※シリアス注意です
ラーメンサブローからの帰り道。
「そういえば、智也」
「どうした?」
「買い出しはしてるのか?」
「……大丈夫だったと思う」
巴は心配なことがもうひとつあった。智也は、気分が沈んでいる時、食事を疎かにするのだ。この「大丈夫だと思う」は全く当てにならない。
「今から一緒に買い出しに行こう」
まぁこれは、最初から決めていたのだが。
「そこまでしてもらっちゃ悪いって」
智也は案の定渋る。
「アタシも、買わなきゃいけないものがあるからさ! そのついでだし、いいだろ!」
「それなら……一緒に行こうか」
ヨシ! 心の中で巴はガッツポーズをした。別に買わなきゃいけないものなんて無いのだが、こう言えば智也は首を縦に振ると踏んでのことだ。
二人は商店街に歩いていく。ラーメンサブローは商店街の端にあるので、買い物していくのに都合がいい。
「いらっしゃい! おっ、巴ちゃんと智也、一緒に来たか!」
二人がまず向かったのは八百屋だ。おじさんが気さくに声をかけてくれる。
「じゃがいもと玉ねぎは、この間見た時結構あったな……キャベツはもうないんじゃないか?」
「キャベツとか……ニンジンも確か無いな」
「ならおじさん。キャベツ一玉とニンジン二本!」
「ハッハッハ! 巴ちゃん、通い妻みたいだな!」
「かよっ……!」
おじさんのその言葉が巴にクリーンヒット。巴は熟れたリンゴのようになって、口をパクパクさせている。
「おじさん。からかうのはやめてやってよ。巴みたいな良い人、俺にはもったいないよ。あ、代金です」
智也は野菜を受け取って、持参していたエコバッグに入れる。
「巴。巴は何か買わないの?」
ここでようやく巴の思考が復活した。
「あ……ああ。大丈夫。ありがとう、おじさん」
巴はおじさんにお礼を言って歩き始める。智也も横に続く。巴の頭では、おじさんの言葉がグルグルと回っていた。
「おじさんもからかうの好きだよな……」
「……」
巴は、智也が話しかけてきていることに気づかなかった。確かに人から見れば、智也の身の回りの世話をしているのだから、そう言われてもおかしくはない。……これはアタシと智也がカップルに見えるということだろうか。巴はそう考えていると、智也が覗き込んできた。
「巴……?」
「……! どうした智也?」
「大丈夫か? 何か考え事か?」
「……大丈夫! 大丈夫! 次は肉だな!」
巴はそう言って智也の先を歩き始めた。智也は巴のテンションの変わり様に首を捻りつつも巴を追う。
二人が次にやって来たのは、北沢精肉店。ここの店番は……。
「あ! トモちんにトモくんだ! いらっしゃい!」
北沢はぐみ。北沢家の娘さんで、巴、智也とは同い年だ。
「はぐみ。お疲れ様。えーっと……」
智也は、うーんと悩みはじめる。巴は、そうしている智也をじっと眺めていた。
ふと智也が巴のほうを向く。目線が交差する。何だか恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。そんな巴の様子を見て、智也はやはり不思議そうにしていた。
「これと……これ、かな。どっちも二百グラムずつ。あと、コロッケ二つ」
智也は肉と一緒に、この店の名物であるコロッケを買う。
「毎度あり! コロッケは熱いから気をつけてね!」
はぐみに代金を渡して、智也は品物を受け取る。エコバッグに肉を入れて、コロッケの一つを巴に差し出した。
「食べる?」
「え?」
「今日のお礼」
「……ありがとう」
巴は受け取る。嬉しい。美味しいコロッケを買って貰えたから? いや、
その事実が、巴にとって何よりも嬉しいことだった。
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「また夕飯作ってやろっか?」
「大丈夫だって」
「えー。いっつも野菜炒めしか作らないのにか?」
「野菜炒めを強く信じれば生きていけるから!」
「なんだそれ。ハハハ!」
買い物を終えて、二人は帰路についていた。商店街の近くの住宅街にどちらの家もある。
小さめの交差点に差し掛かった。小さめと言っても、それなりに交通量があるので、地元の小学生のためと信号が設置されている。
二人がそこに差し掛かった時、ちょうど信号が点滅して赤になった。おしゃべりを続ける。
「でも……」
「ん?」
「確かに巴の料理食べたいかも……」
「え?」
「今度、作ってくれない?」
「……ヨシ! わかった!」
智也が、珍しく作って欲しいと言ったのを聞いて、巴は舞い上がった。いつ作りに行くか約束していると、信号が青になる。二人が横断歩道を渡ろうとしたその時だった。
キキキィィィ!
耳を劈くブレーキ音。そして、けたたましいクラクション。前方の道路から黒のワンボックスカーが無理やり右折してきた。
「危ない!」
二人は後ろに倒れた。後、数歩足を踏み入れていれば……跳ねられていたかもしれない。
「智也。大丈夫……!?」
巴が横を見ると、その顔は真っ青。身体は小刻みに震えている。
「ぁ……あぁぁぁ……」
「智也!」
まずい。フラッシュバックだ。
「嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁ!!」
智也は発狂して、頭を抱え込んだ。
「大丈夫だ! 智也!」
巴は必死に智也をなだめる。
「ぅぅぅぅ……」
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耳を劈くブレーキ音。そして、けたたましいクラクション。対向車がこちらに吸い込まれるように向かってくる。衝撃。心優を咄嗟に抱きしめた。
けれど、彼女はその腕からすり抜けて、どこか遠くに行ってしまった。
美優、戻っておいで。その無邪気な笑顔と、元気な声で、お兄ちゃんって呼んでよ。
俺を、一人にしないで……。
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