――同じ頃。
まるでブランデーグラスでも持つような格好に広げた、その手の上の空間には。黒く濃い、もやのようなものが漂っていた。その中には小さく映像が浮かび上がっていた。針の山と霧に囲まれた空間の中、僧形の男と対峙する映像。怪仏の視点からの記録のような。
やがて僧形の男の拳を受けたところで、その映像は途切れた。
見ていた男は感心したように声を上げる。決して大きな声ではなかったがよく響く、芯の通った声。いわば生まれながらにして、上に立つ者の声だった。
「ほう……。あの
席を立ち、窓際に歩く。逸人を倒した者の姿を探すかのように、窓の向こうへと目をやった。
「彼と
辺りはもう日が落ち、外はわずかにしか見通せない。窓ガラスは室内の明かりを反射し、鏡のように男の姿を映し出した。
真っ直ぐな背筋と、きっちりと着込まれた制服――何のアレンジもないただの制服だったが、それはまるで体に合わせてあつらえたかのように、
長過ぎない程度に整えられた前髪は、まるで定規で引いたように直線的に伸び、斜めに額を覆っている。高く真っ直ぐに通った鼻筋は意思の強さを示すように見えたが、目元や口は決して険しくはなく、むしろ人なつこささえ感じさせた。
男は手の上のもやを掲げる。
「それにしても。せっかくのコレクションがまた一つ減ってしまったな」
黒いもやの中には幾つもの小さな人影が浮かんでいた。そのどれもが像や絵図に表されるような、仏の姿をしていた。
不意に、部屋のドアがノックされる。
「失礼します。生徒会長、まだ残ってらしたんですか」
生徒会役員か、男子生徒がそう言って部屋に入ってきた。
窓際にいた男は、すでに黒いもやを握り消していた。生徒に向かって笑いかける。
「ああ、会議の準備を少しね。もう帰るところだよ」
「そうですか。あ、会議の資料まとめましたんで、ここに置いておきますね」
失礼しました、と言って部屋を出た、生徒の足音が遠ざかった後。
男は再び窓の方を向き、空を見上げる。
「ふん……
握り締めた拳から黒くもやが上がる。
「せいぜいあがき回って『
勢いを増す黒いもやと共に、