「ラーメン一緒に食べに行かないか?」
巴がそう智也に切り出したのは、土曜日の夜、メッセージアプリにおいてだった。
「バンド練習は?」
「明日は無い」
「どうしていきなり?」
「久しぶりに
「蘭たちと行けば良いんじゃ……」
「蘭は華道、つぐみは家の手伝い、モカはバイト」
「ひまりは?」
「絶賛ダイエット中」
「あぁなるほど」
「ってことで一緒に行けるのが智也しかいないんだ」
「一人で行くってのは?」
「どうせヒマだろ?」
「まぁそうだね」
「ってことで明日、家の前に十一時な!」
「わかった」
最後は半分強引だったが、巴は智也を誘うことに成功した。
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巴からメッセージが飛んできた。ラーメンを一緒に食べに行こうという話だった。半ば強引に押し切られたような気もするが、家の中でボーッとしているよりはいいかもしれない。
それに、巴となら安心だ。
智也は、そう思う自分が嫌いだった。
この間みたいになる度、巴には迷惑をかけている。そう思う一方で、巴なら必ず助けてくれる、とも思っている。こんなの、ただの依存じゃないか。
ここで一人暮らししているのも、巴や他のAfterglowの皆と離れたくないだけだからだ。ここを離れてしまえば、一人になってしまう感じがするから。
こんな自分勝手で、矛盾している自分が嫌いだ。
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十時五十分に、智也は家の前に出た。
「「よっ」」
すると、ちょうど巴も家から出てきたところであった。
「それじゃ、行くか!」
そう言った巴と智也は、並んで歩き始める。行先は、商店街の外れ、徒歩十分ほどのラーメン店だ。
巴は歩きながら、隣の智也を見た。巴よりも背が高く、一八〇近くある彼なので、必然的に見上げることになる。彼はここ一年で更に背が伸びた。しかし、身体の成長とは裏腹に、心は未だに治っていない。
「どうした?」
巴が見ているのに気づいて智也が話しかけてくる。
「今日、ホントに大丈夫だったのか……?」
「あぁ……どうせ家で引きこもっているくらいなら、巴と一緒にいようかなって……」
智也はそう言った。巴の思った通りだった。智也はこの間のように悪夢に遭うと、しばらくは家に引きこもってしまうのだ。
「また……気を遣わせたよな、ごめん」
「そんなことないって! アタシがラーメン食べに行きたかっただけだぞ!」
智也は、こうやってすぐに謝ってしまう。そっちが気を遣いすぎなんだ。巴はニカッと笑ってこう言う。
「もっと笑顔だぞ! そんな顔してたら、美味いラーメンも美味くなくなっちゃうだろ?」
「……ありがとう」
ここで智也は、ほんの少し口角を上げた。
(アタシが、智也を支えてあげるんだ)
お目当ての場所が見えてきた。ラーメンサブロー。巴を含むAfterglowのメンバー行きつけの店だ。
まだ席は空いているようで、店の前に列は出来ていなかった。暖簾をくぐり、ガラガラっと扉を開ける。スープのいい匂いが鼻腔をくすぐった。
「いらっしゃい! あっ、巴ちゃん。それに智也じゃないか! 久しぶり!」
店長の
「お久しぶりです! おじさん!」
「元気そうで何よりだ。巴ちゃん今日は智也と来たかぁ! 智也、元気にしてたか?」
「……えーっと、まぁ」
智也は歯切れの悪い答え方をした。
「そうか」
三郎は何か察したように頷く。三郎も、智也の事情について知っているからだ。それ以上の追及はしない。
「二人とも、何にする?」
三郎は注文を取る。巴と智也はカウンター席に座った。
「おじさん! アタシにいつものお願いします! 智也はどうする?」
「うーん……巴と同じのでお願いします」
「ヨシきたっ!」
巴と智也が注文すると、三郎は手を動かし始める。麺を湯掻いて、水気を切り、濃厚な出汁の効いたスープへ投入する。その作業は流れるように素早い。正に、洗練された職人の技だ。
「お待ちどう!」
お終いに、チャーシューやメンマ、刻みネギが載せられたラーメンが、それぞれ二人の目の前に出される。
「美味そう」
巴はそう発した智也の方を見た。垂涎もののラーメンを目の前にすれば、いくら沈み気味な智也とはいえ、表情が緩んでいた。
「「いただきます!」」
巴は、まずスープを飲んだ。こってりなのだが、思ったほどは重くないスープ。麺をすする。のどごしの良い麺。更に、シャキシャキなメンマに、柔らかくジューシーなチャーシューが待っている。ここを超えるラーメンには、なかなか出会えない。ここのラーメンがあまりに美味しすぎるから。隣を見ると、やはり智也も美味そうに麺をすすっている。巴は、ここに智也と来てよかったと、心の底から感じていた。
「出前終わりましたー」
二人がラーメンを満喫していると、店の入口から声が聞こえた。
「あっ、巴! それに智也も!」
三郎の息子の充が、出前の配達から帰ってきたのだ。
「お久しぶりです。先輩」
「どうも、先輩」
巴と智也はそれぞれ充に挨拶する。
「二人とも来てくれたんだな。ああ、智也」
充は智也を呼んだ。
「はい」
「困ったことがあったら、俺にも相談してくれよ。せっかく同じ高校なんだから」
充も、智也の事情はよく知っている。沈んでいた智也に、豊崎高校に来るように奨めたのも充だった。
「色々、すみません」
「そこはありがとうって言え」
充はそう言って笑って見せる。
「……ありがとうございます」
智也は、少し笑みを見せてそう言う。
「そんな固くなくてもいいぞー」
そう言いながら、充は厨房の裏に下がって行った。
「親父さん! こっちにラーメン一つ!」
「あいよ」
「こっちにも頼むよ!」
段々、人が増えてくる。流石に、ここ近辺で一番のラーメン屋と言われているだけある。店長の三郎はもちろん、充も注文を取ったり、ラーメンを運んだりで忙しそうだ。
それから少しして、二人はラーメンを食べ終わる。
「「ご馳走様でした」」
「あいよ! また来てくれよ!」
二人で一緒に挨拶をすると、三郎が手を動かしながらそう言ってくれる。二人は、店を出た。