かもす仏議の四天王  ~崇春坊・怪仏退治~   作:木下望太郎

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四ノ巻『胸中語るは大暗黒天』 序  預けるその背は大暗黒天

 

 ――谷﨑(たにさき)かすみが看破(かんぱ)した、黒幕の名は東条紫苑(しおん)

 昨日――そう昨日(・・)、その放課後――、かすみと賀来に策を(ろう)し、怪仏の力を与えた者。斑野(まだらの)高校における一連の怪仏事件、その黒幕にして斑野(まだらの)高校生徒会長。

 

 

 その男が、今。土下座していた頭を上げた――生徒会室の床の上で。

 

「――と、いうわけさ。僕が怪仏を操る力を得た理由、それを人に()けていた理由。そして、毘沙門天(びしゃもんてん)を求めた理由。何か質問は?」

 東条紫苑は、にこやかにそう言った。土下座した男の顔ではなかった。何の陰りもなく穏やかに、気づかう様子すら見せて、かすみたち一人一人の顔を見渡していた。

 背筋を伸ばして正座したその男だけが、まるでその場に立つ全員を見下ろしているかのようだった。玉座から臣下らを見渡す王のように。

 

 距離を取って立っていた百見(ひゃっけん)が――片手でひじを支え、もう片手の指をあごにつけた、何か考えるような姿勢のまま――声を上げた。

「総合して言わせてもらうが。ふざけた話だね」

 片手でひじを支えたまま、もう片方の手の指で眼鏡を押し上げる。

「その話、仮に事実だったとして。そこに正当性があるとでも?」

 

 座した紫苑の表情は変わらない。浴びせられた声を柔らかく受け止めるように、微笑んだまま穏やかな声で言った。

「いいや? 事実は事実、だが全てを正当というつもりはないんだよ。僕のわがままも多分にあるんだが――、だが、だよ?」

 並びの良い、白い歯を見せて表情を崩す。小さないたずらがばれた子供のように。

「僕の言った経緯を事実と仮定して考えて欲しい。ついでに、七福神の話も事実として。それぐらいの役得は、ズルは許されるんじゃないかな? なにせ――」

 

 そのとき。崇春(すしゅん)が、どっか、と音を立て、紫苑の真ん前に座りこむ。あぐらをかいて。

 

「崇春さん……!」

「崇春!」

 かすみと百見は声を上げた――黒幕の目の前、あまりに無警戒過ぎる――が。

 

 崇春は坐像(ざぞう)――座った形の仏像――のように背筋を伸ばし、腕を組み。真っ直ぐに紫苑の目を見た。

「なるほどのう。お(んし)の言い(ぶん)、理があるかわしには分からんが。気持ちとしちゃあ分からんではない。お(んし)(まっこと)、そうしてきたというんならのう」

 

 その目を真っ直ぐ見返し――どこか嬉しそうな色をその目元にたたえて――、穏やかな顔で紫苑はうなずく。

「ああ、なにせ。僕は守ってきたんだからね、経緯はどうあれ、正当性はどうあれ……この学校を。生徒の皆を。怪仏の脅威から――」

 

 その言葉の途中。高い音と共に叩き割られた、生徒会室の窓が外から。

 跳び込むように体を窓に浴びせ、無数のガラス片と共に室内へ下り立った者――ナイフを握った手を床について背を丸め、擦り切れた長いコートに身を包んだその男――が、ゆっくりと顔を上げる。

 

 整ったその顔は――やつれたように頬がこけ、栄養が足りないかのように髪がざらついた以外は。そして目の下から鼻筋を通り、横一文字に太い傷痕が走る他は――、生徒会長、東条紫苑と同じだった。

 

 ゆらり、と立ち上がるその男は。うつむいたまま、表情もなく。東条紫苑へナイフを向けた。

 

 服のほこりを払って立ち上がり、身構えながら紫苑が言う。

「そう、守ってきた。まさに、奴から。そして奴の――」

 

 ナイフを構えた、もの言わぬ男の背から。

 ゆらり、と、もやが立つ。黒い光を帯びたそれが一つの形を取っていく。青い肌、武器を握った四本の腕。黒く豊かな髪と額に第三の目を(そな)えた神仏(かみ)の姿――怪仏の姿を。

 

 紫苑は言う。

「奴の怪仏。我が『大暗黒天(だいあんこくてん)』の片割れ、いや、むしろ本体か。伝承によれば世の終わりを告げる者、全てを破壊し尽くす者。一説には第六天魔王とも語られる、シヴァ神こと『大自在天(だいじざいてん)』」

 紫苑の背から、もやが立ち上がる。その身を包むような黒いもやが。

「奴だけは僕が止める。その責が僕にはある」

 

 どっこらせ、とつぶやきながら、その傍らに崇春が立つ。

 構えを取るその背から、金色のもやが立ち昇る。

 

 驚いたように見てくる、紫苑の目を見返して言う。

「気に食わん。お(んし)の言い分、気に食わんが……学校を、生徒を守る、その分だけはわしらと同じよ」

 

 敵に顔を向けながら、目だけで崇春を見て。口元で笑って紫苑は言う。

「義によって助太刀いたす、と?」

 敵を見据えたまま崇春は言う。

「いいや。たまたま同じ方を向いたまでよ」

 

 微笑んで紫苑がうなずく。

「ありがとう。それより……来るぞ。奴が――大自在天の男、『シバヅキ』が」

 

 崇春が自らの分厚い掌に、重く拳を打ちつける。

「応よ!」

 

 身構える二人に向かい、今。ナイフを構えた、大自在天の男が跳びくる。

 

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