楽玲オンリーシャンフロ短編集   作:東雲。

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ハッピーハロウィン!

大学生楽玲同棲ユニバース


ハロウィンランナウェイ

「……何故、俺の身体にここまでピッタリな衣装が作れるんですかねあの人」

 

 十月三一日。

 狙いすました恋人の姉からの郵送物は、俺と玲さん用の衣装だった。同梱されていたなんか高そうな紙に書かれていた文の内容は、要点だけ抜き出すとこうだ。

 

―――

 手慰みに仮装衣服を作ってみました。好きにお使いください。

P.S.

 洗濯可能な生地で作ったので汚しても構いません。

―――

 

 追伸があまりにも余計なお世話っていうか余計で下世話だが、まあせっかく貰ったものを一度も使わず箪笥の肥やしにするのもなあということで、こうして身に纏ってみたわけだ。

 俺の衣装は吸血鬼風な代物。簡素ながら気品を感じる貴族風の衣装の上から、襟や裾が尖りまくったコートを羽織る感じらしい。ご丁寧に一人での着方まで同梱されていたので、素人ゆえ少々手間取りながらも一応着れた。

 鏡でセルフチェック。

 

「顔が健康的なのが少しミスマッチかもな…前日徹夜するべきだったか?」

 

 本末転倒な思考を脇によけてリビングに出る。玲さんは…丁度背後から扉の開く音。

 

「き、着替えまし、た……」

 

 ここでノータイムで振り返るようでは、仙さん検定三級も取れないだろう。あの人のことだ、一体どんな衣装を玲さんに渡したのか想像も出来ない。

 振り返る前に一旦立ち止まって、心の理性に気持ちだけでもバフを盛って――いざ。

 

「どんなの? ――おわっ」

 

 玲さんがお姫様になっていた。「よく作ったなこんなの」などという冷めた感想は蹴飛ばしておけ。

 色合いは南瓜モチーフだろうか。ハロウィンの時節にもよく合っている。フリルひらひらのロングドレスは、肩や鎖骨が露出してたり胸元が開いてはいるが、多分ファッションの範疇に収まっている。素直に「綺麗」と言える、正統派な美しさを備えた衣装だった。

 仙さんにしては控えめ…いや、極端な衣装だとそもそも玲さんが着ないパターンもあり得るからだろうか?

 それを纏う玲さんも、髪を纏め上げてちょっと大人びた雰囲気を漂わせる。

 

「ど、どうでしょう、か…?」

「凄い綺麗。ドレスも、ドレスを着た玲さんも」

「あ! ありがとうございます…っ」

 

 玲さん、頬を両手で抑えてもじもじ。玲さんはリアクションが良いので褒めがいがあるなあ。

 

「ら、楽郎くんも、似合ってて…その、かっこいい、です…!」

「そう? そりゃあ……どうも」

 

 ……褒め合いは互いに甘いダメージを負うばかりだ。話題転換話。

 

「えっと…しかし、お姫様と吸血鬼かぁ。なんか意味を感じるチョイスだ」

「そ、そうです、か…?」

「あー…フィクションだと吸血鬼ってやっぱいいとこのお嬢様を狙うモンじゃないかなあ」

 

 ああいうのって吸血鬼の性質に依るのだろうか。育ちの良い女性は栄養状態が良くて血が美味い…みたいな?

 

「っ……」

「……玲さん、今良からぬこと考えたでしょ」

「そ、そそそそそそんなことは!」

 

 動揺が顔と声と身振りに出てますよっと。

 

「それとも、実際にやってみせようか?」

「――!」

 

 ギザギザのコートをたなびかせ、玲さんに正面から近づく。手をぱたぱたと振るばかりの玲さんの肩を両手で掴む。

 

「こんな風に、真正面から無防備な首筋にカプリと行こうか?」

「う、あ、えと」

「それとも」

 

 ドレスの裾を踏まないように気をつけながら、玲さんの背後に回り込む。その首筋を狙うように口を開き、息を吐きかける。

 

「はーっ。――後ろからが良い?」

「ひぁうっ! あ、その、あの…っ!」

 

 おっと、これ以上は玲さんがフリーズしそうだ。

 からかうのもこの辺が止め時か。

 

「なーんてね、冗談――」

 

 顔を引いて少し距離を空けると、玲さんの肩から強張りが抜ける。

 

「冗談……」

 

 不意に目に映る、玲さんの今の後ろ姿。このドレス、前もそこそこ開いてたが背中側はそれ以上だった。背中の下半分しか隠れてないから肩甲骨も丸見えだ。

 その上に乗っかる首の裏側には、髪を纏めているため顕になった玲さんのうなじが。

 

「楽郎、くん?」

 

 玲さんの不安げな声が、脳まで届かない。吸い寄せられるようにその首筋にもう一度口を近づける。心臓がいやに大きな音を立てる。なんというか、これではヴァンパイアというよりゾンビみたいだ。

 まあ流石に。

 

「あの…?」

 

 噛みちぎったりはしないさ。

 

 

 かぷり。

 

 

「ひゃうんっ!?」

「ぬおっ!」

 

 歯から返ってくるふにふにした柔らかい感触を覚えた瞬間、大声に思わず飛び退く――のに失敗してその場で尻餅をついたがなんかもうそれどころではない。

 え? 俺今何やった??

 

「あ、えと、玲さん、これはその……」

「………」

 

 振り返って俺を見下ろす玲さんの顔は、耳まで真っ赤に染まっている。心ここにあらずな表情で、白いレースのグローブに包んだ手を、何かを確かめるように自分の首筋に当てていた。

 

 舌で犬歯を舐めると、つい先程の感触が脳裏に蘇る。あ、ヤバい顔熱い。

 

「ごめん、ちょっと顔洗ってくる!」

「あっ」

 

 とにかくいたたまれなくて洗面所へ向かう。

 なんかもう体調とかどうでもいいから頭から冷水をひっ被りたい気分だった。




「……もっとしてくれても、良かったのに」
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