楽玲オンリーシャンフロ短編集   作:東雲。

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自分の解釈の内においてはサンラクサンも人の子であるので、環境が変われば心境も変わるはずという話。

大学生楽玲同棲済みユニバース。


変わるということ、変わらないもの

「楽郎くん? 今日は、ゲームはしないんですか?」

「あー……まぁ、今は気分じゃない、かな?」

 

 歯切れの悪い彼氏の返事に、玲は直感的に何かあったのだと悟った。彼の内側に踏み込む事への恐れはどうにも無くならないが、楽郎には心身ともに健やかでいてほしい。

 その想いで恐怖を乗り越え、彼が座っているソファの右隣に腰を下ろす。

 

「具合が悪いとか……」

「いやぁ…そういうのじゃないんだけど……うーん」

 

 少し悩んでから、楽郎は口を開いた。

 

「玲さん……仮によ? 俺が、ゲームよりもやりたいなって思う時がある、別のことができたって言ったら……、玲さんは、どうする?」

(現在進行形なんですね…。でも――)

 

 玲は、事態は楽観視できるものではない、とも考える。楽郎のゲームへの熱意は、それはもう凄まじいものだ。プライベートの一切をシャングリラ・フロンティアに捧げた姉と比較しても勝るとも劣らない程に。

 二人のどちらがより健全にゲームを楽しんでいるのかと問われると、玲には甲乙つけがたいが。

 

(ですが、新しい趣味が増えたような素振りは特に無かったはず…。――私に詳細を明かせないような類の趣味? 最近私に視線を向ける機会が多かった気がしていましたが、私に後ろめたさを覚えていたから…?)

 

 憶測は程々に打ち切る。仮に玲に仔細を語れない趣味であろうとも、それがあることを自分に打ち明けた彼の誠実さをこそ見るべきだと玲は判断した。

 

「それは……どちらのつもりで答えれば」

「…『仮に』の体でここは一つ」

 

 そう言われれば否はない。玲は一応、仮定の話として考える。

 とは言っても、である。

 

(…どちらだとしても、私の答えは変わりません、ね)

 

 玲はソファに片手を突き、身体ごと楽郎に向き直って、ずい、と身を乗り出す。

 

「楽郎くんが、心からやりたいことなら、私は応援します。だって、私は、その………ゲームそのものではなく、好きなものを通じて、人生を楽しんでいる楽郎くんが、えと……、あ、いえ、楽郎くんに、惹かれた、ので……!」

 

 自分の気持ちを口にするほどに、顔に熱が溜まって思考がぼやけてくる。それでも、わたわたと手を振りながら、言葉の一つ一つに精一杯の気持ちを込める。

 

「楽郎くんの好きなものが、ゲームの他に出来たとしても……! 私の、楽郎くんへの想いは、変わらない、と………その、いいますか――」

「………ふくっ」

 

 楽郎が、小さく笑みをこぼす。

 

「ら、楽郎くん…?」

「あ、ごめ、違うんだ玲さん。これは玲さんに対してじゃなくて俺に対してのヤツで……ふっ、くく」

「……?」

 

 くつくつと肩を震わせる彼を見ていると、楽郎はぴたりと含み笑いを止め、玲の目を見つめ返した。

 

「――そっかそうだった。俺は玲さんを――あ、えっと、アレだな。あー、とにかく、それが玲さんの口から聞けてよかった、うん」

「そ、それは、どういたし、まして…?」

 

 言いかけて止まった楽郎の言葉が気にはなったが、何はともあれ、楽郎の懸念は払拭されたらしい。ほっと胸を撫で下ろす。

 しかし、話はここで終わりではない。玲の脳内には既に疑問が生まれているのだから。

 

「あの、それでその、楽郎くんの、新しい好きなものとは…?」

「うーん……口で説明はし辛い、んだけど…」

「あ、い、いえ! 無理にとは言いませんが……! そ、そのあの、可能であれば知っておきたい、ような……で、でも、決して楽郎くんのプライバシーを軽んじているわけではなく…!」

「大丈夫大丈夫。玲さんがそういう人じゃないのはわかってるよ。――実際にやってみせようか」

「み゛ゃっ!?」

 

 突然、楽郎がソファに突いていた玲の手に彼の手を重ねる。瞬間的に玲の顔がぼっと火を吹くが、楽郎はお構いなしに玲の後頭部に腕を回して引き寄せる。

 楽郎の胸に側頭部を押し付けるように抱き締められる。駆け足気味の力強い心音が、骨を伝って玲の鼓膜を直に震わせる。

 

(ぁ、う……こ、れ――)

 

 恋人の胸に身体を預けさせられている事による緊張と興奮、彼もこの状況に緊張しているのだという事実と心音そのものがもたらす安心感。

 両極端の情動が綱引きめいて奇妙なバランスを生み出し、玲の意識を引き留める。

 

「……こういうこと、したいなって。スキンシップってやつ」

「あ、ぱ、え、えと……」

「良い…かな、玲さん」

 

 彼の声が、頭上から聞こえてくる。玲を気遣おうとする優しさと、彼自身の欲望の間で揺れて震えるその声音は蠱惑的で、玲はぞくぞくと背筋を震わせる。

 全身が熱っぽくて、思考は激しくから回る。それでも、なんとかこれだけは口にする。

 

「わ、私はっ! 楽郎くんの、彼女っ、です、から――」

「ん…。ありがと、玲さん」

 

 玲の頭を抱き寄せる腕に、一際力が籠もる。重なった手の指が絡み合う。

 それが分水嶺だった。

 

「はぅっ……―――きゅう」

「あっ」

 

 この世の全ての幸福を一身に味わった。そんな心地のまま、玲は意識を手放した。




(――俺は、玲さんを甘く見ていたな)
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