フォー・ゼロの星が導く異世界生活   作:ヤマト・ゼロ

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前回のフォー・ゼロは、

路地裏にて、またであった三人組、

一度倒した実績から、

楽に対応できるとなめてかかった、

スバルは返り討ちに会ってしまう。

そこで三度目の死を体験した

スバルだったのだが、



第13話「死・に・戻・り」

「財布、ある。スマホ、ある。コンポタとカップ麺も無問題。

でもって、やっぱり…」

 

俺は膨らむポケットから中の物を取り出す。

 

「今度は4番か…」

 

ポケットから取り出したのは真っ黒のホイール式のスイッチだった。

 

「レーダーのアストロスイッチか、そして、前に持っていた

ドリルは無くなっていると」

 

これがもし、本物だとして、一個じゃ使えないしなぁ、

 

そもそも、以前に手に入れたスイッチはどこ行ったんだ?

 

スイッチの謎は深まるばかりだ、

 

「それと、やっぱり…」

 

ジャージの裾をめくり、首を後ろに向けて背中を確認。

 

腰のあたりと背中の真ん中、そのどちらにも傷跡は見当たらず、

 

二本のナイフが生えているという非常事態も起こっていなかった。

 

「ふぅ、よかったぜ。逃げた時の負傷なんて恥でしかないからな」

 

ぼやきながらぺたぺたと無事な背中を触って回る。傷が無い事を確認しやっと一息。

 

「つまりこれはアレだな、信じ難い話だけど……」

 

顎に触れながら通りを見渡す。

 

場所は通りを変えておらず、八百屋の前から少し離れただけの露店の隅っこだ。

 

腕を組んで壁に寄りかかるスバル。

 

日差しは高く、風は柔らかだ。大通りは人だかりで賑わっていて、

 

そこをたまにトカゲの引くトカゲ馬車が通過する。

 

そろそろスバルも砂埃に慣れ始め、軽く手で顔の前を仰ぐ程度のリアクションがせいぜいだ。

 

体からは負傷の気配すら跡形もなく消え、腹に収めたはずのコンポタは何度だって味わえるお得な状態。

 

そして触れる顎の感触は引っかかるものがないつるりとしたものだ、

 

――己の顎の無精ひげが、コンビニに行く前に剃った直後と変化がない。

 

「つまり、アレだな」

 

顎に触れていた手を前に向けて、露店の店主含めてこちらを見ていた群衆に見えるように指を鳴らし、

 

「――死ぬたびに初期状態に戻ってる、ってことらしい」

 

馬鹿馬鹿しいと思っていた。そんな考えを結論とすることにした。

 

 

―〇●〇―

 

 

「死に戻りか……なんつーか、まさに『負けて死ね』って能力だな」

 

元ネタの場合は『負かした上で巻き戻す』といった感じの能力だが、

 

負けて戻ってくるパターンからすると文章的には今の自分の状態の方が相応しい気がする。

 

「キラークイーンの場合は心の底からの絶望が発動条件だけど、俺の場合は死亡だからなぁ…」

 

正直、つい十数分前までは可能性として浮上はしていたものの、

 

条件の厳しさから敬遠していた答えでもある。

 

まだ、流離いの超人的ヒーラーが通りかかった、

 

という展開の方がクリアする条件が少ないように感じていたためだ。

 

もっとも、あり得ないとしていた条件というのも、

 

「時間系の魔法なんてラスボスが持ってる最強パターンだから、序盤から俺が持ってるのおかしいし、

そもそも時間遡行って夢ではあるけど実現は無理だろ。常識的に考えて」

 

言ってから、そもそも『異世界召喚もの』のどこが常識的なんだろうと首をひねる。

 

そう考えてしまえば、さっきまで頑なに否定していた気持ちも萎えようというものだ。

 

「おまけに『死に戻り』してたって考えると、どうにもこれまでの

不自然さの辻褄がきっちりかっちり合っちまうんだよな……」

 

一度目の死は、つまるところサテラと二人で盗品蔵に入ったときのことだ。

 

無防備な腹を切り裂かれ、大声を出して危険を報せることもできずに、

 

むざむざサテラを巻き添えにしてしまった言い訳無用の最悪の展開。

 

そして二度目の死は、ヴィルヘルムさんの戦いに介入し、奮闘もむなしく腸狩りに殺されたときだろう。

 

一度目の『死に戻り』の際には日の高さの違いは日にちの違いだと思い込んでいたが、

 

事実としては『同じ日のあの時点』に戻っていたというわけだ。

 

じゃなければ髭が伸びているはずだしな。

 

三度目の死はまさについさっき、ほんの十数分前に体感したばかり。

 

まさしく、犬死というのにこれ以上ふさわしい死に方はあるまい。

 

まさか最序盤の雑魚キャラに殺されようとは。選択肢一個ごとにBADENDイベントを仕込む、

 

出来の悪いホラーゲームのような後味の悪さだった。

 

「っていうか、俺はほんの半日程度の間に三回も死んだってことか……」

 

人生が普通に考えれば一回だけのことを思うと、

 

たった半日で三回も死ねるというのはあらゆる意味で常識を覆したといえる。

 

チュートリアルで死にまくっているようなものだ。

 

「俺は絶望的に生きるのが下手糞だな」

 

ぬるま湯の元の世界の空気から抜けられていないせいで、

 

こちらの世界の即死イベントの連発に体がついていけていないのだ。

 

危険だとわかり切っている場所にひょいひょいと誘い込まれてしまっているのも、

 

ぽんぽん死んでいる一因ではあるだろう。

 

「一回目と二回目の因果関係からすると……俺はたぶん二回、腸狩りにやられてるな」

 

一回目、盗品蔵の暗闇に潜んでいたのは彼女だったのだろう。

 

倒れていた大柄の老人の死体はロム爺で正しかったわけだ。

 

あの場で俺達の介入と無関係に、ロム爺が殺害される展開の想像がつかないが。

 

「フェルトはあのとき蔵の中に……そこまでは確認できなかったか」

 

当然、フェルトの交渉にロム爺は付き合ったはずだ。

 

となると、ロム爺が殺害される経緯には彼女の関わり合いは欠かせない。

 

彼女の性格を考えると、

 

フェルトが欲を掻いたせいで交渉が決裂した可能性が高い気がする。

 

「無用の挑発でもかまして、口封じされたのかも」

 

負けん気の強そうなフェルトならやりかねない話だ。

 

その口封じが済まされてしまったところに、

 

スバルとサテラがタイミング悪くも到着というのが一回目のあらましだろうか。

 

「二回目はもっと単純だな。その口封じの場面に俺が居合わせただけだ」

 

そう考えると、スバルたちが殺されたあとにサテラは蔵を訪れたのだろうか。

 

彼女の魔法の技能は知っているが、詠唱の時間をあの

 

殺人鬼が与えてくれるかはかなり際どい気がする。十中八九、サテラの方が分が悪い。

 

「つか、二回も同じ相手に殺されてんだ。単純に考えて、

腸狩りは出会ったら死亡確定の青鬼みたいなキャラってことで確定だろ。それに……」

 

対策を講じる必要がどこにある、と胸中で冷めた自分の声をスバルは聞いた。

 

そう、腸狩りと遭遇した場合のことなど考える必要がどこにあるというのか。

 

彼女と遭遇する可能性があるのは、端的に言って『盗品蔵』のみだ。

 

そしてそこに赴く理由は『サテラの徽章』であり、サテラの徽章を取り戻すという

 

目的は『彼女に助けられた恩を返す』という理由に則する。

 

しかし、『死に戻り』によって召喚直後の時間まで巻き戻ったスバルにとって、

 

その恩義の行方は文字通り時間の彼方へ消え去っているのだ。

 

三度目の状況で、接触したサテラの冷徹な反応がそれを物語っている。

 

彼女はスバルを知らなかった。それはとりもなおさず、

 

この時間軸のサテラとスバルに何の関係もない証左であり、返すべき恩義の消失を意味する。

 

ならば徽章のことなど綺麗さっぱり忘れ去って、

 

あの脅威と再び遭遇するというBADENDフラグを回避すべきだ。

 

どうして『死に戻り』などという状況が用意されたのかはわからないが、

 

せっかく先の展開を知れる技能があるのだ。避けられる地雷は避けて通る、それが正しい。

 

ループものにつきものの展開だ。そうでなくては意味がない。

 

「幸い、スマホが金になることはわかってるしな。ロム爺に頼らなくても、

適当に信用できそうな店を見っけて売っ払えば軍資金は作れるだろ」

 

聖金貨二十枚以上、というのがどの程度の金額かわかり難いが、

 

適当な宿に何泊かできるぐらいの金額ではあると思う。

 

あとはそこで牙をとぎつつ、ガブリとやる日を待つだけだ。

 

「まぁ、何をガブリとやるのかってのはまだノープランだけど」

 

これといって突出した知識もなければ、拘り抜いた趣味があるでもない。

 

あらゆる情報に対して広く浅く、それが現代人のスタンス。スバルも漏れなくそのひとり。

 

「これはスマホ売り払ったら、その金がなくならないうちに

どっかの店に下働きとして雇ってもらうとかしかねぇな……」

 

就労経験のない自分でやっていけるか甚だ不安だが、少しくらいブラックな

 

労働環境でも刀傷沙汰よりはマシだろう。半日に三回死ぬような目には遭わないで済むはず。

 

「そうなりゃ話は簡単だ。とっとと行動しないと日が暮れちまう」

 

周りを見れば、露店で商人が物を売っている。

 

俺だって、現代知識を使えば何かが売れるはずだ、

 

だれか、見かねて俺を助けてくれないかと期待もするが、

 

どの世界だって行きずりの他人に接する人間の心なんて冷たいものだろうし、

 

「でもさ、自分が切羽詰まってても人のこと助けちまうお人好しもいんだよ」

 

大切なものが盗まれたあとで、それを盗んだ相手を追いかけてる途中で。

 

無関係の役立たずを助けて、そんな奴を時間をかけて治療して、

 

それのお礼も貰わないで立ち去ろうとして。

 

役立たずの自己満足に付き合って、ひどい最期を迎えてしまうお人好しが。

 

「三回も繰り返してみると、色々とわかってくることもある。

いや、それでわかってこなかったらだいぶ頭可哀想だけど、俺の頭はそこまでじゃない」

 

「たぶん、パターンがあんだよ。運命って言い換えてもいいな。

――何度やり直しても、この展開は必ず起こるって運命が。たとえば……」

 

一回目でも二回目でも、三回目でも、サテラはフェルトに徽章を盗まれる。

 

一回目と二回目はいずれも、盗品蔵で腸狩りに襲われた。

 

ならば、二回目も盗品蔵の現場に到着しただろうサテラはどうなった。

 

足手まといの役立たずはいないが、あの腸狩りに勝ち得たのだろうか。

 

「それはわからない。わからねぇまんまだ。だけど、わかることもある」

 

このまま四回目の今回も事態を放置しておけば、間違いなくフェルトとロム爺は殺されるだろう。

 

そして、サテラと腸狩りは一戦を交えることになる。

 

あの二人が死ぬからなんだというのか。盗品をまとめて裏で売りさばく小悪党と、

 

盗んだ品物を悪びれもせずに高値で売りつけようとする剛腹な小娘だ。

 

二人まとめて犯罪者、いなくなって清々するというものだろうに。

 

「あー、やっぱ俺って現代っ子ってことなんだろうなぁ。こんな気持ち、

パソコンの前じゃすっげぇバカにしてたくせによぉ」

 

同情とか慈悲とか馬鹿馬鹿しいと、そう振舞っていたはずだ。

 

少なくとも、スバル自身はそれを偽ってきたと思ってはいない。

自分は情が薄い人間だと思っているし、現代人は誰もがそんな感情が希薄なものだ。

 

だからどんな事態に陥ったとしても、さほどの情動もなく淡々と受け止めると思い込んできた。

 

知人が何人か死ぬなど、その範疇を出ていない。

 

「なのに、嫌なんだよ。気持ち悪ぃんだ。善人とは程遠いよ、二人とも。

――でも、いっぺん知り合った奴らが殺されるって知ってて、見過ごすのは無理だな」

 

けっきょくは、そう振舞っていただけという話なのだろう。

 

全てはバーチャル感覚でのお話。実際にそれがリアルな重みを伴えば、

 

容易く宗旨替えしてしまう程度の薄っぺらさでしかない。

 

別に拘ってる宗旨でもないから、引き剥がれたところでダメージないけど。

 

「それにやっぱサテラ……ってか、あの子も見捨てられねぇし」

 

彼女が本名を教えなかったのは、ようするに信頼が足りなかったということだろう。

 

好感度不足だったため、名前獲得イベントの成否処理で失敗判定を食らったということだ。

 

「んだらば、今度は名前くらい、ちゃーんと教えてもらえるように頑張りますか」

 

その場で屈伸して、スバルは「うーん!」と体を大きく伸ばす。

 

「ちゃーんちゃーちゃちゃっちゃっちゃっちゃ!」とラジオ体操を始めるスバル。

 

ラジオ体操第二をやり切ってスバルはすたこらと長い長い思考に沈んだ露天商からひとっ走り離れた。

 

しばし人込みをかき分け、二百メートルほど走ったろうか。

 

「さて……」

 

立ち止まったスバルは短い前髪をかき上げるアクション。

 

無駄に爽やかさを演出しつつ、右へ左へ視線を走らせ、

 

自然な動きで壁に手を当てて寄りかかり、瞑目しながら再び髪を撫でる。して、

 

「偽サテラって、どこに行ったら会えっかな」

 

と、かなり先行き不安な発言で見切り発車が始まった。




次回のフォー・ゼロは、

またも、路地裏に現れた三人組、

狙われるスバルだが、彼を助ける存在がいた。

その男は燃えるような真っ赤な髪に

腰に剣を携えた男性だった。

次回、第14話「赤・髪・の・男」

異世界!SwitchON!
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