楽玲同棲したてくらいユニバース。
「楽郎くん」
掛け布団を首元まで持ち上げた私の口から、ふと彼の名が零れた。
「なに? 玲さん」
真上を見つめたまま左から聞こえてくる彼の声色は、耳が蕩けてしまいそうなほどに柔らかかった。
「……ふふっ」
「……どうしたの?」
「あ、ご、ごめんなさい」
ひとつ屋根の下、ひとつのベッドを楽郎くんと共有する。
ずっと、ずっと思い描いていたシチュエーションが、今現実になっている。それがどうしようもなく嬉しくて、背筋が歓喜に震えた。
「楽郎くんを笑ったわけではなくて、その。何だか不思議で」
「不思議……ってのは?」
「こうしてベッドで天井を見つめて、これから寝るときにふと名前を呼んで。それで、返事が返ってくることが」
「……あー、言われてみればそうかも。誰かと一緒に寝るのなんて、まあなかなか無いよね」
「はい。子どもの頃以来です」
「俺も」
「それを思うとなんだか、幼い頃に戻ったみたいに思えませんか?」
「うーん………無理かな」
「………ですよね」
思いついたから言ってみたけれど、流石にそれは無謀だったようで。私も同じ気持ちです。
「あ、それで、その」
詰まりかけた会話の流れをなんとかして動かそうとする。
「だから、でしょうか。今、すごく満ち足りた気分なんです」
「その心は?」
「楽郎くんを……その、好きに、なって。ずっと夢見てたんです。こんな風に、楽郎くんと一緒に寝ること」
「そりゃ光栄だ」
「時間はかかってしまいましたが、こうしてその夢が現実になって、いろいろな実感が強まって……」
この先を口にすることに、抵抗を覚える。ただ、心地よい疲労感とじわじわと浸透する眠気が、私の口を軽くさせていた。
「まるで最高潮のように思えるくらい、今がとっても、幸せなんです」
「………」
言ってから、後悔を感じた。これではまるで、
「そっか、そりゃあ楽しみだ」
「……え?」
楽郎くんの言葉に、思わず左に。彼の方に顔を向ける。
照明の落ちた部屋は暗かったけれど、楽郎くんの顔は見えている。
彼は好戦的に、挑戦的に笑っていた。
「そ、それは。どう……して?」
「ん? だって玲さんは今が一番だと思ってるんでしょ? だったら、それを越える幸せだと玲さんが感じてくれた時、どんな反応をするのか楽しみじゃない?」
「っ」
胸が高鳴る。彼と共に過ごし始めて、慣れてきたと思っていたのに。それを少し、寂しく感じていた所に。
その顔は、よくない。
叶い、満たされて、成就した恋心が。
するり、と。身体ごと私に向いた楽郎くんの左手が、私の頬を撫でる。
「ひゃみ」
「俺はまだまだ、玲さんを幸せにするつもりだよ。二人分以上の人生背負うつもりなんだから、そのくらいはしなくちゃね」
「あ、わ」
チャレンジ精神に燃える彼の瞳が、私を射抜いて。
鼓動がうるさくて、心臓がきゅんきゅんと締め付けられる。
徐々に広がっていた世界がもう一度楽郎くんだけになる。
ごめんなさい。降参です。
もうすでに、さっきの最高潮を上回ってしまいました。
「……あ、あの」
「ん? あれ、玲さん顔赤い?」
「~~~~っ」
指摘されて、更に顔に血が集まるのがわかる。
「あ、あの、その」
この先を言葉にするのは相当に気恥ずかしいはずなのに。
気がつけば、私の口は勝手に動いていた。
「最高潮、更新しちゃったみたい、です……」
「……予想以上に早かった。RTAしたつもりは無いんだけどなぁ」
「ううっ」
思わず布団を引き上げて顔を隠す。
恥ずかしい。けれどそれ以上に、彼にそんな風にからかわれるのが嬉しい。この恋心を抱いた当初からは比べられないくらいに、楽郎くんとの心の距離が縮まっているのを実感する。
恋人であると同時に、友達のように気さくに話し合える。いつの間にか当たり前になっていた関係性が、かつて途方もなく切望した尊いものであることを、私は再認識した。
「ま、だからって俺も満足したりしないし、そろそろ寝ようか。明日……もう今日か。休みとはいえ夜更かししすぎたもんね」
「そ、そうですね……、!」
そうだ、眠りにつく前に言おうと思っていた言葉があった。前置きのように話している内に忘れかけてしまっていた。
「そ、その。楽郎くん」
「なに? 玲さん」
ベッドで寝ながら向かい合って聞く彼の声は、胸のドキドキが止まらなくなるくらいに素敵だった。
改めて口にしようとすると、中々言い出せない。
今の精神状態で言ってしまうのは、かなりの度胸が要るけれど。
それでも、言うのだ。この恋心を初めて抱いた時から、私は成長していると信じて。
「大好きです、楽郎くん」
「俺も大好きだよ、玲さん」
「……きゅう」
二度目の最高潮の更新を感じながら私は、気絶するように眠りについた。
おやすみなさい。
当初はもっと"夜更かし"の内容を匂わせる雰囲気にしようとしたけど、これはこれでと思ったのでこのまま行くことにしました。