かもす仏議の四天王  ~崇春坊・怪仏退治~   作:木下望太郎

66 / 217
三ノ巻2話  二人除いて宴もたけなわ(前編)

 

 とにかく口の中のものを――皿に山盛りになっていた分も――食べ終えた後。

 かすみはいったん考えるのをやめ――正気でいるのが(つら)すぎる――、普通にパーティに参加していた。

 ジュースを飲み、テーブルの上のポテトサラダを――崇春が異常に買い込んだジャガイモを、かすみや百見と調理したものだ――、義務感から口にする。

 他にもいくつかテーブルには料理が並んでいたが。一つだけ妙なものがあった。

 

 食べ物ではなかった、飲み物でも。なぜか場違いに、花があった。

テーブルを飾るにしてはそっけなく、百均で買ったような質素な花瓶に、一種類だけの花が。仏様を描いた画で見るような、(はす)の花が何本か活けられていた。

 仏法者である崇春や百見が、仏花というか供え物として用意したのだろうか。それにしては供える対象――仏像なり仏画なり――が見当たらないが。

 

 思っていると、横から袋が差し出された。コンビニの小さなビニール袋。鮮やかな色のマカロンが入っているのが見えた。

 

「食べるか?」

 言ってきたのは賀来だった。彼女が差し入れに買ってきたのだろう。

 

 かすみは首を横に振る。無理に肉と野菜を詰め込んだせいで、もうお腹一杯だった。

 

「そうか、我はいただくぞ」

 賀来は中から一つを取って、袋はテーブルに置いた。

 

 賀来は両手でマカロンをつまみ、小さな唇へと運ぶ。開かれた口、そこからのぞく並びの良い歯が、マカロンを小さくかじる。これもまたリスを思わせる動作ではあったが。どうも、かすみのそれとは違うようだ。

 もくもく、と口を動かすうち。その目が、とろけるように細められた。

 

 かすみはなんだかため息をついた。もう何度目かは分からないが。

 それでも賀来を眺めながら、顔は妙に緩む。

「ほんと可愛いですね、賀来さんは」

「え?」

 瞬きする賀来から目をそらし、続けて言った。

「や、その。……可愛いです、マカロン食べてるとき」

 

 苦しまぎれに――あるいはほんのわずかな、悔しさをまぎらわせるために――、そう言った。

 実際、賀来の造作は本当に良かった。人形のよう、という言葉がぴったりだった。彼女独自のファッション――ゴシックロリータとゴシックパンク、足して二で割ったそれらに手作り感と、家庭科の授業で作ってみました感をかけ算したもの――が、だいぶ印象を差し引いてはいるが。

 

 賀来が鼻から息をこぼし、マカロンを持ったまま身を折り曲げる。その背中が小刻みに震えた。

「そこだけぇ!? 嬉しくないなそれ……ほめられてるのに嬉しくないぞ! 何だこれ!」

 

 やがて顔を上げ、目の端を拭って言う。

「そうだな……だったら私、我は。マカロン食べながら告白することにしようぞ。――こうか?」

 

 マカロンの端を小さくかじり、わずかに首をかしげてみせる。上目づかいにかすみの顔をのぞき込んだ。そのまま、こちらの目の奥まで見通すような眼差しでささやいた。

「ね。なってよ、私の……私だけの、恋人に」

 

 かすみは小さく息を呑む。(つば)も、少し。

 ――これはもう、ちょっと。小憎(こにく)らしいぐらい可愛かった。

 

 自分の頬がとろけかけるのを感じて、同時。そのままの形で、顔全体がひどく引きつる。

 

 賀来は大きく歯を見せて笑った。

「なんてな、なーんてな! さすがは我が魅了(チャーム)の魔力よ、同性まで愛の虜囚(りょしゅう)にしてしまうところであったな! 我がことながら怖ろしい力よ」

 ばしばしとかすみをはたいた後、大きく口を開けてマカロンの残りを一口に食べる。

 

 もしゃもしゃと噛んで飲み込んだ後、賀来は顔を伏せて言う。

「でもなー、そうだなーそもそも我には関係のないことだったかなー? 告白なんて、な」

 

 手で片方の頬を覆い、そちら向きに首をかしげて。照れたように、目をつむって続けた。上半身を左右にくるくると、振り回すように動かしながら。

「何せ我は……その、ほら、告白とか、するんじゃなくてー、される? された? 方だし? つい先日」

 

「え……?」

 かすみは目を瞬かせたが。

「あ」

 すぐに思い当たった。

 

 つい先日の怪仏事件――かすみが崇春と出会ったときの、地蔵の姿をした怪仏――のことだ。怪仏の正体と目された賀来に、事件を止めるよう説得したとき。なんだか崇春が口説き落としているかのような流れになり、賀来はその流れのままに――ちょろいことに――止めることを承諾したのだった。

 付き()うてもらうぞ――交際ではなく、放課後に同行してもらうという意味だったが――、などといった言葉も崇春から出ていたが。

 

 その後あれは、どういう扱いになったのだろう? 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。