アルケミアストーリー ーHiro's strange journeyー   作:旅太郎

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EP1 時には引き返すこと

 

 

 どうも初めまして。

 しがない旅人のヒロです。

 とある理由で旅を始めることになった一般男性ですが、大した理由はありません。

 

 

 

 

「く、く、く、く!!」

 

 旅を始めたことに後悔をしているかって?

 そりゃもちろん、

 

「国がひっくり返ったああああああ!!?」

 

 してますよ、とっても。

 誰もいない静かな国で休憩していたら、まさか天と地がひっくり返えるとは思わず、建物の屋根にある煙突にしがみつく羽目になりました。

 

 はは、この不思議な世界では日常茶飯事なんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――Journey 1―――

 

 

 

 

 

 

 そこは緑色の世界。

 自然にあふれた、平原には一本の道が伸びていました。

 黒いコート、茶色のマフラーを風に揺られながら歩く、一人の青年もいました。

 

 穏やかな気分でどこまでも美しく広がる平原を眺めながら鼻歌を歌い、旅を満喫しているようでした。この風景をもとにした詩をお披露目したいところですが、現実はそう甘いものではありません。

 

 青年は楽しんでいなかったのです。

 美しい風景にもこれっぽっちも興味を示さず、俯いたままでした。

 よく見ると青年の顔はやつれていました。

 まるで何も食べていなかったかのような顔色です。

 

「三日も……飲まず食わず……死ぬぅ」

 

 比喩表現のつもりでしたが本当に食べていなかったようです。

 まあ、可哀そうに。

 

「そこら辺の草が……いやステーキ? フォアグラ? まさか蜂蜜クロワッサン?」

 

 相当な重症のようです。

 そこらの雑草が、最後を除いて高級食に見えてしまうとは手遅れかもしれません。

 誰かの視線も感じますが、気のせいでしょう。

 

 青年は死にかけながら、ひたすら道を歩き続けました。

 食料が尽きたいま、彼にできることは祈ることだけでした。

 この道の先に村か町、それか国があることを祈るしか。

 

 食料が無くなるというのは、旅をすれば大抵起きることです。

 計画をたてても、長期の移動となると食べ物は底を尽きます。

 

「……どうなっているんだこの平原は……もう一週間は歩いているのに、山も見えないぞ……水……」

 

 水もないので喉がカラカラです。

 そこは、まるで無限に続く空間のようでした。

 何もない平坦な場所なのに山もなければ木もありません。

 空はずっと青色で雲一切ない、快晴でした。

 

 晴れなのは良いことですが、水分補給もできない状態での陽光は体にとっては毒です。

 降り注ぐ太陽の光は、青年にとって灼熱のようでした。

 

「……ダメだ、本格的に死んじゃう」

 

 遂に青年は、道の端に座り込んでしまいました。

 歩けども歩けども、視界に映るのは同じ景色ばかり。

 次の国まで辿り着ける気がせず青年は諦めたように、その場に留まることに決めました。

 長い旅は、もうここでおしまいです。

 みなさん、さようなら。

 

「……ん?」

 

 そんなことを考えていると、道の先から一台のトラックがやってきました。

 この一週間、誰ともすれ違うことができなかった青年にとって、それは砂漠のオアシスに等しい奇跡でした。

 

 すぐさま青年は立ち上がり、ヒッチハイクのポーズをとりました。

 とても簡単なサムズアップです。

 

「お、なんだなんだ。どうかしたのか兄ちゃん? まるで何日も食べてねぇような顔をして」

 

 運良くトラックは止まってくれました。

 運転席からは気の良さそうな初老の男性が顔をのぞかせ、興味津々に聞いてきました。

 

「実は、この道をずっと一週間も進んでいまして、ここから後どれぐらい歩けば次の国に着くことができるんですか?」

「次の国って……そりゃ引き返せば着くだろ?」

 

 トラックの運転手はさも当然のように言いました。しかし青年はその言葉の意味をよく理解できなかったようで、

 

「ここから引き返したら、また一週間という道のりになってしまうんですけど……」

 

 と聞き返しました。

 すると運転手は何かを納得するように口を半開きに開け、じっくりと青年を見下ろしました。

 

「兄ちゃんは、ここを通るのが初めてなんか?」

「……はい、そうですけど?」

「はははっ! だろうな! なんも知らねぇで馬鹿正直にこの道を進んだって到着するわけねぇよ!」

「待ってください、どういうことですか?」

 

 青年は首をかしげながら尋ねました。

 

「信じるかはアンタさん次第の話しになるんだけどよ。この道はな、真っ直ぐ進んだとしても次の国に着くことのできない魔法がかかっているんだよ」

 

 魔法という意外な言葉に青年は驚きながらも、運転手の話しに耳を傾けることをやめませんでした。

 命に関わる今、魔法だろうと何だろうと彼にはどうでもよくなっていました。

 

「大昔、人喰い魔女がやったことでな。あれだ、無限ループってやつだ。いま兄ちゃんは、まんまとその魔法の餌食になっているところだよ」

 

 青年は背中をゾッとさせました。

 餌食? なんのことでしょうか。

 風で揺れる草の音に、青年は反応してチラリと視線を向けましたが、誰もいません。

 今この場には、自分と運転手しかいないはずですから。

 

「唯一の脱出方法はな、来た道を戻ることだけ。たったそれだけで次の町に着くことができるんだ」

「……もしも着かなかったら?」

「弱っているところを、ここの何処かに潜んでいる魔女に襲われるだろうな。喰われたくなきゃ引き返してみろ」

 

 とても信じられない話しだが、魔法の類いなら納得です。何故ならこの世界に魔法だって存在しているからです。

 それが原因ならトラックの運転手のいう通りにしてみても良いかもしれない。

 食べられたくはないですし。

 

「分かりました。引き止めて申し訳ないです……ありがとうございます」

 

 青年は頭を下げ、感謝をしてから運転手の言う通り、来た道を戻ろうとしましたが。

 

「ちょい待ち! 最後にもう一つ、聞かなきゃならねぇことがあった!」

 

 運転手が慌てながら呼び止めてきました。

 青年は振り返りました。

 運転手はとても真剣そうな顔をしていました。

 

「ここに来る途中、注意書きされた看板は見なかったのか……?」

 

 注意書き?

 そんなものは無かったのです。

 青年は首を横に振りました。

 

「そうか、ならいいんだ。気をつけなよ」

 

 運転手はそう言い、窓を閉めてトラックを走らせました。

 砂ぼこりををたてながら離れていくトラックを見届け、一人取り残された青年はふたたび歩き出しました。

 

 静かな風が吹く、地平線まで広がる平原を改めて眺めた青年は不安に感じました。

 あのトラックの運転手が言うように、どこかに魔女が潜んでいるかもしれないからです。

 

 気のせいに思っていた視線も、まさか―――

 

 

 

 

 次の日、青年は町に到着しました。

 あのトラックの運転手の言う通り、もと来た道を戻っただけで平原から抜け出すことができたのです。

 

 もしも、あの人と遭遇していなかったら、平原に一人取り残された自分はどうなっていたのだろうか?

 

「お名前を伺いしても、よろしいでしょうか?」

 

 門番に聞かれた青年は答えました。

 

「しがない旅人のヒロです」

 

 

 

 

 

 

 その後。

 青年が見逃したであろう看板を運転手は見つけました。

 

「こりゃ、いかねぇな」

 

 看板はズタズタに破壊され、草むらの底に捨てられていたのです。

 ここに初めてやってきた旅人や冒険者のための注意喚起だったのですが、魔女はそれが気に入らなかったのでしょう。

 

 次なる獲物を確実に捕らえるため注意書きされた看板を破壊したのです。

 

 そう予想をたてた運転手は深いため息を吐きながら、トラックを発進させるのでした。

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