トモとトモ   作:鳩ポッポ

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申し訳ございません。
投稿遅れました。


居場所

 

 

 

ここは、智也の家。巴は、フラッシュバックのせいでパニックになった智也を、なんとかここまで連れ帰っていた。

 

 この家に辿り着いてすぐに、智也はトイレに駆け込んだ。トイレの中から苦しそうに嘔吐く音が聞こえ、巴がトイレの中に入ると、強烈な酸の臭いが充満していた。そして、便器の中には、消化途中のラーメンが吐き出されていた。

 

「ごめん……一緒に食べに行ったラーメン、全部戻しちゃった」

 

 智也は、巴に泣きながらそう言った。もし、今日、智也を連れ出していなければ……。深い後悔が巴を支配した。しかし、後悔しても、巴はどうすることもできなかった。せいぜい、できるのは落ち着くまで智也のそばにいてあげることだけだ。無力な自分に嫌気がさした。

 

 ベッドの上で寝ている智也を見る。落ちついてはいるものの、顔色は依然として悪いままだ。食べてもらえるかは分からないけど、お粥を作っておこう。そう気持ちを切り替え、巴は台所へ降りていった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 目を開けると、前にあったのは自室の天井だった。起き上がって窓の外を見ると、空は赤くなっている。太陽は街の明かりに呑まれるように消えていくところだった。

 

 また、発作が起きてしまった。あの車への、巴共々轢かれかけたことに対する怒りより、あの日の恐怖が鮮明に思い起こされた。

 

 車のけたたましいクラクション。母さんと美優の悲鳴。そして、病院で目を覚ました時の、あの絶望。

 

 それが波状に襲いかかって来る。……忘れたくても、忘れられない。

 

 耳鳴りがして、頭も痛い。さっき吐いてしまったせいで胸焼けもする。

 

 ……こんな発作を起こす度に、巴には迷惑をかけている。気にするなと言うが……智也は強く罪悪感を感じていた。

 

 ここにいると、迷惑をかけてしまう。だから、ここを離れて、父さんと一緒に暮らした方がいい。けれど、ここを離れてしまえば、父さん以外、誰もいなくなってしまう。美優と母さんがいなくなった今、どうしてもここを離れたくなかった。

 

 周りの皆の優しさに、俺はワガママを言ってつけ込んでいるだけなんだ。

 

 智也は、唇を強く噛んだ。鉄臭さが口腔内に広がった。

 

 智也の心は、大きく揺れていた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 巴はお粥の乗ったお盆を持って、智也の部屋に向かった。ドアを開けて見ると、智也はベッドの上に起き上がっていた。

 

「起きたか?」

 

「……ごめん。また迷惑かけて」

 

「気にすんなって」

 

 巴はそう言って、お粥を目の前に出した。

 

「……ごめん。食べられる気分じゃない……」

 

「一口でもいいから。なんか食べたほうがいいって」

 

「でも……」

 

「ほら、あーん」

 

「わかったよ。自分で食べるから……」

 

 智也はそう言って、巴の手から木の匙を受け取った。巴としては、食べさせてあげたかったのだが。

 

 半分くらい食べたところで、智也は手を止めた。

 

「もう無理か?」

 

「……ごめん」

 

「だから気にすんなって。んじゃ、アタシはこれを片付けて…… 」

 

「後は俺がやる」

 

「え?」

 

 智也の顔色は相変わらず優れているようには見えない。それにも関わらず、智也は残ったお粥のお盆を持って、ベッドから降りて立ち上がった。

 

「お……おい。まだ横になっていた方が……!」

 

「……大丈夫」

 

 全くそう見えない。明らかにふらついていて、間違いなく無理をしているのがわかる。

 

「もう巴は帰ってもいいから……。大丈夫だから」

 

 そう言われても、心配だった。予感は当たって、またもや智也はふらついた。

 

「危ない!」

 

 咄嗟に智也を支える。巴よりも身長、体重共に大きい彼を支えているので、巴はよろけた。しかし、なんとか踏ん張った。

 

「ほら……腰下ろして」

 

 巴は、ベッドの上に智也を座らせる。そして、残りのお粥が乗っているお盆を取り上げた。

 

「ごめん……ごめんよ……」

 

「無理すんなって」

 

 巴は、お盆を横のローテーブルに置いて横に座り、泣き出した智也をなだめる。

 

「俺、巴とか他の人に、迷惑かけてばかりで……」

 

「そんなことないから。なっ?」

 

「巴はいっつも、そう言ってくれるけど……でも、これじゃ迷惑かけっぱなしで……」

 

 泣きながら、ポツポツと綴られる智也の言葉を巴は静かに聞いていた。

 

「だから、俺は……ここにいない方が……」

 

 やっぱり、そう思ってたのか。巴には、智也の考えていることなど、お見通しであった。

 

「……アタシが智也の世話をするのは、アタシが好きでやってるんだ。迷惑なんかじゃない」

 

「でも……でも……」

 

「アタシは、嬉しいんだ。智也に頼られるの」

 

「えっ?」

 

「それに、今日は、アタシが連れ出したからこうなったんだ。その償いくらいさせてくれよ」

 

「巴は、悪くない!」

 

 智也の声が、大きくなった。

 

「お……俺が、美優と母さんのこと、忘れられないから……!」

 

 巴は智也を抱きしめた。そして耳元で諭した。

 

「忘れちゃ、ダメだ」

 

「えっ?」

 

「美優やおばさんが、忘れられたら悲しむぞ。それに……」

 

 巴は一旦間を置く。

 

「智也まで、いなくなったら……寂しいんだよ」

 

 グスッグスッと言う涙声が二人分になっている。いつの間にか、巴も泣いてしまっていたのだ。

 

「アタシだって、二人がいなくなって、悲しいんだ。だから、いない方がいいなんて、言わないでくれ」

 

 もう、智也は何も言わなかった。いや、言えなかった。大粒の涙が、ただただこぼれ落ちていく。

 

「智也の居場所は、ここだ」

 

 




最後までお読みいただきありがとうございます。お気に入り登録、評価もしていただけると嬉しいです。
今まで、この作品にお気に入り登録、評価してくださった方、本当にありがとうございます。ここでお知らせがあります。
しばらく、この作品の更新が止まります。今回までで、今考えている書きたいシーンを書き終えてしまったんです。ただ、これ以上書けないというわけではなく、書きたいシーンがあまりにもぼんやりしているので……。
復活させたときには、またよろしくお願いします<(_ _)>
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