持ち前の学習能力をヒロインちゃんに向け始めたサンラクサンに頭やられるヒロインちゃんが見てえなあ!!の気持ちで書きました。
二年前に投稿した『貴方は鈍い人だから』のセルフオマージュです。
梅の花が見頃を迎えた通学路。
楽郎くんと私は、同じ道を並んで歩いていた。
明日から春休みで、リアルで会うのは難しくなるのは容易に想像できて。
三年生になってしまえば、否が応でも受験を視野に入れなければならない。
高校生の内に彼と遊べる時間は、もうさほど多くはない。
だから私は、彼の手を取り。
人生最大の勇気を出した。
聞いた彼は心から驚いた顔をして、何かを言いかけて、やめて。
心臓の鼓動がばくん、ばくんと。耳をふさぎたくなるくらいうるさくて。
少し、私にとっては世界が一巡してもおかしくないほどの時間の後。
「えっと、良い…よ?」
私は喜ぶより先に、感極まってしまって。
まだ冷たいアスファルトにへたり込んで、泣き崩れてしまった。
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。
無機質な電子音が、目を開いた私の鼓膜を叩く。のそりと上体を起こし、窓から差し込む陽光を顔に浴びる。
「………」
何度目かわからない夢から目覚めた私は素早く身支度を整え、朝食を摂り、靴を履いて玄関扉に手をかける。
「お嬢様、今日の送迎は…」
「大丈夫です」
「承知しました。お気をつけていってらっしゃいませ」
「はい、行ってきます」
庭に植えられた木々は青々しく生命を漲らせ、お陽さまの光をいっぱいに蓄えながらわさわさと春風に揺れている。
開かれた正門から一歩踏み出す。今日はついに、予てより考えていたミッションに挑むのだ。
そう。
(楽郎くんのお家に向かい、玄関で出迎えて一緒に登校を―――)
「おはよう玲さん」
「み゛ょっ!?」
なぜかすぐ横で楽郎くんが待っていました。
「き、来ていたのならインターホンを押していただければすぐに伺いましたのに……!」
「いやあ、朝の支度してるとこ急かしちゃ悪いかなって。それに、早く目が覚めたからせっかくだしドッキリの一発でもと思ってね」
「ぜ、絶対そちらが本音ですよね…!?」
「はは、バレた?」
「うう……」
楽しげに笑う楽郎くんに、私は何も言い返せない。同じことを私もしようとしていたのに、それを棚に上げて楽郎くんに詰め寄るのは良くないから。
「もうすぐGWかあ、玲さんは何か予定ある?」
「ええと、私は家の都合で3日まで居ませんが、その後は今のところ……」
「なるほど。じゃあその後で良いから勉強会しない? また図書館とかで」
「それ、は……! 願ってもない、です!」
「良かった」
「っ」
嬉しそうに笑う楽郎くん。その表情に私は、二種類の感情で胸が締め付けられた。
ひとつは、そんな楽郎くんが純粋に好きだという気持ち。
もうひとつは、もっと早くに楽郎くんに告白していれば、勉強会ではなく純粋にデートができたのにという後悔。
考えても仕方のないこと。あのタイミングでの告白だったからこそ、楽郎くんは応えてくれたのかもしれない。
いくら自分に言い聞かせても、それでも自問自答は止められなかった。
「どうしたの? 浮かない顔だけど」
「んひゅっ」
急に楽郎くんの顔が近づいて、思わず息が詰まる。
「だ、だいひょぶれすっ。ちょっと、その。考え事してただけ、で」
「そう? 無理にとは言わないけど、俺で良ければいつでも頼ってくれていいからね」
「あ、ありがとうございます……」
楽郎くんは何でもないことのようにそう言って、少しだけ前を歩く。
私と付き合ったからか、楽郎くんは少しだけ変わった。
いつも自分の道を笑いながら走っていた彼は、時折。本当に時折、振り返って私を見るようになった。
それはとても嬉しくて、幸せなこと。でも、一つだけ悩みが。
とてもとても、贅沢な悩みがあった。
「あ、そうだ玲さん」
「は、はい」
物理的に振り返った楽郎くんが、自分の額に人差し指を水平に当てる。抑えられた髪が、微かに揺れて。
そう、贅沢な悩みとは。
「髪、ちょっと切ったでしょ。似合ってるよ」
「」
「…あれ、玲さん?」
知らなかった。私がそんなにもわかりやすいなんて。
知らなかった。彼がこんなにも鋭かったなんて。
「玲さん? もしもーし」
貴方が鈍くて、私の本心を全然分かってくれなくても。
貴方が私を知ろうとしてくれている。それだけで、私は十分幸せなのに。
そんな貴方が、鋭く私を見抜いてしまうのなら―――
「……ふひゅう」
「玲さん!?」
―――そんなの、もう敵わないじゃないですか。
幸せな降参。