気がつけばドクター・ゲロに転生していた男は、前世の記憶にあるドラゴンボールの物語を現実にしようと、悪の科学者としての道を歩み始めた。
すべてはドラゴンボールのために。すべては人造人間編のために。まだ見ぬレッドリボン軍や孫悟空たちに思いを馳せていた。
だがしかし!この世界は僕のヒーローアカデミアの世界だった!
思わぬ形で思い至ったドクター・ゲロは、この世界で人造人間編を再現するために暗躍するのであった…。
デッデデ♫デーデデデデデーデデーン♫デデン♫
結成!レッドリボン軍!
さて、この世界が僕のヒーローアカデミアの世界だと判明したわけだが、作品が違う以上、戦闘の質や規模、特殊性が全然変わる。
ドラゴンボールであれば基本的には純粋な力勝負で済んでいたが、この世界の個性は大小様々な異能の塊。マッチ並みの炎しか出せないものや頭髪が伸びやすくなるだけの様な小さなものから、触れたものに新たなルールを持たせたり、他者の個性を奪うという規格外のものまである。
まさに千差万別、故に個人を象徴する個性。しかし、原作では複製個性、個性因子というものが登場している。そうである以上、個性はスピリチュアルな物質ではなく、科学的に物証できるタイプのものであるはずだ。
早速その検証に移りたいものだが……今のままでは、世界は少し
ドラゴンボールの世界であれば、おざなりな警備や手つかずの大地など山程もあり、下地が整うまで隠れて研究も出来たものだが…。この世界では不特定多数と関わりのある者が多すぎる。ましてやヒーローのような大規模の暴力機関までもが揃っているではないか。
ゆえにこそ、仕事を増やしてやろう。追手が多いのならば、その時間を失くしてやればよい。探り出す目が多いのならば、見通せぬほどに飽和させてやればよい。
本命の研究は一時休憩だ。口惜しくはあるが、これからのためだ。
そうと決まれば早速宇宙に展開していた分のスパイ衛星を全て回収し、周辺国家、及びに遠方にまで派遣する。スパイ衛星のその数なんと25万機。世界のすべてを見て回るには少なく感じるだろうが、わたしが接触したいのは敵だ。
そうら、早速ヒットした。1件2件、まだまだ増えていく。
ここは一度大々的に売り込んでやろう。最初こそ警戒されるだろうが、向こうも格安で強力な兵器を入手できるパイプは欲しいはずだ。個性社会とはいえ、通常兵器はまだまだ現役。下手な個性よりはロケットランチャーが強いのはごく当然のことだからな。
ああそうだ。購入履歴は自動で破壊し、復旧させたらダミーの兵器開発会社に行き当たるようにしておくか。無論、それ以外にも保険はいくらでもかけてある。こんな下らんことでわたしの野望成就に傷がついてはかなわんからな。
―――――
兵器の無差別流通から一年。急激に増加した個性犯罪、及びテロに対してヒーローはかかりきりになっている。倒せど倒せど湧いてくる
そして今までは戦闘に向かないが故に軽犯罪しか起こさなかった小物も、流通している兵器で全身を武装すれば一端のテロリストだ。
倒せど倒せど湧いてくる敵にはあらゆる機関が疲弊している。頻発する犯罪と地域の違い、そして既存の兵器しか用いていないことから、背後にいる存在に気づいている様子はない。また、万が一たどり着いたとしても、それはわたしが別人に手引をして造り上げた兵器工場。末端社員が金欲しさにやったことになっている。
もちろんその言い分は「敵犯罪が目立つこの時勢ではいくらでも売れるから」だ。これは日本ではないことが大いに助かった。日本ではサポートアイテムや公的機関以外での戦闘用兵器の開発工場はないからな。その点ここらの国は軍事産業が未だに盛んだ。戦闘機やロケット開発にも必至。現在の混乱下にあっても取り締まられないので好き勝手出来ている。軍事国家様々だな。
そして、敵内でのコミュニティで広がる噂にも口を挟み、地域ごとに形式を変えている。また、地球の反対同士の国のクライアントの依頼を同時に受けることで単独ではないことをアピールする。
客観的に見て、わたしの科学力は大きく優れている。勿論慢心はせずにその時代の技術力を自らで検証した上でそれを凌駕するファイヤーウォールを張っている。
ダミーの会社にはそれより一歩劣る程度の防壁を24重にかけてある。まさかここまでやっておいてダミーとは思わないだろう。いや、素晴らしい。自分でやっておいて何だがこれもドクター・ゲロの頭脳あってこそだ。
昨今ニュースではそんな社会を嘆く声が寄せられているが、これも貴重な意見だ。世界的な犯罪率の上昇は市民にも広く知られているのだと。
やはり様々な場所にヒーローが目を光らせており、依頼も散発的になってきた。ならば次のフェーズに移ろう。
その名もレッドリボン軍計画!
そのまんまじゃないかという言葉は受け付けない。単純なだけに伝わりやすく、そもそも前世ならいざ知らずこの世界では知名度などないだろう。
では、まず傀ら…もとい総帥殿の選別だ。出来れば短気で後先を考えず、情のない人間あたりが好ましいが…まあ、この際そんなものはどうでもいい。レッドリボン軍の総帥である。という肩書が欲しいだけなのだからな。
その条件で探り込むと……いた。身長は低く、プライドは高く、狭量で冷酷な男。
名前は…シュライフェ・R・ホフマン。現在32歳のドイツ人で犯罪歴は多数。身長が低いことがコンプレックスで、かつてそれを馬鹿にした人間に暴行を働いたことで高校を中退している。移住者のいない場に住んでは、時折犯罪を犯して個性で逃げ延びている。……小物だな。
さて、こればかりはわたし自ら行かなければならないか。妻に少しの間出かけてくると言い、ドイツへ出立した(パスポートは偽造だ)。
……のだったが…
「オイてめぇら抵抗すんじゃねぇぞ!この飛行機は俺たちがジャックした!」
「少しでも不審な動きをした奴は撃つぞ!」
こうして、運悪くハイジャックにあってしまったな。しまった…。わたし自ら引き起こしておいてなんだが、犯罪率を高めすぎた。
何故それが判別出来ているのか。それは個性を見せびらかす彼らの携帯する武器にあった。一見なんの変哲もない銃火器に見えるが、その全てがわたしの製造した武器だ。
カモフラージュのため外見を既製品と全く同じにしたのだが、それでは色々と不都合が出るため、出品前に必ず特殊なレーザーを通している。ああ、本体に細工をするような愚行はしない。単純に一度通過した商品はわたしの脳内チップにデータとして保管され、わたしが造り上げた物か、それ以外かを判断できるというだけの簡単な仕組みだ。
それで判ったのはいいのだが、彼らがハイジャックをするというのは戴けない。曰く、ドイツ行きのこの便を日本に行かせたいのだとか。
何故日本かなど問うまい。だが、わたしの計画が邪魔されたことに怒りは感じている。仮にそのまま日本に行ってみろ。わたしには何事もなくとも、記録は残される。そうなると困るのはわたしだ。
そも、わたしの時間がこのようなチンピラ共に割かれるだけで苛立たしいというのに。これを逃せばレッドリボン軍編成の時期が遅れてしまう。
それは避けたかった。
「おいそこのお前、お前だよお前!」
「それは……わたしの事ですか?」
「お前に決まってんだろ! さっさとこっちに来い! 両手を上げてだ! 下ろしたら殺すぞ!」
参ったな。わたしが選ばれてしまった。今のわたしの外見は白髪交じりのメガネをかけた痩せたオッサン。見るからに弱そうな対象を選んだのだな、このチンピラ共は。
「いいか、機長。お前が怪しい行動をしたら乗客、手始めにこいつを殺す。通報しようとしても殺す。渋っても殺す。お前が選べるのは俺たちの指示に従うことだけなんだよ!」
「ひっ、ひぃ」
この機長は気が弱いらしい。大人しく従おうと操縦機を傾け始め―――声をかける。
「機長、このようなヤツらの言うことなど聞くものではない。そのままドイツへ向かってくれ」
「へ?」
人質であるわたしがこのようなことを宣ったのが信じられなかったのだろう。機長とハイジャック犯は同時に間の抜けた声を上げた。
そして一拍遅れて怒りの声を上げながらハイジャック犯はわたしに銃口を向ける。
全く、遅すぎる。わたしが一般人に扮したヒーローだったら今の隙はあまりに大きすぎるぞ? まあ、素のわたしは無個性の人間に過ぎないのだが…。
「テッ…テメェ! 喋るなっつっただろ!」
「うん? わたしは手を下ろすなとしか聞いていないが…。この歳でそれとは可哀想に」
「なっ……!」
ニヤリ。不敵そうに笑えばやつらが揃って銃を向けてくる。やはり短気で救えない奴らのようだ。
「しっ、死にてぇのか!?」
「撃ちたいのなら早く撃て。時間の無駄だ」
手っ取り早くすませるために、挑発と同時に腕を下げる。ポーズは勿論『かかってこい』。これを受けたハイジャック犯たちは血管をはち切れそうな程に浮かべ、思いっきり銃の引き金を引いた。
連続して鳴る炸裂音。引き起こされる惨劇を予兆したのか、ハイジャック犯たちの口元には薄い笑みが浮かび、機長は目を固く閉じる。
「あがあっ!!?」
「ギャアアア!?」
悲鳴が上がった。しかし
「………?」
そのどちらもが、若い声。不思議に思った機長が顔をあげると、そこには無傷で立つ中年男性と倒れ伏す二人のハイジャック犯がいるのみだった。
「あ、あんた…殺したのか!?」
「いえ…わたしは何も。恐らくは暴発でしょう。よく造られているが、形だけの粗悪品です。最近の景気で売れるからとこういう質の悪い代物が出回っているのですよ。正直、賭けでしたな」
ハッハッハ! と笑い、機長が放送で呼びかけると、客室乗務員が特殊な繊維で編まれたロープを使って犯人たちを縛っていく。
最初こそ怪訝な顔で見られたものの、その破損した銃を見せつけると納得したように態度が軟化した。
それからは早かった。元の航路に戻った機体は順調にドイツへ向かい、到着と同時に乗り込んだヒーロー達によってハイジャック犯二人は連行されていった。
きっと、暴発で自滅した間抜けな犯人として面白おかしく報道されてゆくのであろう。
当たり前だが、わたしの仕業だ。暴発だと? まさか。激しい交戦や事故でもなければ勝手に暴発などするものか。わたしが造った兵器だぞ? その安定性が敵にとっての信頼に繋がっているというのに、こんな阿呆な事故を起こすはずがあるまい。
わたしの脳に埋め込まれたチップから製造番号を割り出し、わたしに向けてトリガーを引いたら最も近い人物を照準するようにしておいたのだ。無理な使用に銃そのものは壊れるが、だからこそ暴発として処理しやすく後処理は比較的楽に済む。
ああ、幸運だと思ったのだけは本当だ。この近距離でも銃器に頼っている時点で大した攻撃性を持たない個性だとは思っていたが、今のわたしは無個性の一般市民程度に過ぎない。個性でなく、純粋な身体能力で挑めばよかったものを。これもまた超常社会の弊害か。
「何だと? オレが?」
「そうだ。わたしと共にこの世界を征服しようではないか。お前も知っているだろう? この世界の醜さを。お前もこの世界で排斥された者。背が低いからという理由だけで他者を馬鹿にするなど、いけないことだ」
「む……そ、そうだな」
「わたしも無個性だという理由だけでいらぬやっかみを受けたものだ。だからこの世界を支配する、無敵の軍団を創り上げよう。お前の個性と、わたしの科学力があれば世界征服も夢ではないのだ…!」
ドイツについてからは、スパイ衛星に案内を受けてこの隠れ家を発見した。そこで落ちぶれた原因である社会へと恨みの矛先を向け、レッドリボン軍を立ち上げるつもりだったのだが……。シュライフェは中々頷かなかった。
警戒心だけは一丁前に持っているだけに、ただ面倒くさい。使う気はなかったが、あの手を使うしかないか。
「しかし……うーむ」
「ギャル…」
「…!」
「世界征服をするような偉大な人はギャルにもモテモテで、世界を従えてるんだから、ひょっとしたらあるかもしれない、身長を伸ばす個性も使いたい放題になるがなぁ」
「…!!!」
………どうだ? 奴の好みとコンプレックス両方に触れたこの発言。正直、こんなので釣られるような馬鹿は生きていけない気がするが、初期のドラゴンボールもこのような下らない理由が意外と大きくなる力になっているのだ。
シュライフェはうんうんと考え込むように顎髭に手を当てるが、その顔はどうしようもないほどにニヤけていた。心を見らんでも分かる。あれはどうせ世界を支配し高身長になっている己にギャルが群がっている妄想だろう。
「…うむっ! やるぞ! このオレこそ世界を征服するに相応しい!」
「よく言った。今までのお前はもういない。これからはレッドリボン軍総帥、レッドとして、この世の中を染めあげるのだ!!!」
「「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」」
……はあ、何故わたしがこんな茶番を…。
―――――
それから時は経ち、レッドリボン軍は連鎖的にその勢力を増やしていった。
ヒーローのせいで職を失った者。ヒーローの対応が遅れたせいで住処を失った者。また、この時勢に便乗して非行に走る若い世代。今現在に於いて、ヒーローの象徴的な存在は居らず、年々増えてゆく敵犯罪には一般市民から不安の声が寄せられていた。
だからこそ、レッドリボン軍はこうまで爆発的に成長できたのだ。現状に不満を抱える者。ヒーローに懐疑的な勢力。それらをわたしの衛星で監視し、直々に勧誘する。
最初こそ断られることもあったが、わたしの全面的なバックアップによってその圧倒的な力は知らしめられ、逆にわたしの兵器に頼っていたこれまでの敵勢力は衰退の一途を辿っていき、レッドリボン軍の軍門に下る敵も確認できた。
不安だった組織の運営や連携などはレッドの個性「指令」のお陰でなんとかなった。この個性は一定の方向性を向いている同グループ内でのみ力を発揮し、上司であるレッドの言うことを聞きやすくなり、反抗心が薄くなるという効果を持つ。
わたしの考案した苛酷なトレーニングをレッド名義で配布させれば、その強さは並のものではない。
さながら軍隊の如き屈強さと秩序を持ちながらも、敵としての残虐性を兼ね備えているのだ。身内贔屓を抜きにしても群としてここまで厄介な敵組織は中々ないだろう。
人種、個性、文化の垣根を超えたスカウトは休むことなく続き、その規模はどこまでも増えていった。後ろ暗い集団のコミュニティの間にも噂を流し、大組織の影を演出する。
そうすればどうだ。是非とも入りたいという小物がよく釣れる。かれらはみな単独の個性はそうでもないが、最新鋭の兵器で武装し、その補助程度にしか使わない。故に連携が容易く、故に分かりやすい殺傷能力を誇る。
今までにこちらの動きを察知してきたヒーローはいた。だがその末路はどうなったと思う? 四方八方からの射撃と爆撃でその身を焦がし、ときには逃走用も兼ねたRR軍小型戦闘機で全身に風穴を開けて倒れ伏した。
プロヒーローといえど、所詮は人間。銃器を通さない装備や個性でもなければ、拍子抜けする程簡単に始末してしまえるのだ。
「ふむ、しかしレッドリボン軍も大きくなったな。支部も増えたし、大々的にアピールすることも視野に入れるか」
本当に予想外のことだが、既にレッドリボン軍の構成員は30万を超えている。この犯罪と敵が横行する闇の時代ではここまで強力な組織というのも珍しく、その恩恵に与ろうという者、その規模に惹かれた者と、芋づる式で人が増えていったのだ。
馬鹿な行動を犯す者はレッドが目敏く見つけては手ずから始末している。短絡的な行動だと思ってはいたが、こういった組織の癌を処分するにはこちらの方がいい。
あの男のことだ、意図していないだろうが、組織としてのケジメや見せしめになるその行動がより冷酷な悪の首領としてのレッテルを確かなものにしているのだろう。
わたしか? わたしはレッドリボン軍の拡大と共に莫大な資金と土地を占領でき、その分だけ研究に勤しむことが出来ている。
なるほど、これは確かに快適だ。原作のドクター・ゲロがあれほどの技術力を持っておきながらレッドリボン軍に執着した理由も頷ける。悪の科学者としては好きに開発できる環境は得難いものだろう。
レッドリボン軍の装備は各地のラボでロボット達が自動で制作する手筈になっており、専ら最近は新たな人造人間の開発に集中しているが……成果は芳しくない。ただの人工知能では駄目で、かといって他人の脳を焼き付けるのも駄目ときた。
息抜きにと同時展開して個性因子やクローン体を培養しているが、個性因子は変質して使い物にならなかったり、望んだ効力を発揮していない。
また兵士の中にクローンを紛れ込ませてはいるが、肝心の思考や記憶が再現できていないため下級構成員にしかなれていない。使い捨ての水増し兵士としての使い勝手はいいのだが、いかんせんわたしの技術不足を認めているようで納得がいかない。
ううむ、やはり原作のドクター・ゲロは偉大だったのだなあ。そうしみじみと思い至るのは当然のことだった。
神龍「さあ 願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう」
雑魚作者「評価感想おくれ―――!!!!」