スカイ「朝起きたらちっちゃくなってたんだけど」 作:アメざいく
「何って―――ここはスカイさんの部屋じゃないですか!!美浦寮の・・・その・・・」
「・・・みほ、りょう・・・?」
私―――ニシノフラワーのそんな言葉も理解できていないのか、目の前のスカイさんは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
「いや、トレセン学園の寮で―――」
(・・・いや、待って?・・・もしかして・・・
―――忘れてしまったのか?)
・・・いや、だが、なにもおかしい所はなかったのかもしれない。年齢退行の薬を飲んだら、身体だけがちっちゃくなった。・・・本来ならばこのタイミングで、記憶も巻き戻されていてもおかしくないはずだ。
でも、なんで。・・・よりにもよって時間差で。それも・・・今日に。
「あっ・・・あっそうだ!!これ!!」
「え~?」
飾ってあった菊花賞のトロフィーを棚からひったくる。・・・自分でやっておきながら少し乱暴な気がしたが、今回くらいは許してほしい。
「これ!!スカイさんが獲得したんですよ!!」
「え~?菊花賞って確か3冠・・・あっ!!」
なにかに勘づいたのか、スカイさんがずいっとこっちに近づいてくる。・・・あれ?なんだか目をキラキラさせているような・・・
「ねぇねぇ、3冠は?私クラシック3冠獲得したのかな!?」
(・・・あっ・・・)
一瞬どう答えればいいのかわからず、少し視線が泳ぐ。
・・・きっと記憶を巻き戻された今のスカイさんは、きっと頭の中をタイムスリップに似た好奇心が占めているのだろう。
・・・本当のことを言うべきか、嘘を言うべきか・・・。
「あっ・・・そっか。私・・・負けちゃったんだ・・・」
だが、不自然な空気とオーラを感じ取ったのか、スカイさんが何かを察したような表情でそういう。・・・そこにさっきまでの明るさはなかった。
「・・・私、ほんとダメだな・・・。じいちゃんに、3冠とってくるよって、・・・そう、約束したのに・・・」
だんだんと彼女の表情が曇っていく。・・・そうだ。今の彼女はどこか、ダービー直後の彼女に似ている。・・・もっとも、その時の彼女はまったく敗北を気にしていないように見えるように演じていたし、内心はもっと荒れていたのだが・・・。
「ちっ・・・違います!!スカイさんはダメなウマ娘なんかじゃありません!!スカイさんは3冠ウマ娘にも負けないくらい、かっこよくて、私の憧れで、強いウマ娘なんです!!」
早口でそうまくし立てる。もう頭の中は空っぽだった。・・・いや、ただ彼女の笑顔を取り戻したい。・・・その一心だけだった。
「フラワー・・・
・・・えっへへ、・・・ありがと」
彼女はそう言って、少し呆れたように笑う。
やっぱり、彼女には笑顔が似合うのだ。・・・良くも悪くも。
「―――あれ?」
自分の顔がさっと青ざめていくのが分かる。・・・ない。おかしい。・・・確かに自分のポケットに入れておいたはずなのに。
(―――解毒剤がない・・・)
表面上は冷静を装っているが、脳内はもうパニック状態である。
(・・・ない。ない・・・!!どこだ・・・?いったいなんで!?
―――もしかして、どこかで落した・・・?)
「まずい!!探さないとっ・・・!!」
「―――で、これがその解毒剤の完成品って訳?」
「まぁそんな感じ。いや~、長かった長かった・・・」
呼び出しをくらって帰還したネイチャのそんな質問に、私―――マチカネタンホイザはそう答える。
オリジナルの解毒剤のデータを流用してるとはいえ、ここまでたどり着くのは相当な時間がかかった。もう私の体はボロボロ・・・ならぬボドボドだよほんとに。
・・・ボドボドってどういう事だ?
「それじゃぁさっそく、この薬をスカイに飲ませて―――」
「いや、・・・これは本来の持ち主のところへ返すことにするよ」
・・・その子のひとつのけじめのために。そして、―――大きな成長のために。
天井の蛍光灯に試験管をかざす。
・・・光を得た空色が、きらきらと輝いていた。