楽玲オンリーシャンフロ短編集   作:東雲。

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時節に合わせて一本書いたって良いじゃない、にんげんだもの(もう一月終わる(単品としての投稿時点の時間軸))


将来の計は元旦にあり

 年が明けた。去年は…まあなんというか色々あったな。

 大学受験を無事乗り切ったり、念願の大学が変人の巣窟だったり、家からじゃ遠いしマンション借りようとしたら玲さんが押しかけてきて、何故か同棲状態になったり。

 彼女だから問題ないっちゃ問題ないのかもしれないが…良いのか良家のお嬢様よ。

 

 なにはともあれ、慌ただしい大学生活一年目も残り三ヶ月のこの頃。正月でそれぞれ帰省する前に二人で初詣に行こうか、となったのが大晦日の夜のことだ。

 そして現在元日の昼過ぎ。玲さんは振袖を着るらしく、俺はリビングで着替え待ち。

 当然、俺は洋服。着物なんか持ってないし、わざわざレンタルする気にはならない。一応デート用の奴なので普段着よりはマシだろう。

 

「お、お待たせ、しました…っ」

「うお」

 

 声に反応して振り返れば、当然ながら振袖に身を包んだ玲さんがいて、思わず声が漏れた。

 濃い緑を基調に、これでもかと満開の桜が咲き乱れる結構カラフルな一着。玲さんの艷やかな濡羽色の髪とよく合っている。それどころかベストマッチと言わざるを得ない。これ仙さんからの贈り物なんだっけ? 流石です仙さん。

 

 お団子に纏められた髪型もこれまた実にグッドだ。普段のエアリーボブももちろん良いのだが、お団子ヘアーにはどことなく家庭的な魅力があるように思う。柔和さや清潔感を感じるからだろうか。

 

 正直俺は今、既に今日の目的を終えたと言っても良いくらいの感動を味わっている。このままリビングでゆっくり茶でも飲んで寛ぐのもアリかもと思えてしまうくらいには。

 拝むべきは神ではなく玲さんだったのかもしれない。

 

 まあ玲さんは俺と初詣するために気合を入れてくれているので、短絡的な欲望はぐっと押し込む。

 

「可愛くて、綺麗で…よく似合ってる。なんというか…落ち着いた雰囲気が玲さんに合ってて…うん、良い」

「あ…ありがとう、ございます…」

 

 そんなに嬉しいのか、ぽっと顔を赤らめて俯く玲さん。あまり喜ばれるとこちらも気恥ずかしくなってしまう。

 付き合って丸二年になるというのに、未だこの体たらく。

 進歩が無いと言うべきか、初心を忘れていないと言うべきか。

 

「げふん、じゃあ、初詣…行こうか?」

「は、はい!」

 

 

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 俺と玲さんが今住んでいるマンションから、『徒歩でもまあ一応行けるかな…?』くらいの距離に神社がある。特段大きい訳ではないが、それでもこの時期は流石に人が多い。

 

「ら、楽郎くん…お参りの前には、手水舎(てみずや)で手と口を清めてですね…」

「この時期に冷水で手と口を洗わせる神様、控えめに言ってサディストでは…?」

 

……

…………

 

「ぐおお…冷たい通り越して痛い…」

「ひ、必要なこと、ですから……」

「あ、少しマシになった」

「ぴゃば」

 

 冷えた手を温めるためアンド人混みではぐれないために手を繋ぐ。隣で何かが爆発した気がするがいつものことだ。うん。

 浄化バフの効果時間が残っている内に参拝を済ませてしまおう。混み合う人の間をすり抜け、行列に並んでしばらく。

 拝殿に辿り着く。

 さて賽銭を入れて……なんかお辞儀に作法があったような。なんだっけ?

 

「二礼、二拍手、一礼…ですね」

「それだそれ。さんきゅ玲さん」

 

 俺の思考を知ってか知らずか、バッチリのアドバイスをくれた玲さんに感謝。

 こういう時は教養豊かな玲さんの存在がありがたい。五円玉を賽銭箱に放り込み、きっちり二礼二拍手一礼を済ませ、願いを思い浮かべる。

 

「………。よし」

 

 隣を見れば玲さんも済ませていたらしい。後がつかえているので賽銭箱の前からそそくさと離れる。

 

「…楽郎くんは、どんな願い事を?」

「これ言ったら叶わなくなるやつじゃなかったっけ?」

「言う言わないは俗説の見方が強いので、人によるかと…」

 

 そういうもんだろうか。そういうもんかもしれない。

 

「声にしなければ……いつまでも………変わらないので…………」

「おおっと折角だしクイズにしようか! 俺の願いは何だと思う!?」

 

 急速に空気に重量を感じ始めたので話題転換。自分の発言が自分に刺さってしまったのだろうが、元日に出すような空気感ではない。

 

「え? えっと…『今年も良いクソゲーと巡り会えますように』…とかでしょうか?」

「おお、玲さんも俺の事分かってきたね」

「そ、そうですか!?」

 

 喜色を隠しきれないのか、そわそわする玲さんを眺める。フリフリと揺れる袖が可愛らしさを際立たせているな…。まあ、実際のところはハズレなのだが。

 

 玲さんと付き合っていない俺だったら、そういう願い事をしただろう。

 今の俺の願い事は、『今年も玲さんと一緒にいられますように』だ。

 言う言わないが個人に依るなら、俺は言わないことを選ばせてもらう。

 

 …流石に、面と向かっては恥ずかしいし。

 

 

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「自販機で飲み物買ってくるけど、玲さんはどうする?」

「そ、それならお守りを、見てきても良い…ですか?」

「オッケー、いってらっしゃい」

 

 赤ら顔の玲さんが社務所の方へ歩いていく。生きた障害物(人混み)が存在しないかのような滑らかな歩みだ。玲さんにとっては振袖の動きづらさなど、あって無いようなものに思える。

 それを横目に近くの自販機に向かい、興味本位で買ってみたエナドリ味だがエナドリではないノンカフェイン飲料を一口。エナジーカイザーも無い割にこういうのは置いてるんだな。

 

「……うーん」

 

 なんだろう…この、コレジャナイ感。味は再現できているのだろうが、カフェインのパワーが無いためか。身体に活力が漲らない。

 普通にジュース買えば良かったな…。

 

 とっとと飲み干して玲さんの様子でも見に行こう。ついでにお守りの一つくらいは買っても良いかもな。

 

 さっきまでエナドリのような何かが入っていたペットボトルを自販機横のゴミ箱に入れ、人の波を避けて売り場へ向かう。今の玲さんは特徴的な服装しているし、見つけるのは容易いはず……お、いたいた。

 横合いに近づきながら声をかける。

 

「玲さん、お守り何買った? ――ん、『安」

「らら、楽郎くん!?」

 

 ちょうど巫女さんから受け取ったところだったらしいお守りを、霞む速さでハンドバッグの中にしまい込む。

 む、最初の一文字しか見えなかった。

 

「あ、え、えっと、これは、その……秘密、です!」

 

 そんな秘密にするようなお守りってあったっけ…?

 

「そう? ま、いいか。すみません、学業成就のお守り下さい」

「…はい、丁度いただきます。………では、こちらがお守りです」

「どうも」

 

 売り場にいた巫女さんが、俺に生暖かめな視線を向けながらお守りを渡してきたのが、少し気になった。

 

 

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 結局のところ、一歩一歩進み続けるしかないのだ。

 玲さんと手をつないで、すっかり「我が家」と呼ぶようになったマンションへの家路を向かうように。

 

 参拝の中で見かけた、俺達より年上の、左手の薬指に同じデザインの指輪を嵌めた男女。あるいは、子供連れ。

 

 いつか、玲さんとああなれたら。

 

 気が早いかもしれないが、思うのだ。玲さんもそう思ってくれているのなら、これほど嬉しいことはないけれど。

 だが今ではない。俺も、玲さんも。まだまだその関係になるには足りないものが多すぎる。仙さんは玲さんの恋路をあの人なりに応援してくれたが、その先となると話は別だ。『学生結婚』の四文字は、斎賀家としては断じて容認出来ないだろう。

 第一俺が嫌。惚れた(ひと)一人満足に養えない身分で、娶る真似が出来るものかよ。

 

「楽郎くん?」

「――っと、ごめん玲さん。なんでも無いよ」

 

 玲さんと繋いだ手に、力が籠もっていたらしい。胸中を隠して無駄な力を解く。

 

 ……思考を進めていくと、ふと、考える。

 いつか来るその時(プロポーズ)に、俺は何を以て玲さんの愛情に報いれば良いのだろう。

 

 玲さんが俺に向けてくれる愛情と献身は、俺の両手どころか全身で受け止めてもなお溢れんばかりだ。けれど、それでも返してみせるのが男の甲斐性で、与えられれば同じ分だけ与えたいのが人の性質で、一方的な供給に甘んじられないのがゲーマーのエゴだと俺は思う。

 

 一番わかりやすいのは『金』なのだろうが、玲さんはそういうのを手放しで喜ばないだろうし、斎賀家の太さを考慮すると並大抵のもてなしでは効果は見込めないだろう。ナシだな。

 

「……楽郎、くん?」

「おっとっと」

 

 いつの間にか家の前まで来ていたようだ。懐から鍵を取り出して玄関の施錠を解く。

 

 心のなかでため息をついた。

 今はまだ、考えても答えは出ない。あるいは明確な正解なんて無いのかもしれない。まあ、だとしても諦める気はさらさらないけどな。

 生憎、正解が無いくらいで()()()()なんて思えるほど、俺の想いだって安くはないのだ。この程度で俺のモチベーションは尽きたりしない。

 

「玲さん」

「?」

 

 百点満点の正解が無くとも、考えることを止めはしない。

 七十点より七十五点。七十五点より八十点。考え抜いて、少しでも満点に近づけてやる。

 

「――今年も、どうぞよろしくおねがいします」

 

 玲さんが一瞬、キョトンとした顔をする。年が明けた直後にもう既に言ってるもんね。とはいえ二度言ったってバチはあたるまい。

 一回目は挨拶として。

 二回目は決意の表れだ。

 

「…はい! 今年も、どうぞ宜しくお願いいたします!」

 

 未来の俺に向けて、今の俺は俺にできることをする。大それたことをする必要は無い。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




ヒロインちゃんの振袖のイメージは「緑地振袖 桜に椿」って感じです。
そのままググっていただければすぐに見つかるかと。
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