わたしはドクター・ゲロだ。誰がなんと言おうとドクター・ゲロなんだ。何故かGTで急に一人称が儂に変わるがドクター・ゲロなのである。
っと、話が逸れた。わたしはドクター・ゲロではあるが、それと同時にただの一般人でもある。
それは文字通り、今の社会的立場と、スピリチュアルな側面の二重の意味でだ。元々わたしにはこの世界に生まれ落ちた時よりある記憶があった。
現代にほど近い文明の日本において、ただの人間として生活をしてきた記憶だ。恐らくは前世というやつなのだろう。科学に関わるわたしがこのようなことを述べるのはおかしいかもしれないがな。
幼少の頃はこの記憶がまるで理解できず、ただの記録として眺めていただけであったが、その記憶の中の一つ、ある漫画を思い出してからは違った。
『ドラゴンボール』という漫画を知っているだろうか? いや、知らないわけがない。恐らくは世界で最も売れた漫画といっても過言ではないあの名作。今までの漫画の常識をブチ壊し、超次元的な戦闘や魅力的なキャラたちで当時の少年の心を鷲掴みにしたあれだ。
まあ、知っている前提で話すが、その中でも『人造人間編』という章がある。簡単にまとめてしまえば未来から来たベジータの息子トランクスが未来の危機である人造人間のことを知らせ、そこから始まる人造人間たちとの戦いを描いた章だ。
あのフリーザをも倒した超サイヤ人が手も足も出ないという絶望感は当時のわたしにとってはなんとも衝撃的で手に汗握り新たなジャンプを待ちわびたものだった。
そしてこの敵、人造人間は『人造』というだけあって造った人物がいる。それがドクター・ゲロだ。天才的な頭脳を持つ彼は幼少期の孫悟空にレッドリボン軍を壊滅させられたことを恨み、復讐のために人造人間を製造するのだが、その最期は追い詰められて起動した人造人間17、18号に裏切られて殺されるという形で幕を閉じた。
そんな悲しい小物ながらも優秀なキャラだが、そもそも彼がいなくては人造人間編の敵キャラクターはおろか、レッドリボン軍すら存在しなくなってしまう。何気に重要なキャラクターなのだ。
なぜ今そんな話をするのか。それは冒頭でも述べたとおりにわたしがドクター・ゲロだからである。
何を馬鹿なことを、と思うのだろう。しかし、特徴的な顔立ち、そしてゲロという愛の欠片の感じられない吐瀉物みたいな名前。道行く人々に混ざる異形の姿と、謎に近未来的な丸い建造物。
これはもうドラゴンボールの世界と言っても過言ではないのでは?
そこからはわたしの必死の研鑽が始まったのだ。なにせドラゴンボールといえば戦闘力。ドラゴンボールといえばインフレ。
サイヤ人編から登場した画期的なシステムだが、そのインフレは激しく、魔人ブウ編での戦闘力なんてほぼ想像のみだ。何よりそれについていくには最低でも超サイヤ人程度の強さを持つ人造人間を作らなければいけないのである。
とまあ、ここまで長々と語ったが、わたしは別に生き残りたいとかそういうわけではない。既に一度死んでいる身としてはそこまで生に執着していないのだ。原作のドクター・ゲロが永遠の命を求めたのとは対照的だがな。
ではなぜそんな人造人間を作り出そうと思っているのか。それは簡単だ。このドラゴンボールという物語を破綻させないためと……我儘だ。
前者は戦士たちの戦力アップにも繋がるし、なければ未来でもっと酷いことになる。後者として、というよりもこちらのほうが強いが、何せあの素晴らしい物語の一員として生まれることが出来たのだ。ならば誰でも関わりたいと思うはずだ。ほら、誰もがあの亀仙流奥義を一度は真似したことがあるように、わたしにも憧れがあるのだよ。
ああ、生前の己は善でも悪でもなく、このような過激な思想を持つこともなかったのだろう。だがしかし、生憎と今の私にはそれを為す能力が、頭脳がある。
なればこそ、被害を出してでも悪役を全うしよう。それが、ドラゴンボールのドクター・ゲロなのだからな。
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それからというもの、わたしは一心不乱に勉強を続けた。出来のいい頭だとは思っているが、知らないことは知らない。科学的に出来ないことは出来ないのだ。両親には子供の頃から科学者になりたいと夢を主張し、そのための専門学校にだって入った。
やはりドラゴンボールの世界というだけあり人の姿を保っていない生徒も多く、わたしのこの無愛想な顔でもそれなりに馴染めた。
学友を一人も作らずに日夜研究に没頭するわたしは、時に優等生、時に変なやつとして一歩遠い目線で見られてこそいたが、わたしの野望には関係ない。
今問題を起こして目をつけられれば、後の展開に差異が生じるかもしれない以上、そのあたりは慎重だった。
個人的に驚いた点としては、籠手から炎を吹き出したり、高圧水流を吹き出すグローブなどといった素晴らしい発明品を生徒がつくっていた事だ。
元現代人から見れば近未来的な道具の数々であり、うちいくつかはわたしも参考にさせてもらったものがある。カプセルコーポレーションのあの親子以外にわたしに匹敵する頭脳の持ち主はいないと自負しているが、流石はドラゴンボールの世界。わたしの常識が通用しない。いや、気とか宇宙人とか神の時点で既に未知か。
そしてわたしは最近設立されたというサポート科? を見事に主席合格。勿論在学中は素行不良は起こしていないし、逆にこれといって派手なことをしたわけでもない。人とあまり交流せずにここまでいたのだからやっかみも受けた。
恐らくだがこれといった特徴もないのに自分より上にいるのが許せなかったのだろう。「無個性のクセに…」やら「個性なら負けてねぇ!」だのと五月蠅いこと。
フン、やはりプライドだけはいっちょまえに高い学生というのは愚かだな。この世は個性で乗り越えるのではなく、力でのし上がるのだ。あと、少し不思議だったこととしては「無個性なのにすごいね!」と言ってきた輩がいたことだ。
なんだそれは、遠回しの罵倒ならもう少し言葉を選んだ方がいいだろうに。その時は発明に必要なのはアイデアと技術のみだ。といってやったがな。
卒業したわたしには是非にと擦り寄ってくる奴らがいたが、勿論全て断った。何でもヒーローやらうんたらかんたらと述べていたが、そんな正規の仕事に就くつもりはない。
生憎と、わたしのこの力は悪と人造人間のために使うのだからな。
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それからは他国に移り、その都市の一角に小さな研究所を立てて細々と活動を続けていた。数年も音沙汰がなければ如何に主席といえど注目されるものではない。わたしを雇おうとする企業は増えてきたという他の卒業生などのスカウトに必死になり、最早わたしは過去の存在として色褪せていた。
当然、わたしの策通りである。細々と、とはいっても研究は続けている。都市外の岳陵地帯に秘密裏に作った真の研究所がある。あんな都市内では露呈するからな。ふふふ、ここからがわたしのオリジンだ。レッドリボン軍、ひいては人造人間を世の人々に知らしめてやるのだ…!
―――――
それから数年は正体を隠して軍や後ろ暗い組織に旧式の武器や兵器を卸している。しかしそれも何者かに邪魔だてされているらしいな。まだこちらの正体には気づいていないが、ペースが早いように感じる。早めに縁を切っておいた方がいいか…?
フム、原作開始前のドラゴンボールではそのような力ある存在で兵器の流通を妨害するものなどいなかったと思うが……。ううむ、あまりに描写がなさすぎて分からん。まあ、精々頑張ってくれ給えよ。所詮これはレッドリボン軍までの下積み。レッドリボン軍にさえ所属すれば活動内容も武装もこの比ではない。
しかし、おかしいな…。兵器開発の傍らしばらく世界を見てみたが、ドラゴンボールのドの字も聞こえないではないか。
わたしとしてはドラゴンレーダーの開発を進めたいところなのだが、未知の物質が発する電波など知りようがない。確かにドラゴンボールの世界でも知るものは極僅かに限られていたが……ここまで見つからないものなのか。今更ながらに孫悟空たちがああも容易く使用していたことに羨望を抱いている。
まあ、それは最悪後でいい。いざとなったらピラフ一味なりブルマなりのレーダーを分解してみれば劣化品程度のものは作れる。一応まがりなりにも持っている科学者としてのプライドがそれでいいのかと訴えているが、大事の前の小事だ。これを逃して孫悟空がレッドリボン軍と激突しない未来が訪れれば全ては水の泡になる。
というわけで最近は専ら人造人間の開発だ。今までに一号、二号は製造できたが、完成には程遠い。人工知能もイマイチで戦闘能力に至ってはそこらのヒーロー気取りの輩にも負けかねない。
問題大アリ。使っている素材か、はたまたわたしの技術不足か。そのどちらもだろう。一体原作のドクター・ゲロはどうやってあんな化け物を創り上げたのか。真剣に問いただしてみたいものだ。
ああ、最終目標のセルのための細胞とデータの収集は欠かしていない。正直、この世代に期待できるものは薄いが、技術程度は使えるかもしれないからな。まあ、今のところ暇つぶしの域を出ていないのだが…。
はあ、中々うまくいかないものだな…。
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なんというか……。こう。家族が出来た。彼女は偏屈なわたしを愛してくれると言った。余りに都合が良すぎるために最初こそ警戒したものだが、話してみれば話が合う。彼女はわたしに匹敵するほどの頭脳の持ち主で、わたしの研究も彼女のおかげで飛躍的に進んだ。
人造人間の基盤が完成した時といったら二人で手を取り合って喜んだものだ。つまりは、そういうことだ。わたしは彼女を本気で愛していたのだろう。でなければ、子供など作らない。
ま、まあ、ネーミングセンスは独特だったが。ゲロの子供だからゲボって……。もし一般家庭だったら色々と疑われることだろう。
とにかく、わたしのような人間には彼女は勿体ない程に魅力的な女性だ。
今はゲボの世話で忙しく、中々共同研究の時間は取れないが、それでも充実していると思う。野望と資金繰りで彼女の手伝いをしてやれないのはこの第二の人生でもトップレベルに悔やんだものだ。
「ところで、この子の個性は何になるんでしょうか? 個性が全てではないとは貴方も知っているでしょうけど…、やっぱり、気になるものは気になるし…」
「うむ? 個性など生活環境と己の意志次第だろう?」
「……ああ、そうでしたね。うーん、何て言ったらいいんでしょう? 無個性の貴方には解りにくいと思いますが…ああ! 貴方を馬鹿にするつもりはありません! けっこう感覚的なものも多いのでそれもあるんですけど……ほら、私の個性って割と特殊でしょう? 子供にそれが受け継がれるのかなって思うと少し不安で……」
どういうことだ? 話が噛み合っていない気がする。またわたしを無個性と言ったこともだ。学校では影の薄いやつでもいい個性を持っていると言われていたが…。
今の私はそれなり以上には素を曝け出しているし、無個性な要素はないと思うのだが……。
「…あ、これってあなたの出身校じゃないでしょうか? へえ〜、また有名なヒーローを輩出したんですって」
テレビで流れたニュースに彼女が目ざとく何かを見つけ出す。国を超えて報道される程のことだろうか。
「ああ、あの生温……いや、ヒーローだと?」
「? はい、確か雄英高校でしたよね?」
「…なに……いや、まてよ……そんなはず……」
「あなた?」
深く頭を抱え込むわたしに彼女は純粋な心配を向け、わたしはそれにも構わずテレビ画面に張り付くようにして次の言を待った。
『それにしてもやはり日本のヒーローは素晴らしいですね。迅速な対応、適切な処置。これを殆どの場合非殺傷で行うというのですから、その凄さが如何程か伝わると思います。そして、そんな素晴らしいヒーローを輩出したのはこの超常社会において一目置かれている日本きっての名門校! 雄英高校です!』
そうして映し出されたのは懐かしの我が母校。色々と変わったところも見られるが、それでも確かに判別はつく。
その中でも施設などが軽い紹介とともに挙げられ、その中に映り込む一人の生徒の姿がわたしの記憶を激しく刺激した。
とても日本人には見えない、いわばアメリカンチックな風貌と、後ろに流れる金髪に前に垂れる二房の髪束。そして、雄英高校。
これの意味することは―――
「うぅぐっ…」
「あなた!? あなた!? しっかりしてください!」
激しい頭痛と共に、わたしの意識は暗転した。
「うう…」
「あっ、起きたんですね! よかった…。覚えてますか? あなたはテレビにしがみついたと思ったら、急に頭を抱えて……体調は?」
「あ、ああ…。すまない、心配をかけたな。この通りわたしは大丈夫だ。……ここ最近の疲れが一気に来ただけだろう。気にするな」
そう言うと、ほっとした顔で胸を撫で下ろし、安静にしててくださいと言い放ちパタパタと部屋の外へと駆けていった。
その後ろ姿を見送る暇もなく、わたしは強くはっきりとあの映像を思い返していた。悪く思っているのは本心だが、今はそれより重要なことがある。
そうだ。確かに今までドラゴンボールというにはやたら現代に近いのだなと思っていた。だがそれもカプセルコーポレーションが建っていない時間ではこれもあり得るかと納得していた。
そうじゃなかった。そもそも前提が違ったのだ。
ヒーロー、雄英高校、サポート科、個性。………何故ここまで揃っていて気が付かなかった?ここは『ドラゴンボール』の世界ではない。『僕のヒーローアカデミア』の世界だ。
というより、余りに世界設定が違いすぎる。同じ地球を舞台にしている二作品だが、ドラゴンボールは文明や建造物も現代とはかけ離れており、また日本やアメリカといった国の区切りもないのにだ。
あのときにちらっと映った生徒は、若かりし頃のオールマイト、八木俊典だろう。言われてみれば、確かに面影がある。
幾度か情報を反芻したところで、結果は同じ。この世界にはドラゴンボールはないのだ。
ということは、孫悟空は存在しておらず、Z戦士やサイヤ人、宇宙の帝王や魔人もいないということ。それは当然、レッドリボン軍にも言えることだ。
何ということだ。自らがドクター・ゲロであり、妻も21号そのままの見た目であったために視野が狭くなりすぎていたとでもいうのか…!
わたしの期待は…、わたしの夢はどうなる…!?
………いや、なければ造ればいい。この世に存在していない人造人間を造ること。それがわたしの目標だった。たった今まではな。
ならばこそ、わたしはここに宣言しよう。孫悟空も、ベジータも、ピッコロもクリリンもトランクスもいない、新たなドラゴンボールを、この世界の人造人間編を、ここに作ってやろうではないか。
「フッフフ…、フッハッハッハッハ! フハハハハハハハハ!」
わたしは必ずやってやるぞ。待っていろヒーロー、精進せよヒーロー。必ずやわたしはわたしの野望を完遂してみせよう!
やることは増えた。だが、それはいいことなのだろうな。笑いが止まらないとはこのことか。
「まずはレッドリボン軍になりえる組織の確保か…。フフ、忙しくなるな」
さあ、わたしの夢の第一歩だ。これが世界にとっては悪であろうと、わたしはこの夢を貫き通すのだ。
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