成人楽玲同棲済ユニバース。
今回ばかりは仙さんの正気を疑っても良いはずだ。
「玲さん、流石にこれは」
「姉に代わってお詫びをさせていただきます……!」
俺達(玲さんはペコペコと謝っている)の前にあるテーブルの上、平べったい段ボールの中で役目を求め眠っているそれは、おおよそ健常な精神の持ち主が着るとは思えない衣服という概念を忘れてデザインされた何か。
ツヤのある長手袋と、左右合わせて鼠径部のV字を刻む靴…いや靴か? タイツやストッキングの亜種かもしれない。足すことのビキニにしては際どい水着(下だけ)とハート型のシールめいたものが2つ。
正直、何も知らない人ならコレを……ただ綺麗に箱の中に納まったコレのみを、人が着用するものだと分類することもできないだろう。俺は誠に遺憾ながら解ってしまう。おのれディプスロ。
「というか玲さんは
「あ、い、いやその、知っているか知っていないかで言えば非常に曖昧で知っているとも言えますし詳しくは知らないとも……!」
まあ玲さんだしな。
こういう納得の仕方もどうかと思うが、積み重ねた実績に裏打ちされているのでしょうがない。
「で、これどうする?」
「どうする、とは…?」
「まあ処分だと思うけどさ、一応玲さんの意見も聞こうかと」
「えっ」
「えっ」
あれ? 玲さんまさかの乗り気?
俺の中の玲さん評を上方修正すべきですか?
「い、いえその。着るのは流石に心臓が保たないのですが、曲がりなりにも贈り物をただ捨ててしまうのも、とは」
「にしたってタンスの肥やしにするのもなぁ……ん?」
改めて目を向けると、微かな違和感。
そう、これを玲さんが着たと考えると、サイズ感、が……。
「よし、これは今すぐ処分だすぐに処分だ」
今の俺に出せる最高速で段ボールを持ち上げる。
いかん。これは想定以上の呪物だ! 仙さんマジでどうしたんだアルコールでもキメながら送り付けてきたのか!?
この身の毛がよだつ事実を玲さんが気づく前に視界から消し去ってしまわなければ「あれ、楽郎くん。これなんだか大きさが」あっ。
「あ」
たぱあ(玲さんの鼻から赤い雫が垂れる音)
「っ!!」
恐ろしく俊敏な動作で鼻血を拭うも、俺の目はそれを捉えていた。
そして俺が掴んでいる段ボールを奪い取ろうとする動きもなあ!
「玲さん今想像したね!? 俺がこれに袖を通したところを想像したでしょ!」
「い、いえしてません! してないので一つだけわがままを聞いて戴けないでしょうかっ!」
「『ので』で前後が何も繋がってない! こっちこそわがままを聞いてほしいなあ! その血管の浮いた手を離してくれないかなあ!」
「きっと似合います! きっと似合いますから!」
「これが似合ったらそれはそれで嫌だ!!」
「一生のお願いを、後生ですから……!」
「こんなとこで一生のお願い使うんじゃありません! もっと大事なタイミングに取っておきなさい!」
「楽郎くんが着てくれたら取り下げます!」
「それは取り下げたとは言わなくない!?」
綱引きならぬ段ボール引きに勤しむ俺と玲さん。高校生の頃ならヤバかったかもしれないが、今なら体重込みで拮抗状態まで持っていける……!
というか成人男性の全力に拮抗する玲さんは何なんだ一体!
だが綱引きというものはやはり、握りやすいように太く、ちぎれないように頑丈に撚られた綱で引くのが正しいのだと、競技として成立しうるのだと、俺は遠からず知るのだ。
「きゃっ!?」
「のわっ」
玲さんの膂力が段ボールを中間で破断させ、勢いで跳ね上がった俺の手が中身を天井まで打ち上げる。
互いに尻もちをついた所にひらひらと舞い降りる―――
「「……………ふっ」」
互いに見合い、息を微かに吐いて笑う。
ああ認めよう、俺も男だ。恋人のあられもない姿を、見たくないと言えば嘘になる。きっと、それは玲さんも同じなのだろう。今まで数度それを目の当たりにした俺には、ある種の責任があるのかもしれない。
「楽郎くん」
「………わかった」
バカバカしい話だが、この一幕で不思議と腹を括れてしまった。まあ、写真とか動画とか記録に残させなければ、彼女のお願いを聞いても良いかもしれない。
「交換条件ね」
まあタダで着るのは癪なので