――そして今。崇春は再び闇の奥、茂みの向こうへ声をかけた。
「頼もう。誰ぞおるなら――」
言葉が全て終わる前に。茂みは向こうからかき分けられた、いや――切り開かれた、言葉どおりに切って開かれた。横一文字、何か棒の――あるいは剣の――ような物の、
そしてその
「むう!?」
慌てて身をのけぞらせた、崇春の目の前でそれは止まる。まるでそこだけ時が止まったように、いささかの揺れもなく、ひたり、と。
その後ろでは、切り裂かれた枝葉が宙に舞っていた。
開かれた茂みの先には。男がいた。剣道着か、
かすみらと同年代か。枯れ草のように荒く波打つ、肩ほどまでの長髪の男。その男が、横へ振り抜いた木刀を片手にそこにいた。
見れば、左手は左腰で、帯に差した
居合や抜刀術というやつだろうか――と、かすみは考えた――時代小説や漫画では見たこともあるが。それにしても、木刀でできるものなのか。茂みを斬り裂くほどに。
男は鋭い目を崇春に向け、低く声を上げた。
「へェ……当てる気はなかったが、それにしても。オレの剣に反応できるとはよ。やるね、アンタ」
薄い月明かりの下、木刀を左の額へ掲げる。刀についた血を払うかのように、斜め下へ振った。流れるような動作で腰の鞘へと納める。
男は
なのに――かすみでも見て解るほどに――構えを取っているかのように、
崇春が胸を叩いて――一応音を立てないためか、
「おうよ、多少目立つほどにはのう。さて……今一度聞くが、お
男は小さく口を開けた。
「……は? 怪物? 何言ってンだ……オレぁここで、素振りをよ」
腰の木刀を叩いてみせる。
後ろから百見が声を上げる。男の向こう、斬り倒された木に目を向けながら。
「失礼だが。その木、君が?」
男は後ろを振り向く。横たわる木と、その前に転がる折れた竹刀。それらを見つめる。
「……さあな」
それだけ言って竹刀を拾い、歩き出す。崇春らの脇をよけて、石段の方へと。
「待てい。わしは
背を向けたまま、男が歩みを止める。
「……平坂、
かすみの背後へ隠れるように縮こまった、賀来に目を向けて言う。
「隣の部、斉藤
え、と賀来がつぶやく間に。円次と名乗った男は石段へと去った。