ちょっぴり悪い子なヒロインちゃん。
高校生楽玲まだ付き合ってないユニバース
二年間、通い続けた帰り道。けれど、彼と一緒に帰る日が生まれるようになって、通学路は随分と華やいだ。
楽郎くんが隣にいるだけで、今日という日が最高の一日になる。こうしているだけでも心臓がバクバクして、胸の中に幸せが満ちる。未だに彼の顔を正視することもできない私だけれど、今はそれでも良いと思えた。
「…玲さん」
「はっひゃい!?」
突然、楽郎くんに呼び止められる。何か怪訝な表情を私に見せている。うぅっ、そんな顔も素敵…っ。
「な、なんでしょうか…!」
「玲さん、よく俺と一緒に帰ってるけど……もしかして、俺に気があったり?」
「!!?、!!?!??!?」
私は人生で初めて、驚きのあまり物理的に飛び上がった。
「な……、え、あ、と、その……っ」
「…図星?」
「は、い、ええと……」
あまりにも予想外の展開。思考はから回って喉が干上がる。何か言わなければと思うものの、舌が貼り付いたみたいに全く回らない。
「っ……! あの………!」
「まあ実を言うと俺もなんだけど」
「~~~~~っ!!?!??!??」
状況が第二宇宙速度を越えて空の果てへと飛んでいく。最早私にどうにかできる段階ではなくなっていた。
「玲さん、もし良かったら俺と――――」
----------------------------------------------------------------------
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ
無機質な電子音が、目を開いた私の鼓膜を叩く。のそりと上体を起こし、窓から差し込む陽光を顔に浴びる。
「………」
(ええ、わかっていました。わかっていましたとも。そんな都合の良い事になるはずはないと…)
夢の中とはいえ、そのような展開を望んだ自分の浅ましさに朝から軽く自己嫌悪に陥る。しかし、あまり感傷に浸っている場合ではない。学校は今日もあるのだから。
素早く身支度を整え、朝食を摂り、靴を履いて玄関扉に手を掛ける。
「お嬢様、今日の送迎は…」
「すみません、まだ少し眠気が残っているので…身体を動かしたい気分なんです」
「承りました。お気をつけていってらっしゃいませ」
「はい、いってきます」
使用人の見送りを受けて敷地の外へ歩み出る。現に少し眠いので嘘ではない。ただ、その理由は言えないけれど。
(楽郎くんとゲームしていて夜更かししてしまったとは、流石に…)
一人で通学路を歩きながら、昨晩の事を思い返す。
----------------------------------------------------------------------
戦闘開始から空間を埋め尽くすような弾幕の嵐の中で、私と楽郎くんのキャラクターは強制的に曲芸じみた回避をさせられていた。
剣林弾雨と言う他無い砲撃の嵐を縫って相手の犬、猿、雉が襲い来る。
楽郎くんは刀でそれを捌き、私は金と銀の斧を投げて牽制する。
「だああ鬱陶しいビット共がっ! レイ氏! きびだんごォ!」
「は、はいっ! こちらですっ!!」
投げ渡した銀色のきびだんごは殆ど弾幕に潰されてしまったが、どうにか数個が楽郎くんの手に渡る。
「よしよしサンキュー女神様!」
「み゛うっ」
「しかしこりゃ時間かけてらんねえな…! お供は
「っ…! わかりましたっ! サンラク、さんはっ!?」
「俺は…!」
楽郎くんは手短に指示をした後、一気呵成とばかりに弾幕の中へ飛び込んでいく。
「ミラーマッチの時間だあぁぁ!! バフ倍率が五倍なら勝率は五十倍だオラーッ!!」
「そうなんですかっ!?」
「知らん!!!」
----------------------------------------------------------------------
………思い返すと、末期戦めいた戦場で只管叫んで駆けずり回っていただけのような気がしますし、あの戦いは結果的に負けてしまいましたが、楽しかったので良いのです。
「ふぁ、ぅ……」
小さく欠伸をして、少し急ぎ気味に歩を進める。彼と偶然を装って会うためには、少し早めに合流予定地点まで進んでタイミングを見計らう必要がある。
(今日は、道すがら何の話をしましょうか…)
昨日のゲームの話でも良い。シャングリラ・フロンティアの話でも良い。彼を退屈させず、名分を持って側にいるために話題は必要不可欠だ。あるいは、
(告白、なんて……)
つい、考えてしまう。
ただの通学路で、なんの気無しに。貴方に『好き』と言えたのなら。
そしてそれを受け入れて貰えたのなら。私はどれほど幸せな気持ちになれるだろうか。
実際には、できはしないのだけれども。
もし彼が聞き逃してしまったら、私にもう一度言い直す勇気は湧いてこないだろう。
もし受け入れてもらえなかったのなら、私は生きる気力すら喪ってしまうかもしれない。
だから、怖い。
勇み足を踏むくらいなら。穏やかで、しかし停滞した今であっても甘受してしまいたい。
けれどいつかは、私から気持ちを伝えたい。そのときに向けて、少しでも確度を上げるため、今日も側にいさせて欲しい。
「――楽郎くん」
「呼んだ?」
私は人生で初めて、驚きのあまり物理的に飛び上がった。
夢の中はノーカウントです。
----------------------------------------------------------------------
彼と二人、並んで通学路を歩く。こうしているだけでも心臓が早鐘を打ち、思考がぐるぐると意味のない回転を続けている。
「き、昨日、その…楽しかった、です」
「マジ? 正直付き合わせて悪かったなって思ってたんだけど…そう言ってくれたなら嬉しいよ」
「つつつ付き合っ!?」
「?」
「あ、い、いえ、なんでも…」
楽郎くんの顔がどうしても見れなくて――というより取り乱している私を見られたくなくて――顔を俯ける。ふと思い出すのは夢の中の出来事。
現実は夢の様にはいかない。
現実の楽郎くんは、恋愛の事なんて興味がなくて、きっと、私が何を考えて一緒に登校しているかすら考えていないのだから。
でも、それは仕方のないこと。そんな貴方だからこそ、私は惹かれたのだから。
そしてそんな貴方だからこそ。
もし、楽郎くんが私の心をお見通しで、私に迫ってこようものなら…絶対に身が持たない。
今の私に、そんな楽郎くんは刺激が強すぎてしまう。
「ら、楽郎くんさえ良ければ、また誘っていただければ、と…」
「んー…しばらくはオトギニアは良いかなー……久しぶりにマルチ荒らせて楽しかったし」
「そ、そうですか…」
だから今はまだ、私を知ろうとしない、鈍いままの貴方でいてください。
できれば、貴方と触れ合うことに私が耐えられるようになるまで。
「ん? 玲さんオトギニアハマったの?」
「え、あ、い、いえ! その、えと、あの……」
「違うか。じゃあ――あー玲さん。マルチ荒らしは程々にしないと心が荒むよ…」
「そ、それではない、です……」
「ん…? 別ゲーでマルチしたいの? なんかあったかなぁ…」
考える楽郎くんの顔が見れない。自分の心が恥ずかしくて。
ああ、なんて醜いエゴなのか。私は貴方に近づきたいのに、貴方は私を知らないでいてほしいなんて。
とても口には出来ない、墓へ持っていくしか無いこの想い。
それでも、もし許されるのなら―――
―――鈍いままの貴方に、もう少しだけ甘えさせてください。