楽玲大学生同棲済みユニバース。
「お、終わった……ぬ、ぐああっ……」
用済みとなったエナジーカイザーの空き缶を傍らに置き、俺はリビングの椅子に座ったまま大きく伸びをする。連休を最大限に満喫するべく課題を連休前に片付ける麗しきスケジュールは、これで辛うじて守られた。
今何時だ? 三時、四時? 目のかすみと疲労感で時計を見ても時間がイマイチわからん。もっと言うと、今俺は眠いんだか眠くないんだかすらわからない。
「お疲れ様です、楽郎くん。ミルク、飲みます?」
「あ゛ー…ありがと玲さん……うわああったけえ」
玲さんからホットミルクを受け取り口をつける。おおう暖かさが染みる…。舌に刺さらない程度の熱加減は疲れ切った身体にクリティカルだ。しかし、こんな時間まで見守ってくれたのは嬉しいが、付き合わせてちょっと申し訳ないなぁと思ったり。玲さんは俺より少し前に同じ課題を終わらせてたし。
正直課題を見せてもらおうかと何度か思ったがそこはこう…ホラ、彼氏の沽券にかかわるっていうか……多少は意地を見せたいっていうか……いやもういいやとにかく寝よう。流石に今からゲームする気力はない。
「さ、てと……眠りと連休が俺を待っている…」
「あの、楽郎くん? そっちはソファですよ?」
椅子から立ち上がりふらふらと安眠の場所を求めた俺はいつの間にかソファを前に立っていた。ううんいかんなまるで先のことが考えられない。即物的な欲求に従って視界に映ったソファに来てしまったというわけか。
玲さんの言うこともぼんやりとは分かるんだ。ソファで寝たら最悪身体バキバキになって連休を満喫するどころではなくなる…かもしれない。うんわかるぞ。だがそれはワンチャン起こらないかもしれないんだ。バキるかどうかは…えっと、なんだっけ……。乱数? そう乱数次第なんだよな。
でもなぁ…安らぎが眼の前にあるのになぁ……。
「……ダメ?」
「ダメです。ほ、ほら、肩を貸しますから…お部屋に行きますよ?」
「ヴォオ…」
ゾンビみたいな呻きを上げながらも、玲さんの肩を借りてなんとか俺の部屋に向かう。ありがたいが介護されているみたいでちょっといたたまれない。こんな事ならエナジーカイザーではなくライオットブラッドを飲むべきだったか…? しかし暴徒の血を学業のために消費しだすと合法堕ちに三歩くらい近づく気がしてだな…。
どうにかこうにか自室のベッドの前まで送られた俺は身体を横たえる。ただ今の俺はえげつなく疲れているので、単に寝ただけでこの疲労を回復しきれるか怪しい所だ。何か、回復力を上げられる感じの癒やしがあれば…。
俺の顔を覗き込む玲さんに目を向ける。身体を締め付けない、ゆったりと柔らかみのあるパジャマ姿の玲さんがいる。
…あるじゃん癒やし。
「それでは…おやすみなさい、楽郎くん」
「待って玲さん」
踵を返した玲さんの手を掴む。もし俺に、もう少しばかりの思考力があったのならばこんな選択肢は選ばなかったと思う。だがまあそんなものは無いものねだりであり、今の俺は即物的な欲求に従う生き物でしかなかった。
「ど、どうしました、か?」
「もうちょいこっち来て」
「は、はい…?」
のこのこと近づいてくる玲さん。よしよしそのまま……はい今ァ!
「おらァイ」
「!?」
玲さんの手を引き、ベッドの中に引きずり込む。そのまま腕を回して足を絡めてガッチリとホールド。ふははもう逃さんぞ。
前々から思ってはいたが、玲さんの身体はなんというか…抱き心地がとても良い。別にいやらしい意味ではなく。女性特有なのか玲さんだからなのかは知らんが、柔らかさに満ちた身体は限りない安らぎを俺に与えてくれる。世界一の寝具は恋人ってかハッハッハ。
「あー……いいね…良く、眠れそ……」
玲さんの平熱は俺より高い。そのためかこうやって抱きしめると、玲さんの熱が触れた場所から俺にじわりと滲んでくる。この湯たんぽ的な感覚がまた良いのだ。急速にリラックスできる。
などと思っている内にもう意識が微睡んできた。急に引き込んで悪いが、このまま眠りにつかせてもらおう。すまん、そしてありがとう玲さん…。
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「すまん…………ありがと…玲さん……」
常夜灯が薄暗く照らす楽郎くんの部屋で、ぼそぼそと零すようにそれだけ言って、彼は静かに寝息を立て始めた。私、今すごく緊張しているのですが。
でも、楽郎くんの腕に抱きしめられて、包み込まれているこの感触は、その…これ以上ないほどに『良く』て。緊張を忘れてしまうくらい、幸せな気持ちがあふれてくる。
息を吸えば楽郎くんの匂いが感じられる。楽郎くんの抱きしめる腕の強さが、絡まって触れ合う足先の感触が。全部ぜんぶ、私に楽郎くんが刷り込まれているように思えてしまう。
頭が沸騰してしまいそうなくらい興奮しているのに、不思議と安心する私がいる。くらりくらりと、意識が浮足立って。身体が自然に動いて、私からも楽郎くんの背中に腕を回した。
でも、いきなりベッドに引きずり込んで、勝手に寝てしまう楽郎くんに思う所はあって。ずっと見ていたから疲れているのもわかるけど、私も寝てしまう前に何か仕返しをしないと気がすまなかった。
抱きしめられているから動かせる範囲は広くはない。それでも、彼の少し日焼けした首元に唇を付けて。
「んっむ……ぷはっ」
ちゅううっ、と吸い付く。少し離れて見れば、赤い痕が小さく残っている。楽郎くんに、私を刷り込み返してみる…なんて。
「ふふっ♪」
なんだか楽しくなって、楽郎くんの腕の中に身体を預ける。
そうして、ただただ暖かい幸せを甘受して。
私も眠ってしまうのでした。
翌朝
3「玲さん、これは(自分の首元を指差す)」
0「む、むむ虫刺されでは、ないでしょうか…!」
3「虫刺されでこうはならんでしょ」