スカイ「朝起きたらちっちゃくなってたんだけど」 作:アメざいく
―――無音。時計の針が動く音だけが、部屋の中に響く。その針はすでに、今がとっくに授業が始まっている時間だという事を教えてくれた。
誰も何も言わない。私もフラワーも、何を話すという訳でもなく、無言で私の部屋の中に閉じこもっている。
(―――これ、何の時間なんだよ・・・)
こうなった原因は分かっている。嫉妬してしまっているのだ、私は。・・・ちっちゃくなってしまった自分に。
(―――部屋に来てからのたった10秒ちょいで、フラワーをキスしたい衝動に駆らせるだなんて・・・。
・・・こうなる前の私にフラワーがキスしようとしたことなんて、一度もなかったのに・・・)
フラワーにとっては、今の私は元の私の上位互換なのだろうか。
何かともわからないもやもやとした感情が、私の心の中を満ち満ちていく。ただひとつわかるのは、その感情が非常にネガティブなもので、自分の自信のなさから来ているものという事だけだった。
(―――あぁ、ホントダメな奴だな、私・・・。)
いつにもましてネガティブなことを考える。・・・もういっそのこと、この感情を全部、フラワーにぶつけてしまおうか。・・・体と一緒に発想まで数年前に戻ってしまったかと、心の中で一瞬苦笑する。
「「あの」」
彼女の声と私の声が重なる。・・・タイミングかぶった・・・。
「・・・あ、フラワーから先で」
「あっ・・・はい。」
気まずい空気を払拭するべく、私はフラワーに会話のリードを譲る。
「えっと、その・・・さっきは本当にすみませんでした!!
その・・・つい、リミッターが外れてしまいまして・・・」
そんなことをいうフラワーの表情はだんだんとしょんぼりとしていき、最後のほうの言葉はもはやつぶやきに近くなっ・・・え?
「・・・本当はもっとスカイさんにふれてみたいし、キスも、それ以上の事だって・・・そんな妄想を、何度かしてしまうんです・・・
・・・でも、私がこんなこと考えてるって知られたら、スカイさんに嫌われちゃうんじゃないかって、・・・そう、思って・・・」
(―――あ)
私、馬鹿だな・・・
こんなに近くに居て、彼女の気持ちを理解したつもりになっていた。・・・実際は全然理解してあげれてないのに。
「あ・・・あっ!!急にこんな事言われたら、迷惑ですよね!!・・・気持ち悪い、ですよね・・・。あっははは・・・はは」
彼女はそう言って、乾いたような笑みで笑う。・・・明らかに無理をして笑っているということが一目で分かった。
そそくさと荷物をまとめて、彼女は部屋を出て行こうとする。
(あっ・・・
―――待って)
ダメだ。ここで彼女を追いかけなかったら、きっと。・・・全てが終わってしまう。
「・・・待って!!」
彼女の華奢な腕をつかむ。それでも飽き足らず、一気にこちらに抱き寄せた。・・・私のちっぽけな悩みなんて、もうどうでもいい。
「・・・そんなことしたら、期待しちゃいますよ?」
「期待してくれたっていい」
今にも消え入りそうな声でそうつぶやく彼女を、私は後ろから抱きしめる。・・・同じくらいの身長になっちゃったのであまり格好つかないのがちと悔しい。
「―――私さ、うれしかったんだよ?フラワーが私の事、そう思ってくれて。」
「・・・気持ち悪く、ないんですか・・・?」
「逆になんで気持ち悪がらなきゃいけないの」
くるっとフラワーの正面に回り込む。・・・アメジストのように澄んだ紫の瞳には、今は私しか映っていない。
「―――やっぱり、どこにいても、どうなっても・・・私は私で、フラワーはフラワーなんだよ。」
私は何を悩んでいたんだろう。変に意識して、【オリジナルの私】と【ちっちゃくなった私】を同一視してなかった。・・・フラワーにとっては、どちらもまったく同じ【セイウンスカイ】だというのに。
「ふたりでいっぱいいろんな所に行って、いろんなことしよう。きっと・・・楽しいから。」
やっぱり私は、どこにいても、どうなっても、彼女のことが
「好きだよ。フラワーのこと。」
一瞬視界が紫に染まる。シャンプーの香りがふわっと鼻孔をくすぐった。