドは僕だけだよ」
「何をっ、ほざく……!」
「逃げたまえ、タイムパトロール君」
「恩に着る」
アナザーディエンドはオーロラカーテンを喚び出してその中に消えていった。
大樹はタイムブレークが当たらない距離まで遠ざかると時止めを解除。ディケイドの蹴りは地面に突き刺さるだけだった。
変身を解いた士は大樹を睨む。
「お前はまた俺の邪魔か」
「殺される必要の無い者を助けるのが邪魔だって言うなら、そうじゃないかな?」
相変わらずのへらず口だな、と士は吐き捨てた。
「これ以上邪魔をするならお前でも破壊するぞ」
「それも悪くは無いけど……取引しないかい?」
「取引だと?」
「君が僕の質問に一つ答える代わりに、この世界で僕は君の邪魔をしない」
どう、と大樹は笑う。守られればローリスク・ハイリターンだ。守られるかどうかは別だが。
「……まぁ、いいだろう」
「じゃあその質問は明日させてもらうよ」
もう夜遅いしね、と大樹はオーロラで消えていく。
「……まったく」
そんなことを言いながらもこの奇妙で歪んでいる関係を楽しんでしまっている自分を、士は戒めるように自嘲した。
そして、夜が明ける。
K:クウガ→凄まじき戦士ならどうにかオーマジオウを倒せずともどうにか弱体化までには持ち込めるのではないか
EP3にもなると流石に原作から分岐してきましたね。ゲイツのシーンについては、原作ではソウゴAが死んだと聞かされたゲイツの反応が無かったので書いてみましたが、やはり明光院ゲイツは書くのが難しい。
あとソウゴCは色々と盛りすぎた気がします。