ある王国での朝の一幕。国民の喧騒にまみれた城下町を歩く1人の青年。
彼の名はカイン、この王国の王子の1人だ。そんな彼に国民たちは目を合わせれば気軽に挨拶を交し雑談を混じえ、彼に果物や食べ物を投げ渡す。
自身の住まう国の王子への対応には到底見えない行動だが、当の本人であるカインはそれを喜ばしいことのように笑顔で受け入れていた。
国民からのこの気心の知れた友人のように接してくるこの日常は彼にとって心地のいいものだからだ。
しかし、王子であるはずの彼がわざわざ城下町まで降りてくるのはなぜか?
それは少ししたらわかる。国の喧騒は人々の声から、鉄を叩き上げるカッーンといった子気味のいい音に変わる。
心做しか1歩ごとに空気が熱を帯びるように感じるカイン。それその筈、カインが訪れたのは城下町から少し離れた鍛冶場だった。
作られているのは包丁や日常に使われるようなものではなく武器。大剣に槍、片手剣や短剣。果てにはブーメランなどのキワモノの武器まで、ありとあらゆるものが職人の手によって作り出されている。
同じ地方にある鍛冶を主要とするホムラの里ほど活気のあるものではないがこの国も次にと言っていいほど鍛冶が活気的だ。
その鍛冶に魅入られたモノが1人、それがカインだ。
この地方には昔から伝わるある伝説がある。それが勇者伝説。そこに古くから伝わる勇者伝説に数十年前新しく追加された話。
その勇者は頼れる仲間と共に魔王、そして邪神まで打ち倒したという。
この地方で生きる人間ならば誰しもが聞いたことのある有名な伝説だ。勇者のように強く逞しく、そして頼れる仲間と冒険をしたいという夢を抱えるものも数え切れないほど居る。
しかし、カインが惹かれたのはそこではなかった。勇者はどこで手に入れたのか、あらゆる場所で鍛冶をすることが出来る不思議なアイテム。ふしぎな鍛冶というものを手に入れた。
勇者はそれを扱いさまざまな武器や防具、果てにはアクセサリーまで自身の手で作り出し最後には勇者としての代名詞と言っても過言ではない勇者の剣さえ仲間たちとともに作り上げてしまった。
その話にカインは心震えた。求めたのは自身の力でもない頼れる仲間でもない、求めたのはただ1つ自身の手で武器を作り出すという術だった。
そしていまもこうして毎日のように鍛冶場へと足を運び鉄を叩き熱気を浴び身体を焼いた。
と言っても、カインも齢19の男。かっこいいものに憧れない訳でもなく勇者になれたら良いなとちょっと心の隅でいまでも思ったりしている。
そしてその心に呼応するようにカインの手の甲に光る痣が現れた。
そのアザは勇者伝説でも聞き及ぶ勇者の証。ロトの紋章
目を見開き驚くカインを他所にアザは更に光の強さを増していく光がカインを包むほどになったとき、光はようやく輝きを失いそこには既にカインの姿はなかった。