楽玲オンリーシャンフロ短編集   作:東雲。

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サンラクサンお誕生日おめでとう記念の楽玲SSです。
ここ暫くは一次創作書いたりなんだりしてたので久しぶりの感覚。

楽玲同棲済結構経ってるユニバース。


玲さんスイッチ

 俺の手には、実に手作り感にあふれた、装置のような何かが乗っていた。

 

「玲さん」

「は、はい」

 

 小さな段ボール箱に丸いシールが5つ貼ってあり、それぞれ『あ』『い』『う』『え』『お』と玲さんの字で書かれている。玲さんの人柄が良く出た達筆だ。

 側面からはテープで留められた割り箸が上に伸びており、アンテナを模しているのだろう。こういう棒が一本立ってるだけみたいなアンテナ、教科書でしか見たこと無いけど。

 総じて何らかの機械を象った子供の工作みたいな代物で……結局なにこれ。

 

「……これは一体?」

「え、ええと、その……『彼女コントローラー』、と言いまして……」

「……それは一体?」

 

 すまん玲さん、聞いてもまだ俺にはわからなかったよ。

 

 


 

 

 今日は俺の誕生日なので、玲さんは一足先に大学から帰って色々と準備をしてくれる。主には晩飯とプレゼント。俺も玲さんの誕生日には同じことをするのでお互い様なのだが……玲さんが腕によりをかけた晩飯をご馳走になった後、俺に玲さんが手渡したのが…これだ。

 今年は中々予想外の方向から攻めてきたな。

 

「ええとつまり、『あ』から『お』までを頭文字にした命令に、それぞれ一回玲さんが従う、で良いの?」

「そういうこと……です」

「ふむ」

 

 シールの字からおそらく十割玲さんの自作なのであろう、不思議な味のある作品を眺める。まあそういうゲームの道具ってことは分かった、使い終わった後は部屋に飾ってしまおうか。

 

「あ、あの、こ、これはあくまでちょっとしたゲームのためのものでして、楽郎くんへのプレゼントは別に用意してありますから、け、決して手抜きをしたとかそういうわけでは……!」

「え? ああ、なるほどね」

 

 ……これはこれで面白いプレゼントだと感心してたんだけどな。

 確かに材料を鑑みればチープと言えるだろうが、『玲さんが俺の為に作った』という事実からは金では買えない価値がある。

 彼女が俺にそこまで手の込んでいないものを渡すという事自体が、ある種の気安さ・親密さの証に思える。上げ膳据え膳ばかりでは向こうも大変だろうし俺も気にする。時にはこういった雑さも悪くない。

 

「じゃあ早速使ってみるかな?」

「あ、い、いつでもどうぞ……!」

 

 要するに今日くらいは多少我儘に振る舞って欲しいというところなのだろうか。普段からそんな我慢しているつもりはないんだが、そういうことならお言葉に甘えさせてもらおうかな?

 リビングのソファに腰を下ろし、ちょっとそわそわしてる玲さんを見上げる。そうだなぁ……。

 

「じゃあ、『あ』で……『頭を撫でさせて』」

「っ! ……ど、どうぞ好きなだけ!」

「では失礼して」

 

 ソファの隣に腰を下ろした玲さんの頭にぽんと左手を乗せて、耳の方へ下ろしていく……うわすっげえ。

 

「サラッサラだ」

「んっ、そ、そうですか…?」

 

 いかん声に出てた。

 でも本当に凄いサラサラだ。こっちの指に合わせて沈み、髪の間を指がするすると抜けていく。無人の野を征くがごとしの爽快感ってこういうことなのだろうか。

 それを指先で味わえるとは、玲さんは構成要素の全てがハイスペックで頭が下がるな。

 

「一時間くらい触ってられそう。あ、でも髪に良くないのかな」

「長すぎると良くはないですけど……このくらいなら、大丈夫ですよ?」

「なるほど、じゃあ止める前に一つだけ」

 

 左手で撫でながら、右手で腿の上に乗せていた玲さんコントローラーの『い』を押す。

 

「『いまの気分はどんな感じ』?」

「え、えと、その……ちょ、ちょっとくすぐったくて、少しふわふわして……それでとても、暖かい気持ち、です……」

「そっかぁ」

 

 不覚にもほっこりしたところで手を離す。

 名残を感じるのか指先で頭をさすりながら立ち上がった玲さんを見上げて、残った3文字の使い方を考える。

 残りは『う』『え』『お』なのであと3回しか使えない。せっかくだからレアな玲さんを見たいところ。

 

「そうだ、久しぶりに玲さんの歌が聞きたいな。『歌って』?」

「えっ、こ、ここでです、か?」

「もちろん。確かテレビにカラオケの機能もついてたでしょ」

 

 俺も玲さんもカラオケに行くのは稀なため、彼女の歌声を聞く機会は本当に少ない。こうしてテレビにカラオケが搭載されているのも曖昧なくらいには。鼻歌なら家事してる時とかにたまに聞けるんだけどな。

 テレビをカラオケモードに切り替えてからリモコンを玲さんに渡して選曲してもらう。玲さんは緊張で操作をミスりつつも一曲を入れ終えた。

 

「で、では……行きます」

「やんややんや」

 

 

 約三分と十秒後。

 

 

「……ふぅ。ど、どうでしたか……?」

「ブラボー」

「あ、ありがとうございます……」

 

 称賛の意を拍手で示す。最後に聞いたのは半年くらい前だった気がするが、相変わらず玲さんの歌声は透き通る清涼感があって聴き心地がとても良い。アンデッド系に特攻付いてそう。

 残すは『え』と『お』か……よし決めた。

 

「玲さん、『笑顔を見せて』。とびっきりのね」

「え、笑顔ですか……? ええと……」

「それに追加で、『俺に愛してるって言ってみて』」

「!!!?」

 

 玲さんの顔がいつも以上に赤くなる。どこでこの遊びを知ったのかは俺にはわからんが、恋人どうしでやるならそりゃあこういう用途になるだろう。もしくはディプスロが喜ぶ類のナニカだ。

 さあ、どうする玲さん……あれ、思ったより行動が早い。

 

「楽郎くん」

 

 ふんふん、コントローラーを脇にどかして? ソファの隣に座って、俺の手を取ってうわ顔近手熱。

 

「世界で一番……愛してますっ」

「」

 

 


 

 

 冗談抜きで一瞬意識が飛んだ。

 後光が見えそうなエンジェリックスマイルと普段より弾んだ声でそれは駄目だよ俺保たねえよ。

 

「はぁぅ…は、恥ずかし……」

 

 束の間の失神から帰ってきた俺が見たのは、汗の浮いた顔を手でパタパタと扇ぐ玲さん。まあ流石に今のは諸刃の剣だわな。

 じゃあ俺も玲さんの手を取って、と。

 

「玲さん。俺も、世界で一番玲さんを愛してるよ」

「ふみ゛ゃ」

 

 お、フリーズ。ここ暫く見てなかったからちょっと新鮮だ。

 固まってしまった玲さんからそっと手を離して、ソファからすくと立ち上がる。

 

「さ、顔洗ってくるか」

 

 冷水でな。




今の世代にはおとうさんスイッチって伝わらないのかな……?
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