かもす仏議の四天王  ~崇春坊・怪仏退治~   作:木下望太郎

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三ノ巻14話  秘めたる疑惑

 

 百見と共に駆けながら、平坂円次は口を開いた。

「てめェ百見よォ、ずいぶんカッコいいこと言ってくれたが。オレにも何か、言うことがあンだろが」

 

 目だけを向けて百見が言う。

「ええ、確かに。ですが後に――」

 

 円次は正面から指を指す。

「昨日は渦生さんの顔を立てて、聞かないでおいたがよ。……一昨日持国天に攻撃したな、封じるだのなんだの言って。……ありゃあ何だ」

 

 指差されたまま駆けながら、百見は目をそらす。

「ですから、後に――」

「待てッ!」

 

 腕を取り、無理やり百見の足を止めた後で。手が届かない程度に間合いを取って向き合い、円次は言った。両足を自然に開き、力を抜いて手を垂らして。昨日刀を振るったときと、同じ姿勢で。

「寝首をかきたきゃやりゃあいい、オレが逆に叩き潰してやる。だがよ、理由ぐらいは先に言え。気持ち悪ィ……つうか」

 

 息をついて続けた。

「妙だ。怪仏退治に熱心なのはお前と谷﨑――つうか、渦生さんと崇春がアレすぎる――だが。そのお前がオレを攻撃して、しかも渦生さんも何も言わねェ。……あの人も、怪仏についてお前ら同様知ってるみてェなのによ。……教えてくれ。てめェはオレの敵なのか? 味方なのか?」

 

 眼鏡を押し上げて百見は言う。

「それを言って、果たして信用して――」

 

 さえぎるように円次は言う。変わらぬ表情と姿勢で――ただし下げた両手は、甲を合わせた形にしてある。百見から昨日教わった、持国天を()ぶための印。それを即座に結べる体勢。それはちょうど、剣を下段に構えた姿にも似ていた――。

「敵なら斬る。味方なら守る。どっちにしろオレは怪仏と戦う。それだけだ」

 

 百見の、眼鏡にやった指が震えた。その手をゆっくりと――空気を揺らすことさえ怖れるようにゆっくりと――下ろした。

 身じろぎもせず――視線は揺れたが、円次の顔を見たまま――言った。

「……あなたの口から、はっきりとは聞いていませんでしたが。味方なら、僕らと共に戦ってくれる、と?」

「オレは頭が悪ぃンだ。結論から喋れよ」

 

 そのままの姿勢で、ゆっくりと息を吸って吐いた後。百見は答えた。

「味方です。断言します、あなたが共に戦うというのなら。……正直、僕としては戦ってほしくはありませんが。これ以上人を巻き込みたくはない、敵としても味方としても」

 

 円次の表情は変わらない。

「だったらなンで攻撃した。そんなにいちゃマズいのか、持国天(あれ)が」

 

「いえ。逆に怒るかもしれませんが……持国天は別にどうでもいい。問題はその後に来るものです――それより、走りましょう」

 

 (うなが)されて、怪仏の声がしていた方へ再び走る。崇春の姿はとっくに見えなくなっていたが、走りながら叫ぶ声が遠くで聞こえた。

 

 百見は前を見たまま続けた。

「攻撃したのは。あなたが承知するとは思えなかったからです、持国天を封じることを。消耗しているうちに、一刻も早く封じておきたかった」

 

 前を向いたまま、目だけを百見に向けて円次は言う。

「どういうことだ」

 

「怪仏は伝承に引っ張られる、そして他の怪仏の影響を受ける。つまり、四天王のうち三尊が現れれば。残り一尊もほどなく出現する。『多聞天(たもんてん)』こと『毘沙門天(びしゃもんてん)』……四天王で最強の神仏が」

 

 走りながら平坂は眉を寄せる。

「……で?」

 

 表情を変えず百見は続ける。

「多聞天は四天王において唯一、単独で本尊として奉られる存在――その際の名が毘沙門天――。他の三尊とは完全に別格と考えていいでしょう。また、経典において他の四天王はそれぞれ一城を支配するところ、毘沙門天は三城を支配すると語られる。さらにはあらゆる災厄の流れ込む場所とされる鬼門を封じるのも――」

 

「そうじゃねェ!」

 円次は声を荒げ、それから咳払いをして言った。

「……ンな豆知識はどうでもいい。四天王最強、それも分かった。オレが聞きてェのは。仮にそいつが敵だったとして、オレとお前、崇春と渦生さん。そんだけいりゃ勝てるだろ、四天王三人と明王? がいりゃあよ。……なンでてめェは、そいつを恐れてる」

 

 目線を落として黙った後、百見は言う。

「……毘沙門天に限ったことではありませんが。怪仏の力には、まだ先がある」

「……あ?」

 

 視線を合わさず百見は言う。

「下手をすれば世界を――少なくともその一部を――変え得るほどの力が。そしていくつかのそれの、鍵となり得る存在です……毘沙門天は」

「……どういうことだ」

 

 やはり視線を合わせず百見は言う。

「長くなります、話は後に。……それより崇春はまだしも、あなたも僕も。人前で力を見せるべきではありませんが。逆に言えば証拠も何も残らない力です、映像記録さえ残らなければ。広目天は『記録する神仏(かみ)』、そうした記録にも干渉する力があります――映像を塗り潰すぐらいです、音声には気をつけて下さい――、できるだけ、僕の近くにいて下さい」

 

 円次は百見の目を見る。

「ああ。信じる」

 

 百見は前を向き、ちらりと円次の目を見る。すぐに視線を伏せた。

「すみません、でした。……色々、急に」

 

 前を向いて応える。

「気にすンなよ。ただし、オレも気にしねェ。怪仏と戦うなんて面白ェこと、どう考えても見逃す手はねェ。持国天の刀、好きに使わせてもらう」

 

「……賛同したくはありませんが。今はとにかく、人手が必要。頼みます」

 

 そのまま二人、前を向いて走る。

 

 

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