緩やかな波が流れ白浜を濡らす。私はそんな濡れた白浜を踏みしめる。ドロっとした砂が足の指の間に入り込んできて妙な感触。
引いた波が戻ってきて私の足も濡らしていく。海の水の冷たさに思わずビクッと驚いてしまった。
そんな私を見守る男の人、『鍛冶』の勇者■■■さんにも一緒に来ないかと誘ってみる。
「■■■さん■■■さんすごく気持ちいいよ!」
■■■さんは自分はいいと私の誘いを断って私たちの仲間の1人である魔物のスペディオの頭を撫でる。……むぅ、羨ましい。
「……もぉ」
■■■さんはいつもこうだ。私のことを子供扱いして。
でも、こうして波風を浴びれるようになったのも■■■さんとスペディオと私の3人でこうして旅が出来るのも全部カインさんのおかげだ。
憧れた盾の勇者様みたいにカッコよくもないしズボラだし、ちょっと意地悪だけど。
でも、それでも私は───。
「……ゆめ、か。ふふっ、いつか私もあんな風に冒険出来たらいいな」
でも、いまはそんなことを考えてるときじゃないよね。1歩でも前に歩かなきゃ、行き先なんてないけど生きるためにいまだけは歩かなきゃ。
◆
カインが宿に泊まる宿泊金どころか財布に一銭も無かったことに気がつき外で野宿をした翌日。
彼は現在、目の前で起きていることに頭を抱えていた。
「だから俺はやってないって言ってんだろ!」
「じゃあマインが嘘ついたってのかよ!」
「さっきからそう言ってんだろうがっ!」
槍の勇者と盾の勇者両名がそう言い合っている最中だった。どうしてこんなことになっているのか、時は少し遡
る。
カインが野宿を終えて国へと帰ってきた早朝。
たまたま通りかかった宿屋の前で青年と国の騎士が揉めているのを目撃した。
触らぬ神に祟りなしという言葉もある、カインは見て見ぬふりをして騎士たちの横を通り抜けようとした。
しかしよく見ると揉めていた片方は先日知り合った盾の勇者ナオフミであることが分かり、いったい何が起きたのかと、騎士たちに話を聞いた。
聞けば盾の勇者が仲間のマインという女に無理やり性的暴行を加えたとのことらしかった。
しかし盾の勇者はやっていないの一点張りで連行に手間取っていると。カインも盾の勇者と話したことはあるが彼がそんなことをやるような人間には到底見えないと考えていた。
そこに違和感を感じていたものの、とりあえず詳しい話と全貌を知るために1度盾の勇者をなだめ王宮へと向かわせることにした。
そしてカインがそこで目にしたのは、盾の勇者に暴行を加えられたと悲壮感あるように槍の勇者に泣きつく赤毛の女ことマイン。
カインは知らないが元は盾の勇者のパーティーに入っていた女だ。
その後の流れは王が盾の勇者を断罪、そして他の3人の勇者からの誹謗中傷。言われなきことを言われ、してもいない罪を着せられた盾の勇者は激昂し王城から立ち去ろうとしていた。
それを待てと止めたのがカインだった。そして王へ進言したのだ。盾の勇者がここで断罪されこの国で生きにくくなるなら四聖勇者たちで連携を組むのが困難になると、それだけは盾の勇者だけでなく他の勇者も困ることになる筈だと、だから最後に四聖勇者と自身だけで話をさせてほしいと頼んだのだ。
結果としては、了承は出た。少し渋っている様子はあったものの、カインをロトの勇者だと知った弓と剣の勇者2人が手助けとして横から支援したおかげで現在の対談は成立したのだ。
だが、始まった当初から「やっていない」「やったんだろ」の平行線になる話ばかりしているためカインは頭を抱えていたのだ。
「お二人共一旦落ち着きましょうよ」
カインの様子を見て言い合っている2人を宥める弓の勇者。それを聞いて落ち着いたのか盾の勇者は一旦席に着く。
槍の勇者は少し不満そうだったが、相手が下がったことを見て渋々といった感じに同じように席に着いた。
「それで、俺たちを集めてなにを話すって言うんだ?」
そう剣の勇者がカインへと問う。カインは、その言葉を待ってましたと言わんばかりに意気揚々と席を立った。
口を開いて4人に言ったのは、今後の四聖勇者としての行動と連携のとり方。
そして、波への対処法と情報交換だ。
「これからの行動ですか?」
弓の勇者の言動にカインは頷く。四聖勇者としての行動、つまりこれからの勇者としての在り方と人々への見せ方というのを説明した。
まずひとつに、勇者としての相応しい態度と行動を示す。
これは群衆からヘイトを買ったり悪い噂を流されて行動を阻害されないようにするためである。
「勇者としてのふさわしい態度だと? はっ、笑えるね、そこの盾の勇者様が現在進行形でふさわしい態度じゃないんじゃないか?」
煽る槍の勇者。それに咎める視線を送るカイン。話が進まないからと切り出すカイン。
言うのは今回に限ってだけで構わないから、まずはやったやってないの考えを突破らってほしいと、これによってやっと話が進むと槍の勇者へ向けて言う。
「やったやってないの考えも何も実際にナオフミが……ッ!?」
カインの話を聞かずまたもやそう言い出す槍の勇者向けて先日作ったてつのつるぎを投擲するカイン。惜しくもその剣は槍の勇者の頬を掠めて高そうな壁に突き刺さっただけに終わったが、槍の勇者への脅しとしては完璧だったようで口を閉じて首を縦に振っている。
1連の行動にドン引きした視線を送られるカインは飄々とした態度で話を続ける。
ふたつめに、勇者の連携のとり方。これに関しては波を解決する度に今回のように話し合いの場を設けようとカインは言った。
その事に王が許さないのでは? や、周りからの評判も悪くなるだろうという意見も出た。しかし、カインはそれらを一蹴してやるべきだと言う。
勿論、王が許さないや周りからの評判が悪くなるかもという意見は対処する必要がある。
しかし前者は対処が必要な程でもないだろう、そこは4人がゴリ押して言えば通る話だ。
後者に関しては、盾の勇者本人に頑張ってもらうしかない。この国の国民からの評価は恐らく今回のことが知れ渡っているだろうし並大抵のことじゃ上がらないだろうが、外の話となれば別だ。盾の勇者としての身分を隠して慈善作業をしてほしいとカインは頼む。
盾の勇者はその事に、なんで俺がと渋い顔をするものの結局縦に頷くしかなかった。
波での対処、これに関しては折角タイプの別れた4人が居るのだからその点を最大限活用するべきだとカインは言った。
伝説の勇者とて1人で魔王や邪神を倒したわけじゃない。頼れる仲間たちと共に強敵を打ち倒し障害を乗り越えていった。いくら強力な力を持ち、今後成長することで更に力を付けると言っても1人では得手不得手というものがあるだろう。
だからこそ短所と長所を勇者たちで補うのが妥当な案であるとカインは懇々と伝えた。
この案に4人は渋い顔をして、あまり乗り気では無いのが目に見えた。カインにとって正直想定内のことであったため、この4人を動かすための飴を渡す約束をすることにした。
それは、自身が4人のために自身にできる最高の武器、盾を作り上げるというもの。これでも自身が居た世界の王国では上位に組み込める程度の実力はあると自負している。それ故の交渉だった。
「……カインさんの鍛冶の実力がどれだけのものかは分かりませんが、僕は賛成です」
「俺もだ。何よりメリットがデカすぎる、ドラクエ武器の最高峰と言えば攻撃力も高い」
「……ナオフミの野郎と共闘しなきゃいけないのは嫌だが、仕方ねぇ」
弓の勇者、剣の勇者、槍の勇者と続いて賛成の意見を得る。残りは盾の勇者1人だけだが、当の本人は椅子に座り込んで考え込んでいるようだ。
少ししたら考えがまとまったのか口を開く。口を開いて出てきたのは否定的な言葉だったが。
「俺は、反対だ。他の3人は武器を与えられて戦力が上がるだろうが俺は別だ。与えられたとしても火力のかの字もない盾だ。今後確かにメリットになり得るかもしれないが、それでもすぐにわかるものじゃない。ただでさえ俺はこの国から追い出されてる身だしな」
これもまあ想定内だと思うカイン。ここで必ず盾の勇者から不満が出るのはわかっていたし彼が置かれた現状を考えれば当たり前のことだった。
勿論それに関しての返しも用意してある。
それは盾の勇者への個人的な支援と、今後何かサポートが必要であれば手助けすること。
「ちょっとそれは流石におかしくないですか。いくらナオフミさんが不利な状況ではあるといえ、カインさんがそこまで入れ込む必要があるんですか?」
そこで否定的な意見を出したのは弓の勇者。他の2人も同様だとカインの方を見ている。
3人が言いたいのは、盾の勇者以外がノーマルモードから始めるのに盾の勇者は初期から強力な味方が着いた状態で戦えるのはズルいと言ってるのだ。
その意見への返しは勿論、盾の勇者はハードモードだが? だった。お前らは何を言っているんだ? という呆れた表情を前面に押し出してゴリ押して納得させる。
まぁたしかに、ここまでして1人にカインが入れ込む必要も無い。ほか3人の中立に徹しろもしくは自分の陣地に来いというのもおかしな話ではあるが、これもカインだって考えあっての行動であること。
今後を見通したときに、必ず自身にメリット有り得る存在が盾の勇者だろうと判断したからである。
多少擦れてしまったが、それでも根本は人のいい青年から大差変わらないだろう。貸した恩は返してくれるだろうしと下心ありきでの考えであった。
それに今後、彼は大きなことをしでかしてくれるとカインの感が信号を発していた。
カインが提示した条件でようやく意見に賛成した盾の勇者を含めて、話は最後の詰めに。
最後は、そう情報交換である。この情報交換、知識がない盾の勇者及びカイン自身のためにほか3人から情報を得て経験の早期習得を狙ったもの。
もちろん、ほか3人も各々の情報から更に力を付けることだろう。
そして、小さなことから大きなことまで情報交換をしカイン自身が満足したところで今回の会談は終わった。
その後は王からの実質の追放と、国からの冷たい視線を受けなければいけないナオフミのサポートをカイン含めてほか3人で対処することが決まり今日のところのイベントは終了した。