楽玲オンリーシャンフロ短編集   作:東雲。

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二人だけの秘密のサインって、なんかこう……いいよね!
の気持ちで書きました。

高校生楽玲付き合いたてユニバース


サイン小サイン

 夕焼け空の下で、玲さんと並んで通学路を歩く。

 住宅街は遠くのカラスの鳴き声が聞こえる程度に静か。俺と玲さんも特に会話もなく歩き続ける。

 最初は黙っているのが惜しくて色々話したほうがいいとばかり思っていたが、こういう時間を二人だけで共有している事実もまた、得難い体験だと今は感じられる。ラブクロックだと黙っている秒数までチャートに組み込まないと詰むもんだから、無言の時間にも風情や情緒があるという発想が無かった。

 

 隣を歩く恋人の顔を覗き見ると、背負った夕陽で見づらいが顔を赤らめて視線をしきりに彷徨わせている。少なくとも退屈とは思っていなさそうなのは安心だが、何らかの変化を求めているようにも見えた。

 その上で注意を払ってみれば、俺に近い側の手が握ったり開かれたりしていて。目は口ほどに物を言うなんてことわざがあるが、今の玲さんは手が口より雄弁だな。

 

 少し驚かせようと玲さんのささやかな挙動不審に気づかないフリしつつ、ほんの悪戯心から俺は玲さんの忙しない手を自然に取り指を絡める。

 フッ、どうよこの完璧にさりげない恋人繋ぎは。玲さんも、驚きつつも握り返して―――あれちょっと力強

 

「み゛――――っ!!!!」

「ッッッッ!?」

 

 左手の骨が悲鳴を上げた。

 


 

「ごめんなさい! ごめんなさいっ!! 手は、手は大丈夫ですかっ!?」

「だ、大丈夫大丈夫。ホラこの通り」

 

 90度に頭を下げる玲さんを起こし、左手を振って無事をアピール。その後もけじめと称して右手をケジメしようとする玲さんを止めて宥めつつ、なんとか帰宅を再開した。

 

「うぅ………」

「んー……」

 

 まいったな、玲さんの肩が縮こまって、すっかり萎れてしまっている。さっきまでと同じ静かな時間が流れているが、空気が心なしか重い。

 

 痛み以外の不調はなさそうだけど、これは困ったな。玲さんと手をつなぐ時に毎回「手、繋いでいい?」なんて聞くのは、そう……かなりバカップル仕草ではないだろうか。たまにならまだしも毎回はちょっと照れ臭い。

 このままでは彼女のシャイさとパワーで恋人繋ぎも満足に出来ないカップルが爆誕してしまう。何か手を打たないと。

 

 まあ、玲さんの人となりをある程度知った上で、それを無視して悪戯心を発揮した俺にも多少の非はあると言えよう。いったい俺はクソゲーから何を学んだのだ。予備動作(プレモーション)無しの行動がろくでもない結果(クソゲー化)を引き起こすのは、肌身にしみて理解していたはずなのに。

 

 ……ん? 予備動作?

 

「玲さん」

「は、はひ!」

「合図を決める……ってのはどう?」

「へ、えと……合図?」

「『手を繋ぎますよ』って合図。事前にわかれば玲さんも心の準備できるでしょ?」

「そ、それなら。でき、ます!」

 

 よしよし。

 そう、予備動作が無いなら作ればいいのだ。周囲にバレないような、俺と玲さんにだけ伝わる合図があればこの問題は解決する。

 それに、こういう秘密の共有は親密度を高めると言う。実を言うと他ならぬ俺自身、ちょっと心が踊っている。恋人ができて浮かれるってこういうことなんだろうなあ。

 頭でわかっていても浮足立ってしまう、予測不可能回避不可能の状態変化だ。

 

「玲さんがそうだとわかるのが大事だから、玲さんに決めてほしいけれど」

「そ、そうですね……合図、合図……」

 

 歩きながら、玲さんはむむと考え込む。こっちでも一応なんか考えとくか。そうだな、パッと思いつくのはハンドサインだけど、見る動作が必要だからいまいt「で、では!」うおっ。

 

「決まった?」

「こ、こういうのは、どうでしょうか……っ!」

 

 言いながら、顔を夕陽に負けないくらい赤くしながら。玲さんは俺の手の甲を曲げた指で二度小突いた。

 なるほどね、これなら目を向けなくても触感だけでわかる。動作も小さいから周囲に見られにくいし、1回なら偶然を疑うが2回ならそれも避けられる。

 

「いいね、じゃあさっそく」

「……!」

 

 玲さんの手の甲をこんこんとつつく。玲さんは一瞬身体を強張らせ、静かに長く息を吐いてから右手の力を抜いた。

 それを確認してから、数分ぶりに玲さんの手を取る。きゅっ、と指を絡めると、玲さんの手の柔らかい触感と熱がじわりと伝わってくる。

 

「………」

「………」

 

 ……手をつなぐだけなのにずいぶんと回り道をした気がするが、俺と玲さんにはこのくらいのペースがちょうどいいのだろう。玲さんの顔を拝みたいところだが、それをするとこっちの顔も見られてしまいそうなので涙を呑んで視線を逸らす。

 繋いだ手は、ずっと暖かかった。

 


 

 後日、教室にて。

 

「なあ陽務。なんでお前が拘束されているかわかるか?」

「全く検討つかないな。冤罪だから弁償とカツ丼用意しろ」

「いやさ、バレバレだからね? ところ構わずやってるお前と斎賀さんの手繋ぎサイン」

「ッスゥー………」

 

 ……ちょっと今回ばかりは言い逃れできなさそうだ。

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