カインが勇者4人から話を聞いた翌日。勇者4人が王宮へと向かっていった時間に彼だけは城下町を1人で歩いていた。
城下町を歩く国民は自身たちが生きることが普通だと感じる……そんなことも思わずこれが日常だと言うように笑って家族と話して仕事をして、それを見るカインの目は心做しか冷めていた。
カインは昨晩4人に聞いた話を思い出していた。自身が居た世界が作り物かもしれないと考えると気分が悪くなる。
いまでもそうだ。横を通り過ぎる人々にもしお前達も自分と同様ならどうするのだと心の中で八つ当たりをしていた。
そんなヤツらを見るだけで心の中で燻っていたこの気持ち悪さが外に出てしまいそうだと、足早に王国から出る。
王国から出るとそこは人1人も居らず、見渡す限りの緑の草原。自身の居た世界と同じだ。同じ光景のはずだと、この感じる爽やかな風も、草原の草が足をくすぐる感覚も全て現実なはずだとカインは自身に言い聞かせる。
考えれば考えるほど嫌なことばかり考えてしまうと自身の両頬を叩いて1度嫌な気持ちを吹き飛ばす。
こんなときこそアレをするべきだろうと、カインは腰掛けていた小岩から立ち上がる。
カインがこの世界に持ち込めたアイテムの1つ、まほうのふくろを取り出す。手のひらサイズの白いふくろ、この袋は生きているもの以外ならば何でも入れることができ、そして際限なく入れられるというまほうのふくろ。
カインはそのふくろから独特な形をした機械と鉄槌を取り出した。
そして機械にふくろから更に取り出した鉱石を入れ、起動させる。
機械から入れた鉱石が集まって溶けた液体であろうものが台に流れ出てくる。カインはそこに向けて鉄槌を振り下ろす。カッーンと子気味のいい音が草原に鳴る。
この不思議な機械、名をふしぎな鍛冶と言い作るモノに合ったアイテムを鍛冶台に取り付けられている鍋のようなものに入れると勝手に複合し液体として流れ出てそれを叩くことによって鍛冶が成り立つという鍛治職人殺しのアイテムである。
カインはこのアイテムを使うことを良しとはしないが、モノがモノなだけに扱いも難しいアイテム。その為使いこなせるモノも少ない、これは勇者伝説に出てくる勇者から受け継がれた貴重な代物。それが王国へと受け渡され、使えるカインにへと渡されたという経緯がある。
いまは場を整えて鍛冶をする手立てはないため、こうしてふしぎな鍛冶を使うしかなかった。
今回作るのは比較的作るのは簡単で素材もありふれたものである『てつのつるぎ』である。
カインの世界では店にも売られていることも多い。
カインは何度も何度もただ無心に打ち続ける。様々な機能が付いているふしぎな鍛冶だが、武器が出来たタイミングを知らせてくれるような機能はない。
いいものが作れるかは使用者次第だ。
十数分もすれば流れ出てきた液体は剣の形となっておりカインは鉄槌を振り下ろすのを止める。
満足そうな顔をしているため、てつのつるぎは殆ど出来上がっているのだろう。
カインはそれを台から取り出し先程アイテムを入れた鍋の中にまた入れる。
熱した鉄を水の中に入れたような音が鳴り、そして鍋の中からてつのつるぎが1本出てくる。
出来上がりを表すとするなら『てつのつるぎ+3』といったところだろうか。カインも会心の出来に思わずニヤリと笑みを浮かべる。
そして取り出したてつのつるぎを掴み近くにいた風船型の魔物を切りつける。
風船型なだけあり、切ると風船が割れるような音を鳴らし魔物は死亡する。すると驚くべき光景がカインの視界に映る。EXP+1という文字が視界に突然現れたのだ。
カインは少し考え、理解する。どうやらこの世界にはレベルというものと経験値が存在するようだ。
経験値が先程出てきた文字のことだろうとカインは当たりをつける。そしてレベルが上がることで自身の能力が上がる、なんとも簡単な世界だろうと嘲笑が溢れる。
これではこの世界の方が余程作り物ではないかと。そうカインは思ったのだ。
うじうじと悩んでいたことをバカにされた気分だった。そうだ確証なんてないのだ。自身の居た世界が作り物だとしてほかの世界が作り物じゃないと言いきれるわけじゃない。その世界に住む人々や生物が気付いていないだけで自身と同じような状況の可能性だって十分に有り得る。
そう考えるとだいぶ気が軽くなったとカインは心の中を整理して洗い流す。そうと決まればやることは1つ、知らない世界に飛ばされ身寄りのないカインに出来ることは生きる術を得るために強くなることだ。
そして試したいこともあった。それは元の世界で使っていた呪文と特技についてだ。昨晩は使うことは躊躇ったが、今日は使うことを決めた。これが使えるか使えないかというだけで今後の生き方が大幅に変わる。
まずは呪文からだ。カインの使える呪文はメラ系統とヒャド系統だ。
メラ系統の呪文の特徴は炎を出せることにある。高威力の上位メラ呪文を使うには修練が必要になるが、一般的な呪文と聞かれればこの呪文だと口を揃えて言うほどよく知られている呪文である。
呪文を使う際に必要なのは自身の中にある魔力を引き出す技術と効果の把握の2つ。これに当てはまらないふしぎな呪文も存在するがそれは置いておこう。
メラを使う際、これは完全に人それぞれだが杖を持っている人間は杖の先から持っていない人間は手のひらや指先から射出したりする。
唱えるのは「メラ」の一言かそれに準ずるような言葉である。要はその呪文が使えるというイメージさえ出来ればいいということだ。
「メラ!」
そう唱えるとカインの身体の周りでサークルが回り、突き出した手のひらから小さなボール程度の火の玉が風船型の魔物に直撃する。
そしてカインはおかしいなと首を傾げる。前いた世界ではもっと威力の強いメラが撃てていたし、それにサークルなんて出ていなかったからだ。
呪文というのは、使用者の力量や魔力量によって威力が変わる。同じメラだとしても魔法使いなりたてと大魔法使いが使うメラには圧倒的な差が出るというもの。
そしてカインの実力はというと、メラ系に関しては当時教えを乞うていたロトゼタシア地方でトップに居るような人間から免許皆伝と教えることはないと言われるほど卓越した呪文の使い手だったのだ。
それがこのようなおかしなことになっているのは何故だろうと頭を悩ませたが、答えは一瞬で出てきた。この世界でのカインのレベルが低いからだと。
培った知識の技能は持ってこれたが能力はこちらに引っ張って来れなかったということだろうとカインは考えた。その証拠にメラ1発で普段感じることの無い倦怠感を感じていた。これは魔力を使った弊害で魔力切れに近いときになるものだ。
つまり、低級呪文1発で疲労するほど魔力が身体からなくなっているということだ。魔力は特技を使用する際にも消費する力の1つでこれがなくなってしまったのは痛手だなと思うカイン。
しかし、呪文が変わらずこちらの世界でも使えるというのを知れただけでも大きな進歩だろう。そう自分に言い聞かせて、続けて魔物を持ったてつのつるぎで切り捨てていく。風船型の魔物名称オレンジバルーンだけでは経験値も微々たるものだろう。このままではいつまでたってもレベルが上がらないのでは? とカインは思うもあまり国から離れすぎるのも良くないかと言い聞かせ。
ひたすらバルーンを狩り続けた。
そしてオレンジバルーンを狩り続けて気付いたことがあった。それは残骸を残すこと。前の世界では魔物と言えば倒せば大抵が魔力、魔物で言えばマ素というものに還ってしまい残骸を残さない。たまに素材を落とす場合もあるが、稀である。
そしてカイン考えつく。元いた世界と違って魔物の体系が全く違うということに気付いたことといままでと違ってこの魔物の残すこと残骸で武器が作れるかもしれないというのを考えついたのだ。
ふしぎな鍛治であればどんな状態のものでも作るものに合ってさえいれば大抵は素材として変換してしまうから大丈夫だろう。そう思うと鍛冶職人としての魂が震えるといったところだろうか……。
バルーンの素材を回収しつつそんなことを考え、さてもう一息とバルーン狩りを再会しようとするカイン。
しかし気がつけば当たりは夕暮れに染まっており、カインも狩りを中断せざるを得なかった。
そして国へと帰ったカイン、1つ気付く。
金がないので宿に泊まれないということを……。