――さぁぁ、さぁぁ、と音がした。どうやら映像がちらつくのは、仕様のせいばかりでもなく。その中で、雨が降っているらしかった。傘を持たずに出れば、たちまち濡れそぼるほどの雨が。
映像の中の全てはその雨に濡れていた。雨粒は黒く、辺りもまた墨をまいたように暗い。モノクロの映像だから、というだけではなく、夜の光景だろうか。
やがて、目が慣れるにつれ見えてきた。木の茂る間に、三つほど人影が見えた。といって、森や山の中ではなさそうだ。背の低い植え込みが、こんもりとした丸みを帯びて辺りに点々と生えている。辺り一面の地面には背の低い芝が広がっていた。
どうやら、どこかの庭らしかった。茂みの間からは建物の壁と、アルミサッシの窓が見えた。その窓から漏れ出る明かりが、白く薄く辺りを照らしていた。
殺されていた、東条紫苑と鈴下紡は。薄明かりの差すその庭で。
いや、死んではいなかった、まだ。
映像の中の紫苑は、芝の伸びる地面にひざをついて座り込んでいた。力なく震える両の手が、ナイフの柄を握っていた。学校指定のジャージを着たその腹に、深く刺さったナイフを。
傷口からは黒く黒く、下半身を塗り潰そうとするかのように血が溢れた。震える指はその血にぬめり、ナイフを抜き出そうとするも、何度も手を滑らせていた。抜ける気配はいっこうになかった。
鈴下はいよいよ死にかけていた。あお向けに倒れた芝の上、顔は雨に濡れて草葉が張りつき、制服の胸から下は血に濡れていた。胸と腹の中間辺り、体の真ん中にナイフが突き立っていた。誕生ケーキのロウソクのように。その回り、制服の腹辺りには、いくつも破れた後があった。ナイフで何度も刺されたみたいに。
鈴下はゆっくりと、静かに、瞬きをしていた。ナイフに添えられた手も、もはやそこにあるだけだった。ナイフを抜こうとはしていなかった、彼女の意思でその手が動くかどうかも怪しかった。
三人目の人影だけが、一人そこに立っていた。
見知らぬ男。全身を雨に濡らした、中年の男。
スーツを着崩した、その男は震えていた。足もひざも肩も。何より激しく、その腕が。熱病にでもかかったかのように、その手が。黒く黒く、拭えぬほどぬらぬらと黒く、血に染まったその手が。
「紡……紡いぃぃ……っ!」
肺の底から絞り出すように、食いしばった歯の隙間からうめくように、男は声を上げて。目の前に倒れた、鈴下のそばへと歩み寄った。一歩一歩、崩れるような足取りで。そして彼女のかたわらに、落ちるようにひざをつき。
叩いた、拳を振り上げて。その顔を胸を。
殴るのではなく、拳の小指側から叩いた、何度も、何度も。泣きじゃくる子供がそうするように。
叩きながら男は名を呼んだ、彼女の。
男の目は頬は濡れていた、雨に降られる以上に濡れていた。
そうして、そっ、と両手を当てる。彼女の喉に。絞めるように。
その腕に、血管が浮かぶほど力が込められ。
鈴下が苦しげに口を開け、震える舌が天に向いて突き出されたとき。
震えながら、東条紫苑は立ち上がっていた。腹のナイフを揺らしながら。手に印を結んで。
「オン……マカキャラヤ、ソワカ……」
その背後には浮かんだ、
その姿は幻のように消え。変わりに紫苑の手には、黒くもやを上げる剣が握られていた。鬼神が、怪仏が手にしていた剣。
一方、目を、歯を剥き出し、紫苑をにらんで立ち上がる男の背後には。
浮かんでいた、薄黒い肌の鬼神が。人と同じ一面二
ふらつく紫苑と、揺らぐ男は。互いに歩み、駆け寄り、叫び、振るった。紫苑はその手の剣を。男は背後の怪仏の腕を、それが握る
鈴下紡は震えていた。そのかたわら、男が蹴飛ばした洋酒の瓶が音を立てて転がり。
その向こうにはよく見れば、もう一人が倒れていた。男と同年代の女性が、衣服にいくつも穴を開け、全身を血に染めて。
紫苑の剣と怪物の
――そこから先、映像の全ては。突如湧き出た、黒く濃いもやに潰された。
「……ここまでだ。ここまでだよ」
今、そう言った。東条紫苑は椅子にもたれ、優雅に脚を組んだまま。
組んだ指を、震えるほどに握り締めて。